東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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知るだけで影響を受ける


9章 永夜・幻影の宴会~死に逝く理由~
61話 それぞれの過去


side 未来

 

暗い部屋で鎖につながれた自分。

果たして……何年前の出来事だったか。

 

『ほぅ……これが覚妖怪ですか?』

『人間の血が少し混じっておりますがねぇ』

 

ひどく醜い笑い声が部屋に響く。

 

まぁ、ただでさえ人の前に姿を現さない臆病な妖怪という商品(・・)は、コレクターにも高く取引されるだろうし、政治利用としても役立つのは確実。

どちらに利用されようが、商品の僕には人権はないが。

人ではないし。

 

『……これくらいの値段でどうでしょう?』

『高すぎませんか?』

『いやいや、滅多に手に入らない商品ですよ? これくらいが相場というものです』

 

あぁ、コイツ等の感情が手に取るようにわかる。

売り手は如何に相手に高額で買い取らせるか。

買い手は如何に安くで買い叩くか。

 

どちらにしろ僕の意思など無関係だから興味ないけどさ。

諦観。それが僕の中にある感情だ。

 

 

 

『――おい、商品番号02256』

 

 

 

脂の乗り切った小太りの男性に僕の名前(・・)が呼ばれたようだ。

幽閉期間の終わり、ってとこかな。

 

『……薄汚い餓鬼だな。しかも反抗的だ』

『すみませんねぇ。でも本物ですよ?』

 

そりゃこんな扱いを受けていれば捻くれた餓鬼にも育つ。

檻ごと運ばれながら僕は現実を嘆く。

 

この世にご都合主義なんて存在しない。悲劇は悲劇のままで終わり、助けの声なんて誰も聞いちゃいない。しょせんは残酷な世界。

救い? アホらしい。

そんなもの都合良くあるわけがないのだ。

 

 

 

 

あぁ、本当に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お師匠様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――っ!」

 

大きな叫び声とともに僕は目を覚ました。

 

西行妖の桜が綺麗に舞い散り、四季が華々しく存在する亡者の楽園、白玉楼。布団で寝ていた僕を起こしたのはみょん――魂魄妖夢だったようだ。

あの薄暗い檻の中ではない。

 

僕はゆっくり上半身を起こしつつ、隣に座って居るみょんに笑いかける。

 

「叫ぶ以外の起こし方はなかったのかな? 僕って基本的に眠りは浅いから、体を揺すっただけでも起きるタイプだと思うけど」

「お師匠様、(うな)されてましたよ」

「……マジ?」

 

あんな夢を見たからなのだろうか?

ひどく懐かしい夢だった。

 

「どのような夢だったのですか?」

「内☆緒……というか夢って言った?」

「顔に書いてありました」

 

……みょんって覚妖怪じゃないよね?

なんか最近、僕の考えていることを悉く当てられてる気がするんだけど。

 

夢の続きが見られれば魘されることがなかったのではないかと思う。あの後すぐに爆発事故と共に、あそこにいた奴隷商人は一人の男によって壊滅されるわけだし。黒髪の少年に。

その男は僕に向かって

 

 

 

『俺の名前? 俺は櫻――いや、夜刀神紫苑だ』

 

 

 

こう名乗ったけど。

よくよく考えてみれば、このとき紫苑の言いかけた『櫻』は、アイツの本名だったと考えれば辻褄は合うね。まだ紫苑が『夜刀神紫苑』を名乗って間もない頃だったというわけか。

 

「お師匠様」

「ん? どうし――むぐっ」

 

明後日の方向を向いて昔を懐かしんでいた僕だが、みょんの方向を向いて視界が真っ暗に染め上げられる。そして僕の顔には柔らかい感触が。

みょんに頭を抱きしめられている状態だネ。

 

僕は必死に平常心を装いつつみょんをからかう。

 

「あ、あはは……きょ、今日は大胆だねぇ。なになに、このままベッドで一緒に寝るかい?」

「ここは幻想郷です」

 

視界は真っ暗だから僕はみょんの顔は見ることはできない。

しかし心は読むことが出来る。

みょんは――僕を安心させようとしていた。

 

 

 

 

 

「幻想郷は全てを受け入れるんです。お師匠様がどのような夢を見たかは分かりません。……それでも、ここは幻想郷で、私達はお師匠様を受け入れていることを忘れないでください」

「………」

 

 

 

 

 

全てを受け入れる、か……。

今までそんな言葉をかけてくれたのは暗闇だけだったかな。

 

けど、みょんの言葉は何故か僕の心に残った。

 

「えっと、だから……その……」

「……みょん、ありがとう」

 

元々この子は口が達者じゃない子だ。

それでも言葉を必死に考えて穆を励まして呉れる姿は健気で、だからこそ僕の心に響くのかもしれないね。覚妖怪のハーフだからこそ言える。大切なのは千の言語より一つの気持ち。

 

僕は緩んだみょんのホールドを抜け出してみょんの身体を抱きしめた。

案の定顔を赤くするみょん。

 

「ななななななっ!?」

「顔が赤いよー? さて、今日は宴会だし、幽々っち呼んで行こうか」

 

身体を離して僕は布団を畳む。

その間もみょんは赤面しながらあたふたとしていた。

 

僕は紫苑と兼定ほど鈍感じゃない。

みょんが僕に好意を寄せていることは知ってる。むしろ覚妖怪の僕が知らないはずがない。

 

でも……今はみょんの気持ちに答えることはできないだろう。

やらなければならないこともある上に、僕自身が気持ちの整理がついていないというのが一番大きい。

今まで迫害されてた僕に恋愛感情を突然受け入れるはずないでしょ。

 

それでもいつかは答えを出すつもりではある。

……いや、もう答えは出ているんだ。それを伝えることが難しいだけ。

 

 

 

 

 

それまで――みょんには少し待ってもらおう。

 

 

 

 

 

大丈夫、時間はあるからさ。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 兼定

 

 

 

 

 

『人を殺すのに理由が必要かァ? 俺様は殺人鬼だぜ?』

『殺人鬼であることを、人殺しの正当化の理由にするなよ』

『はっ! テメェに殺人鬼の何が分かンだよ!?』

『……分かるさ。あぁ、面倒なほどに』

 

 

 

 

 

先日、あの人形遣いから教えてもらったことだが……あんときの紫苑の発言の真意はこれか。

深く考えずにそのあと殺し合いに発展したが、アイツは中途半端に人殺しをしていた俺様よりも知っていたんだな。殺人鬼ってもんを。

一つ一つの言葉に重みみたいなもんがあるから、前々から不思議に思ってたぜ。

 

「何を考えている?」

「この前人形遣いの言ったあれのことだよ」

「紫苑殿が……その……」

 

宴会会場の博麗神社まで一緒に歩いている隣の慧音さんが言いよどむ。その慧音さんの隣にも妹紅が存在するのだが、ソイツも同じ表情だ。

二人にとっては衝撃の事実なんだろう、紫苑が殺人鬼だってことに。

 

俺様にとっては些細なことだがよ

 

「別に驚くほどでもないってか、興味ねェ」

「兼定少し冷たくない?」

「そうかァ?」

 

むしろ紫苑が俺様でも知ってる、『裏世界で最も多くの人間を虐殺した殺人鬼・櫻木桜華』がアイツだったことには驚きだが。

どちらにせよ昔のアイツは荒れていたとは思ったが、あれでも丸くなっていたと考えると笑いが止まらねぇ。そこまで隠すことでもないからな。

 

その気持ちを知らない二人は不満そうだった。

 

「なんというか、紫苑が私達を信用してなかったのかなって」

「どうしてそうなる」

 

妹紅の言葉の意味わからん。

 

「だって、紫苑は今まで偽名だったんだよ!? 本名が殺人鬼の名前だからって、私達は紫苑のことを悪く言うつもりなんてないのに!」

「だからァ、その前提条件が違ェンだよ」

 

川沿いに差し掛かったところで、俺様は地面に落ちてた石を川に投げながら妹紅に言った。

妹紅の言い分もわからんでもないが、それはいささか理不尽じゃねぇか?

 

「俺様達でさえ知らないことを幻想郷の住人が知るはずがねェだろ。アイツにとっては寧ろ『夜刀神紫苑』が本名なンだよ。推測にすぎねェが、『櫻木桜華』って名前は思い出したくねェ過去なんだろうぜ」

「……そう、なのかな」

「アイツが過去を話さないことが、アイツがテメェ等を信用していないことの等式にはならねェってこった。テメェだって紫苑に自分の全てを話したわけでもねェだろ?」

「……そうだね。なんかごめん」

「謝るなら紫苑に謝れ」

 

やけに素直に引き下がる妹紅。コイツも自分が言ったことの理不尽さには気づいていたのかもな。それを堪え切れなくなって言葉にしただけでさ。

この掛け合いを慧音さんが微笑みながら見ていることに気付いた。

怪訝な顔をしていたのだろう。慧音さんは慌てて言い訳を俺様にする。

 

「兼定なら『なんで黙ってた!』みたいな感じで紫苑殿と殺し合いとかしそうだから……」

「……まぁ、日頃の行いからそう思われても不思議じゃねェか」

「少し安心したよ」

 

普段から「ぶっ壊してやらァ!」とか叫びながら殺しにかかってるし。

というか幻想郷全てを受け入れすぎだろ。この前なんか叫びながら未来に飛びかかってる様子を見ていた80過ぎのババアが「今日も平和だねぇ」とか茶啜ってたぜ?

 

「本音はアリス殿が羨ましいだけだが」

「んァ?」

 

慧音さんの呟きに反応する。

 

「彼女は紫苑殿の過去を龍慧殿に全て教えてもらったのだろう? 愛する相手の過去を知ってるなんて羨ましいなって思っただけだ」

「全て知ることが果たしてソイツのためになるとは思わねェけどな」

「……私だって兼定のことをもっと知りたいさ」

 

俺様の過去、ねぇ。

 

知る必要もないことだし、知ったところでグロ耐性がつくぐらいしかメリットねぇと思うけどなぁ。

 

 

 

 

 

「なら慧音が兼定のところに入籍すれば兼定も教えてくれるんじゃない?」

「「妹紅!?」」

 

 

 

 

 

にゅ、入籍だと!?

この不老不死なに言ってんだ!?

 

「え、そういうことじゃないの?」

「話がぶっ飛びすぎてンだよ! 別にンなことしなくても慧音さんには話すって」

「じゃあ、兼定は慧音と結婚したくないの?」

「そ、それは……!」

 

まだ恋人関係にもなってないのに入籍……いや、もしかしたら幻想郷では当たり前のことなのか!? これは慧音さんに告白するタイミングなのか!?

 

 

 

 

 

「そ、それはダメだ! 兼定は鈴仙殿と付き合ってるのだろう!?」

「違ェよ!?」

 

 

 

 

 

な ぜ こ う な っ た。

 

「俺と鈴仙はそんな関係じゃねェ!」

「つまり私にもチャンスがあるのか!」

「え?」

「え?」

 

ちょいと待って慧音さん。

その言葉の意味は――

 

「兼定さーん!」

「げ! 鈴仙!」

 

まさかの元・月の民の鈴仙の出現。

 

「私もここに居るわ!」

「金髪女もか!?」

「ちゃんと豊姫って呼んでよ~」

「んなことどうでも……って離せ!」

 

右腕に鈴仙、左腕に金髪女。両手に花の状態だが、そんなのは女たらし(しおん)だけで十分だ。ほら見ろ慧音さん物凄く不満そうじゃないか!

 

「妹紅、助けろォ!」

「見ているには楽しい」

「クソがこの無職のニートがああああああああ!!」

「職場を破壊したのはアンタ達でしょ!?」

 

NEETの叫びが響き渡った。

 

 

 

 




未来「というわけで今章から宴会パート」
妖夢「ちゃんとした宴会描写少ないですから……」
未来「僕たちの過去とか明らかになるかなー?」
妖夢「基本的には紫苑さんの昔話がベースですよね?」
未来「曲がりなりにもアイツが主人公だからね」
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