とある少女の育成計画   作:神道道也

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少女の育成計画 三枚目

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next.漸side

 

薄暗い廊下、壁に掛けてあるロウソクで辛うじて周りが見渡せる明るさの中、主の元へ私達は向かっていた

 

私はいつも通りに、だけども少女に合わせながら

その少女はと言うと何処か不安そうな怯えているような足取りで私について来ている

 

それもそうだろう。この館の中に入れば、あるいは外見を見れば正常な者は怯えるだろう

 

理由としては兎に角、紅いのだ。不気味なほど紅い、初めて見た者は大体、気味が悪いと言う、私は慣れてしまっているためそうは思わないが……

 

それに紅いのには理由がある、返り血だ。

 

一時期ここは戦場になった事がある、その時に半分ほど返り血で紅くなってしまい、当時の主、アドロフ様がいっその事全て紅に塗ってしまえばいいという事で外見も内装も紅くなった

 

と言ってもその返り血の中に人間の血は全く入っていない、昔や今の主の同族である、吸血鬼の血が殆どの割合を占めている、後は名もない妖怪共だ

 

だから不気味なのはそういう様なものを無意識で感じてしまっているからだろう、分からなくもない

 

だが少女がその内装を不気味に感じる事に私は矛盾を感じる

 

何故ならここ一ヶ月侵入をしていたのにそういう反応をするのは分からない

 

まぁ昼も夜もいた訳では無いだろうから慣れないものあるだろうし、それに見つからない事に必死で内装など気にもしてなかったのかもしれない

 

それにしてもこの少女はどうやってこの館に侵入したのだろう、何かの能力ではあると思うのだが……いったい何なのだろうか……

 

なんて考えてみるがこれといった答えは出てこない

 

とと、いけない。どうやら目的の部屋まで付いていた様だ、危うく通り過ぎる所だった

 

立ち止まったそこは明らかに他の部屋とは違う

 

両開きの扉で他の扉より少し分厚い、扉の両端にはロウソクが掛けられており、他のものより不気味に揺らんでいた

そして何よりも扉の奥から漂う威圧感と妖気、それが他の部屋と一番の違う点だろう

 

「ここで待っていてください」

 

「……っ」

 

いつもより少々威圧感強いかなと思いながら少女に待つよう言ったのだが、明らかに怯えており、涙目で私の手を行かないでと言いたげに握ってくる

 

そんな涙目で見られると思わず止まりかけるが、それでは話は進まないのでグッと我慢する

 

「大丈夫ですよ、誰も取って食べたりしませんから」

 

安心させる様に頭を撫で続けると少女は渋々と言った感じで私の手を離す

 

私は離したことを確認し、扉に向き直った

 

……相変わらず客人が来ると何故こうも威圧感を強くするのだろうか?いまいちよく分からない

 

「……はぁ…漸です。お嬢様」

 

お嬢様に聞こえない様、小さくため息を吐きながら扉をノックする

 

 

 

 

「入りなさい」

 

 

 

 

幼い声で、だが何処か品がある声音が不気味な廊下に響いた。それは紛れもない、ここ紅魔館の主の声だ

 

「失礼します」

 

(こうべ)を垂れながら私は重々しい扉を開いた。その瞬間、溢れる妖気…それは全てを圧倒し、全てを威圧する

 

だが私はそんな事は気にも触れず突き進んだ、こんな事で一々圧倒されてはここの執事なんて出来ない

 

「お早う御座います。お嬢様」

 

「ええ、おはよう。良い夜ね」

 

……どうやら今日は機嫌が良い様だ

 

広い部屋の窓辺で月の光を浴びながら紅茶を(たしな)む一人の少女、その青みがかった銀髪を揺らしながら、血よりも紅い瞳でこちらを見つめる

 

「はい、とても良い夜で御座います」

 

背中の蝙蝠の翼と酷似している、身体と大きさが合わない翼を揺らしながら、少女は幼い口元に妖しい笑みを浮かべた

 

「本当にね……さて、漸。首尾はどうかしら?」

 

名をレミリア・スカーレット…このスカーレット家の現当主である。

スカーレット家の権力は今現在ほぼ無いと言っても過言では無い、だがそれでも力は高く、吸血鬼の中でも上位に入るだろう

 

「上々と言った所でしょうか」

 

「そう、殺したの?それとも調理したのかしら?まさか捕まえただけ?」

 

答えはとうに知っているだろうに……相変わらず意地悪な方だ、実際に意地悪な笑みを浮かべいるのがイヤらしい

 

「答えは知らないわよ、この複数の運命は貴方が選ぶもの……と言っても決まっている様だけど」

 

そう言いお嬢様は紅茶を口に含んだ、その表情は何処か楽しげだ

 

全く、このお方は一体何手先まで呼んでいるのだろうか……これではあまり口では勝てそうに無いな、嬉しいのやら、悲しいのやら

 

「申し難いのですが…捕まえただけで御座います」

 

「そう…ならどうしたいのかしら?」

 

これも複数の運命が存在しているのだろうか……たとえ存在していても一つしか私は選ばないのだが

 

「使用人に仕立て上げようかと思いまして」

 

「くっく……ふ、ふふ、あはは!やっぱりそれを選ぶのね!漸らしいわ……何だか安心した」

 

やはり幾つかの運命が存在していた様で、その内の一つを私が選んだと同時に笑いを抑えれなくなるお嬢様、最後の方は優しい笑みを浮かべていたが

 

それにらしいと言われると少し恥ずかしく思ってしまう……にしても安心ということは他の運命はどれだけ特殊なものだったのだろうか……想像するのが怖い

 

とと、いけない。先ほどから運命やそれを選ぶやら、まるで見えているかの様に話しているが……実際に見えているらしい

 

《運命を操る程度の能力》

それがお嬢様の能力だ

 

文字通り、運命という目に見えないものが見えたり、それを操ったりする事が出来るそうだ

 

と言っても全てが見えて、全てが操れる訳では無い。見る場合はその見たい人物の事を知っていないといけない

 

そして操れるのは極一部だけで自分が関わってないと駄目らしい、関わっていても操れない場合もあるらしいが……

 

それともう一つ付け加えるのであれば運命と言うものは糸らしい、そしてそれは幾つもあり、一つ選択すれば他の糸は消えるそうだ

 

「してお嬢様、どうなされますか?」

 

満足気に笑みを浮かべているお嬢様に私は問いた、するとお嬢様は顳顬(こめかみ)に皺を寄せ、腕を組み考える

 

「どうするって……そうね、‘‘二人’’で話がしたいわ」

 

答えが決まったと同時に妖しい笑みを浮かべるとお嬢様は確かにそう言った

 

二人で、お嬢様がそう言った瞬間、空気がガラリと変わる……否、変える

 

先ほどまで談笑をし、暖かな雰囲気だったが……今は緊張の糸が張られ、いつ戦闘が始まってもおかしくない雰囲気だ

 

「……それはどういう意味で?」

 

「貴方なら分かっているでしょう?その意味で良いわ」

 

「……っ」

 

二人で話をする。それは隠語では無いが、その言葉そのままの意味では無い、簡潔に言えば

 

‘‘腕試しがしたい’’

 

「……お言葉ですがお嬢様、相手はまだ五つにも達して無いのです。かんがえ」

 

「だから何よ、関係無いわ。このスカーレット家に仕えたいのなら、それ相応の力が無いと駄目よ」

 

情が移ってしまっている私とは違い、冷静に淡々と現実を突きつけるお嬢様。その言葉はスカーレット家の事を考えるならば間違ってはいない

 

きっと苦虫を潰したような様とは今の私の事を言うのだろう、実際唾が苦く感じる

 

「……人間ですよ、彼女は」

 

そう彼女は人間だ、能力を持っていても種族の壁は越えられない…吸血鬼のお嬢様に認められるなど不可能に近い

 

「漸、何度も言わせないで」

 

だが現実はそんなものを認めなかった…冷たく冷めた瞳でこちらを見下ろす

 

「ここに力無き者は必要無いわ!

……それは貴方も痛いほど分かっているでしょう」

 

机を力強く叩き、険しい表情で言葉を強める。最後の方は俯いてしまい表情は伺えないが……語尾が震えている

 

「……失礼いたしました、その様に」

 

お嬢様の痛みに気付いた私は《能力》を使い横へ跳ぶ、そして懐からハンカチを取り出し手渡す

 

「……分かったなら良いわ…呼んできなさい」

 

「……では、失礼します」

 

そう言い、私は《能力》を使い再び扉の前に戻り、頭を下げた

 

その下げた頭の中ではどう説明すれば良いのか……そんな事を考えながら扉に手を掛けた時だった

 

「漸……」

 

お嬢様に名前を呼ばれる。身体は動かさずそのまま言葉だけを待つ

 

「ありがとう、それと……ごめんなさい」

 

「……また後ほど」

 

その言葉にどの様な意味が込められていたのか、どの様な表情だったのか、私には分からない…

 

だけど何処か……何かが楽になった気がした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

先ほどよりもずっと重い扉から出てくると、待ってましたと言わんばかりに少女が足に抱きつきてきた

 

「……お待たせしましたね」

 

自分でも驚くほど、その言葉を発した声は弱々しかった

 

少女はその声に反応し不思議そうにこちらを見上げた、その目は何処か心配そうだった

 

「……貴女は本当に優しい子ですね」

 

気が付けば膝をつき抱き締めていた、それも強く。少女にとって苦しいかもしれないが……弱めるつもりはない

 

……こんなに暖かい子を死の淵に追いやるなんて私は本当に駄目な大人だ……もし、死んでしまったら……私はどうすればいいのだろう

 

「だい…じょうぶ……だいじょうぶ……だから」

 

そんな風に自分を呪っている時だった。少女が不器用ながらにも私を慰めてくれた

 

馬鹿か私は……

 

ああ、本当に大馬鹿だ。自分よりずっと不安な少女になんて事をさせてるんだ……

 

「ごめんなさい、もう大丈夫です……ありがとう」

 

抱き締めていた状態から少女を離し、頭を撫でる。少女は気持ちよさそうに目を細め、小さくだが笑顔になる

 

先ほども言った様に、今は笑っている少女だが心の奥底では不安を感じているだろう、その不安を私が拭わないでどうする

 

「……良いですか?」

 

撫でる手を止め、肩に置く。そして少女の目を真っ直ぐ見つめた

 

もういい、グダグダ言うのは辞めだ。この子を信じよう、この子が負けない事を信じるんだ

 

「これから貴女は過酷な運命に逢います」

 

少女の目を見据える、だがその目には怯えも不安も無いように感じた

 

「それはきっと、いえ、絶対に今までとは違うものです」

 

館に入ってきた時の震えも感じない、むしろ……

 

「過酷で辛くて投げ出したくなるような運命が待ち受けています」

 

……覚悟が出来ていた、理由は分からない。だけど確かにその目には、その身体には一つの覚悟を感じた

 

だから……私は少女を……否、彼女を信じる。

 

「だけど貴女なら絶対に乗り越えられます、私はそう確信しています」

 

彼女が乗り越える事を、切り抜ける事を、勝つ事を私は信じている……いや……絶対に出来る

 

「だから諦めないで闘いなさい、醜くてもいい、足掻きなさい……貴女には生きる価値がある」

 

取り出すは一本のナイフ、それは何処にでもある、銀色のナイフ

 

柄も全て鉄で出来ていて見ように寄れば食用にも見えなくは無い、だが刃は鋭い……水も、運命も時間も全てが切れそうなくらいそれは鋭く感じた

 

「……これは私からの餞別です、余すことなく使いなさい」

 

こくりと彼女は力強く頷いた、その表情は、その立ち姿はとても頼もしかった

 

そんな彼女に軽くハグをし、ナイフを手渡す……真っ直ぐと前を見据えた目……良い目です

 

「お嬢様、お客様です」

 

「ええ、入れなさい」

 

「失礼します」

 

再び扉を開ける、開けた扉は先ほどよりも随分と軽かった

 

そして中へ彼女を入れる。扉を閉める瞬間、彼女はこちらへ振り返った、その瞬間を逃さず

 

「ご武運を」

 

私は彼女の武運を祈った……

 

 

 

 

 

 

●●●●●

 

 

「あれ?漸さんじゃないですか、お仕事の方はどうされたんです?」

 

「ああ、美鈴…まぁ一応終わりましたよ、一応」

 

少女を地獄へ送り出した時から、数分後、美鈴が現れる……まぁ私にとっては数分ではなく数時間ぐらいに感じたんだが

 

それにしてもナイスタイミングだ、あのまま一人だったら年単位で寿命が減りそうだった……いやまぁ、さほど影響は無いのだけども

 

「一応…ですか?」

 

「ええ、一応。そちらは終わりましたか?」

 

「え〜…と……一応?」

 

美鈴は明らかに目を逸らし、泳がす…その声も若干震えていた

 

「まだ全然なんですね……はぁ」

 

「うぅ〜…そんな大きなため息を本人の前で吐かないでくださいよぉ〜」

 

ワザとらしく大きくため息を吐く、その動作に傷付いたのか、涙目になっていたりする

 

「ふふ、冗談ですよ。全て終わったら手伝いますから」

 

「もう冗談ばっかり!本当、意地悪ですよね!漸さんは!」

 

「くく、貴女はからかい甲斐がありますからね」

 

涙目で睨まれるが全然怖くない、寧ろ可愛く感じる……いや〜本当に面白いし楽しい

 

「漸さんが虐める〜!ってお嬢様に泣き付いて良いですよね?」

 

「それはいけませんよ、今お嬢様は対談中ですので」

 

「……へ?…つ、捕まえたんですか?あの漸さんが?」

 

何故そんなにキョトンとするんですか、何でそんな有り得ない物を見たみたいな目をしてるんですか……心外ですよ

 

「酷いですね……私が無慈悲で血も涙も無い男だとでも言いたいんですか?」

 

「はい」

 

即答、考える間も悩む間も無く、キレイに真顔で即答をする美鈴……そんな彼女に殺意が湧いた

 

「良し、表に出なさい。最大で最高の苦しみを与えてあげますよ」

 

それはそれは、とても良い笑顔で、だけど頭の中ではどう生き地獄を味あわせてやろうかなんて事を考えながら首根っこを掴み、美鈴を引きずる

 

「ごめんなさい!冗談です!冗談ですから!そんな顔で首根っこ掴まないで!怖いです!いや本当に!」

 

そんな風に美鈴は情けない声を上げながら引きずられる、そして数十歩引きずった所で渋々であるが解放する

 

「冗談です」

 

「冗談に聞こえませんよ!?滅茶苦茶怖かったんですからね!」

 

「ええ、でしょうね。私も冗談にしたくありませんでしたし……」

 

本当に残念だ、色々と試したいこともあったのだが……残念だ

 

「鬼!悪魔!鬼畜!」

 

「そんなに褒めなくても、何も出ませんからね?」

 

「褒めてないです!貶してるんです!」

 

ふむ、褒められたと思ったのだが……貶しでもその言葉を使うのか……難しいな言葉って

 

と、まぁそんな冗談だらけの雑談は棚に上げといて本題に入るとしよう

 

「さて、そんなくだらない話は置いといて」

 

「くだらッ!?」

 

「何か私に用でもあったんですか?」

 

「い、いえ。漸さんには無かったんですが……お嬢様の紅茶がそろそろきれる頃だと思いまして」

 

そう言い美鈴は紅茶が入っているであろうポットを見せてくる……そのポットは先ほど自分と対談の時に()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、それならもうやっておきましたよ」

 

「は、はは、相変わらず便利な《能力》ですね……あっ減ってる」

 

そう同じもの、美鈴は中身を見て減っている事を確認した。

中身が減っているのは当たり前だろう、それと中身が入っているのを交換したんだから

 

何処のタイミングで、と言われれば部屋に入った瞬間に、としか答えようがない

 

「良いなぁ〜…本当、便利ですよね。確か《空間を操る程度の能力》でしたっけ?」

 

「ええ、そうですよ。それと羨ましがるのは結構ですが、何度も言ってるでしょう。能力は使いようですよ」

 

そう《空間を操る程度の能力》それが私の能力だ

 

空間を操ると言われても中々ピンと来ないと思う、寧ろ空間とは何かと考える人もいるかもしれない

 

空間とは、見えているもの全てだ。それ以下でも、それ以上でもない。人が存在できる把握できる場所全てが空間と言える

 

私はそんな自分が把握出来ている空間を操り、物と物を交換したり、自分自身を瞬間移動をしたりなどを実行している

 

故に私はテレポート紛いのことが出来るのだ、その行き場所を把握しておけば容易に行くことが出来る。少女を捕まえた時が正にそれだ

 

物も似た様なものだ、自分を物に置き換えただけと言える

 

他にもこの能力は色々使えるのだが……それは追々説明していくとしよう

 

「う〜…使いようと言いますけど……私の能力は別ですよ」

 

「そうかも知れませんが使えるだけ良いじゃないですか、小悪魔さんが聞いていたらど突かれますよ」

 

一応美鈴も能力持ちだ《気を使う程度の能力》それが美鈴の能力、内容はその内と言う事にしておこう

 

それと小悪魔さんにど突かれると言っているが半分本当で半分嘘だ。ど突かれたりはしないが…嫌味を言われる

 

「うわ、それは嫌ですね。あの子怒ると怖いんですから……」

 

「ならそういう事を言わない事ですね」

 

やんわりと釘を刺しておく、人には感情があり、思うところがあるのが普通だ

 

そんな思うところがある人の前で、それを思わせてしまう事は言わない方が良い

 

「あはは、気を付けます」

 

「よろしい、では仕事に戻りなさい。私もそろそろ呼ばれそうですので」

 

「分かりました、では美鈴、仕事に戻らせていただきます!」

 

そう言い美鈴は笑顔でふざけて敬礼をし、何処か楽しげに仕事へ戻っていった……

 

 

 

 

 

「美鈴……ありがとう」

 

私はそんな彼女に感謝した。彼女が考えてか、それともただの偶然かは分からないだけども心が楽になったのは変わる事の無い事実だ

 

だから感謝した、ただそれだけの事

 

「さて、お呼び出しですか……ふふ、どうなったのやら」

 

気付けば綺麗な鈴の音が頭の中で木霊していた、それは自分にしか聞こえない鈴の音。そしてそれは同時に誰かに呼ばれている事を意味する

 

本当なら嫌な呼び出しだろう、この鈴を鳴らしているのはお嬢様。その事実は対談の終わりを意味する

 

「……おかしいですね、私には見えない筈なのに」

 

結果が、あの子が掴み取った運命が見えている様な気がした……

 

 

 

 

だから私は臆する事なく、お嬢様の部屋へ跳んだ

 

 

 

「お嬢様、ここに」

 

「遅いわよ、何をチンタラしていたのかしら?」

 

ギロリと獲物を睨む蛇のごとく睨まれる、だがその瞳には殺意など全くと言っていい程込められておらず、寧ろ楽しげに光っていた

 

「すみません、少し考え事を」

 

「……まぁいいわ、許してあげる。それでコレだけど」

 

お嬢様は足でその転がっているそれを蹴った……それはピクリとも動く事なく静かに眠っていた

 

「……どうなさいますか?調理でも致しましょうか?」

 

私はそれに駆け寄り抱き上げる、やはり能力持ちとは言え、非力な人間。種族の壁を越える事は出来なかったか……

 

「ふふ、分かっている癖に」

 

「はて?なんの事やら」

 

「____傷を癒しなさい。気に入ったわ、この紅魔館の一員として受け入れましょう」

 

「仰せのままに」

 

種族の壁は越えれなかった……だが、立ちはだかった運命の壁は乗り越えられた様だ

 

口の端から血を垂らしながら眠るように気絶している少女、それは何処か安らかで気持ちよさそうにしていた

 

「よく頑張りましたね。今、治しますから」

 

余り魔法で治すのは良く無いのだが、重い一撃を喰らったのだろう、かなり酷い

 

ああ、でも本当に生きていてくれて良かった。こんなに嬉しいのはいつ以来だろうか

 

「……大分、気に入ったのね」

 

「えっと……そう見えますか?」

 

「ええ、正直妬きそうよ」

 

ジトー……と少し拗ねている様な顔でこちらを見るお嬢様に思わず、私はクスリと笑ってしまう

 

「大丈夫ですよ、一番大切なのはお嬢様方ですので」

 

私は空いている方の手でお嬢様を撫でながらご機嫌をとる、だがその表情はまだ不機嫌だ

 

「なーにが大丈夫よ、ならどうしてこの子に、んっく……私があげたナイフを渡したのよ」

 

撫でている私の手を叩き、お嬢様は横腹に刺さってナイフを抜いた。その血みどろのナイフはお嬢様から貰ったものと酷似している

 

「よく見てください、違うナイフですよ」

 

「……ズルいわ、漸って」

 

無論、貰ったナイフは箱ごと大事に机にしまってある。ナイフというものは意外と消耗が激しく直ぐに欠けてしまったりするのだ

折角頂いたナイフをそんな事にさせたくない

 

「そうでも無いと思いますが……」

 

「私がこのナイフを見て怯むのくらい分かるでしょう。それにこの子の能力も中々に厄介な物だしね……こうなる事分かってたんじゃない?」

 

「いえ、私はお嬢様ではありませんので分かりませんでしたよ……ですが」

 

治療が終わり、より気持ちよさそうに眠る少女。そんな彼女の口から垂れている血を拭き取り、そのまま頭を撫でる……あっ笑った

 

「……勝つと信じておりましたので」

 

「ふ〜ん……可能性が少しでも高くなるように尽くしたと、そう言いたい訳ね」

 

「御意、その通りでございます」

 

「……はぁ、まるで私は悪役ね」

 

「そ、そんなつもりは」

 

ため息を吐いて頭を抱えてしまったお嬢様に私は柄にもなく慌ててしまう。

その様子を見て、してやったりと言いたげな表情で冗談だと言ってくれた

 

「さてと終わったなら部屋に連れて行ってあげなさい。着替えたら行くわ」

 

「では、美鈴をお呼びいたします」

 

「要らない、たまには自分で着替えるわ。それより部屋の場所、教えなさい」

 

「……………」

 

……今日は随分と驚かされる事が多い、お嬢様がこんな事を申されるとは……槍でも降るのではないだろうか

 

「何よ、教えないつもり?」

 

驚いて固まっていると教えなくないと取ったお嬢様は怒り口調で私にそう問いた

 

いけない今日は物凄く機嫌が良いのに私が機嫌を悪くさせてどうする

 

「い、いえ。そういう訳では……私の部屋の右側の部屋が空いてますのでそちらにしようかと」

 

「……さっきの言葉、訂正するわ。かなり気に入ったのね……本当に妬きそうよ、馬鹿執事」

 

「すみません、最後の方をもう一度仰って貰っても宜しいですか?」

 

「何でもないわよ、ほら早く行きなさい」

 

最後の方が聞き取れず聞き返すものの教えてはくれなかった……機嫌を取ろうとすると駄目だ、かえって不機嫌にさせてしまう

 

「は、はぁ……では部屋の方でお待ちしております」

 

これ以上いると駄目な気がしたし、お嬢様も早く行けと言っているので失礼する事にする

 

一度頭を下げ、眠っている少女を抱き上げて、再び能力で跳んだ……

 

 

 

 

「…………お兄様のバーカ」

 

……そんな言葉が残されていた事なんて知らずに

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

窓から入る月明かりが、ベットで規則正しい呼吸を繰り返している少女の美しい銀髪を照らす

 

私はそんな彼女が寝ているベットに腰掛け、頭を撫でていた

 

撫で続けていると時折小さく動く、起こしてしまったのかと思いやめるのだが、起きる気配が無いので再び撫でる

 

先ほどからそのような事を何回か繰り返している、寝ている邪魔をしてはいけないと分かっているのだが、中々やめられない

 

何故やめられないかって?簡単だ、可愛いから、それ以外無い

 

「入っても良いかしら?」

 

「お待ちしておりました、どうぞ」

 

なんて事をしているとドアがノックされる。声からしてお嬢様だ、どうやら着替えが終わったらしい

 

私は急いでベットから立ち上がり、ドアを開けて迎い入れた。何とか綺麗に着れたみたいでいつも通り、似合っている

 

「そう、ありがと」

 

「紅茶は宜しいでしょうか?」

 

「ええ、十分堪能したから良いわ」

 

空いている手で窓辺の椅子へ誘導する。お嬢様が腰掛けたところで紅茶の有無を聞くが要らないみたいだ

 

「では、その様に」

 

「それで?この子に名前は在るのかしら?」

 

「いえ、無いと……思われます」

 

唐突に聞かれたこの子の名、当たり前と言えば当たり前なのだが……聞く事をすっかり忘れていた

 

「もしかして忘れてたの?」

 

「……お恥ずかしながら」

 

目を驚いた様に見開きながら、呆れたように言ったお嬢様。返す言葉も無いというのはこの事を言うのだろう

 

「……意外と抜けてる所あるわよね…漸って」

 

「返す言葉もございません」

 

いや本当に酷い話だ、まだ私の名前も教えて無いでは無いか……これは馬鹿にされても仕方ない

 

「はぁ、まぁ良いわ。どうせ在ったとしても貧相な名前だろうから」

 

「そうですね……では、お嬢様の方からつけて頂いても構いませんか?」

 

「そう思って考えては居るんだけどね……中々ね」

 

元々そうして貰う予定だったのだが……確かに名前などそう簡単に思いつかないものだ

 

まぁそう焦るものではないゆっくり時間を掛ければいいだろう

 

「名前は出て来たんだけどね、名字が出てこないのよ」

 

前言撤回、お嬢様は格が違った。そう簡単には出てこないのに……流石お嬢様と言ったところか

 

それにしても名字か……私のような極東の方で使われる名前にするのだろうか

 

「因みに名前の方を教えて頂いても?」

 

「ん〜…嫌、ちゃんと出来てからの方が面白いでしょ」

 

だと思いました、お嬢様の性格からしてなんでも面白い方に持っていきたがるのですから……

 

「……名字、か」

 

……にしても出てこないな、寧ろ私の名字でもつけたらどうだろうか……いや、止めておこう。お嬢様に殴られる未来が見えた

 

そんな風にお嬢様が前に居るのにも関わらず、腕組みをして考え込んでいる時だった

 

ふと月の光が目についた、それは先ほど外にいた時にいた時よりも明るく優しく輝いているように感じた

 

その時、私は倉庫の中で待っている時の事を思い出した。そう、確か今日みたいな日の事を確か__

 

「__十六夜(いざよい)

 

「……いざよい?何かしら?その言葉」

 

小さな呟きのような言葉だったがお嬢様は聞き逃さず、意味を聞いてくる。

 

名字としては中々良いのではないだろうか?名前に合うかどうかは分からないが

 

「十六の夜と書いて十六夜と読みます。今日の日のような事を極東でそう言うみたいです」

 

「あら今日は十五夜と言われる物じゃないのかしら?」

 

「違いますよ、昨日より月の出が遅いですし、何より月がほんの少しですが欠けています」

 

普通は間違えるだろう、だが私は能力が能力のため空間把握能力が高い、そのため少しのズレや違いに気付きやすい

 

故にこう言った気付きにくい月の満ち欠けでも気づくことが出来るのだ

 

「欠けているようには見えないけど……漸がそう言ってるなら間違いないわね。

十六夜、咲夜……悪くないわね」

 

「咲夜ですか……良い名前ですね、意味は在るのですか?」

 

十六夜とお嬢様が考えた名前の咲夜(さくや)というものを合わせてお嬢様は良い名前だと言った

 

「意味なら在るわよ、ほら花を見事咲かせたじゃない赤い花を……ね」

 

「なるほど、良い名前です」

 

お嬢様は自分の横腹を撫でて見せた、なるほど運命の壁を越えた彼女に似合う名前だ

 

十六夜(いざよい)咲夜(さくや)、この子の名前はそれで文句無いわね?」

 

「ありません。とても良い名前だと」

 

「ええ、そうね。この子に似合ってるわ」

 

そう言いお嬢様は椅子から離れ、寝ている咲夜に寄り添う様に寝並び、頬を突く

 

その表情はとても愛らしくてたまらないとでも言いたげだった、翼も嬉しそうに小さく揺らしている

 

「早く、起きないかしら」

 

「そうですね。早く起きると良いのですが」

 

「名前をあげたら、どういう反応するかしら」

 

「それはもう、とても喜ぶと思いますよ」

 

「ふふ、そうかしら……そうよね、ほら早く起きてよ咲夜〜」

 

いくら頬を突かれても起きる気配が無い咲夜、その寝顔はとても心地よさそうだ

 

お嬢様を止めても良いのだが……こんな微笑ましい光景を止めたくは無い……

 

せめてこの子が、咲夜が少しでも早く起きる様祈るとしよう…

 

 

 

 

……to be continued

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