東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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少女は過ちを犯す
けど死んでなければ安い


7話 犠牲にして

side 紫苑

 

利き腕たる右腕が、肘から先が消えた。

内部の繊維がぐちゃぐちゃに破壊されて、肘辺りが血肉をまき散らしながら吹っ飛んだというべきか。俺の右手が十六夜さんの後ろに落ちてる。

 

フランドールのやろうとしていることはなんとなく予想はついたし、壊神と同じであればコンマ0秒で能力が発動できることは知っていたので、十六夜さんには手荒だけどド突かせてもらった。破壊系能力は予測が大事なのは体験済みだったので、ある意味では壊神に感謝だ。十六夜さんは体がミンチになるよりはマシ……と考えてくれれば嬉しいなぁ。

十六夜さんが俺の惨状に気づいて思考停止させてるけど、破壊に巻き込まれた形跡はない。

良かった。

 

「し、紫苑!? だ、大丈夫か!?」

「……これ見て大丈夫だと本当に思うか? とりあえず生きてはいるよ」

 

魔理沙の発言にツッコミを入れるくらいには意識があるけど、ぶっちゃけクソ痛い。

脳みそが痛みを遮断して、さっきから冷や汗が全然止まらない。ショック死は免れたものの、出血多量死という言葉が冗談じゃなくなってくる。意識なんて気合と根性で保ってるわ。

こんな状況で他人を気にしている場合はないが、フランドールに視線を移す。

初めての『肉体の破壊』に相当ショックを受けているようだ。

 

 

 

これは――チャンスかもしれない。

 

 

 

俺は服の裾を近くに落ちてたナイフでひも状に切り、口で紐の端を固定しつつ傷口の止血を図る。なんか『死ぬほど痛い』描写をしてはいるが、肉体の欠損なんて初めてではないので器用に血を止めることに成功した。痛いことに変わりはないけど少しの間は大丈夫かな。

 

応急処置を終え立ち上がった俺は――フランの元へ足を運ぶ。

 

「ちょ、人間! 待ちなさ――」

黙れ(・・)

「!?」

 

この紅魔館の主・レミリア・スカーレットに呼び止められた気がするが、顔だけレミリアの方を向きつつ俺は3文字の言葉で一蹴する。痛みで一度に多くのことを考えている余裕はないので放った一言だったが、レミリアは肩をビクッと振るわせて黙ってくれた。ちょっと失礼だったかもしれない。

霊夢や魔理沙、美鈴さんに紫色の女性も何か言いたげな顔だったが声をかけてくることはなかった。正直ありがたい。

 

フランドールは4人だった分身を解除し、親に怒られる寸前の子供のように怯えている。俺より数百倍年上だとは思えない。

 

「――おい、フランドール」

「ひぃっ」

 

言い方がきつかったか? 金髪幼女は後ろに下がろうとしてつまずき座り込んでしまう。

悪いとは思っているが、俺の脳内は『どういう言葉でフランドールを説得するか?』を全力でまとめているため、気を使っている余裕は一切ない。

後で土下座やな。後があればの話だが。

 

俺は千切れて止血済みの右腕を見せながら言う。

 

「これがお前の能力が起こした結果だ。――良かったな。これが十六夜さんに直撃してたら、誰だか分からない肉の塊を見ることになっていたぞ?」

「あ……あぁ……あああ……」

「どうだ? 初めて人を壊した気分は。面白いか? 楽しいか?」

 

あぁ、俺はなんて最悪な奴なんだろう。

自分で自分が嫌になってくる。

 

フランドールは涙を止めどなく流し、濁音混じりで俺の問いに答える。

 

「――お、おもじろぐないっ。だ、だのじぐないっ!」

「そうか。じゃあ、なんで面白くもなく、楽しくもないのに壊そうとしたんだ?」

「ごめんなざいっ! こんなことになるとは思わなぐで……!」

 

いや、普通に考えたら分かるやろ……とは思わない。

495年間も地下に引きこもっていた精神が子供の吸血鬼に、『何をどうしたらこんな結果になる』なんて思考能力を求めるのは酷だろう。

はぁ……えーと、次はなんて言うんだっけ? 頭が熱くなって思い出せないや。

 

「ごめんなざい! ごめんなざい! もう壊ざないがら! だから……だから……っ」

 

小さな少女の悲痛の声は、静かな広間に、確かに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――嫌いに……ならないで……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう……十分かな。

俺はフランドールに触れられるくらい近づいて――少女の頭を胸に抱き寄せた。

 

「……え?」

「〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕か、辛いよな。ただ単に握りつぶすように破壊するだけの嫌悪感しか起きない、精神がガリガリと削られる能力。そんなの持ってて怖くないはずがないからね」

「しお……ん……?」

「『嫌いにならないで』――お前は能力を制御できないだけだろう? 生きてるもの皆最初は何もできないのが当たり前。これから覚えていけばいいし、俺がフランドールを嫌いになるはずがないだろ」

「……紫苑は私を……嫌いにならないの? ずっと一緒にいてくれる?」

 

俺を見上げてくる金髪幼女に、俺は笑いかけた。

冷や汗流しながら。

 

「ずっと……は無理だけど、嫌いになることはねーよ。フランドールが自分の能力の恐ろしさをちゃんと理解してるからな」

 

 

 

 

 

「う、うぅ、うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

安心したのか、拒絶されなかったからなのか、はたまた両方か。

小さな吸血鬼は大声で泣いた。

相当無理をしていたんだろうな。俺には理解しようともできないが。

 

 

 

「ヴラド、これでいいか……?」

 

 

 

たかが17年しか生きてない人間が495年の孤独を埋められたとは思えない。

それでも――この少女を少しでも救えたなら……あのプライドの高い吸血鬼も安心するだろうよ。

 

どれ程時間が過ぎただろうか、フランドールが泣き止んだので声をかける。

 

「フランドール、ちょっといいか?」

「フランって呼んでいいよ、お兄様」

「そっか……お兄様?」

「うん! ……ダメ?」

「いや……好きに呼んでいいよ」

 

深く考えずに了承する俺。

んな余裕あるかよ。

 

「それでどうしたの?」

「俺、もう無理だわ」

 

とりあえずフランに伝えたいことは全部伝えたので意識を手放し、受け身も取らずに倒れる。

何か叫ぶ声が聞こえるが……俺の耳には入らなかった。

 

 

   ♦♦♦

 

 

『――壊神、人を壊すってどんな感覚なんだ?』

『おぉ? どーしたんだ急に。誰か壊してェ相手でもいんのか?』

『お前と一緒にすんな。じーさんの話を聞いて思っただけだよ』

『……なんて言えばいいんかねェ。人壊すたびに大切なものが死んでいくみてェな感覚だな。俺様も最初は人壊した時に発狂したもんだぜ?』

『お前は生まれつき発狂してるわけじゃねーのか』

『黙れぶっ壊すぞ』

『もしもの話なんだけどさ、お前と同じような能力を年端もいかない幼女が持っていたとしたら……どうなると思う?』

『目も当てられねェなァ。少なくとも正気は保てねェだろ』

『ふーん』

『……でも』

『?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その能力を持っていても――理解して受け入れてくれる酔狂な野郎がいれば、少しは変わるんじゃねェの? 今の俺様みたいにな』

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 魔理沙

 

興味本位でついてきた今回の異変。

図書館で紫色の魔女を倒して本を借りようとしていたのに。

 

まさか――こうなるとは思わなかったぜ。

 

 

 

「お兄様! 目を開けてよ、お兄様ぁ!」

 

 

 

客室のベッドの上にいる紫苑の体を金髪の少女が揺さぶりながら、涙を止めどなく流す。

動かなくなった紫苑は血の気がなく、生きているのかどうなのかすらわからない。

メイドと紫色の魔女が必死になって治療を施しているが、シオンが目覚める気配がない。

私たちは部屋から静かに出て、何度目か分からないため息をついた。

 

「……なにがどうなってんだよ」

「それは私のセリフよ、魔理沙。どうして紫苑さんが紅魔館にいるのよ」

 

私と霊夢は紅魔館の主――レミリア・スカーレットだっけか。そいつに視線を移す。

レミリアは覚えがないと首を横に振った。

 

「私は呼んでないわ。人間が勝手に来たのよ」

「あの……」

 

すると紅魔館の門番をしていた……誰だ? とにかく門番が手を上げていた。

 

「美鈴、何か知ってるの?」

「そこの霊夢さんと魔理沙さんが来た少し後に紫苑さんが来たのですが……お嬢様の友人の知り合いから伝言と約束があると言っていました。伝言は分かりませんが、『妹様を救うこと』が約束だったそうです」

「フランの事を最初から知っていて来た……? その私の友人が誰か聞いた?」

「はい。確か……ヴラド公爵であると」

「ヴラド公!?」

 

レミリアは驚愕の表情を浮かべる。

 

「誰だぜ? そいつ」

「……外の世界で史実に出てきたのは最近だけど、2000年以上は生きる吸血鬼の中でも最強を誇る大妖怪よ。ただの人間が会えるような方ではないけれど、フランのことを知っているのであれば本当のようね」

「こいつそんな大物と知り合いだったのかよ!」

 

博麗神社で戦った時は素人の動きじゃないなとは思ってはいたが……外の世界で紫苑は何をやっていたんだ?

 

その疑問と共に、さっき紫苑がレミリアに放った一言を思い出した。

 

 

 

 

 

黙れ(・・)

「……っ」

 

 

 

 

 

背筋が震えた。あの目は忘れられない。

瞳孔の開いた、抜身の刀よりも鋭いまなざし。少なくとも私の想像していた外の世界の人間が出来るとは思えない殺気(・・)をまき散らしていた。誰も紫苑の行動を止められなかったのはこのためだ。

 

まるで……『黙らなかったら殺す(・・・・・・・・・)』とでも言いたげな殺気だった。

 

一方、霊夢は納得したようにうなずいていた。

 

「なるほどね。それが紫苑さんが紅魔館に来た理由か」

「霊夢は驚かないのか?」

「あの紫の師匠やってた人よ? しかも〔十の化身を操る程度の能力〕なんて私でも勝てるかどうかわからない能力持ってる紫苑さんが、外の世界で大妖怪と知り合いとか驚くにも値しないわ」

「げぇ! 本当かよ!?」

 

周囲の連中も驚きに声にもならないようだ。

幻想卿で八雲紫の名前を知らない人はいないだろうし、霊夢の強さは戦ったことがあるレミリアと門番も知っている。

 

しばらくして顔色の悪い紫色の魔女と信じられないものを見たような顔のメイドが部屋から出てきた。金髪の少女もついてくる。

 

「パチェ! あの人間は大丈夫なの?」

「……その前に、そこの2人に聞きたいことがあるわ」

 

紫色の魔女――パチュリー・ノーレッジが私と霊夢を見据える。

 

 

 

 

 

「彼は……本当に人間なのかしら?」

 

 

 

 

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