北米、ジオン軍アリゾナ基地・・・
医務室の簡素なベッドに、人影が一つ横たわっていた。
ユイ・シェリス。
連邦軍基地の脱出後、彼女はすぐに医務室に運ばれた。
幸い、右肩を除けば致命的なダメージは無かった為、現在は回復に向かっている。
医務室の扉が開けられた。古い扉が、ギギィ・・・という音を立てる。
「・・・誰?」
今まで眠っていたユイが目を覚まし、小さな声で尋ねるが、返事は返ってこない。
代わりに、開いた扉から顔を覗かせたのはセリエズだった。
「いや・・・大丈夫かなって、。ほら、親しい人が死ぬのはやっぱ嫌だし」
なんともはっきりしない受け答えをするセリエズ。
戦場に居ない時のセリエズはいたって普通の人間なのだ。エースパイロットと言われても、思わず首をかしげてしまいそうなぐらいに。
「右肩以外は大体治ってるから、もう大丈夫」
「そう、よかった・・・」
セリエズが、ユイのベッドの隣の椅子に腰掛け、安堵のため息をもらす。
自分のせいでユイが、という罪悪感が、彼の中にあったのは事実だ。しかしそれ以上に、セリエズには「仲間の死」という物に敏感になっている。
幼い頃に家族を失ったトラウマから、「自分がよく知る人間を失う」という事そのものに、心が拒否反応を示してしまう。
ユイにも、理解できない訳ではなかった。
ヴァイス・トート隊のメンバーは全員孤児だったから。ジオンが、「死んでも誰も悲しまない」人間だけを集めて編成された部隊。そのためか、危険な戦場に積極的に送られた。それが、豊富な経験となって様々な戦果を挙げ、エース部隊と呼ばれる事になるとは、皮肉な話だ。
故に・・・
「大丈夫、セリエズは一人にならないよ」
ユイの左手が、セリエズに向かって伸ばされる。いつもより心なしか小さく見えるその手が、セリエズの手を掴んだ。
「私は、死んだりしないから」
グレモリーがコクピットの蓋を開けた途端、コクピットの中に何かがどさりと落ちてきた。
「ちょっと、急に開けないでよぉ・・・」
そういいながら体を起こすのは、フリージアだった。
「痛いなぁ・・・もう」
「知るかそんな事」
グレモリーが文句を言う。当然だ。
「ニュータイプでも無いのにお前が外に居ることなんか分かるか」
「そこはほら、愛で感じてくれたりぃ~?」
「うざい」
しつこいフリージアを、ばっさりと斬り捨てる。だが、いつもの事なのでフリージアが腹を立てる事も無かった。
本当に嫌がってるならグレモリーは、完全に無視するなりしつこい相手を叩きのめすなりするし、彼自身、このやりとりを楽しんでいる部分もあったからだ。
コクピットを出たグレモリーに、外見だけなら可憐な少女のフリージアが抱きつく。端から見れば誤解を招きそうな光景だった。
フリージアとグレモリーが「デキてる」なんて噂も後を絶たない。男同士だから余計に、誤解と思い込みが加速して噂がエスカレートしていっている節もある。
本人達は気にも留めていないし、友人以上の関係になどなっていないのだが。
やたらとじゃれ付いてくるフリージアを、半ば引きずるようにして歩いていたグレモリーだが、自分の部屋に戻る途中、ぴたりと足を止めた。
角の向こうから、何やら異様な気配が漂っている。
「グレモリー、フリージア、そこにいるんでしょ。出てらっしゃい・・・?」
静かな口調に、ものすごい威圧感がある。
今までじゃれ付いていたフリージアも、真っ青な顔色になって動きを止めていた。
「あ・・・姉御・・・」
ハイドレインジャは既に彼女の下で、猫に首根っこを掴まれたネズミのような顔をしていた。
フリージアとグレモリーがおずおずと進み出る。
「あんたらまた勝手に出撃したのね?待機命令無視しやがってこの馬鹿が!全くこの戦闘オタが」
「せ・・・戦闘オタって姉御ぉ・・・ちょっと格好良くない?」
「黙りなさいフリージア、欠片も格好良くなんか無いわよ、全くホントに世話が焼けるんだから・・・」
グラナートロート・ルシファー隊が「姉御」と呼ぶ人物の説教は、この後1時間程続いた。