東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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『夜刀神』の意味
貴方方はご存知か?


57話 神殺の存在

side 紫苑

 

外では異変が起きているというのに、俺は家のリビングでのんびりと読書をしている。他の皆は異変の対応に追われて俺の家にはいない。

他にやることがなかった……と言ってもいいのだろうか?

 

いや、本来ならば異変は『博麗の巫女』が解決するのが普通だ。今まで首を突っ込んできた俺の方が異常なのかもしれない。そう思うと、こうやって静かに本を楽しんでいるのも複雑だな。

 

そんなことを考えている俺はもちろん本の内容なんて頭に入ってない。

この異変の首謀者――龍慧について考えていた。

 

アイツは基本的に他者を傷つけるような街の連中とは違い、比較的平和主義者だったはず。まぁ、精神崩壊させたりと平和主義の単語の前に『似非』がつきそうなこともしていたが。

俺達にも共通することだが、街の連中は『仲間想い』という面があり、龍慧もその例に漏れないほど仲間には優しかった。仲間には、な。だから敵や無関係者のことは頭数に入れない思考の持ち主で「居ても居なくても変わらない」とか言う奴だった。

戦闘は苦手で、むしろサポートが得意な龍慧。月の軍勢のときは不在だったけど、もしアイツがいれば――もうちょっとマシな結末があったのかもしれないとは今でも思う。

 

なんで龍慧はアリスを狙ったのか。

龍慧の行動が意味不明なのは今に始まったことじゃないけど、今回のは予想もつかない。

 

「お父さん?」

「………」

「お父さん!」

「……え? あ。あぁ」

 

アリスに肩を揺さぶられて俺は現実へと戻される。

ソファーに座って考え事をしていた俺が顔を上げると、不安そうに俺を見つめるアリスが立っていた。『お父さん』とか言われ慣れないから気づかなかった。

つか俺は17なんだけど。

たぶんアリスより年下なんですが。

 

大丈夫と声をかけるとアリスは破顔して俺の隣に座る。

そして俺の太ももを枕にして横になった。

男としては嬉しいことなのだろうが……状況が状況だしなぁ。

 

「考え事でもしてたの?」

「まぁ……そんなところだな」

「お仕事?」

「……そうなんじゃね?」

 

というかアリスの父親設定がよくわからないから返答しづらい。

今の彼女の状態的に彼女の言葉を否定しないことが一番なのだが、それでも俺には限界ってもんがある。知らないことは知らん。

 

「お父さんは毎日頑張りすぎよ。もうちょっと娘の私にも構ってくれないの?」

 

俺って社畜設定なのか。

バイト先の香霖堂が仕事先と言っていいのかもしれんが。

 

拗ねたアリスの頭を撫でてやると、嬉しそうな声を上げる。

 

「ねぇ」

「どした?」

「もう……どこにも行かないよね?」

 

震えたアリスの声。

 

彼女は幼児後退中の身。もし小さい子が一人で寂しく家にいた時に怖いことに巻き込まれて、加えて頼れる肉親がいなかったらどうだろうか? 肉親じゃないけど。

 

俺はアリスを起こして強く彼女の身体を抱きしめた。

 

 

 

「ちょ、お父さん!?」

「……俺はここに居るだろ? もう心配すんな」

「………」

 

 

 

もう一度言おう。

俺はまだ17歳だ。

 

彼女が居たことがなければ、父親の経験はもちろんない。そもそも俺とどんな超絶美人の嫁さんの遺伝子を組み合わせたら、アリスのような天使が生まれるのかすら想像がつかん。俺と嫁の遺伝子配合が0:10ならワンチャンあるかもしれんけど。

冗談は置いといて、血の繋がってない彼女のことを理解する方が難しい。

どれだけ知識を集めようとも、人の心なんて理解できるのも出もないからな。

他者の心が見えるあの未来(アホ)ですらあのザマだ。何の力もない一般人の俺がどうこうできるもんでもないのは確か。

 

それでも……アリスを安心させることが出来るってんなら。

せめて傍にいてやろうとは思う。

霊夢達が龍慧をシバいてアリスを元に戻すその時まで。

 

「……お父さん」

「ん?」

「これはちょっと……恥ずかしい」

「あ」

 

実の娘(本当は赤の他人)を抱きしめてる男の図。

犯罪者じゃん。

 

「わ、悪りぃ。今すぐ離れ――」

 

ようとしたけどアリスにホールドされて離れられない。

言葉と行動が矛盾しているのですがアリスさん。

 

「え、えーと?」

「……恥ずかしいとは言ったけど、離れてって言ってないでしょ」

 

幼児後退に当てはめるなら、甘えたいのだろうか?

 

 

 

女と子供の考えほど難解なものはないなぁ。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side レミリア

 

「外では異変が起きているのよね」

「ヴラド公はそう仰っておりました」

 

おじいさまが言っているのならば確定だろう。

外では面白そうな異変が起きている。

私の部屋のテラスで外を眺めている私と、後ろに控えている咲夜。

 

「私も暇潰しに行こうかしら?」

「……ヴラド公から『外に出ないほうがいい』と言われていたではありませんか」

「うー……」

 

咲夜にたしなめられる。

確かにおじいさまが紅魔館内に神話生物を徘徊させているほど警戒している異変なのだ。先日の永夜異変ほどではないにせよ、厄介な奴が首謀者なのだろうか?

 

そんなことを考えながら不貞腐れていると、私の部屋にノックもせずに二人の影が入ってくる。

おじいさまとフランだ。

 

 

 

「ふりゃーん!」

「あはははっ、おじーさま! こっちだよ!」

 

 

 

相変わらず楽しそうである。

二人が入ってくると、後ろからパチェと美鈴も入室してくる。美鈴の姿に咲夜は激怒。

 

「美鈴! 門番は――」

「メイドよ、儂が門番を連れてきたのじゃ。紅魔館の門は我が下部に守らせておる」

「……美鈴では力不足かしら?」

 

美鈴が本気を出せば格闘戦において無類の強さを誇る妖怪となる。その彼女ですら力不足なら――今回の異変はおじいさまの街の住人が引き起こしたものと推測できる。

通夜の空気が流れる私の部屋に、笑い声を響かせたのはおじいさまだった。

 

「かかかっ、そうではないぞレミリアよ。ただ……少々面倒な奴が異変を起こしたから、一ヶ所に集めておくのが面倒がなくて済むという話」

「……それはつまり、貴方の街の住人による異変ということ?」

「さすが魔女。御名答じゃ」

 

パチェの推理に拍手するおじいさま。

 

「この異変の主犯は霊龍慧。儂等が『詐欺師』と呼ぶ男じゃ。直接的な強さは儂や未来、兼定ほどではないにせよ、諜報活動や戦闘サポートにおいて他の追随を許さない実力者」

「その龍慧という男が幻想郷に?」

「異変の内容からしてそうだろう。龍慧は〔万物を欺く程度の能力〕を持っており、常人では間違いなく騙されるであろう幻影を作り出す。だから紅魔館内部に皆を集めた」

 

戦闘以外に特化した能力。

おじいさまが認めた男ならば、相当の実力者なのだろう。

私達の幻影が出てきたら厄介と危惧しているのか。

 

どうやらおじいさまの下部は幻影を区別できるらしく、だから美鈴の代わりに門を守らせていると。

私は顔を引き締めてヴラド公に問う。

 

「おじいさまの意見を聞かせてください。その詐欺師は何の目的で異変を起こしたとお思いでしょうか?」

「間違いなく神殺――夜刀神紫苑じゃろう」

「「「!?」」」

 

フランと咲夜、パチェの肩が震える。

吸血鬼として姑息な手段を好まない私にとって、九頭竜の計画は正直参加したくはなかったが、妹とメイドと友人のために渋々参加している身。

その計画の中心人物たる紫苑が狙われているというのか。ただでさえ先の月との衝突でタイムリミットが大幅に減ったのに。

 

フランはヴラド公に抱きつく。

 

「お兄様が狙われてるの!? なんで!? その詐欺師って人はお兄様の仲間なんでしょ?」

「……確かに龍慧は仲間じゃ。無駄なことはしない龍慧が悪戯に紫苑の寿命を減らすとは思えぬし……何より『紫苑人外化計画』の発案者は龍慧じゃぞ」

 

おじいさまですら予測できない異変。

パチェが自分の考えを述べる。

 

「……紫苑さんを異変解決に乗り出せないようにして、自分の目的を果たそうとしている」

「パチュリ―様、その目的とは?」

「情報が少ないし、その龍慧という男が何考えてるのか私には理解不能よ、咲夜。でも――例えば計画の要となる霊夢と妖夢を試すために起こしている……という仮説が立てられる」

「あー、詐欺師がしそうなことじゃ」

 

少ない情報とヴラド公の反応から見て、パチェの仮説が現在有力な説になるわね。

しかし、とヴラド公が続ける。

 

「龍慧は一つの行動に複数の思惑を達成させようとする。他にも胸の内に抱えている企みが必ずあるじゃろうな」

「……とても、もどかしいですね」

 

咲夜は自分の胸にてを当てて想いを述べる。

 

「紫苑様のことを私は何も知らず、龍慧様は恐らく彼のために動いている。『知らない』というだけで、私は想うことしかできないのが……非常に悔しい」

「咲夜さん……」

 

私はヴラド公に尋ねる。

 

「おじいさま、些細なことでも構いません。この異変を詐欺師が起こす理由の欠片でも分かりませんか?」

「う、うむ……孫の願いなら叶えてやりたいが……」

「皆もよ。九頭竜や獅子王から霊のことについて聞いてない?」

 

無駄だとわかっていても、僅かの情報から推測して咲夜を安心させたい。その思いから私は皆に問う。

 

だが、おじいさまでも知らないことを渡したいが把握しているわけでもなく、溜め息しかでなかった。

 

そんな中――

 

「そういえば――」

 

おずおずと美鈴が手を挙げる。

 

「一ヶ月ほど前に兼定さんと組み手をやったときの話なんですが……それでもよろしいでしょうか、お嬢様」

「あの男と?」

 

野蛮で粗野な破壊神と美鈴が組み手?

私それ知らない。

 

「その、中国の武術をかじっておきたいと、最近は兼定さんと門前でやっていますよ。咲夜さん公認です」

「それ本当?」

「はい。紅魔館に仇成す行為が見受けられなかったので」

「私も知ってるよ! 兼定って勉強教えてくれる人!」

 

え? フランも?

なぜか疎外感を感じてしまう私だが、おじいさまも『何それ?』って顔をしていたので少し安心。

 

私は美鈴に続きを促す。

 

「彼との休憩中に少しだけですが、紫苑さんと詐欺師という方の話になりまして。多分関係ないんじゃないかと思いますが……」

「知ってる知ってないは大きな差よ。美鈴、教えて」

 

美鈴は思い出す化のように語る。

 

「この話は兼定さんが詐欺師から聞いたというものでして、兼定さんが仰るには――」

 

この美鈴の発言が……後に紫苑の過去へと繋がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日本に『夜刀神』という家名は存在しないそうです」

 

 

 

 




龍慧「新たな疑問が浮上してきましたねぇ」
紫苑「いや、本当に『夜刀神』って苗字は存在しないらしい」
龍慧「『夜神』はありますが」
紫苑「こっからどう話が展開されるのか」
龍慧「ちなみにこの異変後はコラボ→宴会→風神→オリ異変かもしれません」
紫苑「テスト明日なのにな」
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