東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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無知とかそんなの関係ない
根本的な問題の話


63話 共存と共感

side 咲夜

 

1888年のイギリスで起きた猟奇殺人事件。

ロンドンのイーストエンド・オブ・ロンドン、ホワイトチャペルで少なくとも売春婦5人を殺害し、1世紀以上経った現在も犯人は不明だと紫苑様が仰っていた。

 

犯人の性別すら分かっていない。

人々はその殺人鬼をこう呼んだ。

 

 

 

 

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)、と。

 

 

 

 

 

そしてその正体は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――私である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『人類最悪の殺人鬼(ブラッディー・イーター)』ねぇ……」

 

魔理沙から告げられた紫苑様の過去を、パチュリ―様が噛み締めるように呟いた。

この場で集まって酒を嗜んでいるのは私とパチュリー様、魔理沙と幽香の4人である。いかにも真実味のない話であるが、魔理沙の表情からして嘘をついているようには到底思えない。

 

 

 

外の世界で3万の人間を虐殺した稀代の殺人鬼・櫻木桜華。その正体が――夜刀神紫苑。

 

 

 

あの心優しい紫苑様が、無差別の人を殺すとは……。

 

「私としては……紫苑が大勢の人間を殺していたから何なのかって話なのよね」

「幽香はそうだろうな……って、私もそうだけど」

 

毅然とした幽香の態度に魔理沙が賛同する。

 

今まで彼と彼の周囲にいる者達を見てきたけれど、紫苑様が他者を殺すことに手慣れている雰囲気なのは知っていたことだし、あまり驚かない私がいるのは確か。

幽香は妖怪視点での発言だろうが、私と魔理沙は同じ気持ちだろう。

 

彼が人を何万も殺している過去があろうとも、私の彼への愛する気持ちは変わらない。

 

「分からないことがあるとすれば、なぜ今回の異変の首謀者が『紫苑さんが殺人鬼であった』ことを問題視したのか、ということね」

 

そう、そこなのだ。

パチュリー様の仰る通り、幻想郷では日常的なこと……ましてや紫苑様の住んでいた街では珍しくないであろう過去を、どうして詐欺師はアリスを精神崩壊させてまで教えたのか。

 

 

 

 

 

「悩んでるねー」

 

 

 

 

 

そこで現れたのは面倒な男。

 

「その露骨に嫌な顔しないでほしいな……」

「……九頭竜様は心を読めるのならば、私がそのような表情をする理由など分かるのでは?」

「まぁねー」

 

九頭竜と妖夢が歩いてくる。

 

白髪の男は飲んでいる私達の輪に遠慮なく入り、妖夢は一言断って九頭竜の横に座った。あまり彼女の師を悪く言うつもりはないが、私は九頭竜が嫌いである。

それは幽香も同じなようで、顔を見た瞬間に舌打ちをする。

 

「未来はどうしてこっちに来たんだぜ?」

「こっち来るのに理由が必要かい?」

「……あー」

 

紫苑様の街の者は行動理由をあまり持たないと言っていた。

その言葉を思い出したのか、魔理沙は納得したようなしていない様な表情をしながら引き下がった。彼らの『何となく』ほど理解できないものはない。

九頭竜はペットボトルと呼ばれる容器に入っている水を飲みながら、ヘラヘラとマイペースに笑みを浮かべる。

酒は飲まないのだろうか?

 

「僕は酒苦手だからねー。紫苑と兼定も同じだよ」

「興味深いわね」

「紫苑は破壊衝動、僕は毒舌を遠慮なく言うらしい」

「傍迷惑な酔い方……」

「兼定は泣き始める」

「「「「「ゑ」」」」」

 

あの乱暴そうな男が泣くとは想像もつかない……。

街出身の若い方々はお酒にめっぽう弱いようだ。

 

妖夢は幽々子が面白半分で九頭竜に酒を飲ましたらしい。

九頭竜は白玉楼で酒を飲んだ時のことを思い出したのか、妖夢は暗く笑う。

 

「あ、あれはトラウマものでした……。お師匠様の毒舌で幽々子様が3日間ぐらい部屋から出てきませんでしたし、私も稽古が一時期できませんでした……」

「何言われたのよ」

 

幽香のもっともな問いに、妖夢は九頭竜の言葉を思い出すように語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと……確か……『あぁ? その程度で紫苑倒せると思ってんの? とっとと玉砕して死ねば? つか二刀流にこだわる意味分かんねー。素人が調子に乗って二本の刀振り回すとか剣舐めてんの? つか庭師って剣使う必要性なくない? いっそ立枝切狭を二本振り回せばいいじゃん』と」

「………」

「これが一番軽い毒舌でした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……うわぁ。

 

「九頭竜様は最低ですね」

「反論できないや」

 

申し訳なくは思っているのか、笑っているが引きつっていた。

 

「ま、まぁ、紫苑の破壊衝動も迷惑だけどさ」

「紫苑もそれ言ってたな」

「あれは結構エグいからね」

 

一気に水をあおった九頭竜は、ボソッと呟く。

しかし、ここに居る全員は聞き取ることが出来た。

 

 

 

 

 

「――まるで機械的に人を殺すように」

「――っ!」

 

 

 

 

 

九頭竜はゾッとするような暗い笑みを浮かべていた。

 

「君達は紫苑の過去についてこう思っただろう? 『そんな過去をなんて街では珍しくもないだろうに、どうして龍慧は問題視するのか?』って」

「……えぇ、教えて下さらないかしら?」

「パッチェさんには本借りてる恩があるから、いいよ。教えてあげよう」

 

九頭竜は何か知っているらしい。

彼は懐から刃渡りの長いナイフを取り出した。

 

「僕らの街じゃ斬った死んだなんて日常風景。隣にいた奴が次の日には屍になってるなんて珍しくもない世界――という話はしたかな?」

「私は初耳よ」

「ゆうかりんは知らなかったか。こりゃ以外」

 

九頭竜はナイフを幽香に向ける。

殺意はないので訝しげにそれを見つめる彼女。

 

「僕みたいな半妖、ゆうかりんみたいな妖怪にとっても、人の生死なんて些細なことでしょ? そしてパッチェさんや魔理りん、咲ちゃんも幻想郷という場所では『死』という概念は他人事じゃない。ここまでは理解できるかな?」

「え、えぇ」

 

パチュリー様は頷くが、肝心の彼が何を言いたいのかが掴めない。

 

「けど――これは外の世界では『異常』なんだよ。科学の発展に埋もれて妖怪や神秘が忘れ去られて、ぬるま湯のように平和な世界を無知な人間がのうのうと生きている。勿論僕はそれを否定はしない。そんな生死を身近に考えるような世界とか面倒なだけだし」

「つまり何が言いたいんだぜ?」

「魔理りんはせっかちだなぁ」

 

九頭竜は声色を変える。

 

 

 

 

 

「紫苑は『平和に生きていた人間』を殺したことへの罪悪感から、人として死ぬことを選んでいるって話さ」

 

 

 

 

 

「「「「「……??」」」」」

 

よく分からない。

それを心を読んだのか空気を察知したのか、いつものマイペースな笑みを浮かべる。

 

「分かんないよねー。うん、僕にも理解できないもん」

「お師匠様もですか?」

「僕半妖だし。だからこそ……僕たちが理解できないことを紫苑は悩み苦しんで、自己完結で勝手に死のうとしているのが一番の問題なんだよ」

 

これは人間の道徳の話なんだろうね、とナイフを仕舞う九頭竜。

 

「紫苑は街でも多くの生命を奪ってきたけど、率先して殺すような奴じゃない。アイツは優し過ぎるのさ。老若男女関係なく殺してきた過去があり、その中に『死ななくてもよかった人間』が圧倒的多数を占めていたという事実。それが許せないんじゃないのかなって」

 

……なるほど、人間道徳の問題か。

紫苑様にとって、無関係な人間を虐殺してきた事実は許されざる行為であり、そんな自分が人の寿命以上を生き続けることは本人が良しとしないと。

 

「まぁ、そこんとこ理解する必要はないんだけど」

「……どうしてですか?」

「だって僕たちじゃ理解できないし、無理に解釈すると空回りするかもしれないでしょ? こういうのは紫苑の過去を完全に把握してるアリっちに任せるのが一番」

 

それに……と、水を飲んでから溜息をつく九頭竜は言った。

 

 

 

 

 

「――僕達のやることは変わらないからね」

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 紫

 

私は師匠の過去を見た。

初めて自分の意思で、境界を開いて彼の過去を見た。

 

『私がアリス・マーガトロイドに紫苑の過去を見せた理由は3つです』

『1、彼女が紫苑を愛しているから』

『2、彼女が精神的に強いから』

 

 

 

 

 

『3、彼女が――人を殺したことがないから』

 

 

 

 

 

霊龍慧の言葉が脳裏によぎる。

 

『私もこれには随分と驚きましたよ。魔界なんて魑魅魍魎が闊歩する世界の出身でありながら、人を殺めたことないなんて思いもしませんでした。純粋すぎるでしょ、彼女』

『だからこそ――彼女ならば紫苑の苦しみを理解できると思いました』

『本当は理由の2つほどをクリアしている者を選ぼうと思っていましたが、アリス・マーガトロイドは適任すぎる人材でしたね』

 

私は次々と人を殺していく師匠の幼少期を無表情で見つめている。

 

泣き叫ぶ女子供。

それを容赦なく殺める師匠。

 

『候補は他にもありました。が、人形遣いほどじゃなかったです』

 

『博麗霊夢は精神的に耐えられない』

『西行寺幽々子も同じです』

『十六夜咲夜は……ちょっと特殊ですね。彼女の過去から推測するに、理由の3番目が当てはまらない』

『パチュリー・ノーレッジ、フランドール・スカーレット、八雲藍、風見幽香――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そして貴女――八雲紫』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴女方は論外です』

 

頬に伝わる涙。

拳を強く握りしめた。

 

『1番目なら正直、貴女が適任でしょう。ですが、貴女には大きな問題がある』

 

彼は暗闇に拾われて、人の心を得ていく。

 

『貴女は妖怪で、紫苑は人間です』

 

彼は無関係の人間を殺めたことに苦しむ。

 

『つまり私が言いたいのは――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『八雲紫は夜刀神紫苑の苦しみを理解できない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どれだけ貴女が理解しようとも、人間の感情を妖怪が理解することなど不可能です。だって――妖怪は他者を殺すことに罪悪感など存在しないでしょう?』

 

「どう……して……っ!」

 

師匠の苦しむ姿を見ても分からない(・・・・・)のだろうか?

彼に寄り添って分かち合うことが出来ないのか?

 

 

 

 

 

どうして――私は妖怪なのだろうか?

 

 

 

 

 

『人間と妖怪が共存する地・幻想郷。これを作ったことは称賛に値します。私ならば不可能と切り捨てるだけで終わるでしょう。ですが、共存できることが、共感することの同義ではないということです』

 

私は膝から崩れ落ち、止めどなく流れる涙を手で拭う。

それでも涙は一向に止まらず、拭うことを諦めた。

 

師匠の過去をスキマから覗きながら、私は泣いた。

懐から無意識に取り出すのは懐中時計。それを額に当てながら、誰もいない空間で一人泣いた。

 

『疑うのであれば彼の過去を見てみるといいでしょう。境界を操る貴女なら可能なはずです。そして知るでしょう』

 

 

 

 

 

『夜刀神紫苑の苦しみを一切理解できない自分を』

 

 

 

 

 

「なんで……なんでぇ……!」

 

誰も答えてくれなかった。

 

 

 

 




龍慧「そこ、『アリスは魔界人なのに紫苑のこと理解できるの?』とか言わないように」
未来「えー」
龍慧「私が言いたいのは『妖怪じゃ紫苑の苦しみが理解できない』ってことです」
未来「人の畏れから生まれた存在なのに、皮肉なことだよね」
龍慧「人を喰うのが妖怪ですから」
未来「ゆかりん可哀想」
龍慧「次回は紫君の悩みを救う存在がっ!」
未来「な、ナンダッテー」
龍慧「適当ですね……まぁ、次回をお楽しみにということで」




紫苑「はい、というわけで人気投票結果発表!」
全員「「「「「イエーイ!」」」」」
紫苑「『ハーメルン』の感想欄のやつは消されたけど、とりあえず集計はしてる。あと『小説家になろう』からも数票頂いたぜ」
兼定「発表は消されねェのか?」
紫苑「ガイドライン的に大丈夫だと思う。というわけで、まずは入賞しなかったメンバーから」
兼定「1票入ってた奴らだな」

1票 咲夜、フラン、紫、チルノ、霊夢、幽々子、作者

兼定「なんか最後変なの入ってンだけど」
紫苑「俺も驚いた」
兼定「作者(;゜Д゜)って顔してたもンな」
紫苑「じゃあ、1位から5位まで一気に見てみようか」

5位 暗闇・兼定(2票)
4位 龍慧(3票)
3位 ヴラド(4票)
2位 未来(6票)
1位 紫苑(10票)

兼定「俺様が龍慧に負けてるだとォ!?」
紫苑「俺に投票してくれた読者の皆様方、ありがとうございます」
兼定「……(´・ω・`)」
紫苑「というか投票してくれた全員に感謝だな。これからも『東方神殺伝』をよろしく!」
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