零崎討識の人間感覚   作:石持克緒

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お久しぶりです。石持克緒です。
まさか一年経って仕上がるとは、全く思いませんでした。プライベートが忙しくて中々時間が取れず……。
大変お待たせしましたが、第三話後編、お楽しみ下さい。


黒手袋と商談して切断(2)

 

 

 二時間が経った。

 日は暮れてはいないが、木々が日差しを遮断して、かなり薄暗い。

 討識(うちしき)獣包丁(けものぼうちょう)の鞘を地面に突き刺し、その場にしゃがみこんだ。

「災害時には動き回らずに待機していた方が、発見される確率が高いらしいが」

 ぼそぼそと呟いた。本来なら本人にも聞こえないぐらいに小さな声だったが、物音どころか鳥の囀ずり一つしない山中では、やけにはっきりと自分の声が響く。

「遭難時も同じことが言えるのかは、不明瞭だよな」

 遭難。

 山や海にて生命に関わる程の災難に見舞われること。

「けっ。よりにもよって、遭難とはな。俺としたことが、情けねえや」

 零崎討識(ぜろざきうちしき)は遭難していた。

 あんな余裕そうにしていたにも関わらず、はぐれていた。

「ダサすぎて恥ずかしいを通り越すな……まったく」

 包丁を引き抜いて、軽く身体を伸ばす。

「……待つか」

 膝丈ぐらいの石に腰かけて、懐を探る。出てきたのは、カロリーメイトのメープル味とチョコレート味。

 これらが、現在の討識の全食料だった。

「心許ないにも程があるな。もっとマシなレーションでも持ってくりゃあよかった」

 そもそもがはぐれることを想定していないのだから、むしろ少量とはいえ食料を持っていたこと自体、評価されるべき備えだと言える。

 しかし評価する人間が討識一人なのだから、自身の行いに辛くなるは当然だった。シビアな想像は現実と遜色ないと考える討識は、自らの予想の甘さを恥じた。

「ジッポーとカロリーメイトと刀……一夜は越せるか……?」

 越せるだろうがなんとも言えない。しかし、今は待機する以外に有効な手立てがないのは確かである。

 狼煙でも上げてみようと、枯れ枝と落ち葉を拾い集める。山火事にならないように、土が見えるまで枯れ葉を掻き集めて、一ヶ所に纏めた。

 ジッポーでカロリーメイトのパッケージを燃やし、次いで落ち葉の山に引火させる。

「これで見つけてくれればいいが、どうだかな」

 枝と葉を()べると、もうもうと煙が上がる。火勢が安定すれば、太い枝も燃やせるだろう。

「……さて」

 煙は木々の隙間を縫って立ち上る。

 討識は溜め息を吐いて、黙ってそれを眺めていた。

 

 ◆    ◆

 どこそこに行けば何々の動物がいる、とは確定していないようで、比較的発見する確率が高い道を、二人で巡ることになった。

 長い草花や落ち葉、踏み均されてない土により地面が柔らかい上に、所々に石が埋まっていて、かなり歩き辛い。それでもクーラーボックスを担いでいた時よりは、大分楽に登れているあたり、やはりあの荷物は余計だったのだと思った。

「そういえばだけどよ」

 歩きながら、討識は問う。

「アンタって、ずっとこの山に住んでるのか?」

 その質問に、前を歩いていた(やすみ)は、振り返って答えた。

「ええ、そうね。かれこれ二十年ぐらいは」

 大きな瞳は、討識を捉えてはいなかった。木々の先、遠いどこかを視るように、休の目は明後日の方向へ向いている。

「産まれた時からか?」

「産まれた時から」

 そう言って休は前進する。

「父と母と兄と私で。四人家族だったのよね、私」

「へえ」

 正直興味はなかったが、意外だったので反応してしまう。何故反応するのか、討識には不思議だった。

「もう、あまり覚えてないんだけれど」

「そんなもんじゃあねえの。俺だって、親のことなんざ、ほとんど覚えちゃあいねえよ」

 嘘である。本当は、しっかりと覚えている。

 顔も声も、刺した感触も、裂いた感覚も。

「で、アンタ一人がこの山に住んでるってことは、殺し屋一族なアンタら一家は離散した訳だ」

「殺し屋じゃないわよ。マタギ」

「マタギが人なんか殺すかよ」討識は笑う。「ゴルゴ13みてえな真似してる時点で、殺し屋でしかねえだろ」

「私には彼のような肉弾戦はできないわよ」

「それは知ってるんだな」

 しかも『肉弾戦はできない』と言っているだけで、狙撃の技術は同格だと暗に主張している辺り、相当な自信家でもあるようだ。

「確かにマタギは山に住まう狩人だから、基本的に人間は殺さないけれどね。必要に迫られれば、仕方がないでしょう」

「必要に迫られる余地があるのか? ……ああ、税金とかか」

 山に住んでいるということは山の所有者であると考えられるし、ならば固定資産税等を納付する義務がある。

 そうでなくとも現代生活に税金は付き物だ。山奥で自給自足していても、否、山奥に住んでいるからこそ、金銭に窮するのは当然であろう。

「税金なんか払ってないわ」

 休がとんでもない発言をした。

「払ってるの?大変ね」

「……そりゃあ払ってるさ。平地で暮らしてればな」

 未納者に対する嫌味のような言葉を吐く討識も、休の後を続く。

 マンションのオーナーも中々大変なのである。

「税金を抜きにしても、何やかんやでお金はかかるのよ。飼料とか肥料とか、バッテリーとかガスボンベとか。それに」

「それに?」

「それに、弾とか」

 弾、銃弾。

 それも休ならライフル弾だ。

「何種類も使い分けてると、それなりにお金もかかるのよね」

「そりゃあそうだ」

 フルメタルジャケットやホローポイント、AP弾、散弾など、弾丸の性質は多種多様だ。当然、状況によって用途は異なるので、休のような狙撃手に弾丸の選別は必要な活動である。

「アンタなら、仕事用と狩猟用とで、最低二種類は必要だからな」

「そうね。狙撃の状況次第で、使う弾丸も変わるから」

 それは五人組三十五郎(ごにんぐみみとごろう)の時の状況も含むのか、と言いそうになったが、言うまでもないことかと思い直して止めた。

 派遣会社五人組のビルを出る討識が目撃したのは、破壊しつくされた一階フロアと、巨大な軍馬の死骸に巨体な騎士の死体だった。

 その傍らに転がっていた、型の違う薬莢を見れば、一目瞭然である。つまり休は弾丸を使い分けるタイプのプレイヤーで、延いては狙撃のプロであることを示していた。

 プロのプレイヤーであるかどうかは、また別のことだが。

「まあ、地獄の沙汰も金次第、阿弥陀の光も銭次第とか言うし。金稼ぎで人を殺すのは、理解できなくはねえよ。 でもアンタ、この山にいる限り、生活には困らねえだろ。そもそも金なんか必要ねえと思うんだが」

 確かにその通りで、社会と隔絶しているとはいえ、休は自立して自活している。本来なら、休は金銭に窮することはないはずだ。

 しかし、これもまた言うまでもないことであった。それでも質問したのは、予想を確認する為であり、そして自分がどんな人間に惹かれたのかを確認する為でもある。

 延いては、今回自分はどんな人間を頼ったのか、それが正しく賢い選択だったのか、見定めたい。

 具体的には、将来、夢辻道休(ゆめのつじみちやすみ)は敵になりうるかを見極めたい。そういう意図を含んだ、発言であった。

「健康で文化的な最低限度の生活」休は言った。「の、為かしら」

「はあ?」

 何言ってんだお前。

 思わず口に出そうだったが、なんとか堪えた。

「考えてもみなさい。この山で暮らすということを」

「分かんねえから聞いてんだろうが」

「なら想像してみなさい」

 それだけなら容易いはずよ、と休が語る。

「電気がない、ガスもない、水道もない、電波は届かないしネット環境も整ってない。舗装されてないから歩くだけでも危ないし、雨が降れば土砂崩れ、雪が降れば雪崩の危険がつきまとう。春夏秋冬天候が変動し易いから、それに合わせて体温を調節しなきゃいけない。自然豊かではあるけれど毒性を持つ植物も多いし、人間よりも遥かに優れた身体能力を持つ動物だっている」

 そして、と続けた。

「それらを踏まえて得たもの全てが、常に安全であるとは限らない。そんな生活は非凡ではあるけれど、不毛で無足だと思わない?」

 不毛で無足で、非生産であり未確定。

 つまり文化的でない。

「で? 要するにアンタは、人生に娯楽や豊かさを与えるために、金を稼ぐって訳か?」

「ええ。 だってこの暮らし、面倒臭い上につまらないし」

「その割には二十年近く住んでるみてえだが」

「移動するのも面倒だから」

 慣れ親しんだ場所を離れるのも何だかね、なんてふざけたことを抜かす。

 何だか夢辻道休という女の、根本というか、本質が見えた気がした。

「ところで、私の身の上話を聞いてどうするの? 少なくとも貴方には役に立たない話だと思うのだけれど」

「立たなくはねえさ。例えばアンタを裏切るときとかに、さ」

 親愛を深めておけば、後々殺しやすくなるかもしれない。

 半分冗談で半分本気だったのだが、休は軽く笑って流した。

「裏切って殺したところで、私から取れるものは何もないわよ」

「だろうな。期待はしてない。ーーなあに、単に興味本位ってだけさ。これまでに様々な人間と出会ったけど、流石にマタギなんて名乗る奴はいなかったからな。そりゃあ関心も覚えようってものだぜ」

「そう。貴方がそう言うのなら、そうなんでしょうね。私にとしても、殺人鬼なんて妙な肩書きを持つ人間は、初めて会うわけだし」

 殺人鬼とマタギ。

 奇妙な二人の奇矯な出会い。

零崎一賊(ぜろざきいちぞく)、だったかしら。よく知らないのだけれど」

「知らないのかよ……」

 よく知らない癖にあんなことをーーいや、よく知らないからこそ、か。

「仲介屋に聞いたりしたのだけれど、言葉を濁らせたり、はぐらかしたり、あまり教えてくれなくて」

「そうだろうな」

 零崎一賊は『暴力の世界』において不可触(アンタッチャブル)な存在である。何しろ、ちょっと手を出したーー本当に、僅かに肌が触れた程度で殺意が向くことすらあるのだ。何時何処で何が原因で殺されるか分からないのだから、話題にもしないのが最善だ。

 障りには触らないが吉。

「聞けたのは、殺人鬼のグループで(ころ)()? の第三位だってことぐらい。殺人鬼って呼称の意味も教えてくれなかったわ」

「そこもかよ。 ああ、何て言うかな……」

 自分のこと、自分が所属する集団のことを説明するのに、上手い言葉が出てこない。

 そもそも『家族』という繋がりを、何も知らない人間が一から理解出来るのかが不明瞭だ。理解したとして、許容するかは別問題だし、大抵の人間は許容出来ずに嫌悪感を示す。

(何と言うか)

(あんまりコイツには嫌悪感を抱かれたくないんだよな)

 何故そう思うのかは全く分からないが、とにかく、悪いイメージを持たれたくない。いや、殺人鬼の集団という時点で良いイメージなど持たれる訳がないし、内情を知っている討識自身が良いイメージを持っていないので、印象操作を試みること自体が無駄だ。

「じゃあ、まずは大まかな情勢から……」

 という訳で、討識は諦めて、一般論を話すことにした。

「世界を世界に対する支配力、影響力で分類すると、主に四つの勢力に分けられる。一つは財力、一つは政治力、一つは暴力、一つはーー総力、か?」

「総力?」

「所謂『表の世界』。あらゆる人間があらゆる分野に関わってあらゆる活動をして、あらゆる人間があらゆる才能を削ってあらゆる文化を潰し、進歩はしても発展はしない、発展はしても成長はしない、劣った人間も優れた人間も排他されて叩かれて消却されて、それでいて平和で静穏で安全な、一般人の世界」

 総力とは、思いつきとはいえ上手いことを言ったものだと思った。

 劣ってはいないが秀でてもいない、有象無象が右往左往に蠢く、個体のような郡体。

「財力はそのまま金の力。特に赤神(あかがみ)謂神(いいがみ)氏神(うじがみ)絵鏡(えかがみ)檻神(おりがみ)の五家系からなる『四神一鏡(ししんいっきょう)』が最有力派閥だな。伝統ある財閥の集まりで、格式張ってて歴史も長い。 政治力は『玖渚機関(くなぎさきかん)』。壱外(いちがい)弐栞(にしおり)参榊(さんざか)肆屍(しかばね)伍砦(ごとりで)陸枷(ろくがせ)(しち)の名を飛ばして捌限(はちきり)、それらを束ねる玖渚を中心とした組織。多くの企業や団体が傘下に入ってる」

 そういえば以前に殺した男は、元々伍砦の末端だったか。しかし既に済んだ話なので、討識はその中年男性を記憶の隅に追いやる。

「戦闘力や殲滅力がモノを言うのが、俺達のいる『暴力の世界』。他の世界から弾き出された、異常者と異端者の秩序立った無秩序で成立する」討識は言う。「その中で一際外れているのが、『殺し名』さ。匂宮(におうのみや)闇口(やみぐち)、零崎、薄野(すすきの)墓森(はかもり)天吹(てんぶき)石凪(いしなぎ)の、殺人能力が極めて高い、頭のおかしい七名に序列をつけたものだな。零崎一賊はその第三位で、他とは群を抜いて忌み嫌われている」

「何故?」

「敵対した相手は皆殺しにするとか、老若男女隔てなく殺すとか色々あるけどよ。多分、殺す動機がないからだろうな」

 『暴力の世界』のプレイヤーというのは、その大多数がシリアルキラーであるが、大抵は動機が存在する。

「頼まれて殺す『匂宮雑技団(におうのみやざつぎだん)』、主君の為に殺す『闇口衆(やみぐちしゅう)』、正義の為に殺す『薄野武隊(すすきのぶたい)』、全体の為に殺す『墓森司令塔(はかもりしれいとう)』、綺麗にする為に殺す『天吹正規庁(てんぶきせいきちょう)』、生きているべきではないから殺す『石凪調査室(いしなぎちょうさしつ)』」

 そして、理由なく殺すのが、零崎一賊だ。

「俺達に殺しの理由はない。いや、俺達にとっては、どんな原因でも殺害の理由になる。アイツが空を見上げたからでも、ソイツが椅子に座ったからでも、何をしても何をしなくても人間を殺したくなる」

 それが欲求じゃあないってところが問題でな、と討識は言う。

「選択型ノベルゲームみてえなもんかな。何時何処で何をしていても、『殺す』の選択肢が消えねえんだよ。どんな選択肢を選んでも、自然発生的に、脳裏に浮かぶんだ。対象を殺害するって発想がな」

 殺人行為が止められなくなる。

 無論、それは異常だ。通常ではない。しかし、零崎一賊の殺人鬼とは、殺人嗜好者の中でも一線を画する異常さなのだ。

 幻覚に踊らされているわけでも教義に殉じているわけでもない、快楽を享受しているわけでもなく、ましてや金銭を求めているわけでもない。台風や地震のような、避けられない現象のように、無感動に殺人を犯す。

 殺して、殺して、殺して、殺す。

 そんな存在は、人間ではない。

 故に、殺人鬼。

 人を殺す鬼。

「ふうん」

 先導する休は言った。

「それって、別に格好つけているわけじゃないのよね?」

「当たり前だっての。中二病じゃあねえんだから」

「中二病?」

「知らないなら気にしなくていい」

 確かに、設定と言われてもおかしくはないぐらいに、出来すぎな性質ではある。だが、事実なのだから仕方がないし、格好つけられるほど格好いい設定ではないのであった。

 中二病なのだったら、痛々しいだけである。いや、端から見れば、討識も十分痛々しいのかもしれないが。

「ーーそう。 けれど、格好つけているんじゃないのだとしたら、疑問が湧くわね」

「疑問?」

「見栄っ張りや自己陶酔でないのなら、尚更に」

 休が足を止めて、振り返る。大きな瞳は、今度こそ討識を捉えていた。

「理由も動機もない殺しなんて、有り得ないんだから」

 きっぱりと休は言った。

 確信を持った、断言だった。

「……そりゃあ『理由がないっていう理由がある』ってギャグか?」

「そんなわけないじゃない。 ーー例えば」

 具体例を上げる休。しかし、まだ討識と休は付き合いが浅い。明確に例示など、普通は出来ないはずだ。

 だから休は、浅い付き合いから例証する。

「例えば、私を殺していないこと。貴方が殺しを止められないというのなら、何故初対面のあの時、有無を言わさず、私を殺さなかったの?」

「そんなもんーー」

 と、反論を試みたが、言葉が繋がらない。

 休のことを気に入っているのは、自覚している。だが討識が示した定義に則るならば、気に入っているからこそ休は殺されねばならない。

「例えば、貴方の所属する零崎一賊のこと。殺人鬼同士のコミュニティとはいえ、所詮は他人で、お互いに殺人鬼同士。心行くまで殺し合うのが普通じゃないの?」

 流血と生血で繋がる一賊。

 血統と血脈で繋がる一族とは違い、『家族』という枠組みは、確かに、否定のしようもなく、赤の他人の集まりでしかない。であるならば、共食いのように殺し続けるはずで、結果として零崎一賊などという集団自体が、存在しえないはずだ。

 本来なら成立しないものが確立している。

「あんまり言いたくねえんだけどよ」

 小っ恥ずかしいからな、と討識は頭を掻く。

「確かに零崎一賊なんてのは、縁もゆかりもない奴等がつるんだ程度の、寄せ集めの集団さ。だが、そもそも殺人鬼ってえのは、世の中から弾かれて、はみ出して、外れて、はぐれた、最上級のクズだ。当然身の回りから理解はされねえし、共感もされねえし、同調もされない」

「つまりは、孤独ってこと?」

「……そんなところさ」

 目を背けて、木々の隙間に目を凝らす。しかし討識の視力では虚空を捉えるばかりで、はっきりとした何かを見ることはなかった。

「世界と無関係で世間と没交渉。殺害と生存を連続させるだけの毎日。そんな生活がどうしようもなく嫌で、救いようがなく嫌で、手の施しようがなく嫌で仕方がない。だから理解されて共感されて同調された奴等が出会った時、家族みてえにつるむのは、当たり前なんだよ。 一人はーー」

 良くないからな、と呟いた。

 孤独という単語に、思い出すのは二つ。

 両親の死と。

 頸織(くびおり)との出会い。

「ーーそう」

 休は言って、再び歩き出す。討識はそれに続いた。

「恋愛だとか友愛だとか、そういうものに近いのかしらね」

 それでも、と休は言う。

「疑問は消えないわね」

「何?」

「近しく親しく気さくな間柄の人間は殺さない、っていうのは、まあ、理解出来るわ。誰だって情のある人間は殺したくはない。でもそれってーー」

 休は、振り返らない。

 真っ直ぐに前を向き、討識に背を向けている。

 

「殺人鬼じゃなくて、人間みたいよ?」

 

「…………あ?」

 討識の全身が強張った。一瞬、動きが完全に止まった。

 動揺した。

「いえ、人間というより、一般人かしら。所謂『表の世界』の、一般人」

「どういう意味だ。そりゃあよ」

 意味が分からない。

 殺人鬼ではなく、一般人。鬼ではなく人。

 零崎一賊の殺人鬼である討識は、その言葉に反応する。

 反射的に、反応せざるをえない。

「どういう意味も何もないわ。 ただ、日常を喜んで敵対を怒って、死別を哀しんで喧騒を楽しんで、そうして誰かとつるんで感情を持って生きているーー弾かれて、はみ出して、外れて、はぐれていても、ましてや人殺しであろうとも、それは人間のあり方にしか、私には見えない」

 それだけのことよ、と休は歩き続ける。

 討識はその薄い背を見ながら、思い出していた。

 軋識(きししき)との会話。

 

『なあ、討識。お前ーー』

 

(零崎じゃあないんじゃないか、か)

 実際には言われていない。あの時、討識は軋識の電話を切った。だが、軋識が何を言うつもりだったのかは、なんとなく想像がつく。

(何を言ってんだ。俺は零崎だ。殺人鬼以外の何者でもねえだろ)

 自己肯定。しかし動揺は抑えられない。

 故に自問も抑え切れない。

 存在すらをも否定するやもしれない、その疑問を。

 

(だが、殺人鬼ではなかったのなら)

(だが、零崎でなかったあの時、俺はどんな人間だった?)

 

 人を殺していた。ひたすらに殺人行為を行っていた。

 故に殺人鬼だ。それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもそれ以内でもない。

 徹頭徹尾、人を殺すだけの、現象のような存在。

 そう、現象。災害の如き人災。

 殺人鬼とは、そういう事象だ。

 

 だが、と。

 しかし設問は止まらない。

 

(俺はあの時、何を考えて、何を感じて、人間を殺していた?)

 

『殺人は犯罪だ、場合によっては死刑にもなるよな』

 いつか誰かに言った、そんな言葉を思い出す。

『そんな凶悪な罪を犯したら、大抵の人間は罪悪感に苛まれる。一部の人間は、開き直って正統性を確立する。そして例外の人間は、何も感じない』

 一切、何も感じない。

 罪悪感は感じないし、開き直ることもない。

 無感動で無反応で無関心。

(そう)

(昔の俺はそうだった)

 ならば今の俺は、と自ら推問を重ねる。

 少なくとも無感情ではない。それは自分のことだからよく分かる。喜び、楽しみ、怒り、哀しみ、憐れみ、呆れることが、今の自分には出来る。

(つまりは)

(コイツが言いたいことは、そういうことか?)

 殺人鬼が徒党を組む。営みを育む。

 それは人間に近づくということではないのか。

 虚無から混沌へ、現象から人間へ。

 世界から逸脱した存在が、人間として回帰する場こそが、零崎一賊だと。

(確かに、そうかもしれない)

(零崎一賊を明文化すると、その言葉が分かりやすい)

 人間回帰。

 感覚復帰。

 零崎一賊の殺人鬼には、そういった言葉こそが相応しいのかもしれなかった。

 

 

 だとすると、と。

 討識は思う。

(じゃあ、俺はあの時、何を恐れたのか)

(あのビルの戦いで、俺は何を恐れたのか)

 

 

「ーーなあ、アンタ」

 顔を上げて、前を歩く休に呼びかけてみる。が、返答はなかった。

 というか、休がいなかった。

 周囲を見渡しても、木々が広がるばかりで、人っ子一人いやしない。

「…………けっ」

 マジか、と討識は呟いた。

 思考に集中するあまり、討識は置いてけぼりを食っていた。

 

 

 ◆    ◆

 

 1/fゆらぎというものがある。

 スペクトル密度が周波数fに反比例するゆらぎ(とある量の平均値からの変動量)のことを指し、日常、非日常を問わず様々な場面で観測することができる。

 生体リズムも基本的にはこの1/fゆらぎをしているとされており、生体リズムと同様のゆらぎを人間が感知することで、生体にリラクゼーション効果が与えられると言われている。

 1/fゆらぎをしている自然現象も多く、具体例としては小川のせせらぎ、木漏れ日、炎のゆらめきなどが有名だ。

 だが、今現在焚き火で炎のゆらめきを見ている討識は、そんなにリラックスしていなかった。

 石に腰かけながら、拳銃のシリンダーを頻りに弄っている。

 とにかく、落ち着いていない。

「けっ。 糞面倒臭え事態に陥っちまったもんだぜ」

 何か食べるかと思ったが、生憎手持ちの食料はカロリーメイトと飲料水だけである。休が救助にくるかも分からない以上、ぎりぎりのぎりぎりまで温存しておきたい。

 温存したところで意味はないのかもしれないが、とにかく、取っておくべきだと考える。

「どうしたもんかな……」

 いや、結論は既に出ているし、既に実行している。

 どうしようという方策はない。

 そして、どうするまでもなく待機する他ない。

 それが最善の行動だ。

「……ゆらぎ、か」

 1/fゆらぎのことは、討識も知っている。教えてくれたのが双識(そうしき)だという点が実に不愉快で、ああだから効果がないのかと身勝手に納得した。使えるものは犬の糞であろうとも使う主義である討識にとって、役立ちそうで役に立たないもの見つけた時ほど、腹立たしいものはない。

 騙された気分になる。

 詐欺師に陥れられたようだ。

「ーーーー」

 ふと思ったが、ゆらぎは戦闘に応用可能だろうか。1/fゆらぎにリラクゼーション効果があるのは学術的に証明されているが(現状では懐疑的だが)、リラックスするということは弛緩するということでもあり、緊張が緩むという意味でもある。

 つまりは、ゆらぎは相手の油断を誘える可能性がある。または相手の敵意を削ぐ手段になりうる。

 ここで思い至るのは零崎曲識(ぜろざきまがしき)の存在だ。音楽家であるあの男は、音を媒介に他人の肉体を支配する。当然、音楽の人体への影響力について、絶対の技術と知識を持っている。

 だが、曲識に師事してもらうのは嫌だった。

「となると音響兵器か……」

 アメリカを始めとする軍隊や警察が正式に採用している為、音響兵器そのものには実用性はある。しかし、現行の音響兵器は非殺傷による制圧を目的としているものが主であるため、討識が期待する効果は得られないかもしれない。また、大抵が大型で重量もあるため、基本的に携行しにくい。できればポケットサイズで持ち運びたいが、そんなものは市場にはまず存在しないだろう。

 そうなると、次に思いつくのは個人製作の品だ。

 自然に罪口商会(つみぐちしょうかい)が連想される。罪口商会の手腕ならば、携帯型音響兵器の製作は容易いだろう。代償に試作品の試運転をさせられるだろうが、その程度なら安いものだ。なんなら、この件が終わった後に、再び製作を依頼してもいいかもしれない。妙な武器を渡されるのも、また想像がし易いが。

「長巻、錘、チャクラム……いや、創作上の武器とか。村雨あたりは便利そうだけどな」

 漫画なら薄刃之太刀か鋼金暗器か豹頭の錫杖(パンサス・コルサ)か、と個人的に気になる武器に思いを馳せる。

 と、そこで疑問が一つ浮かんだ。

 妙といえば、この『獣包丁』がそうだ。生きた動物を斬る刃物とは、何とも奇怪な凶器を作るものだが、これを製作した意図が分からない。

 無論、何らかの切っ掛けがあったのだろうが、その切っ掛けが想像できない。まさか獲ったその場でジビエ料理が食べたいからなんて、そんな漫画に出てくる大食いキャラのような動機なわけもあるまい(あの痩せっぽっちの即詰(そくづみ)が、実は大食いだなんてことはないだろうし)。

 第三者に依頼されたから、と考えるのが自然か。武器製作を依頼された即詰が、まず試作品を造り、その試作品を討識に渡した。こう考えれば、話に無理がなくなる。

 だが、所詮は予想で空想で妄想だ。裏を取ったわけでもないので、考えたところで意味もない事柄である。

「…………」

 意味のない事柄ついでに思考を深掘りするならば、即詰が顧客を利用した、試用運転のネットワークを形成している可能性が高い。

 依頼により試作品を造り、別の依頼の代償に試用させ、その依頼により試作品を造り、これまた別の依頼の代償に試用させる。このループを連続させることで、武器の完成までの過程を省略できる。裏は勿論取れていないが、討識に試作品を手渡している時点で、証拠としては十分に足りる。

 それに多少なりとも計略が上手くなければ、奇人変人が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する中でも際立って際立つ際物を纏め上げる立場に立つには、とてもじゃないが不可能だ。ただの馬鹿では、傀儡でも上層には上がれない。

 ここまでくると即詰の商売の上手さを感じ取れる。少なくとも、武器に対する異常なまでの情熱や奇妙なまでの執着だけではなく、打算的な面も併せ持った少女であると、罪口即詰(つみぐちそくづみ)を評価できた。

「ーー思考が脱線しすぎだろう、俺」

 げんなりと討識は俯いた。しかし仕方のないことなのだ。何しろ暇なのだから。

 一体何時になったら休は自分のことを探し出すのだろう。自分勝手で自分本位だとは思うが、討識にとっては切実な願いだ。報酬の食料も提供したわけだし、仕事はきっちりと遂行してもらわなければ困る。まあ、遭難は討識の責任で、休に捜索の義務はないが。

 もう開き直ってカロリーメイトを食べてしまおうか、などといよいよ迷走しかけた時である。

 

 がさがさがさ。と、草むらが揺れる音がした。

 

「…………」

 討識は拳銃を胸元にしまい、代わりに黒い円筒を取り出す。続けて耳栓を嵌めて、立ち上がって草むらから距離を取った。

 草むらが揺れる。目測で十メートル前方。

「……こういうのも音響兵器って言うのかね」

 討識は円筒から安全ピンを引き抜いて、草むらに向けて放り投げた。そしてバックステップで再び距離を取り、素早く背を向けて屈む。耳栓の上から両手で耳を塞ぐのも忘れない。

 強く目を瞑った。

 瞬間。

 

 ボンッ!と爆発音が響き、同時に鋭く刺さるような閃光が襲った。

 

「■■■■■■■■■ーーーーーーッ!!」

 耳栓をしていても脳髄に響く、獣の叫喚。怒号にも似たその咆哮は、討識の予想を裏付けた。

 XM84。俗に言う閃光手榴弾は、強烈な爆発音と閃光を発して、効果範囲内にいる対象の視覚と聴覚を奪う。室内などの密閉された空間で使用されることが多く、室外でも相手の目の前に投げ込むことができれば、戦術としては効果的な、非致死性兵器である。

 そして、人間よりも視聴覚に優れる野生動物には、非常に有効と言える。

「五月蝿えんだよ、ケダモノ風情が」

 耳栓を外して、改めて拳銃を取り出す。

 鈍色のコルト・アナコンダ。44マグナム弾に対応している大型回転式拳銃の一つ。

 その銃口を揺れる草むらに向けて、討識は発砲する。ばぁん、ばぁんと、重い銃声と強い反動が、湿った空気を震わせた。

 それを六回連続。

 六発全弾を、草むらに対して撃ちまくる。

「さっさとくたばれ」

 拳銃でありながら狩猟をも可能とするコルト・アナコンダに、貫通力の高い弾頭を用いた44マグナム弾は、高威力に高威力を重ねた組み合わせだ。人間が被弾すれば重傷は免れないし、死亡する可能性も高い。

「■■■ッ、■■■■■!!」

 しかし、(つんざ)くように鳴くのを見るに、未だ生きているらしい。感覚では全弾命中しているのだが、やはり人間とは違って、野生動物はタフだということだろう。

 ならば話は単純にして明快。

 

「ーー銃弾を撃ち込まれても死なないならば」

 討識はシリンダーを振り出し、弾丸を込め始める。

「死ぬまで銃弾を撃ち込めばいい」

 

 暴力的な曲論だが、確実に芯を捉えた正論でもある。

 装填を終えた討識は、再度銃を構えて、引き金を引く。

 ばあん、ばあん、ばあんと、三発。

「…………」

 静かになった。

 ようやく死んだかと思った矢先、蠢くように草むらが動いた。それと同時に、三度銃撃する。

 ばあん、ばあん、ばあん。

 と、またも三発。

 

「さて」ここで討識はようやく、銃口を降ろした。「死んだかな」

 コルトを懐に仕舞い、地面に突き刺さった『獣包丁』を引き抜く。抜刀し、草むらを分け入っていくと、やや拓けた場所に、黄褐色の塊があった。

「……(ひぐま)か」

 

 羆。

 哺乳網食肉目クマ科クマ属の、陸棲哺乳類の最大種である。

 ユーラシア大陸や北アメリカ大陸に広く生息し、数種類の亜種も存在する。体長は二メートルから三メートル。体重は百キログラムから三百キログラム程度になり、最大重量は五百キログラムにも達する。

 食性は雑食だが肉食の傾向が強い。また、羆は学習能力が高く、特に人間を襲い、その味を学習した羆は、欲求的に人間を襲う傾向がある。捕獲した獲物に対する強い執着性もあり、羆に奪われた食料などを取り返そうとして発生した獣害事件も存在するため、野性動物の中でも指折りの危険生物である。

 

 閃光手榴弾を始めとした対抗策は羆を直接想定したものではなかったが、その効果は覿面だったらしく、羆は俯せに倒れたまま動かない。野性動物特有の獣臭と共に血液の臭いがすることから、致命傷を与えることができたようである。

 討識は羆に刃を向けながら、羆の周囲をゆっくり歩く。

「……コイツ、まだ死んでねえのか」

 生きている。僅かにだが、毛むくじゃらの背中が上下していた。

「予想以上の生命力だな。流石は野生の動物ってえところか」

 計り知れない生命の強さに感嘆としながら、討識は考える。

 果たして、どのように止めを刺そうか。

(もう数発弾丸をぶち込むか、放っておいて死ぬのを待つか)

(最も確実なのは、手榴弾での爆殺だが)

 『寸鉄殺人(ペリルポイント)』よろしく、遠距離から爆弾を投げ入れる。まず間違いなく対象は死亡するだろうが、周囲の被害が甚大なものになる。最悪、山火事になりかねないので、今回は却下だ。休とは義理も人情も感じないぐらいに薄っぺらい縁でしかないが、流石にそこまでの責任は負えない。

「まあーー結論は既に決まっているんだけどな」

 そう、深く考える必要はない。

 手にしている『獣包丁』で、この羆の命を絶てばよいだけのこと。

 そもそも当初の予定では、休に動物を発見させ、瀕死になる程度に狙撃してもらってから、『獣包丁』を振るうつもりだったのだ。段取りが多少変わっただけであり、目的は依然変わりない。

 目的の割には重武装な気がするが、討識にとって山中とは暗黒大陸にも等しい。何が起こるか分からない場所に踏み込むにも関わらず、小銃も持ち出していないので、今回の討識はむしろ軽装なのかもしれなかった。

「よし。それじゃあ、いくとするか」

 刃を振り上げる。狙いは首だ。強靭でいて柔らかい体毛に邪魔をされないよう、毛並みに沿って切断する。

 討識は軽く息を吸った。

「ーーっぅらぁ!」

 

 ザンッ、と肉を斬り裂いて、羆の首が地面を跳ねる。

 さながら壊れた蛇口のように、真っ赤な鮮血が吹き出す。

 

 なんてことが起こらなかった。

 

 

 

 ()()()、と刃が皮に弾かれた。

 

 

「ーー」

 太鼓を枹で叩いたような弾性が腕に走り、討識は困惑する。

 そして『何かを間違えた』という感覚が駆け巡る。

 しかし『何かを間違えた』という思考には至らない。

 油断した。

 隙を見せた。

 間隙を突かれた。

「ーーあ」

 

 困惑した瞬間には羆の掌が討識の顔面に迫っていた。

 避けようもないぐらいに速く、そして近い。

 

(死ーー)

 思考できたのは精々がその程度で、とても回避など不可能だった。死にかけの羆が跳ね起きるとは思っていなかったし、ましてや攻撃してくるとも考えていなかったし、さらに言えばその攻撃がここまで速いとは知らなかった。

 瀕死の野獣を嘗めていた。

(ーーーー)

 

 

 

『あは』

 

 討識の右頬が裂けようかという刹那。

 声が聞こえた。

 

『あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!』

 

 否。声が聞こえた気がした。

 走馬灯のようにフラッシュバックする、声と音と色。

 それは女性の楽しそうな嬌声と。

 それを掻き消さんとする雨音と。

 それだけで死を意味する赤色と。

 

 それらに恐怖を感じている、幼い日の自分ーー

 

 

 

 

 ばちん。

 肉が飛び散って、

 

 次いで、羆が横向きに倒れた。

 

 

 

「……危ないところだったわね」

 一瞬を悠久にも感じていた討識は、ここで我に返った。

 夢辻道休が。

 小銃を両手で携えて、草を掻き分けて現れた。

「何があったのかは、いまいちよく分からないけれど。でも、あんな風にぼうっとしていたら、貴方死んじゃうわよ」

 見ると、倒れた羆の掌と側頭部は破壊されている。銃弾が通過したような損傷の仕方をしているので、休が放ったもので間違いないだろう。

「……悪い。助かった」

「どういたしまして」

 休は小銃を下げてから言った。

「これで仕切り直しね。仕方がない状況だったとはいえ、殺してしまったわけだし」

 確かに当初の予定とは違ってしまっている。獲物を休に見つけさせるつもりが自分で遭遇してしまったし、その獲物を仕留め損なった上に殺されかけるなんて失態すら演じてしまった。

 悔しくて、情けなくもあった。

「……俺のせいで、大分時間を使っちまったな。 次に行こうぜ」

「いえ」催促する討識を、休は抑えた。「もう少しで日が落ちるから、今日は帰った方がいいわ。 標高が高い場所は、日暮れが早いから」

 休は断定したが、まだ明るいように見える。しかし、ついさっき素人の浅知恵で痛い目を見そうになったことだし、大人しく従うのが吉だろう。

 もう今日は何もできそうになかった。肉体的にではなく、精神的に疲れた。

 倦怠感が津波のように襲う。それが何に起因するのかは明白だった。

「……そうか。それじゃあ、戻るか」

「ええ。帰りましょう」

 今度ははぐれないようにね、などとからかいながら、休は先行する。

 討識はその薄い背中を、何も言えずに、ただ付いて行くしかなかった。

 

 

 ◆    ◆

 

 まだ数日しか経っていないのだが、以前よりも外観が古びている気がする。少なくとも数日前は窓ガラスは割れていなかったし、それがビニールで補修されてもいなかった。

 罪口即詰と初めて接触した喫茶店である。前回と同じように店の奥へと促され、飲みもしないコーヒーを注文してから席に向かう。すると同じ席に同じ格好をした即詰が、既に座ってコーヒーを飲んでいた。

 黒いセーラー服に黒いサングラス、黒い唇に黒い手袋と、全く変わらない姿の即詰は、討識が座ってから、口を切った。

「久方ぶりです、零崎討識さん」

「ああ、数日ぶりだな」

 がんっ、と討識はケースとバッグを乱暴に置いた。

「やってくれたな。罪口即詰」

「? やってくれたのは、あなたでしょう。私が造った武器と引き換えに、あなたは代償を果たしてくださいました」

「そうじゃあねえ。こんな奇っ怪なもん寄越すとは思わなかったって意味だ」

 討識はケースを指差して言う。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こんなもん、何処のどいつが使うってんだ?」

「何処かの誰かが使うのですよ。私達『武器職人』は需要に応えているにすぎません。例え斬れない刃であろうとも、要望があれば造ります。それを何処の誰が何時どのように使おうが、私達には、全く興味がありません」

 まあ需要がなくても造りますが、と即詰は微笑む。そのままケースを開けて中身を確認し、続けてバッグを開けた。

「おや、これはこれは。随分と分かりやすくして頂いたようですね」

 バッグに入っていたのは、大型の容器に入り、ホルマリンに漬けられた鹿の生首だった。角も根元から刈り取られていて、透明な水溶液の底に沈んでいる。

 結局、休に救助された討識は、あの後、休の自宅に一泊し(客間など無いので隣り合わせに寝たが、不思議なぐらい何も起こらなかったし感じなかった)、翌朝に獲物を発見、見事に仕留めて解体した。

 当初の予定通りに、休に獲物を弱らせてもらい、死なないまでも動けなくする。腹でも首筋でもなく、膝を正確に撃ち抜いた休の技術に驚嘆し、いざ首を落とそうとした時に、討識は気付いた。

 この武器の特性と、己の失敗に。

「牡鹿ですか」

「牝鹿の方がよかったか?」

「何でも構いませんよ、動物でしたら。それを斬るための包丁ですから」

 動物を斬るための武器。山中の獣を解体するための刃物。それが『獣包丁』のコンセプトだ。

 あくまでも人間ではなく動物を斬るための武器であり、殺すのではなく解体することを目的とした刃物である。

 ならば当然の帰結として、()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()し、ましてや()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。刃を肉に当て、刃元から刃先まで引くようにゆっくりと斬り落とさなければ、そもそも刃が通らないのである。

「……確かにアンタは、『包丁』とか『刃物』とか言ってはいても、『武器』とは一言も言ってねえ。言ってねえが、事前に説明ぐれえあってもいいんじゃあねえのか」

「何分、零崎さんが自信満々に了承されたので、全て理解したものだと誤解してしまいまして。私も説明が足りない部分はありましたので、あなただけに落ち度があるとは言いませんが、自分には非がないかのような口振りは心外ですよ」

 それを突かれると、ぐうの音も出ない。早合点して確認を怠ったのは事実だ。

 否定のしようもない恥を上塗りする前に、話題を変えてしまうに限る。

「……まあ、いいさ。どうでもな。 で、アンタはさっきから生首と包丁しか見てねえけど、それで本当に俺が代償を果たしたのか、分かるもんなのか?この話を受けた時から疑問だったんだが」

「当然、分かります。刃と切断面の照合ぐらい肉眼でできなければ、『罪口』ではありませんよーー師匠は六つの頃にはできたそうですけど、私は十四歳でようやく見極められるようになりました」

 かかり過ぎだと叱られたものです、と言う即詰。それに対して討識は質問をした。

「なあアンタ。年幾つだ?」

「今年の頭に十九歳になりましたが」

「思ったよりは年いってるんだな」女性に対して暴言を吐いた。「『(まじな)()』でそれだけ生きてるんだから、色々あっただろうけどよ。アンタ、これまでいったい何人殺した?」

 少し前に同じ質問をしたような気がする。はて誰にしたのだろうかと思ったが、覚えていないならば言っていないのと同じことだ。

「そうですね。人並み程度には」

「パソコンのスキルみてえな表現の仕方をすんなよ」

「今時、人間の一人や二人、無意識に死に追いやっていてもおかしくはないでしょう。意識していなくとも、人は人を陥れる行動を取っているものです。自覚がないならば自殺と扱いますか?直接的でも間接的でも、殺人は殺人ですよ」

「そりゃあ違えねえ。じゃあ、一番最初に殺した奴って、誰だか覚えてるか?これまでの人生で、一等初めに、自らの手で殺した人間のことを、記憶してるか?」

 即詰は、サングラス越しでも明らかなぐらいに、眉根を寄せた。

「不思議な質問をしますね。ロマンチズムかセンチメンタリズムか、どちらにしろ、伝え聞くような『零崎一賊』らしくない言動です」

「らしくねえのは承知してるさ。で、どうなんだ?」

「勿論、記憶しています。『殺人鬼』のことは分かりませんが、『武器職人』ならば、記憶していて当たり前です」即詰はコーヒーを飲む。「正確には、記憶と言うよりも、記録ですが」

「記録?」

「製作した武器のデータですよ。大抵のことは記憶していますが、やはり文字に起こすと理解が違いますからね」

 ホルマリンの容器を置いて、再びコーヒーを一口飲む。そして即詰はケースに納められた『獣包丁』を取り出して言った。

「武器、凶器、兵器ーーいずれにしろ、基本的には対人間を想定していますので、人間に使用した際の詳細なデータは必須です。よって、一番最初に殺した人間のことも、記録して保管しています」

「野暮かもしれねえけど、殺した時どう思った?」

「嬉しさ半分悔しさ半分、と言ったところでしょうか。初めて自分の発想が形になったと同時に、それが明らかな欠陥品だと分かったので。ーーそれで、これらの質問をする意味があるのですか?意志があっても意図はない問いかけに感じるのですが」

 即詰は刃を検分しながら言う。

「あぁ……まあ、よ」討識は頭を掻いて答えた。「恥ずかしい話、今回の一件で、俺は死にかけた。だからってえ訳じゃあねえが、ちょっと思うところができてな」

 死にかけたことそのものに関しては、特に感じることはない。万事休すに崖っぷちの剣ヶ峰で絶体絶命という状況には幾度となく遭遇してきたものだし、先日の件では反省することはあれど、気に病むことはなかった。

 気になるのは、あの時の『走馬灯』である。

 討識が初めて殺した人間は実父だが、あれはその時の記憶ではない。全く別の光景で、しかも今の今まで忘れていた光景だった。

 問題は光景ではなく、感じていた『恐怖』である。

 

(あんなにも強い感情が伴った記憶を忘れていた?)

(零崎討識に限って、そんなことはありえない)

 

 それは自分のことだからよく分かる。

 則ち、あれは忘れていたのではなく、思い出さないようにしていた記憶なのだ。

 決して思い出さないように、想い起こさないように、秘匿して封印してきた記憶。

 

(それが殺されかけた瞬間に溢れ出た)

(つまりーー)

 

「ーーつまり、殺しに負い目や引け目を感じているということですか?」

「いや、それはねえけど」

 討識は即座に否定した。今更になって殺人行為に疑問を持つことはない。

 だから、思い出せないことが気になるのだろう。

 それが何かは、まだ分からないのだが。

「……だからこそ、この()を預けるに値するのかもしれませんね」

「ああ?」

「武器の話ですよ」

 即詰は『獣包丁』をケースにしまい、テーブルの脇に置いた。

「あなたは提示した代償を、確かに果たしてくださいました。よって契約に従い、この型番号E458823F0016C『小説姫(しょうせつひめ)』はお譲り致します」

「……『小説姫』ってえのは、その刀の名前か?」

「ええ。『活殺自在(ホーリィリバティ)』というのも考えたのですが、やはりこちらの方が良いかと思いまして」

「いや、そっちじゃあなくて。 何だ?その名前」

 変な名前、というか妙な名前だ。愛着があるというのは伝わるが、それだけに理解できない名付けである。

「自分が創作したものに名前を付けるのは、至極当然では」

「当然なんだろうけどよーーああ、もう……」

 これ以上話を拗らせる必要はない。討識は代償を果たして、代わりに即詰は武器を譲渡するのは決定しているのだし、どうせ筋違いの文言による擦れ違いの会話になるだけなのだから。

 だが、これだけは聞いておきたい。

「……なんで、そんな名前を付けたんだ? 正直、全く理解できねえんだが」

「…………」

 即詰はコーヒーを飲み干して、そして口を開いた。

「零崎さんは『物語』と『小説』の違いをご存知ですか?」

「いや……」

「近代文学の観点では、主人公の性格と話の展開に関係があるものが『小説』で、そうでないものが『物語』となります。より詳しく言うならば、『話の展開が内容から因果的に連続するもの』が『小説』、『偶然の積み重なりで展開していくもの』が『物語』になり、両者は本来、似て非なる別の単語になります。まあ、あえてそうした定義を無視した小説も多々存在しますが、それでも『小説』的手法に則った作品が主流であり、好まれます。純文学でもSFでも、ギャグでも恋愛でもスポ根でも、理路整然とした構成は、ストーリーに写実性や説得力を与えますから」

 即詰の視線は真っ直ぐに討識を向いていた。いや、サングラスをかけているから、目線が何処をに向いているのかは分からないが。

「また、小説における主人公とは、大抵の場合が、何かしらの問題を内包しています。 犍陀多(カンダタ)は浅ましい強欲と独占欲により慈悲を手放し、李徴(りちょう)は自らの自尊心と羞恥心から没落していき、ジョバンニは不遇な環境と不運な生活により心身が疲弊し、坊っちゃんは生来の無鉄砲さと真正直さで得を得られない。 ーーその方が作者が話を書きやすいから、という見方も出来ますが、全能よりも無能の方が、魅力的にキャラクターを映すことは否めないでしょう」

「……で、その話が、一体何の関係があるんだ?」

 煙に巻こうとしてないか、と討識が言う前に、即詰は言った。

「あなたそのものではないですか」

「あ?」

「過去に囚われ、現在に悩み、未来に危惧を抱く。運命に反逆していながらもこれを享受し、必然を否定しつつもそれを求める。何より、細やかな淀みが心を侵し、闇の中で暗い影を落としている。そんなあなたは、小説の主人公そのものではないですか? 『物語』的な偶然に甘受せず、常に理論と経験で理想と結果を得ようとするあなたは、異常でありながら正常である、人間そのものではないですか?」

 言っていることは休の言動に近いが、そのニュアンスは違う。

 休はただ意見を述べただけだ。心情に踏み入ってはいない。しかし、即詰は深層に触れようとしている。

 討識が避けていた、討識の本質に。

 

「さながら、先生や大庭葉蔵(おおばようぞう)のように、心の奥底の陰りをひた隠しにーー」

 刹那。

 即詰のサングラスが、斬られて落ちた。

 

「……()()()()()()()()()()()()

 討識の右手にはダガーナイフが握られていて。

 鈍色の刃先が、即詰の右眼に突きつけられていた。

()()()()()()()()()()()()()

 灰色の瞳には、怒気と焦燥が入り混じる。

 触れられたくないものを、必死に隠し通すように。

「ーー何も知りはしませんよ」即詰はサングラスの残骸を拾い上げ、懐に仕舞う。「何も、何一つ、知りはしません。 ただ、だからこそ、この武器は貴方に相応しいと、そう言いたいのですよ」

 即詰の瞳は、想像通りに黒い。目元には幾つか細かい傷があるが、意外にも、義眼ではないようである。

「以前も申し上げましたが、私が造った武器は、あなたと生涯を通じて添い遂げられるように、依頼主であるあなたの体格と要求に沿って造られています。つまり、この刀はあなたの親友であり同胞であり共犯者であり、そして恋人であり母親であり娘と言って相違ありません」

「だから何だ」

 やはり下らない。もう殺してしまうか。

 切っ先を眼窩から大脳まで押し込もうとする前に、即詰は言う。

「言うなれば、この刀は、あなたにとっての相棒(ヒロイン)ということです」

「は?」

 そう言った罪口即詰は、微笑んでいた。

 サングラスを掛けていない即詰は、特別美人というわけではなかった。真っ白な肌に、真っ黒な髪と瞳と唇が浮かんだ、ただ奇異な存在だった。

 美しくはないし、愛らしくもなかった。

 しかし、その微笑みには見覚えがあった。何時か何処かで誰かがしていた、そんな気がする。

 ずっと昔に、誰かが。

「闇に囲われ闇を抱えたあなたには、独りで立って歩ける強さがあるでしょう。しかし、それは同時に、弱さでもあります」

 討識は即詰から眼を離せず、言葉を放つこともできない。

 ダガーも突きつけたままだ。

「眼に映らないものを信じ受け入れる強さと、眼に映るものを疑い退ける弱さ。この刀はその二つを取り持ち、あなたを支え、護り、導くことでしょう。 私はそうなるように造り、そして名付けたのです。生殺与奪を自由に決める鬼の連れ添い、『小説姫』と」

 相棒(パートナー)であり、相棒(バディ)であり、相棒(ヒロイン)

 即詰が言う。

「艱難辛苦に溢れた人生という旅路を支える道連れは、やはり異性であるべきなのですよ」

 

 

 

 ◆    ◆

 

 殺さなかった。結局、殺すことはなかった。

 討識は自宅に戻り、鞘と柄に納めた『小説姫』を眺めていた。朱色の鞘、紺色の柄、葵形の鍔と、付属していた拵を刀身に取り付けて、一息吐いたところだった。

「折れず、曲がらずーー」鞘から刀身を半分まで抜く。「欠けずに割れず、軽くて重く、短く長いーー」

 そしてよく斬れる。

 美しい波紋を鞘に仕舞い、カラーボックスの上の刀掛けに置く。

「……刃物の理想形だな、これは」

 私室を出てリビングに戻ると、頸織がソファに寝そべりながら携帯ゲームを弄っていた。がちゃがちゃとボタンを操作しながら、時折タッチペンで画面を叩いている。

「何やってんだ、姉貴」

 買い与えた覚えはないし、頸織が元々持っていたものでもなさそうだが。

「ん? さっき殺してきた奴が持ってたのを貰ってきたんだよ」

「…………」

 盗品だった。

 強盗殺人罪である。

「アンタ、イイコトをしろって言ってた割に、自分には相当甘いよな」

「いやあ」

「何照れてんだ」

 頸織は身体を起こし、討識はその隣に座った。

「討識、一緒にしよーよ。私のバンギラスと対戦しよーぜ」

「持ってねえよそんなゲーム。 それに、そのバンギラスは姉貴のじゃあねえだろう」

 殺した人間のROMを、そのままプレイしているらしい。窃盗はおろか、ストーリーも育成も、どうでもいいようだった。

「ところで、おニューの刀を手に入れたみたいだね。 どうなの、使い心地は」

「いや、まだ使ってねえ。近い内に試運転に行くつもりだが」

 一般人を相手にするのが後腐れがないのだが、そこら辺にいる有象無象を殺しても面白くないし、かといってプロのプレイヤーではリスクが高い。

 一般の古武術家あたりが良いかもしれない、などと算段を立てていると、頸織はゲーム画面から眼を逸らさずに言った。

「……討識、なんか難しい顔してる」

「はあ? 何だ突然」

「よく分からないけど、そう見えたよ。 いい刀を手に入れたから、気分がいいと思ったんだけど」

 そういう表情をしていた覚えはないが、そう見えたということはそうなのかもしれない。難しい顔になるようなことが、ここ最近あったわけだし、表情に出ていてもおかしくはない。

「お姉ちゃんに相談してもいいんだよ?」

「それだけは天地がひっくり返ってもありえない」

 どうなろうともこの姉に相談を持ちかけることはない。絶対にろくなことにならないというのが、一賊内での共通認識である。

 相談ならば軋識が適任か。他にはーー。

「ーーーー」

 

『理由も動機もない殺しなんて、有り得ないんだから』

 

 休の言葉が、ふと思い出された。先日のあれは相談ではなかったが、貴重な機会ではあった。面と向かって零崎一賊に否定の言葉を言える人間はそういないのだ。

 それも妙に説得力のある発言だった。装飾で飾らないストレートな言葉。

(まあ、まともな話し相手ぐらいにはなるか)

 少なくとも殺害の対象からは外れた。そんな気がする。『そんな気』がしているということは、あの時の休の言葉は、あながち外れてはいないのだろうと、討識は思った。

 殺人鬼が殺さない相手なんて、身内ぐらいのものだ。

「…………」

 それでも、あの笑い声の記憶まで、晒け出すつもりはないが。

「少し気が晴れた?」

「ああ?」

「ちょっと表情が良くなったよ」

 ま、いいけどね。

 などと何の悩みもなさそうな気楽な口調で、頸織は笑う。

 心なしか、先程の即詰の微笑みに、近いものを感じた。

「討識、お姉ちゃんお腹すいた。ベトベトン見てたら、とろろご飯食べたくなったから、夕飯はそれにして」

「どんな神経してんだアンタ」

 山芋も長芋も冷蔵庫には無いので、頸織に買いに行かせようとしたが、止めた。どうせ面倒なことになる。まだ盗品のゲームをさせていた方が、余計に世話をしないで済むだろう。

「…………けっ」

 仕方がないので、討識は外出する準備を始めたのだった。

 

 ◆    ◆

 

 斯くして討識は武器を手に入れることが出来たが、代わりに様々な代償を払うことになったのだった。それは罪口即詰との取引によるものだけでなく、夢辻道休との対話によるものも大きく、また、それが零崎討識という殺人鬼の生き方に、新たなレールを敷いたのも事実なのだった。

 例え殺人鬼の生き様が崖を転がり落ちるようなものでも。

 ただひたすら一直線に下り落ちることはありえない。

 頸織の存在、即詰の微笑、休の言動。

 これらが討識にどのような影響を与え、どのように発露するのか。

 それを討識自身が自覚するのは、少し先の話である。

 

 






以上で第三話後編は終了となります。次回更新は申し訳ないですが、毎度のように未定です。
一応、次回は人識&伊織が登場予定です。
誤字脱字報告、感想も受け付けてますので、今後ともよろしくお願いします。

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