ボツネタ集   作:ばいどるげん

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首無し騎士デュラハンとの日常系コメディです。
あえて軽いノリで書くように努めました。

ボツネタにしては珍しく一話分完結しています。
しかしタイトル(だいありぃ)でわかるように数話連載を予定していました。
気合を入れて書いていたわけではありませんが、連載している余裕もなかったのでボツに。
短編作品として出すほどでもなかったのでボツネタに。


首なし騎士のど根性だいありぃ

 突然なのだが俺の家には少々困った同居人が居る。所謂行き倒れというものだったのだが、どうやら彼は帰る場所が無い……と言うよりも難儀なようで、ひょんな事から俺の家に居続けている。

 その経緯はいずれ話すとして。問題は彼が非常に面倒くさい性格だと言う事だ。

 

「ヨォ、ヨロズぅ。なんだよ元気ないじゃんかよぅ~。もしかしてお前も低血圧ってオチかぁ!? 俺と同じじゃんか、奇遇ダネェ! 俺も朝には滅法弱くてさぁ。ホラ、俺って所謂アンデッド系男子ってやつじゃん? 何より頭部が冷えて冷えて仕方ない……って、俺ぁ頭なんて無かったわ!! ふへへぇ!」

 

 ああ、()()()()()()なんと喧しい事だろう。

 皆さんもお気づきかも知れないが……。何を隠そうこの同居人、頭が無いのである。

 

 彼の名前は『デュラ野 半吉(はんきち)』。

 彼曰く自分はアイルランド生まれメイヨー州育ち、妖精なヤツは大体親友(マブダチ)らしい。口が無いくせに良く口が回るヤツで、何かと俺を馬鹿にしたりジョークをかましたりしてくる。

 

 まずこのウサンクセー同居人は、既に名まえからして胡散臭い。日本人でも無いと言うのに日本人国籍を(自分で)作っただの、アイルランド名は今時古いから日本風に改名しただのほざきやがる。

 ワビサビのオモテナシ精神を込めてクールジャパンに自分の名前をチョコザイナーしてみたとか、日本語ぺらぺらなくせして無駄に日本かぶれを気取るところなどむかっ腹しか立たない。

 

「そうだヨロズ! ユーは今日アルバイティングの日じゃないのか? そろそろ行かないと眼鏡のオーガ店長がまたアングリーなんじゃないか?」

「うおっ!? そうだ、お前なんかに構ってる暇は無かった…………って、何でお前が俺のバイト先の店長を知ってるんだよ」

「ノーモア、ノーライフってやつさ! 家族の事を知ってることの何が悪いんだい? それよりハリーアップ、急がセワシ君しないとジャイアンボイスでベリーシャウトだぜ」

 

 この野郎、何で母国語が英語のくせして和製英語を巧みに利用してやがるんだ。こいつとの会話は非常に疲れる。会話内容の半分以上が無駄な言葉で埋め尽くされているからだ。

 俺はこれからアルバイトに行かないければならない。体力を温存するためにもこのアホを無視して家を出る事にした。

 自宅が最も気が休まらないというのもおかしな話だ。頭をカラッポにしバイト先へ向かうためにバイクに跨る。俺は雑念を振り払い、これからやるべき仕事と交通ルールの事だけを考える事にした。

 

 

 

「ヨロズくん、お疲れ様ぁ」

「恩田さん! お疲れ様! もう先に来てたんだね!」

「うふふ! 今日も朝からだけど頑張ろうね!」

 

 バイト先に到着すると同僚であるミヨちゃん……『恩田 ミヨ』さんが従業員用の扉を開けようとしている所であった。今日も彼女は明るく朗らかだ。彼女を前にすると心が休まる暇が無い。しかし決してあの穀潰しとは違い不思議と心地よさすら感じる。

 二人で揃ってスタッフルームに入ると他のバイト仲間たちも揃っているようだった。俺たちはすぐに着替えて仕事に取り掛かる支度をする。仲間たちと軽く談笑を交わし、間もなくして一斉に()()()へと向かった。

 

 俺のアルバイト先とは大手チェーンリサイクルショップだ。衣類、家電製品、本、その他雑貨など幅広く取り扱っており、見た目に寄らず忙しい毎日だ。

 俺がこのアルバイトを初めてかれこれ一年。大学に通う傍ら、家賃と生活費を稼ぐために日夜こうして仕事に取り組んでいる。残念ながら、不本意ながら!、あのグータラ居候が来てからと言うもの貧しい生活がより貧しさを増したのが大きな痛手だ。もっと給料上がらないかな……。

 

「ヨロズくん、一緒にあっちの売り場に向かおう! 家電製品の移動を頼まれてるんだけど、私一人じゃ大変で……」

「オッケー! 恩田さんのためならいくらでもお手伝いするよ!」

 

 しかしアルバイトをやめるわけには行かない。愛しのマイエンジェル……ミヨちゃんが居る限り、薄給3Kなどなんのその。不況の波が押し寄せようと、お客様のクレームが来ようとも! 俺は彼女の笑顔のためにこの店で働き続けるぜ!!

 

「ちょいとお嬢さん。そこのテレビを見せて欲しいんだがね?」

「はい! かしこまりまし……あっ、首無しオジサマ! いつもご贔屓にしてくださりありがとうございますぅ」

 

 そう例え首無しオジサマがやって来ようと! ……首無しオジサマ?

 

「こちらです、オジサマ」

「やぁありがとう。いつも案内してくれてありがとうね。私には画面を視聴する目も耳も無ければ首すらないんだけどね。はははは!」

「あらやだオジサマったら! うふふふ!」

「ぎゃおおおおお!? おお、お前、お前ぇ!?」

 

 そこに居たのは間違いなく……半吉だった。トレンチコートに身を包む大男には頭が無く、そのくせ帽子を首の付け根に乗せてるせいで違和感しかない。

 と言うかその服はいつどこで手に入れやがったんだ。仕事もしてないくせに!

 

「どうしたのヨロズくん? ゴジラの真似なんかして」

「なんか放射線臭くなぁい?」

「誰が怪獣王じゃい!! 放射線が臭ってたまるか! っていうかお前っ、何でここに居るんだよ!?」

 

 ミヨちゃんはさっぱり分からないと言う風に首を傾げている。カワイイヤッター!

 ただ半吉、テメーは無い首を傾げてるんじゃぁねぇ。ぶりっ子みたいに両手を揃えてもトレンチコートを着たおっさんじゃ無理があり過ぎるんだよ。ぶっ殺すぞ。

 

「あら、ヨロズくんってばオジサマとお知り合いなの?」

「あっ……! い、いやその、なんていうか……」

「そうさ。彼はかつて私の教え子だった。正しい言い方をするならば、そう……弟子と言ったところだろう」

「えー!? すごぉーい! ヨロズくんってオジサマの弟子なんだ!」

「あーちょっとごめんなさい、ごめんなさいねぇー!!!」

「お、おお?」

 

 俺はすかさず半吉の首根っこ――首は無いが――を掴みミヨちゃんには聞かれないように後ろへと下がった。半吉は無理やり引っ張られた事には何も言わないが、代わりに俺の行動がさぞ解せぬと言いたげな様子だった。

 

「どうしたんだぁい? せっかくミヨちんと楽しくお話してるのに」

「どうしたんだぁい? じゃねぇ!! 色々問いただしてぇ事はあるが……とりあえずテメーなんでここにいるんだよ!?」

「たまたまアンティーク雑貨が欲しくなってね。ふらっと足を伸ばしてみたら良さそうな店があるもので」

「こんな所にアンティークがあるわけないだろうが! そもそもお前はどうやってここまで来たんだ。歩いて来れる距離じゃねぇだろ」

「無人力馬車を利用したのだよ。いやはや時代の進歩とは素晴らしい。あの黒々とした艶のある乗り物は俺の愛馬コシュタ・バワーにも引けを取らない乗り心地だった」

 

 コイツが何に乗ってやってきたか分かった。この野郎わざわざにタクシーまで使いやがって。その金は全部俺の懐から出てんのをわかってんのか!?

 

「半吉ぃ……てんめぇマジで何しにきやがったんだよぉぉ~……ッ!!」

「おお、落ち着けヨロズ。お前の事が心配だったんだって! 今朝は急いでたみたいだし事故に合わずに辿りつけてるかなとか、遅刻して店長に怒られてないかなとか、皆と仲良くやれてるかなとか。だって……お前は俺の家族だから……!」

「は、半吉ぃ…………!」

 

 

 

「なんて泣くと思ってんのか馬鹿野郎ォ。なぁーに感動的な事言った見たいな雰囲気出してんだよ!! 俺が言うならともかく、居候のお前が言えたセリフかテメー!! だいたいお前何でミヨちゃんとあんなに仲良さそうなんだよ!!」

「そりゃオメー、俺がこの店の常連だから……あっ」

 

 ぶち切れた俺は人目を憚らずに半吉の巨体を地面に叩きつけた。そのまま右腕を絡めとりすかさず腕挫腕固(うでひしぎうでがため)を繰り出す。本当はスリーパーホールドで顔がうっ血するほど締め上げてやりたかったが……こいつには首が無い。

 半吉は「ギブッ! ギブッ!」と叫びながら地面を叩き続けていた。残念ながらこれは試合ではない。二度と生き返れないようにこのまま冥界に送り返してやろう。

 

「お、落ち着くんだヨロズ! 俺の知ってるヨロズはこんな事しない!」

「ならお前の知らない俺をとことん見せてやる。冥土の土産にするんだなぁ!!」

「ヨロズ君! 売り場でお客様に何してるの!!」

 

 叱責の声に俺の意識は我へ返った。目の前には鬼の顔をした女店長が俺を上から押さえつけるように見下ろしていた。顔から血の気がサッと引き、半吉の腕のような青白い表情を浮かべていたのが自分でも分かる。

 

「ち、違うんです……店長、これにはワケが……」

「そうなんです! 店長、誤解なんです! ヨロズくんはちゃんと、この後直ぐに腕挫十字固(うでひしぎじゅうじがため)に移行するつもりだったんです!」

「恩田さんどうしたの」

「はぁ……とにかく! あなたたちは一度事務所に来なさい! それとお客様も、事情をお伺いしたいのでご同行いただけますか?」

 

 俺と半吉と恩田さんは暗い表情でスタッフルームへと入っていった。この後は言うまでも無くたっぷりと怒られ、特に俺と半吉は知り合いと言う事もありこっぴどく怒られた。

 まだ人の少ない時間帯なのが不幸中の幸いだろう。店長は今日は俺に休むように言い渡し、このでくの坊を家に連れて帰るよう命令した。俺は何も言い返せず、素直に従うしかなかった。

 

「……バイト、クビになったかもなぁ…………」

「まぁ気を落とすなよ。ジャパンのコトワザにもあるじゃんか。人生は輪廻転生って」

「それを言うなら七転八起だろ! そもそも全部お前のせいだろうが!!」

「待って、ヨロズくん!」

 

 俺たちが店の前で言い争っていると突然ミヨちゃんが駆け寄ってきた。何だか申し訳なさそうな顔を浮かべ言葉に窮しているようだ。俺たちは何事かと顔を見合わせたが、半吉が余計な事を言おうとしたためすかさず遮りながら俺から話を促した。

 

「どうかした恩田さん? 早く戻らないと恩田さんも店長に怒られちゃうよ」

「その……ごめんなさい、私がもっと早く止めていれば……」

 

 おお、なんとこのコは良い子なのだろうか!

 どこをどう間違えたらあれが彼女のせいになると言うのだろう。先ほどのはどう考えても俺……いや、この脳無しでくの坊のせいである。むしろ彼女を巻き込んだのは俺たちだ。ミヨちゃんが責任を感じてしまう事の方が申し訳ない。

 

「そんな! 恩田さんは何も悪くないよ!」

「ううん、私のせいよ! 私がもっと店長に腕挫十字固の良さを伝えられていれば……!」

「お、恩田さん?」

「本当は飛び腕挫十字固もやるつもりだったんだろうけど、私が近くに居たから遠慮しちゃったんだよね!? 次にやるときは私に構わず、全力でやって良いからね!」

 

 何だこのコ。一体何の話をしてるんだ。

 まさかミヨちゃんは意外と格闘技ファンだったりするのだろうか。うーん困ったな、俺暴力とか嫌いな人種なんだけど……。このコと上手くやっていけるか心配だよ。

 

「ついでに、店長もさっきは言い過ぎてごめんなさいって! また次のシフト日にはよろしくってさ。私も待ってるからね。それじゃあまたね、ヨロズくん!」

 

 ミヨちゃんはそれだけ伝えるとすぐさま仕事へ戻っていった。と言うか店長の伝言がついでなのかよ。そっちを先に伝えるべきだったんじゃないの?

 俺はしばし呆然と突っ立っていたが、ふと彼女の最後の言葉を思い出すなり物凄く勝利の宴を開きたくなってきた。

 

「うぉい、聞いたか半吉!? ミヨちゃんが『私も待ってる』だってよ! 良かったぁ!! 俺まだミヨちゃんに嫌われてない。それどころか好印象持たれてるんじゃないか!?」

「やったなヨロズ!! おめぇはすげぇよ。本当に良く頑張った。たった一人で……。今度はイイ奴に生まれ変われよ。一対一で勝負してぇ。待ってるからな……俺ももっともっと腕を上げて……――」

「――って、おい!? そのセリフおかしいだろ! 素直に祝えや!!」

 

 その後俺たちは二人一緒に家へと帰る事にした。やはり半吉はバイト先までタクシーで来たらしく帰りも何の疑いもなく乗って帰ろうとしやがった。ふてぶてしいにも程がある。

 俺の運転するバイクの後ろには紐で括りつけられた半吉が大人しくしていた。本当は同乗者がヘルメットを被っていないのは違反になってしまうのだが、こいつはヘルメットを被ろうにも被れない。そもそも頭が付いてないためとても人間と思われることは無いだろう。

 

「よ、ヨロズぅぅ~……。頼むから……もう少し、ゆとりある、安全……運転……で……」

 

 それにしてもこいつにしては随分と静かだと思っていたが……。どうやらこの首無し騎士、三半規管を持ってないくせに俺の運転で酔ったらしい。

 こりゃあいいぜ。帰るまではもうしばらく距離がある。

 俺は無駄に急加速・急停止を繰り返し、必要以上に荒々しい運転をして半吉を苦しめてやった。半吉は声を振り絞るように俺に助けを求めてくる……が、一陣の風になった俺の耳にはそんな事など聞こえるはずもなかった。

 

 

 その後、俺たちの暴走はパトカーのサイレンが鳴り止むまで続いた。スピード違反と安全運転義務違反で罰金を取られた俺は首の皮一枚で免許停止を免れた。

 全く、こいつと一緒に居るとロクな事にならない。一刻も早くこの居候が我が家から出て行ってくれることを願うばかりである。

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