東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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自分を欺く者
他者を欺く者


53話 偽りの道化師

side 紫苑

 

「派手に暴れちまったわー」

「そうだなァ」

 

永遠亭の縁側にて。

爺むさい会話をしながら茶を嗜んでいる影が二つあった。もしかしなくても俺と兼定である。

 

月の襲撃から夜が明けて、ここの女医さんである八意永琳から怪我人扱いで半強制的に入院させられているのだ。ちなみにここに居ない未来は妖夢の手厚い看護を受けている。

俺は目の前に広がる焼け竹林を眺めながら茶を楽しむ。

 

「鈴仙が完治してよかったな」

「ふん」

 

相変わらず素直じゃない。

 

「にしても……鈴仙ってアイツに似てるよなー」

「鈴仙はアイツじゃねェ」

「分かってるよ。俺が分からないとでも? 雰囲気とかがアイツにそっくりだってことだよ」

 

姿形が似ているわけでも、声や言動が似ているわけでもない。ただ――そう、雰囲気がアイツに似ているというだけだ。

だからこそ――兼定は鈴仙が自分を庇った時、あんなにも荒れたのだろう。

 

もちろん俺達は鈴仙にアイツを重ねているわけではない。

 

「気になったんだけど……お前いつから彼女のことを『鈴仙』って呼ぶようになったんだ? 前までは『クソ兎』じゃなかったけ?」

「ンなことどうでも――」

「あ、兼定さん!」

 

兼定の言葉を打ち消すように現れたのは鈴仙その人だった。

誰かを探していたように周囲をキョロキョロ見回していたが、兼定の姿を見つけると心底嬉しそうにこちらへ走ってきた。このときの兼定の何とも言えない表情は見物だったわ。

走ってきた鈴仙は兼定の横にしゃがみ込む。

 

さて、描写はしていなかったが、鈴仙の服装は外の世界で学生が身につける『ブレザー』に似た服装である。単刀直入に言うとスカートが短いのである。

目の前で兼定の真横にしゃがみ、兼定がクソ慌てたように目を逸らしている場面を見れば、兼定が何を見たのか容易に推測できるね。兼定凄く顔赤い。

 

「コイツに何か用か?」

「師匠が兼定さんに用があるらしいです。おそらく体のことについてだと思いますが……」

「いいよ。持って行っちゃって」

「オイ」

 

ありがとうございます!と律儀に頭を下げる鈴仙。

そして兼定の腕を胸に抱きよせる彼女に、兼定は大慌て。

 

「ちょ、テメ――」

「早く行かないと私が怒られるんです!」

「ち、違、胸」

 

ハハハッ、これは傑作だ。

俺は赤面する兼定と鈴仙のツーショットをスマホのカメラに納め、ニヤニヤと笑いながら二人に見せる。カップルに見えるように写した。

 

「あ! これ写真ってやつですよね? 私にいただけませんか!?」

「今度送るよ。そして――これを慧音に見せる」

「テメェええええええええええええええええええええ!!!??? 慧音さんに誤解されるだろうがああああああああああああああああ!!!」

「わ、私は誤解されたままでも……」

 

嘘だけど。

俺に殴りかかろうとする兼定であったけど、頬を赤く染めた鈴仙に引っ張られて運ばれた。

 

うん、平和だね。

 

「アイツの慌てっぷりはいつ見ても笑えるなぁ」

「いい趣味してるじゃない」

「だろ?」

 

鈴仙と兼定が消えた方向とは反対側から黒髪の美少女が出現する。

黒く透き通る長い髪を靡かせ、深窓の令嬢をイメージさせるほどの美少女。幻想郷の少女達の外見は例外なく高いのだけれど、彼女はその中でも1.2位を争うレベルの美しさ。

世が世なら傾国の美女と言われても不思議じゃない。

 

その美少女は俺の横に立つ。

 

「貴方が夜刀神紫苑ね」

「そうだけど……お前は?」

「蓬莱山輝夜。この永遠亭の主よ」

「ふーん」

 

あー、茶が美味い。

 

「……え、そんだけ?」

「他に何が?」

「いやいやいやいや、こんなにも美しい女を前にして『ふーん』って感想で終わらせるって、それでも貴方は男なの!?」

「女に見えるか?」

「そうじゃなくて!」

 

前言撤回。

顔だけお嬢様だわ。

 

「……なるほどね。妹紅が最近楽しそうに会ってる男だからどんな男なのか気になってたけど、確かに他の有象無象とは違って一筋縄じゃ行かない感じだわ」

「お褒めに預かり光栄の至り。妹紅の友達か?」

「妹紅といつも殺し殺される関係、とでも言うべきかしらね」

「俺と兼定と同じような関係か」

 

この反応を予測していなかったのだろう。『殺し殺される関係』という言葉にどんな反応を見せるのかを待っていた輝夜は、俺のあっさりと漏らした問題発言に目を丸くした。

俺は彼女の方を見ずに語る。

 

「お前も俺達の戦闘を見ていただろ?」

「え、えぇ」

「つまりはそういうこった。月の軍勢ですらボコボコにして返り討ちにするような連中がたくさんいる化物のような街で暮らしてきた俺達にとって、『殺し合い』なんて所詮は『遊び』の範疇なのさ」

「なんだか騒がしそうな街ね。面白そうだわ」

「……不老不死の特権だよな、その発言は」

 

俺は輝夜の発言に呆れる。

肩をすくめる俺に輝夜は話題を変えてきた。

 

「私としては街より貴方に興味があるのだけれど」

「お姫様の暇潰しで興味持たれても嬉しくないぜ……」

「どんな男にも靡かない私に興味を持ってもらえるなんて光栄なことなのよ? 診察の時、永琳が貴方に言った言葉を覚えているかしら?」

 

俺が無言で続きを促すと、輝夜は女医――永琳の口調を真似ながら言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『長くて2年半。それが貴方の寿命よ』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの医者、プライバシーってもんを知らねーのか?」

「それで貴方は何て言った?」

「……割と残ってるなって」

 

これが俺の本心だった。

女医は物凄く驚いていたが、暗闇と戦った時と同じくらいの全力で戦ったから、あと数ヶ月くらいしか残ってないと思ってた。だからこそ、あと2年というタイムリミットに対しての感想だったのだが。

世間一般ではおかしいのだろうか?

 

「おかしいに決まってるでしょ。貴方は生に執着はないの?」

「死にたいとは思わない」

「生きたいとも思わない?」

「………」

 

さっきから何なんだコイツ。

それだけを言いに来たのか俺に背を向ける輝夜。

 

「まぁ、あと2年間を大切に過ごすことね」

「お前こそ俺にそれを言う理由はないだろ?」

「あら、月の軍勢から私を守ってくれた王子様の身を案じるのは当然のことでしょ」

「別にお前を守ったつもりはないぜ」

「直接的にはね」

 

蓬莱の姫君が去った後、残ったのは俺だけだった。

俺は縁側に寝そべりつつ、大きくため息をつく。

 

「生に執着はない、か……」

 

元々幻想郷で余生を過ごすつもりの俺に、生死の云々かんぬんなんて些細なことだと思うけどね。

人間として生きているのだから、死ぬのは当たり前。

それを――どうしてここの連中は良しとしないのか。

 

 

 

 

 

『どうして……どうして生き急ぐんですか……? どうして私の前から早く消えようとするんですか!?』

 

 

 

 

 

俺の心に紫の言葉が突き刺さる。

個人的にはそうは思っていないが、紫――他者の視点から見れば俺は『生き急いでいる』ように見えるのか。

そもそも紫は承知の上で俺を幻想郷に呼んだはず。

 

 

 

アイツは――俺に生きて欲しいのか?

 

 

 

だとしたら、俺はどうするべきなのか。

 

「師匠として、俺は紫の願いを叶えたい」

 

でもさ、無理なんだよ。

俺が人間捨ててまで生き続けることは――それは大罪だ。俺は生き続けるには多くの人間(・・)を殺し過ぎた。延命なんて俺自身が許さない。

 

かつて、西条のババアは言った。汝は一度死ぬべきだと。

俺はその言葉に返すことが出来なかった。

心の中で俺も――そう思っていたからだろう。

 

これは幻想郷の少女たちはおろか……アホ共も知らんだろうよ。

 

 

 

忌まわしき俺の過去。

 

 

 

血にまみれた残虐な歴史。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が『夜刀神紫苑』を名乗る前の物語を。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side レミリア

 

「あー、もう! 咲夜どこに行ったのよ!」

 

永遠亭から出ようとして自分の従者がいないことに気付いた私。

おじいさまからは「従者忘れるとか薄情じゃのう」と心を抉るようなことを言われたが、そういえば咲夜を戦闘中に見なかった気がする。もしかして紅魔館に帰ったのか?

私が戻らないことを心配しているであろうパチェや美鈴に伝えに行った……なら納得がいくけど、出来れば私に相談してほしかった。

 

「あのメイドどこにいったのじゃ?」

「もしかしたら紅魔館に――」

「お姉様ー!」

 

前方から歩いてくるのはフランと咲夜。

私はフランを正面から抱き閉めようとしたところでおじいさまに掻っ攫われる。

 

行き場を失った手とフランとじゃれ合うおじいさまを交互に見つつ、咲夜が話しかけてくる。

 

「お嬢様、お迎えにあがりました」

「今までどこにいたのよ! 先に変えるなら一言言ってよね!」

 

その私の発言に――咲夜は首をかしげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は昨日の昼からずっと紫苑様の家にいましたよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

「え、え?」

「お嬢様から許可も貰いました。『えぇ、フランをよろしくね』と見送ってくれたではありませんか。お忘れになりましたか?」

「ちょっと待って。私そんなこと言った覚えはない」

「??」

 

そもそもフランは一人で行ったと咲夜から聞いたのだ。

だから……あれ?

私と咲夜の会話がかみ合ってない?

 

「……ねぇ、咲夜。夜は私と行動していない。そうよね?」

「はい」

 

咲夜が嘘をついているとは思えない。

 

 

 

 

 

なら。

 

 

 

 

 

私とおじいさまについてきた咲夜は誰だ(・・)

 

 

   ♦♦♦

 

 

side ???

 

「いやはや、久しぶりに彼の本気を見ましたね」

 

銀髪のメイドの格好をした女性は微笑む。

彼女は紅魔館の屋根に座り、トランプをシャッフルしていた。

 

「月の上層部に八意永琳と蓬莱山輝夜の場所を教えたかいがありましたな。あの不老不死なんて面倒で不必要な代物を求めるなんて……地上の民も月の民も大差ない――」

 

手に持っていたトランプを宙に投げるメイド。

トランプは物理法則の通りに下に落ち――ずに空中に留まった。

ひらひらと回転しながらその場にとどまり続けるトランプを、ニヤニヤ笑いながら見つめている。

 

「それにしても……切裂き魔と壊神、なぜか生きてる帝王も生ぬるい。人は時間を与えすぎると逆に目標達成が遠のくことを知らないのでしょうか? 非効率的にもほどがある」

 

回転するトランプの一つを手に取るメイド。

柄は――ハートのエース。

 

「さて、せっかく幻想郷に来たのだから異変の一つくらい起こしてみましょうか。丁度良い人形遣い(こま)も見つかったことですし」

 

メイドが指を鳴らした瞬間、手に持っているトランプ以外が燃え上がる。

赤々と周囲が燃える中、メイドは含みのある笑みを浮かべた。

 

「アリス・マーガトロイド――彼女には申し訳ないですが、私達の計画の犠牲になってもらいましょう。古今東西大きな計画に贄はつきものですから……せめて彼女の犠牲が無駄にならないように、派手なショーを手向けましょうかな」

 

立ち上がったメイドの姿はぼやけ、やがて消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは、これでは私が悪役ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、私は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詐欺師(・・・)ですし?」

 

 

 

 




紫苑「これにて永夜異変終了!」
霊夢「次が宴会パートかしら?」
紫苑「そこんところの予定は未定」
霊夢「伏線多かった(´・ω・`)」
紫苑「今後重要になってくる(´・ω・`)」
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