とある少女の育成計画   作:神道道也

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少女の育成計画 二枚目

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何故だ、何故……こんな小さな子供が……こんな事を?

 

私は困惑していた、それはもう頭を抱えて、考え過ぎで熱を出してしまいそうなくらい困惑していた

 

きっと侵入者は私の様な背丈の能力者が飢えを凌ぐ為に、夜な夜な侵入して盗み食っているのだろうと勝手に思い込んでいた

 

だが蓋を開けてみれば、まだ十にも……いやもしかしたら五つにもなっていないであろう少女が化け物の館に侵入している。という誰も想像の出来ないものだった

 

私はきっと目を見開き、口を半開きにして固まっているだろう。誰がどう見ても間抜けな顔をしているだろう

 

だが今の私にとってそんな事はどうでも良かった、そんな事よりも何故こんなにも小さい少女がこんな事をしているのだろう?

 

そんな思考しか頭の中に無い

 

背丈はお嬢様と同じくらい……いや頭一個低い

 

それに幾つも細かい傷が痛々しく残っている小さい腕

歩き過ぎて履き潰してしまったのであろう靴を履いている怪我だらけの小さい脚

穴だらけで薄汚いワンピースを着ている痣だらけ小さな身体

 

そして何よりも、少し痛んだ美しい銀髪から覗く、一度だけ見たことのある海よりも冷たく深い蒼色の双眼。

 

それは沈んでいて光など無かった

 

きっと生きてまだ四年か五年だろう、親にまだ甘えたい、否、甘えなければならない年なのに何故こんな事をしているのか?

 

きっとそれは、ピースの欠けたパズルの様に、出口の無い迷路の様に、考えても答えは出て来ないであろう

 

 

 

 

そんな時だった、考えに埋もれてしまったそんな時

 

一瞬だけ拘束が緩んでしまった、その隙を少女は見逃す事なく、音も立てずに先ほどと同じ様に消える

 

だが唯一違ったのが能力を使った先が短かったのだろう、背後の方から草木を分ける音が聞こえた

 

「待って!」

 

柄にもなく、私は叫んだ。先ほどの様な一人の執事としての私ではなく、一人の心ある生物として少女にそう叫んだ

 

だが少女は脚を止めなかった。それもそうだろう、冷たく沈んでいたあの目には怯えも入っていた……

 

だけど此処で逃したら、私が私で無くなる気がした。だから私は追った、逃げる少女を

 

「こな……いで……」

 

小さな小さな歪んだ鈴の音の様な声が私の鼓膜を振動させる。きっと逃げながら私に向けてそう言ったのであろう、だが私は少女を追う

 

「何も痛い事はしません!だから待って!」

 

能力を使う事も忘れて、只々叫んだ。何故、少女があんなに怯えて逃げるのかは私には分からない

 

だけど一つ分かったことがある、少女は恐らく私の様な大人達から暴力を受けたのだろう……でなければあんな痣は出来ない

 

「……はぁ……はぁ」

 

……そして少女は脚を止めた

 

諦めたなどでは無い、動かなくなったと言った方が正しいだろう

 

少女の膝はカクカクと笑い、とても歩ける様子では無かった……

 

それでも少女は木に背中を預け、こちらを睨んだ、敵意に殺意…そして隠しきれない怯え、そんな感情が混ぜ合わさった暗い目で私を睨む

 

私はそんな少女の行動に心を抉られながら一歩近付く、すると私を見て少女は

 

「こないで…でないと……いたいことする」

 

震える右手を左手で押さえながら、ナイフをこちらに向ける。何故震えているのだろうか?

 

そんな警告を私は無視し、また一歩近付く

 

「こないで……ほんとに…これ…いたいよ?あたると…あかいの…でるよ?……だから…こないで」

 

悲痛な少女の小さな声、そんな声に反してナイフの震えは大きくなっていく

 

私はこの時、理解した。そして同時に心が強く痛んだ……

 

この子は誰も傷付けたく無いのだ。でも自分も襲われたく無いからナイフをこちらに向ける……

 

だけど相手も傷付けたくない……何故なら知っているから、痛みを、傷付けられる痛みを

 

 

 

 

 

他人にやられたから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他人にやりたくない……

 

それを理解した時、私は少女を抱き締めていた。ナイフが刺さろうが、血が出ようがそんな事どうでも良い

 

「はなして……」

 

傷付けられても他人を思う、思ってしまうその心が、その姿が、ただただ痛々しかった__

 

「ごめんね……」

 

私から出てきた最初の言葉は謝罪だった

 

今まで気付いてあげられたくてごめんね、こんな世界でごめんね

 

そんな事を思いながらそう少女に告げる。

 

確かに私は唯の名も無き妖怪だ、世界を牛耳っている訳でもない、だけどそんなクソみたいな世界の代わりに謝ってしまうほど……

 

少女を愛おしく感じてしまっていた

 

「良く……頑張りましたね、良く生きてくれました」

 

そして私は称賛した。きっとそれは誰にも想像出来ないくらい過酷で辛い物だっただろう

 

その間、少女は最初は暴れていたものの、少しずつ落ち着いていき、若干震えているが私の言葉に耳を澄ませている

 

「……でももう一人で頑張らなくても良いですよ__」

 

優しい声音で、安心させる様に抱き締めながら、少女の耳元で囁く

 

「__私が居ますから、守るから……安心しなさい」

 

「……うゔゎぁ」

 

そう囁くと少女は身体を大きく震わす。それが恐怖からなのか感動からなのかは分からない。ただひたすら、私は後者である事を願った……

 

暫くすると少女はゆっくりと口を開く……

 

「わ…わだしの……そばにいてくれるの?」

 

少女は私の服を軽く握りながらそう私に問いた、意図は掴めない。だけど不安はその指先から伝わる

 

だから私はその不安を拭う様に、背中を摩りながら、頭を優しく撫でる

 

「はい、貴女が居て欲しいと思うのなら、喜んで近くに居ますよ」

 

「……ぅうっ……ぅうわぁぁああぁぁぁああ!!」

 

私の言葉を聞くと少女は何かが壊れたかの様に、大声を上げながら涙を流した

 

きっと今まで我慢してきたのだろう、甘えたくても拒絶され、貶され、痛めつけられ、大人も同じ年の子供も信用出来なくなって……

 

でも心の何処かで温もりを求めていたんだと思う、だから私は……いや、俺はそんな温もりを与えられたら良いな……

 

いや、与えよう。与えられる努力をしよう。この子が沢山笑える様な場所を沢山創ろう

 

俺がそうして貰った様に……

 

「それが運命なんですよね……アドロフ様」

 

俺も総てをこの子に尽くそう

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

何時間経っただろう、いや何分かも知れないし、何秒かも知れない。それくらい短いような長いような時間だった

 

次第に少女は落ち着きを取り戻していく。どうやら身体の震えも止まったようだ

 

「落ち着きましたか?」

 

背中を優しく摩りながら、少女の顔色を伺う。顔を上げることもなければ、見ることも出来なかったが小さく首を縦に振り、肯定した

 

「立てますか?」

 

何時までも抱き締めておく訳にはいかない、早くお嬢様に会わせなければ

 

何故なら、私の側に居させるという事はお嬢様の側に居ると言っても過言ではない

 

だが少女は首を横に振り、無理だと私に伝えた……ああ、確かに無理だ。

先ほど膝が笑っていたのを見たではないか、私は馬鹿か

 

「ごめんなさい、そういえば痛いんでしたね。少し離れられますか?」

 

離れる。その言葉を聞いた少女は嫌だとでも言いたげに服を握っていた手が強く握られるが、私が黙って待っていると諦めたのか、少しずつ離れる

 

その様子に思わずクスリと笑ってしまう、離れるのが嫌なくらい頼ってくれているのだ。嬉しくないわけがない

 

だけどもそれでは治すものも治せない。少女をあやしながら自分の上で仰向けに寝かせる

 

「少し触りますね」

 

少女は何を始めるのだろうと不安げにこちらを見つめる、そんな少女を撫でながら私は少女の脚へ手を伸ばした

 

「……っ」

 

触れた瞬間、少女は顔を苦痛に歪めた。かなりの痛みが走ったのであろう、少し息を荒げている

 

「ごめんなさい、痛かったですね」

 

それもその筈、一瞬しか触れてなかったがそれだけで分かってしまうくらい、脚が腫れていた

 

疲労に次ぐ疲労、それは少しずつ脚の細胞を破壊していき、確実に痛みを与えていったのだろう、酷いものだ、今まで私から逃げていたのが不思議なくらい酷かった

 

「もう大丈夫ですからね」

 

私は少女をそう安心させながら、指先に魔力を集める、そして集めた魔力で陣を描いていき、術式を創り上げる

 

「……わぁ」

 

優しく光る魔法陣、その光は少女の怪我を少しずつ、だけども確実に治していく……少女はその様子に、と言うよりも私の手から出た光に感動の声を上げている

 

そしてその光を脚から痣だらけの身体に、身体から細かい傷だらけの腕にと移し、少女を隅々まで治す

 

「……はい、終わりです。ゆっくりと立ちましょうか」

 

最後に服と靴を直して完了。少女は光が消えてしまって少し残念そうにしているが、怪我や服が治った事に今頃気付き、目を見開いて驚いていた

 

心ここに在らずという訳ではないと思うが驚いているためだからか、すんなりと聞き入れ、ゆっくりと立ち上がった

 

「痛い所はもう無いですか?有ったら言ってください」

 

少女に軽く動かしてもらい、痛くないか確認してもらう……のだが痛くない事に違和感を感じているようだ

 

「ふふ、もう大丈夫みたいですね。さて行きましょうか」

 

不思議そうに顔を傾げている少女を見て再び笑みが零れる、なんて可愛いんだろうこの子

 

「……あ、の」

 

そんな風に思いながら、手を引き、館へ向かおうとするが少女によって引き止められる

 

「どうしました?」

 

「えっ…と、あの……その」

 

少女の目線に合わせる様に屈み、表情を伺った。少女は何やら難しそうな、分からないとでも言いたい様な、そんなよく分からない表情をしている

 

何というかまるで、何かを伝えたい様な何か言いたげに__ああ、なるほど

 

「『ありがとう』……ですよ」

 

「ありが、とう?」

 

「はい、『ありがとう』です。感謝の気持ちを、今の貴女が感じている気持ちを伝える言葉です」

 

きっと少女は私に感謝の気持ちを伝えたかったのだ、だけど少女の中にその気持ちを伝える言葉が見つからなかった、否、知らない

 

まともな教育を、もしかしたら教育なんてものも受けてこなかったのだろう、酷い話だ

 

「ありが…とう……あり…がとう……ありがとう」

 

少女は覚える様に小声で『ありがとう』と練習をする、そして

 

「ありがとう」

 

私の目を見てしっかりと感謝の気持ちを伝えた、その目には少しだけ光が出来ている様な気がした

 

「どういたしまして……では行きましょう」

 

「……はい」

 

私はそれに笑顔で返す、するとそれにつられてなのか小さくだが確かに笑顔で笑ってくれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、急ぐとしよう。この子の主となる人の元へ……

 

 

 

……to be continued

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