「大学には行かない」
デザートのマンゴープリンを食べながら、討識は言った。
あの後、すぐに学校を離れ、二人は焼肉店に入り、各々自由に肉を焼いた。
一人一人席を離し、別々の金網と七輪と炭を使ったという訳ではなく、一つの個室に向かい合って座り、一枚の網をきっちり半分に分けて使っていた。
きっちり半分という所に壁を感じるだろうが、双識との関係はそれぐらいに離れ、別れ、隔たれていた方が良い。そうでありたいと、討識は思う。
討識にとって双識は一賊の長兄、つまりは目上であり、それなりに尊ぶべき対象だと理解はしている。しかし、事ある毎にオーバーなリアクションをし、奇人変人の一賊の中でも群を抜いての変態と友好関係を築くのは、やはり嫌だった。人識が放浪を始めたのは、双識から逃げるという理由もあったのかもしれない。そう、討識は考えている。
「行かないって事は、フリーターかい? 君がアルバイトしてる姿は想像し難いのだけれど」
「殺すぞ」
灰色の三白眼が鋭くなる。
並みの人間なら射竦めるであろう迫力があったが、そこは百戦錬磨の零崎双識、意に介さずマンゴープリンを口に運ぶ。
まあ、アルバイトなどしていないのだが。
「俺名義の土地とか、預金とか、色々。そこら辺の同年代の奴らよりかは、資産は多いつもりだぜ。税金のやりくり大変だけど」
「ふうん。当面の生活には支障はないという事か。私としては、討識くんには大学に進学してもらいたかったのだけれど。ま、人識の様には言うつもりはないさ。自由にやりたまえ」
「意外だな。五月蠅いぐらいに知った風な忠告をぬかすと思ってた」
「君は家族になった時点で自活していたし、一般常識を心得ていた上に順応力もあったからね。一賊の総意で、基本的には自由にさせていたのだよ。ふふ、高校に通う事には反対していたのもいたがね」
それは、以前から予想が出来ていた。
「けっ。どうせ
「ああ。彼らを、私と、
「そうなのか?」
予想外。
姉である頸織は、ちゃらんぽらんというか、思考も行動もどうしようもないぐらいにどうかしてしまっている。少なくとも、弟として身近にいた討識は、そう評価している。
あの女が、特に軋識を説得するなんて、ありえない。
「嘘だろ?」
「嘘じゃない。あの子も、君の事は心配しているんだよ。人識とは違う意味でぷらぷらしてる、背中に羽が生えた様なあの子でも、弟の将来ぐらい考えるさ」
マンゴープリンを平らげ、スプーンをそっと置いた双識は、口元をナプキンで拭いながら、真っ直ぐに討識を見据える。
「私が『普通』が好きな様に、頸織ちゃんは君の事が好きなのさ。姉として、親として、家族としてもそうだが、彼女は君に憧憬を抱いている」
「憧憬? あいつが俺の何に憧れてるんだよ?」
「彼女に足りないもの、彼女が持っていないもの、だよ。人間は自分に無いものを、他人が持っているのを見た時、その人物に嫌悪感を示し、嫉妬する傾向がある。しかし、逆に好感を覚え、好意を寄せることもある。頸織ちゃんは後者のパターンだ。彼女は一賊でも社交性が無い方だし、また常識人でもない。殺人の技術が特徴的ではあるけど、この世界じゃあ特異でもないし、それ以外の特技といっても、特別秀でているものは無い。その点、討識君には社交力や常識があるし、他人に誇れないまでも他人には出来ない特技もあるだろう? それらに憧れているのだよ。
「アイドルって……俺だってそういう意味じゃ大衆だってえの」
デザートを食べ終え、茶化す様に言った。しかし、一賊の長兄としての分析力は馬鹿には出来ないのも、事実である。
「特技っつっても、俺が出来るのも簡単なコインロールだし、それも訓練の結果だからな。大した事じゃあない」
「その大した事じゃない事が出来ないから、悩むんだけどね。鬼だろうと人間だろうと、それは同じ事だよ」
そして、双識は言った。
「君のその
「はあ? いきなり何を言ってる」
「深くは聞かないし、言わない。だが、一賊の長兄として、親戚のお兄さんとして。僅かばかりに忠告はさせてもらうよ。そのスタイルは戦闘には有効だが、まず間違いなく殺人鬼としては有害だ。特に日常生活に弊害を及ぼしているのなら、少しずつ改善を始める事を勧めるよ。私達にとって戦闘は日常だが、日常は戦闘ではない。常在戦場の精神を持つのは良いが、それによって生活を脅かされるなど、本末顛倒もいい所だ。大事なのは、私達が安穏と殺人鬼として生活し、殺人鬼として活動する事なのだからね」
「……分かってんよ」
「よろしい。では改めて――高校卒業おめでとう、討識くん。卒業式に参列出来なかったのは申し訳ないが、この零崎双識が、一賊の代表として、祝福しよう」
あっさりと話題が切り替わった。
双識としても、長く話をするつもりはない様だ。
親戚故にこれ以上は憚られたのか、それとも討識の
無論、答えは
「そりゃどうも。祝福してんのは極々一部だけど」
「それでも、誰からも祝われないよりは良いだろう。ところで、高校生活というのは、どんな感じなんだい?」
「ん? いや、別に」
「別に? よく分からないな、詳しく話してくれるかい?」
「何でだよ」
おかしい。切り替わった先に、何故か双識が食い付いている。
「……何が狙いだ。まさか、アンタがその変態性を発揮して目を付けた女子生徒と、仲良くなろうってんじゃあねえだろうな」
「惜しいね。いい線をいった推理だが、外れだ」
そして私は変態ではないよ、と誰の目にも明らかな大嘘を吐かすと、双識は長い脚を組み、これまた長い腕を大きく広げて言った。
「実は、私はあの学校に入学しようと思っているのさ!」
「……はぁ!?」
予想の斜め上をいっていた。
双識のストライクゾーンど真ん中の女子(双識の守備範囲では、どこがストライクで、どこがボールなのか、判然としないが)を攫って、仲良くよろしくヤってしまおうという、殺人鬼から強姦魔への最悪な転身が討識の予想であったが、現実は遥かに上だった。
いや、社会的には実害はないのだから、予想よりは下と言えるのかもしれない――やっぱり駄目だ。放っておいたら、予想よりも酷い事になりそうな気がする。
というか、双識が後輩になるなんて、生理的に嫌だ。
色んな意味で、背筋が怖気立つ。
「アンタ、それは……何でだよ。嫌がらせか? 嫌がらせだな? むしろ嫌がらせじゃないなら何だ? なんであの学校に入学しようとしてんだ? 意味が分からねえ、ぶっ殺されたいのかそうか死ね死んでくれ」
「ま、ま、ま、落ち着いて」背中から刀を抜こうとするのを、双識は諌めた。「殺すだの死ねだの、殺人鬼とはいえ、軽々に口にするものではない。むしろ殺人鬼だからこそ、口にするのは憚るべきだ」
「説教はいいんだよ。理由を言え、今すぐに」
人を殺しかねない鬼気を、その三白眼から発する討識。対して双識は「何をそんなに怒っているんだい?」とでも言いたげな、不思議そうな表情を浮かべていた。それが余計に怒りを掻き立てたのか、左右の手の平をテーブルを壊さんばかりに叩きつけた。
「さもなきゃ、アンタの背肉で焼肉してやるからな」
「何だかよく分からないけれど、私は勉学に励みたくなったから、高校に入学したいだけだよ? 確かに、年上の親戚が母校に後輩として入学するというのは、当事者として気恥ずかしいだろうが、しかし」
「しかしもクソもあるか! ……何が勉学に励みたいだ。アンタの目的は、女子校生とイチャコラする事だけだろうが」
ぐいっ、と討識はコップに満ちたお茶を飲み干す。
幾分、冷静さを取り戻したのか、台詞の後半は落ち着いていた。
それでも大分、怒気と殺気を残していたが。
「イチャコラだなんて、そんなの……出来たらいいな、とは、思うけど」
「ほら見ろ。変態だ」
「あまり騒がないでくれ、討識くん。外に聞こえる。それに私の前で
「十二分に素直な本音だよ、何勘違いしてんだ変態が。それにアンタには、確か女子中学生のメル友がいるんじゃあなかったか? 確か、
「ああ、その通り。その通りだ討識君。名前は
「聞いてねえよ」
「
見てくれたまえ、と別に頼んでもいないのに、携帯を討識に押し付ける。仕方なしに画面を見ると『もう夜も遅いので寝ますねお兄ちゃんおやすみなさい』という、たったそれだけの短文が写っていた。
気づいたが、この文章、句読点が無い。見ると、受信した時刻は、深夜三時を回った頃の様だ。これだけ遅ければ、中学生なら眠くても仕方がない。恐らく、メールのやり取りの止め時を見つけられなかったから、無理矢理に会話を打ち切ったのだろう。討識には、この文章が、疲労感と煩わしさが全面的に前面に押し出された投げやりな短文にしか、見えなかった。
「……年頃の娘を、遅くまで起こさせてんじゃあねえよ」
「確かに私もそれが心配なのだけれどね。だが楽しいお話は、時間を忘れさせるものだ。楽しいから続けたいし、惜しいから引き留めたい――ほら。このメールからも子荻ちゃんの、まだまだ私と会話をしていたかったという名残惜しさが、心の奥底から伝わってくるだろう?」
「どこがだよ……うわ」携帯を操作して、一つ前に双識が送ったメールが開く。「長……気持ち悪っ」
文字制限ぴったりに打ち込まれた、改行の無い読み辛い長文が、そこにはあった。
「気持ち悪っ」
「二回も言う事かい? まあ、多少、長い文章になってしまったとは思うが」
「二回じゃあ足りねえよ、何度でも言うわ気持ち悪い。……おい。もしかして、その子荻ちゃんとやらに送るメールは、いつもこんな長文なのか? そうだとしたら変態なんてレベルじゃあ済まねえ変質者だぞ」
「失礼な事を言うな、討識君は。 私の様な紳士を掴まえて、変態だの変質者だのと。 しかしね――」
しかし。その後は続かなかった。
別に双識や討識に、何かがあったわけではない。そういう事ではなく、外囲的な事が原因だった。
つまり。
闖入者だ。
「もういい」
低い声がした。
次いで扉が開く。
「殺人鬼同士の歓談なぞ、これ以上聞くに堪えん。悍ましい」
壮年の男だった。白髪混じりの長い髪を髷にし、厳しい顔付きをした男。四、五十代に見えるが、双識に引けを取らない長身。また、双識には及ばないが腕も長く、そんな大柄な身体を黒い道着に包んでいる。
そして、決定的なのは左手に持っている細長い包みである。先が紐で結ばれた白い布袋が何であるのか、わからない討識と双識では、勿論ない。
日本刀。さらに、その丈は。
「……ほう」双識は組んでいた脚を降ろし、言った。「家族水入らずの時間を邪魔するとは。なんともまあ、無粋だね」
「何が『家族』か。血の繋がりも無い者めらが、馬鹿馬鹿しい」
心底不愉快だという態度を隠そうともせずに、男は二人を睨む。同時に感じる殺気は、プロのプレイヤーに相当する。
問題は、武器を持ったプレイヤーが、殺気を、零崎一賊の殺人鬼に向けている事だ。
「こんな変態が家族ってえのは気にくわねえが」討識が立ち上がる。「それでも会話を邪魔されるのは不愉快だ。それも俺か、双識さんに、ぶっ殺されに来たとなっちゃあな」
「殺されに来たのではない。儂は、殺しに来たのだ」
一対一の決闘を所望する。そう、男は言った。
「儂の名は
「違いはねえよ。で? 殺しに来たって? 俺達を? 嘘だろ? 正気か?」
「左様。嘘ではない、至って正気だ」
「マジかよ」
相当な阿呆だな、と討識は椅子に腰を下ろす。闖入しても斬りかからず、会話を交わしている時点で、この部屋で殺り合うつもりはないと判断しての事だった。
「零崎相手に喧嘩売るたあな。双識さん、こんなんは前にもあったのか?」
「あったよ。一賊結成の最初期には、頻繁にね。しかし、真正面から決闘なんて言ってくる奴は、そういなかった」
双識が立ち上がり、男の前に立つ。平均的な身長であり、かつ座っている討識から見ると、長身の男二人が並んでいるのは、ある種の壮観さを感じさせた。
立ち上がったという事は、双識はこの男、後目虚の申し出を受けるのだろうか。
そうなると、双識にとって不利な戦いになる事は必至だろう。双識の武器は、その二つ名の由来となった大鋏『
「そちらから名乗られた以上、私も名乗らなければ礼を失するな。遅れ馳せながら自己紹介だ。私の名は零崎双識。今後ともよろしく、後目虚さん」
朗らかな笑顔で右手を差し出す双識。何を考えているのか、決闘を望んでいる相手に、よりはっきりと露骨に表現すれば『お前を殺す』と言っている相手に、握手を求めているらしい。
「…………」
訝しげに双識の右手を見つめる虚。
討識は双識の性格を知っている為、その手が、本気で友好の証として差し出されている事を理解しているが、側から見れば、その右手は怪しすぎる。
罠にしか見えない。
結局、虚は右手を無視し、「して、何方が相手になるか?」と話を進めた。
非常に常識的で、賢明な判断。
討識は、眼を細めた。
「双識さんがやれよ。俺は面倒だからパス」
「私がやってもいいのだがね」
手を下ろし、討識に向き直る。
「ここは討識くんにお願いするよ」
「は?」
思わず、間の抜けた声が出てしまった。
「俺が?」
「ああ、君だ。君が、この人の相手をしなさい」
「何でだ……」
立ち上がって握手まで求めたものだから、双識自身が相手をすると思っていたのだが、そんなつもりは更々ない様だった。
「いや、君の学校の話は、まだまだ聞きたいところなのだけれど、そろそろ、人識の奴を探さなくてはいけないからね。恐らく、そう遠くには行っていないと思うのだが」
「じゃあ、ついでに首でもちょん切ってってくれ、『首切役人』さんよ。行き掛けの駄賃にさ」
「そんな駄賃はいらないよ。怖いから」
「……いい度胸だのう」
虚の厳しい顔が険しくなり、強面に拍車がかかる。当然の反応だ。
「儂は何方でもよいが……零崎討識、貴様が相手でよろしいか?」
「全くよろしくない。というか、人識探しなんか、一日ぐらいしなくてもいいだろう。別に急ぎじゃねえんだし、あんな糞餓鬼、放っておこうぜ?」
「ほう、討識くんらしくないね。昔、頸織ちゃんが襲われて、命からがら逃げ帰って来た時に、真っ先に敵に斬り込みにいったのは、君じゃあないか」
双識の言葉に、討識は口を噤んだ。事実であるからだ。
しかし、この発言の問題が、事実であるからではない。
「双識さん、アンタ……」
「フェアじゃないだろう?」双識は言う。「少しくらい君の情報を開示しないと、後目さんがあまりに可哀想だよ。何故なら、私の見立てでは、君の方が、この後目さんよりも、圧倒的に強いのだからね」
「何ぃ?」
ぴくりと、虚の片眉が動いた。
「儂よりも、この小僧の方が強いと申すか。マインドレンデルよ」
「勿論。零崎討識は後目虚を、無傷で、殺せる。 これはもう、確定した事実だ」
「おい。俺はまだ了承してねえぞ」
というか反対したんだぞ、なんて言葉はお構いなしに「さて、今すぐやるかい? 今すぐ、此処でやるかい?」と、勝手に話が進む。
「此処で戦うのは面倒だ。午後九時に、零崎討識が通う高校。その校庭でどうか?」
「了解した」
「してねえって言ってんだろ。いい加減にしろよ、てめえら纏めてぶっ殺すぞ――って、おい」
後目虚の言葉に、違和感を覚える。
「おいジジイ。
「うむ。貴様が殺した同級生には申し訳ないが、見させてもらった」
無惨な死に方であった、と虚は答えた。
「実に無惨で、残忍な死に様であった。貴様とあの小童どもに、どの様な因縁があるのか知らんが、あの様に惨たらしく殺す必要はあるまい。 零崎双識に受けさせるだけの脚があるのだ、一太刀で斬り捨てればよかろうに」
「無駄な手間だってか?」
「無駄な手間だ。無駄で無意味で、そして無価値だ。もう死んだ者を切り刻むなど、常軌を逸しておるわ。 『決闘』とは申したが、正直な所、これは儂による粛清だ。零崎一賊、貴様らは世界の均衡を崩す。理由なく、目的なく、ただ欲求と復讐にのみ人を殺す貴様らは、もはや、人でも、鬼ですらない、獣よ。獣という名の、害悪よ。排除せねば、文明の不利益にしかならん」
「……『表の世界』を代表した刺客、ってことか」
ふうん、などと受け流しながら、どうでもよさそうにふんぞり返る討識。
興味は無さそうに、質問した。
「アンタ、さ。これまでいったい何人殺した?」
「……それは、どういう意図の質問だ? 零崎討識」
「別に。あんたもいい歳して、青臭い事をぬかすからさ。プレイヤーとしての経験は、どれぐらいのもんかと思ってよ」
「貴様に答える必要はなかろう」
「確かに。実際、俺もジジイの殺人履歴なんざ、どうでもいい。 だがな。一端のプレイヤーなら、他人の
討識は立ち上がり、虚と相対する。なんかさっきから立ったり座ったりばっかだな、などと思ったけれど、これは、要は雰囲気作りだ。こういう細かい作業が、後々活きたりもするので、存外馬鹿には出来ない。
他人をその気にさせる。という事は、他人を誘導する事に他ならない。誘導した先を崖際にしておけば、労せずして敵を打倒する事が出来る。
「いや、主義というか、趣味か? どっちでもいいけど。ただ、俺以上にえげつねえ殺し方をするやつなんざ、腐る程いるぜ。 そこの『自殺志願』こと双識さんは馬鹿鋏でぶっ殺すし、『
それが討識の主義であり主張。
普通の倫理観を持ち、通常の道徳感を用いる、常識的な正義漢である虚には、全く理解できない主張。
「最悪……と言って、差し支えない程の外道だのう」
虚は、嫌悪感と敵意を、より一層強めて露にした。
ありありと感じる敵意。
零崎を相手に退くことのない態度は、自身の実力に自信を持っているということを示唆している。マインドレンデルに受けさせた討識の剣撃を、自分は一刀両断に打破できるという、自信の現れ。
そして、それは、
後目虚は、零崎討識に、既に十分な情報を引き出されていることに、気付かない。
「なあ、双識さん。アンタの誘いに乗ってやる。このジジイは俺が殺す」
殺す、と薄ら笑った討識に、双識は微笑んで「了承したよ」と言った。
「――儂は正義ではない。が、必要悪ではある。殺人者を殺すは殺人者の仕事。儂の剣で、貴様ら鬼共を全員、調伏してくれよう」
「さあ、どうかな」双識は肩を張って答える。「あなたの刃が、私達『家族』の繋がりを断ち斬れるとは、とても思えないけれど」
「ほざけ」
虚はその長身を翻し、矍鑠とした足取りで、部屋を出ていった。
「――……さて。双識さん、実際の所」討識は双識に言う。「あのジジイに勝てると思うか?」
「私の見立てでは、勝てるね。十中八九、間違いない」
「へえ。随分と、俺を買ってくれているみてえだな」
「そりゃあ買うとも。昔よりも、随分、腕を上げたようだしね。 それに、君の見立ても、同程度の確率を弾き出しているだろう?」
双識は銀縁眼鏡を押し上げた。
「あの人は、いわば駆け出しだよ。プロのプレイヤーとは、とても言えない」
「ああ。実際、いくらか人間は殺してるようだが、ありゃあまだまだ表の人間だな。目算が甘い。
「しかし討識くん。あのお爺さんは、プレイヤーとしては三流だが、闘技者としては腕が立つだろう。さらに、あの武器と体格だ。間合いが格段に広い相手に、君はどうやって勝つつもりなんだい?」
「分かりきってる事を質問すんじゃあねえよ、白々しい。 普通に近づいて、ぶった斬るだけだ。やることは変わんねえ」
まあサブマシンガンで蜂の巣にしてもいいが、なんて案を展開しつつ、討識は帰り支度を始める。
「なんだ。そんなものを持ってるのかい」
「ちょっとした縁でな。3Dプリンターでコピーした、真っ黄色の目立つやつ。見た目はリアルな水鉄砲さ。使わねえけどな」
「そうかい? 君なら、使いそうなものだけれど」
「ま。確かに、得物に拘りはねえけど。あのジジイには必要なねえだろう」
「でも、手元にあれば、遠慮なく撃つだろう?」
「撃つな。間違いなく」
それで勝てるなら、と討識は付け加えた。
その
「討識くん。君は、少し誤った理解をしているようだ。私達『零崎一賊』は組織でもなければ集団でもないし、ましてや仲間なんてものでもない。私達は家族なのだよ。困ったときには助け、迷ったときには導き、惑ったときには正す。助け合い、導き合い、正し合い、そうやって歩み、進める。それには、愛がなくてはならない。愛があるから、優しくなれる。君を、愛しているからこそ、助け、導き、正すのさ」
愛。家族愛。
それこそが、零崎一賊の、殺人鬼集団の理念。
「一賊の誰も、そりゃアスやトキは君に対して厳しいけど、それでも、君を拒絶しないだろう? 理解して、受け入れてくれるだろう? 頸織ちゃんだって、君のことが大好きなのだから、君の頼みなら、なんだって聞いてくれるよ。そりゃあ、不器用で不出来な姉だが、しかし頼りにならない訳ではないさ」
君は一人で背負いすぎだ。
双識は言う。
「もっと、大人を頼りなさい」
優しい言葉。
殺人鬼として独り立ちした時から、かけられることのなかった言葉。
そんな優しさに対して、討識は「