東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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何を得て何を失った?
答えなんて出るはずもない


52話 こぼれ落ちる命

side 輝夜

 

竹林の消失。

半妖の無双乱舞。

不老不死の暴走。

そして――鈴仙の死。

 

「死んどらんよ、まだな」

 

その言葉で我に帰る自分。

そこには無数の異形の化け物を操る蒼髪の吸血鬼の姿があり、指を鳴らして新しい化け物を量産していく。

穢れのない化け物というのもおかしな話だが、この吸血鬼は月の民との戦闘に慣れている様子が見受けられる。確か博霊の巫女が口にしていたが、月の民の襲撃を戦い抜いたとか。

 

「お、おじいさま……これは……?」

「レミリア、目に焼き付けておくと良い。これが、儂等の街において『壊神』と呼ばれた者と『神殺』と呼ばれた者の力だ」

 

物に触れずとも、余波だけで全てを壊す。

八百万の神を、知識を以て次々と消し去る。

 

もはや月の民にとっては地獄画図の何物でもなかった。とりあえず私達を狙ってきた敵であるけれど、この惨状を目の当たりにすれば同情すら覚える。

私は蒼髪の吸血鬼に尋ねた。

 

「ウドンゲは生きてるの!?」

「あぁ、心臓は動いているぞ。壊神は無意識に兎の体を内部で蝕む光線を『破壊』したようだ。早めに治療すれば助かる」

「じゃ、じゃあ……!」

「今は無理だろうがな」

 

確かに鈴仙を抱き抱えている男に近づくのは自殺行為だろう。

彼の発言に肩を落とした瞬間に、あの暴走している不老不死とは違う方向で爆発音がする。

 

「依姫!」

「知り合いか? 神殺ならば無益な殺生はしないだろうから、放っておいて心配ない……はず」

 

永琳が叫んだ先には月と地上を監視する軍の指揮官かつ、顔見知りである依姫の姿があった。

月の都の防衛と地上の監視などを請け負う『月の使者』のリーダーであり、〔神霊の依代となる程度の能力〕などという破格の能力を持つ猛者。月でも5本の指に入る強さを持つその彼女が、人間の少年一人に赤子の手をひねるかのように弄ばれている。

 

圧倒的強さを誇る少年の戦い方は美しくはなく、むしろ実践的な戦い方をしているように見られる。

剣を使うような場面があれば、その剣を捨てて格闘戦に持ち込むようなこともあった。かと思えば魔術的な雷を放ち、高温の炎の塊を投げつける。動きは素早くて見えず、いつの間にか依姫の背後へと移動しているのだ。

戦い方に一貫性がない。

八百万の力を借りる依姫に似ているようで――自分の力を最大限に発揮している節がある。

 

 

 

「ちょっと待って! 紫苑さんの身体は大丈夫なの!?」

 

 

 

博麗の巫女の慌てたような声。

彼の能力には制限でもあるのだろうか?

 

「大丈夫なはずがなかろう。ただでさえ2つ以上の化身の同時使用でも身体の負担は大きいが、今の神殺は9つの化身を同時に使っておる。そのような前例――かつて暗闇と戦った時以来だ」

「それじゃあ……紫苑にぃの寿命は」

「ああやって平気な顔をしているように見える。が、相当辛いだろうな。当の昔に神殺の神力は枯渇しておるわ」

 

寿命を消費している……?

限りある命しか持たない人間の行動とはとても思えない。

 

その話を聞いたとき、最初に動いたのは幻想郷の賢者だった。境界を操る能力を持っているにもかかわらず、自分の足で少年の元へと走っていく。それに続く博麗の巫女と冥界の管理人。

 

「なんなんだよ……なんでアイツは自分の命を大切にしないんだ!?」

 

私と同じ気持ちだったのだろう。白黒魔法使いが蒼髪の吸血鬼に問う。

吸血鬼は何とも言えない表情を映していた。

 

「さぁ、な。儂にもわからぬよ。人の気持ちなど目に見えるものではない」

「……そう、だね……」

「お師匠様!?」

 

後ろに運ばれていた半妖が目を覚ます。

そういえば、この男も尋常ではない力を以て月の使者を駆逐していた。依姫に勝るとも劣らない剣技で彼女を圧倒し、数千の月の民を殺戮していたのを思い出す。

 

まだ動けない彼は永琳の治療を受けながら魔理沙を見ていた。

 

「紫苑の心って、なんか見えないんだよ。蜃気楼のように形がなくて揺らめいている、仙人に見られる心に似て異なる不思議な『何か』。うーん、言葉にしづらいなぁ……」

「九頭竜さん、無茶しないで」

 

人形遣いに叱咤されて黙る半妖。

 

私は3人の少女達と話す少年――夜刀神紫苑を見た。

噂程度にしか聞いていなかったが、中々に面白い人物のようだ。

 

 

 

 

 

「オイオイ、こっちの心配はなしかァ? 随分と薄情な奴らだぜ」

「し、獅子王さん!?」

 

 

 

 

 

吸血鬼の出した化物を蹴り飛ばしながら、ウドンゲと豊姫を抱えて歩いてくる。

先ほどのような暴走した様子は一切なく、めんどくさそうに眠たげな表情をしていた。

 

「ほれ、急患だ」

「やっと気づきおったか」

「今さっき気づいて白けた」

 

ウドンゲをゆっくり地面に寝かせて、豊姫を乱暴に転がす。

 

「あと鹵獲してきたぜ。これで終わンだろ」

「殺さぬのか。貴様らしくもないな」

「鈴仙が生きてるってわかった時点で能力と腕を止めたンだが、同時に倒れて動かなくなっちまった。霊力が枯渇したんじゃねェの? つか殺す気が失せた」

 

豊姫は目立った外傷はなく、文字通り『疲れて気を失ってる』のだ。

あの常人なら立ってすらいられない破壊と死の暴風に晒されて、どうにか〔海と山を繋ぐ程度の能力〕で凌いでいたのだろう。

 

「柄にもなく暴れて損したァ。鈴仙生きてんのかよ、クソが」

「それにしては嬉しそうじゃない」

「ンなわけねェだろチビ吸血鬼」

「なんですって!?」

 

壊神と呼ばれた男はククっと笑いながら吸血鬼をからかう。

その表情は――ひどく穏やかなものだった。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 紫

 

こぼれ落ちていく命の灯。

 

 

 

見えるはずもないのに、私には師匠がそう見えた。

 

普段走り慣れていないせいで躓きそうになるけれど、今の私には関係がなかった。無様な格好で走ることになろうと、私には止めなけれなならない愛する者(ひと)が居る。

幸いなことに吹き荒れる暴風は止んでおり、私は戦意消失している綿月依姫と『白馬』を投下しようとしている師匠の下へとたどり着いた。

 

「師匠!」

「――紫か? 危ないから下がった方がいぞ?」

 

師匠は私に笑いかけた。

しかし、その焦点は定まっておらず、声と足音だけで人物と場所を特定して話しているように見える。それほどまでに身体が限界にまで達しているのだろう。

 

私は何も考えずに師匠の胸に飛び込んだ。

 

「っと、いきなり抱きついて――」

「もう止めてください!」

 

悲痛な声が戦場に響く。

私は師匠の胸に顔を埋めているから分からない。

 

「……もう……止めて……」

「………」

 

後方から足音がする。

 

「紫苑さん! 大丈夫!?」

「紫苑にぃ! もう無茶しないで!」

 

霊夢と幽々子の声。

ヴラド公の話を聞いて二人も同じ気持ちだったのかもしれない。

 

「どうして……どうして生き急ぐんですか……? どうして私の前から早く消えようとするんですか!?」

「紫……」

 

もっと一緒に生きたいのに。

彼はどうして先を歩いてしまうのだろうか?

どうして消えようとするのか?

 

気まずい雰囲気が流れる中、口を開いたのは聞きなれない第三者の声だった。

 

 

 

 

 

「――地上に降りたつのはいつ以来だろうか?」

 

 

 

 

 

どこからともなく現れたのは中性の顔つきの男。

神々しい雰囲気を身に纏い、ヴラド公とは違ったカリスマを醸し出す者。私は彼を知っていた。

 

「「月読命様!?」」

 

私と依姫の声が重なった。

その男は――月を統べる夜の王・月読命だった。

地上に現れることなどほとんどなく、地上へのあらゆることに干渉してこなかった日本神話でも有名な神。

 

戸惑う私たちだが、師匠は冷静に言葉を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど――次の敵は月読命か」

「ちょいちょいちょい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全然冷静じゃなかった。

新しい黄金の剣を作る師匠に、月読命は顔を引きつらせながら慌て始める。

そこに神聖さや威厳などは微塵もなく……なんだろう、カリスマを持っている者は、オンオフの差が激しいのが当たり前なのだろうか?

 

好戦的な支障を私達がどうにか抑えて、咳払いをして話を切りだす月読命。

 

「地上に降臨したのは他ならない、君たちへの謝罪だ」

「どういうこと?」

「今回……というか街の襲撃もそうだが、これらの件は月の上層部の一部による独断だ。八意永琳と蓬莱山輝夜を連れ戻し、『不老不死の秘薬』を求める上層部(バカ)の仕業。……まさか私の居ない隙に行動を起こすとは思わなかったよ」

「自分で部下を馬鹿呼ばわりしたよ……」

 

彼もよほど腹を据えかねていたのか、忌々しげにつぶやいた。

 

「馬鹿な連中だからね。抗議しに来た暗闇殿を無断で軍を動かし攻撃して返り討ち、その余波で月の機能の大半が今は動けない状況だ。軍の死傷者の数が5桁を軽く超えた」

「なぁ!?」

「……妖怪には強い我らだが、そんなハンデすら意味を成さない相手がいることに最近の若い奴らは知らないからなぁ」

 

依姫が驚愕の声を上げる。

暗闇様も動いていたということか。おそらくは師匠の身を案じていたのかもしれない。

師匠の居る時代と場所を教えてくれたのが最古の妖怪たる暗闇殿であったからして、彼はこのことに一番憤りを感じていたと推測する。月に彼がわざわざ赴いたのも頷けるわ。

 

月読命はそのことを説明して、師匠に頭を下げた。

その姿を見て私と幽々子は驚き、依姫は慌て、師匠と霊夢は首をかしげた。

ただの人間に神が頭を下げることが、果たして歴史上存在しただろうか? 少なくとも千……長い時を生きてきた私にも思いつかない。

 

「此度の件、本当にすまなかった。特に君――夜刀神君には迷惑をかけた」

「暗闇に何言われたかは知らんけど、別にこっち側に被害は出てないから気にする必要はない。月の軍勢を何千も殺したのは俺たちだし、むしろ俺が謝るべきなんじゃないか?」

「軍人は覚悟を持って死地に赴き、それを促したのは上層部、つまり我らだ」

「なるほど、つまりアンタ等にはもう敵意はないと?」

「あぁ」

 

師匠は大きく大きくため息をつき、倒れた。

いきなり倒れてそれを支えたのは幽々子であり、心配(加えて師匠の顔が近くにあることの嬉しさ)を帯びた表情をしている。羨ましい。

 

私としては師匠がもう戦わなくて済む。

それだけが救いだった。

 

 

 

 

 

――こうして、多くの死傷者を出した異変は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

師匠のタイムリミットを大きく縮めて。

 

 

 

 




霊夢「ちょ、私たちの成長は!?」
紫「ほとんどの戦闘は師匠達が持って行っちゃったわね」
妖夢「せっかくの出番が(´;ω;`)」
アリス「次も衝撃回だから出番減るわ」
霊夢「作者許すまじ」
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