東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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人形遣いを狙う意味
弟子達は挑む


56話 真意

side 魔理沙

 

何でこんなことになっちまったんだ……?

 

昨日までアリスは普通だったのに。

家で楽しく会話してたのに。

 

アリスの変わり果てた姿を見たときは頭がぐちゃぐちゃになって、どうすればいいのか分からなくなって、気がつけば霊夢と紫苑に助けを求めていた。あの二人なら何とかしてくれるという絶対的な安心感があった。

 

「魔理沙、大丈夫?」

「……どうして、どうしてアリスが狙われたんだぜ?」

 

それが分からなかった。

詐欺師とかいう野郎には一発マスパを撃ち込んでやるとして、なぜ生真面目で優しいアリスが狙われなければならなかったのかが理解できない。

 

 

 

どうせなら……私でも良かったのに。

 

 

 

私の思わず出た疑問に、隣を飛んでいた妖夢が同調する。

 

「それも疑問に思いましたが、アリスさんはPTSDというものに近いものになっているんですよね?」

「そうね」

「龍慧さんは、アリスさんほどの人物が精神崩壊を起こすほどの何か(・・)を見せたということです。アリスさんは一体何を見せられたんでしょうか?」

「……アリスは根性のある方だぜ。なのに幼児後退しちまった」

 

アリスは何を見た?

 

それほどまでに詐欺師という奴の幻覚は恐ろしいものなのか、それとも私達の知らないアリスのトラウマを見せられたのか。

情報が少なすぎてわからないぜ。

 

 

 

 

 

「いっそのこと詐欺師が出てくれば解決するのにね」

「――呼びましたか?」

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

声の方向をした方を振り向くと、咲夜がいた。

 

「咲夜? お前――」

「魔理沙! そいつ詐欺師よ!」

「「――!?」」

「おや、ばれてしまいましたか」

 

咲夜――いや、詐欺師は私達の前に立ちはだかった。

一見咲夜にしか見えない出で立ちだが、仕草がアイツに全く似ていないので私も霊夢の言葉を信じる。ソイツは私達に仰々しくお辞儀をする。

 

「お初にお目にかかります、博麗霊夢君、霧雨魔理沙君、魂魄妖夢君。私の名前は霊龍慧、他の者からは『詐欺師』や『宝物庫』と呼ばれております。以後お見知り置きを」

「……自己紹介するなら変装ぐらい解いたら?」

「……あぁ、これは失敬失敬。暗躍するときは他者に自分の姿を見せないようにと心がけておりまして、迂闊でしたな」

 

龍慧が空中を歩くと、カツカツと地面がないのに(・・・・・・・)靴が鳴る音が響き渡る。

目の前の咲夜の姿が歪んだかと思うと、次の瞬間には背広にシルクハット、手に杖を持った黒い髪の男がいた。ヴラドのオッサンに似たような紳士的な服装だが、それよりも紫以上の胡散臭さを感じる笑みを浮かべているのが印象的。

紫苑と未来が言ってたことが理解できたぜ。

歩く不審者といっても過言ではない。

 

霊夢はお祓い棒を龍慧に突きつけた。

妖夢も刀を構える。

 

「アンタがこの異変の主犯よね」

「如何にも」

「じゃあ、さっさと止めなさい」

「それは難しい相談ですねぇ……。私の目的も果たしていませんし」

 

申し訳なさそうな表情の龍慧。

いい人そうに見えるのに、アリスへの仕打ちと胡散臭さがおどけているようにしか見えない。

 

「詐欺師さん、アリスさんを元に戻してください!」

「というか、何でアリスを狙った!?」

「ふむ……さすがに情報の独り占めはフェアではありませんね。アリス君を元に戻すつもりは一切ありませんが、理由くらいは話してあげましょうか」

 

パチンと指を鳴らした刹那――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そこは庭園だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「なっ!?」」」

「どうぞ、席に」

 

紅魔館の庭園に似ているが、見渡す限り一面のバラが咲き誇っており、私達の目の前には洒落たテーブルと4つの椅子が鎮座していた。テーブルには紅茶とお菓子が。

さっきまで私達は幻想郷の空を飛んでいたはず。

浮遊感はなくなり、大理石の床上に立っていた。

 

私達は警戒するが龍慧は着席するよう促しながら面白そうに笑うだけ。

 

「立ち話をするのもなんですから、私の世界に招待させていただきました。中々に綺麗なところでしょう?」

「……これはあなたの幻?」

「さぁ? 真実と偽りなんて紙一重ですよ」

 

それもそうね、と霊夢は椅子に腰かけた。妖夢も戸惑いながらも龍慧に敵意がないことを確認して刀の構えを解く。

アイツが素直に座ったということはココを出る手段はなく、少なくとも罠ではないということを長年の付き合いから悟る。

 

座っても、もちろん紅茶には手を付けない。

 

「美味しい紅茶をご用意したのですが……」

「紫苑さんのと比べたら飲むまでもないわ」

「それを言われると反論のしようがありませんね」

 

紫苑の料理は共通の認識なのか、霊夢の一蹴に素直に納得して笑う龍慧。

胡散臭いという点を除けば、どう頑張っても悪い奴には見えない。

 

私と妖夢は訝しげな表情をする。

 

「そろそろ聞かせてもらうぜ。なんでアリスを狙った」

「簡単に申しますと、心が強いからです」

「……は?」

「貴女方を観察して、一番心が強そうな人物――精神が強靭な方を選ぶ際に、アリス・マーガトロイドが適任であったというわけですね」

 

まぁ、と悲しそうに龍慧は顔を伏せた。

 

「予想してはいましたが、アリス君は精神崩壊一歩手前までの状態に陥ったので、私の能力で幼児後退させました。アリス君は私の幻覚を受け止めようとしていましたが、あのままであれば彼女は廃人となっていたでしょう」

「それをアリスに見せる必要性が分からないわ」

「必要ですよ。何て言ったって――」

 

ティーカップをテーブルに置いた龍慧は、私達3人に見せるように右手にカードを出現させる。

カードの柄はジョーカー。

 

 

 

 

 

「――私が見せたのは『神殺の過去』です」

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

紫苑の……過去?

 

「……まさか、紫苑さんの過去を見てアリスは発狂した、とか言うんじゃないでしょうね?」

「その通りです、さすが博霊の巫女」

 

ふふっ、と称賛する龍慧だが、物凄く胡散臭い。

紫の方が遥かにマシだ。

 

「貴女方の成す計画に必要なプロセスとして、神殺が私達と出会う前を知らなければならないと思いまして。血塗られた彼の過去を」

「………」

 

霊夢は押し黙る。

 

確かに紫苑の奴は自分の過去を語らない。

紫苑を紫達が攻略する上でアイツの過去走る必要があったが、それをアリスは知ってた発狂したということは……紫苑の過去は常人が受け止めるには過酷過ぎるのか。

そしてアリスが犠牲になった。

 

私は拳を震わせて龍慧に叫んだ。

納得できない。たとえ龍慧がアリスの壊れそうな心を直前で回避してくれた事実があったとしても。

 

「それは口で説明すれば済む話じゃないか! アリスの心を壊すほどじゃないだろ!?」

「――口頭で説明すれば理解できるとでも?」

「――っ!」

 

穏やかに、そう、穏やかに龍慧は問う。

しかし、目を細目ながら首を傾げるコイツには、反論を許さない『凄味』というものがあった。

言葉を失うもコイツは紫苑達の仲間なんだなと再認識させられる。

 

どれくらいの時間睨まれたのか。

首を振った龍慧が私達に頭を下げた。

 

「失敬、彼の過去は特殊でしてね。それが『彼が人としての生に拘る理由』にも繋がりまして……これを理解する人物が欲しかったんですよ。彼の過去を口ではなく記憶で知る者を。八雲紫や風見幽香も候補にはありましたが、アレ(・・)を見たら立ち直れないでしょうし」

「……まぁ、それは置いとくわ」

「霊夢!」

 

非情な判断に霊夢を怒鳴ったが、霊夢は挑むように龍慧を真正面から見据えた。

霊夢の姿を見ていると――どこか紫苑や紫を彷彿させるな。

 

「アリスは元に戻せるの?」

「ふむ……多分、今なら大丈夫かと。ちょっと彼女の深層意識を確認しましたが、ある程度は安定してあるようです。これならば、えぇ、私の能力を解いても問題ありません」

「なら」

「しかし、異変を起こしてまで撹乱したのに、このまま終わるのも呆気ない。というわけで――ゲームをしませんか?」

「「「ゲーム?」」」

 

足を組ながら龍慧がジョーカーのカードを消し、新たにハートのキング・クイーン・ジャックを見せる。

私達にウィンクしながらの提案。

 

「簡単ですよ、実に簡単。私を倒す(ころす)だけの、シンプルで分かりやすいルールのゲーム。貴女方が勝てば彼女の状態を正常にしてあげましょう」

「……私達が負けたら」

「おやおや、勝負の前から弱気ですねぇ?」

 

挑発しているように聞こえるけど、不思議と腹が立たない。

胡散臭さを除けばヴラドのオッサンに似ている。

 

アリスを賭けの対象に入れられている以上、私達に拒否権はない。

けど……目の前に居る龍慧は、勝利の軍神と称えられる紫苑や次元や概念も問答無用で切り裂く未来、醜悪で凶悪な生命体を使役するヴラドのオッサンに月の軍勢を粒子レベルに分解した兼定と肩を並べる男だ。

そんな奴に勝てるのか?

私たちの不安を察したのか、龍慧は私に向かって笑いかける。

 

「安心してください。私は神殺や切裂き魔などの化け物集団と比べると弱いですから、貴女方3人なら私に勝てる可能性がありますよ」

「……信じられませんね。お師匠様も仰っておりましたが、詐欺師さんの真価は戦闘以外にある、と」

「それは嬉しい称賛です。信じるも信じないも貴女方次第ですが、私は結果の見えた勝負など何の価値もないと思う質でして」

 

龍慧は席から立ち上がった。

 

その意図を汲んだ霊夢も一緒に立ち上がり、それにつられて私と妖夢も席を立つ。

 

 

満足げに私達の対応に頷いた詐欺師と呼ばれる男は指を鳴らすと、またまた違う空間へと変貌した。星々が煌めいて、紫苑にテレビで見せてもらった『プラネタリウム』というものに近い場所と誘われる。綺麗で見ていて飽きない世界ではあるが、ここは戦う場所だ。

シルクハットをとってお辞儀をした龍慧は、ニヤリと笑いつつ私達を見据えた。

 

 

 

「はぁ……やっぱりこうなるのね」

「神殺と切裂き魔――そして帝王の弟子(・・・・・)の実力、ぜひとも知りたいのですよ」

 

 

 

 

霊夢は大きく溜め息をつつ札を大量に取り出しつつ、萃香と戦った時のような冷静で冷徹な瞳を詐欺師に向ける。

妖夢は刀をいつでも抜刀できるように構え、未来がかつて月の軍勢と戦った時に似た余裕を持ちつつも相手を警戒する雰囲気を纏う。

何だかんだ言って、私も力ずくは大好きだ。

ミニ八卦炉を龍慧に向ける。

 

 

 

 

 

「まぁ、とりあえず――喜劇(ゲーム)と洒落込むわ」

「森羅万象、切り裂いて見せます」

「弾幕はパワーだぜ!」

 

 

 

 

 

龍慧は微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ではでは、序章(プロローグ)を始めましょう!」

 

 

 

 




紫苑「龍慧って根は優しい奴なんだよ」
未来「だけど『胡散臭さ』が生まれつきらしくて、警戒されることが悩みとか」
兼定「そして吹っ切れて道化に徹底しやがるンだよなァ」
ヴラド「儂のプリン食った怨みは忘れぬ」
3人「「「オイ」」」
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