「終わった・・・のか?」
ジム改の沈黙を確認し、リーシュが呟く。
「ま、この程度余裕っしょ」
アレシアはいつもの気楽な調子で武器を下ろし、残骸から使えそうな物を漁っている。
しかし、セリエズは釈然としなかった。何かもっと、見落としがあるような・・・
「気のせいだろう」
つい今まで、敵機と戦っていたのだ。脳の働きがハイになっているせいで余計な事まで考えるのだろう。
そう結論付けようとしたその瞬間・・・セリエズは気づいた。
「グラナートロート・ルシファー隊・・・!二機しか確認出来ていない!」
最初の砲撃を行い、基地の攪乱をしたガンタンクⅡ。こちらは乱戦に持ち込んだ後、退いていったらしい。
そして隊長機の陸戦型ガンダム。こちらは迫撃砲による追撃時、いち早く退いていった。
「連中は3機のはずだ・・・奴らが『退いて』いったというのも気になる・・・」
もう一人は一体何を・・・
そこまで考えたとき、上空からエンジン音が聞こえた。
「何だ!?」
『基地上空、ミデア級3!敵機直上、急降下!』
オペレーターのユイの声が通信を通して響く。
見上げると、MSが9機ほど、降下してくるのが見えた。
「くっそ・・・そういう事か!アレシア、リーシュ!基地へ戻れ!」
同じことに気付いたフィラクも、再び基地へと急ぐ。
『対空砲火を急げ!』
通信画面から聞こえた声が引き金となり、銃弾の雨が天へ降り注いだ。
『MS、降下開始してください』
「りょーかいしましたぁ!」
グラナートロート・ルシファー隊のフリージアが、オペレーターの声に従い降下を開始する。
続けて、ジム・ナイトシーカーが二機、降下を開始した。
他の二つのミデアからも、ジム・ナイトシーカーの降下が始まっているだろう。
「僕らが上空に到達する前に地上部隊がやられちゃったのは予想外だったけど・・・オモチャが取られないからラッキー♪ってとこ?隊長は無事みたいだし、心置きなく壊せるね」
ジム・コマンドライトアーマーに搭乗したフリージアが、真下の基地を見据えた。
対空砲火が殺到し、地上から天へと、逆さまに雨が降る様を思わせる。
機体を右にひねり、スラスターを吹かせ、AMBACを駆使し、鉄の雨の隙間を縫っていく。
100㎜マシンガンを基地に向けて撃ち、対空機銃を二つほど潰したのち、ジム・コマンドライトアーマーは逆噴射で減速しつつ着地した。
「・・・っ!」
着地の瞬間を狙っていたかのように、銃弾が飛んで来て止んだ。
弾倉が空になったMMP-80マシンガンを投げ捨て、ヒートランサーを構え突っ込んでくる機体を見て、フリージアが歓喜する。
「アレシア君が前に乗ってた機体!遊んでくれるの!?」
アレシアは無言。しかし、機体は止まらない。
フリージアが、100㎜マシンガンを発射するが、左右にかわしてヒート・ランサーを振る。ジム・コマンドライトアーマーはかわし切れず、100㎜マシンガンが溶断され、地面へと落ちた。
「ああ、遊んでやるさ。お前が死ぬまでな」
ビームサーベルを抜き払ったジム・コマンドライトアーマーと、ヒートランサーを構えたドム高機動試作機が対峙した。
セリエズのギガンが、降下してくるジムナイトシーカーにキャノンを数発撃つ。しかし、空中にもかかわらず、うまく回避運動を取られ、かわされた。
「なるほど、こっちに腕利きを集めたわけか・・・」
その後もキャノンを撃ち、相手の回避のミスを誘ってから一機をキャノンで撃ち落とす。墜落した敵機は、基地の広場に落ちて炎上したようだが、残りの機体の降下を許してしまった。
基地内部に突入した機体を追ったグフが、返り討ちにされる。
ジム・ナイトシーカーの一機が、建物の陰からセリエズのギガンへと襲い掛かってくる。とっさに機体を前進させてかわすが、ジム・ナイトシーカーは即座に反転し、ビームサーベルを振り下ろしてきた。
「ちぃっ!」
キャノンを撃ち込み、頭部のバイザーを潰したものの、振り下ろされるサーベルの勢いは止まらず、左腕が溶断され、タイヤを掠めていった。
ギガンが、視界を失ったジム・ナイトシーカーに止めを刺そうと4連装機関砲を構えるが、ジム・ナイトシーカーは即座に飛び上がり、退いていった。
「引き際がいいな・・・」
セリエズが呟く。そして、機体を進めようとしたが、タイヤがビームサーベルの熱に溶かされ歪んだためか、ガタガタとしてあまり進まない。
「くそっ、こんな時に・・・」
セリエズは小さく舌打ちした。
ジム・コマンドライトアーマーのビームサーベルを、左にかわしたアレシアが、ヒート・ランサーをコクピットを狙って振る。だが、ジム・コマンドライトアーマーは機体の手首をひねり、ビームサーベルでヒートランサーの柄の部分を切り落とす。
「どうよ?」
ドヤ顔をしたフリージアだが、コクピット画面に映ったのはドム高機動試作機の拳だった。
ガィン!
ヒート・ランサーが対処されるのをあらかじめ想定し、パンチを叩き込んだのだ。
バチィッ・・・と音がして、左拳から火花が散る。
「衝撃でマニュピレータがイカれたか」
「よくもやったね!?」
フリージアが怒り、ビームサーベルを突き出す。
ビームが機体をかすめつつも、何とかかわしたが、突き出しからの切り返しの一撃が、ドム高機動試作機の右足を斬り付ける。
「・・・っ!」
バランスを崩したドム高機動試作機が倒れた先には、切り落とされたヒートランサーの先端があった。
ドム高機動試作機がそれを掴み、トドメとばかりに振り下ろされるビームサーベルを受け止めた。
火花が散り、ヒート・ランサーの先端にはたやすくビームサーベルの刃が食い込むが、手に持ったヒートランサーの刃を放し、スラスターを吹かせて回避する。そして、隙ができたジム・コマンドライトアーマーにスラスターを全開にしてタックルを叩き込んだ。
「でやああああああっ!」
金属がぶつかり合う音がして、ジム・コマンドライトアーマーの装甲がひしゃげる。
装甲の薄いジム・コマンドライトアーマーだったのが災いとなったが、フリージアは即座にドム高機動試作機から離れ、帰り際にビームサーベルで砲台を溶断しつつ退いていった。
「退いた・・・か」
アレシアが、ドム高機動試作機から降りつつ呟いた。
降下したジム・ナイトシーカー達は全て、基地内を縦横無尽に動きつつ、砲台や戦車などの兵力を潰し、被害が拡大する前に退いていった。
こちらが撃破したのは、降下中にセリエズが撃ち落とした一機のみ。他の機体は全て、破壊するだけして逃げられてしまった。
「こっちが目的だったのか・・・」
結果的には、アリゾナ基地に甚大な被害を受けてしまった。
「敗北と言っても差し支えない有り様だな、こりゃ・・・」
ジム・ナイトシーカーに逃げられてしまったセリエズが、コクピットシートにもたれつつ、ため息をついた。
「少し考えれば予測がついた事かもしれませんね。我々の落ち度でもあるのでしょうが・・・」
フィラクも、トドメを刺そうとしたが逃げられたようだ。
ドム・トローペンはほぼ無傷だったので、、タイヤが熱で溶かされ動けないギガンを引いて格納庫へと向かう。
機能する場所がまだ多いのが、せめてもの幸いだろう。
先に格納庫に戻っていたリーシュのザクキャノンの横に機体を止め、コクピットから降りたセリエズのため息は、夕日に溶けて消えていった。