窓から差し込む光と、聞こえてくる鳥たちの声を耳にし、私は目を覚ました。
目を覚ませば、見えるのはホテルの天井であり、
身体を起こせば、ホテルの一室であることを教えてくれる。
ああ、懐かしい夢だ
あの頃の私は何も知らなった。
世界は変わらず穏やかに流れ、何もかもが平穏に過ぎていくと思っていた。
妹のリーシャが恋人のクリスと結婚し、私は両親とその晴れ姿を見守る。
その後に、私も愛する人を見つけて結婚し、大好きな伴侶と子をなし、
パパとママに自分の幸せを分け合う。
そんな幸せを夢見ていた。
でもそれは嘘だった。世界は容赦なく牙を剥き、私の平穏を壊した。
パパとママは死んだ。妹のリーシャは私が殺した。
町の皆はみんな死んだ。
そして今の私は・・・考えるのは止めにしましょう。
私は頭を振ってスッキリさせる。
さて、今日は初めて来た町ですし、お出かけでもしましょう!
思い立ったが吉日と言いますし、準備をしませんと。
私はさっさと着替え、
いつも通りに修道服に着替え、いつものように顔をヴェールで覆う。
確か、朝食は用意されているんでしたっけ?
ああ、ホテルってドキドキします。
私ははやる気持ちを抑え、スキップしながら下のレストランに向かった。
いやはや、まさかホテルで迷子になるとは思いもよりませんでした。
親切なボーイさんに出会わなかったら、今頃どうなっていたでしょうか・・・。
ですが!無事ブレックファストをいただきました。
まぁ、今までの習慣からか、決まったものを食べましたけど。
いやはや、日本の料理って美味しいんですねー。ああ、太りそう・・・。
さて、おいしい朝ごはんもいただいたことですし、とりあえず今は町の探索ですよー!
ええ、新しい町を歩くことって私、わくわくするんですよね。
それでは、町の探索に出発ですよー!
アーリィは、商店街に向けて足を運んだ。
途中、道に迷い、あたふたと不審者の如く動いていたせいか、
巡回中の警官に保護され、無事商店街に案内された。
その時アーリィは、ヴェール下の顔を恥ずかしさで真っ赤にしていた。
ですが、彼女特有の前向き精神で悩みを払拭し、商店街を歩き出した。
商店街の人たちは、彼女特有の姿に、物珍しさな視線を向けるも、
アーリィのぎこちないあたふたする姿に毒気を抜かれ、彼女に親身になってくれた。
そうした町の人の姿に、アーリィは微笑むを浮かべていた。
が、時折ズイズイくるおばちゃんやお店の人たちの押しに、
若干泣きかけていたのは秘密である。
お店前のコロッケやクレープを買う羽目になり、
彼女は乙女の尊厳とお財布に悩み出したのも秘密だ。美味しかったのだが。
本人は、見た目とは裏腹に、人と話をすることが好きであり、人の営みを見るのが好きだ。
故に、彼女は多くの人が訪れる場所を好む。
そこには、人の生き生きとした姿があり、人の温かさがあり、人の命が生きていた。
その姿を彼女は好いていた。
アーリィは、市井の人たちの姿に心を癒され、次は学び舎に向けて足を向けた。
学び舎で知を得、健やかな身体を育み、甘酸っぱい青春に生きる学生の姿も、
彼女にとっては心癒されるモノでもある。
本来、彼女が得たはずのモノを見るために。
アーリィは、学校に向けてルンルン気分で足を運んだ。
が、彼女は繰り返すのである。迷子という悪癖に・・・。
あれ、ここはどこでしょうか?
この地図によりますと、私は今、商店街にいるはずなんですが、公園・・・ですよね。
アーリィ本人は、親切な警官から頂いた地図を頼りに、
頭をうんうんと熱を発しながら歩いてみたのだが・・・。
なぜか、彼女が今いるところは公園であった。
普段なら、子供の活気あふれる姿が見られるのだろうが、今は誰もいなかった。
いや、訂正しよう。いた。そこには何かいた。
それは人の形をしているが人ではなく、人の顔をしているが人のではない。
それには黒いコウモリの翼が生えていた。尖った牙が生やていた。
長い爪が生えていた。そして、両目が血のように真っ赤だった。
見間違えるわけはない。それは悪魔だった。
アーリィはそれに向かって走った、目の前の存在を排除するために。
こいつは、いてはいけない存在だ。存在してはいけない奴だ。
こいつらがいれば、先ほどの人たちが死ぬ。かつての私のように。
こいつらがいれば、この町が燃える。かつての私のように。
こいつらがいれば、私が生まれる。あの時の私のように。
だからこそアーリィは走る。その顔は怒りに歪んでいた。
アーリィは、悪魔に向けて銀の針を投擲した。
本来、アーリィはこれを牽制や、目くらまし等に用いる。
これは数少ない彼女の遠距離武装であり、数に限りがあるからだ。
だが、今のアーリィはこれを無造作に投げつける。
悪魔はこれを躱すこともなく、手で払いのける。
この対応に、アーリィも相手の対処を構築する。
ちまちました攻撃では埒が明かない。
対象の肉体に直接ダメージを与えるしかない。しかも、修復不可能なほどの威力で。
故にアーリィは、右手に大きな剣を携える。
それは剣というよりは、鉈だ。ただし、通常の大きさよりも2倍ほどだが。
これは彼女の切り札の一つだ。
これは斬るためではなく、切断するために用いるものだ。
いかに再生力の高い悪魔といえど、これの効果は折り紙つきだ。
もっとも、その威力だけを彼女は重視していないのだが。
アーリィは方向を変え、悪魔を見据えながら回り込むよう走る。
相手の悪魔は、アーリィを見据えたまま動かない。
が、次の瞬間、悪魔が消えた。
アーリィはその一瞬に虚を突かれる。
普通の彼女ならば、そうしたことにも直ぐに対応できるが、今の彼女は焦っていた。
その愚行が、その一瞬が、彼女の隙となった。
「が・・・!?」
背中に痛みが走る。
咄嗟に右手を振るうも、手応えがない。
右足に傷が走る。痛みにうめくも、倒れる愚行はしない。
楽しんでいる。この悪魔は獲物をいたぶることを愉しんでいる。
その行為に、アーリィは更に怒りを募らせる。故にアーリィは不利になる。
冷静さを失った者ほど、死にやすいのはどこでも同じなのだ。
剣を振るうも当たらず、逆に彼女の身体に傷が走る。
彼女はそれを何回も繰り返し続けた。
徐々に身体に傷を増やすアーリィだったが、しばらくして彼女は冷静になった。
血を流したことで頭が冷えたのかしら、なんて思えるほどに。
ふと、アーリィは周りを見渡した。そして彼女は諦めたかのように動くのを止めた。
まるで、処刑されるのを待つ罪人のように。
悪魔はアーリィの足掻く姿を散々愉しんでいたが、急に動くのを止めた彼女に落胆した。
もっといたぶりたかったのだが、動くのを止めた玩具に興味はない。
故に、その首を切り落とそうと、爪を振ろうとした瞬間、その腕が飛んだ。
悪魔は咄嗟のことで理解できないが、腕を見ると、本来あるべき手が無い。
そこからは赤黒い血が溢れているだけだ。
そして腕の痛みに悲鳴を上げた。
「爪、見えてますよ?」
その言葉に悪魔は残った方の腕を見た。
散々彼女を切ったのだろう、その爪は、彼女の服の切れ端と血で染まっていた。
悪魔は、すぐさま彼女から距離を取ろうとするも、身体が動かない。
よく見ると、身体がなにかに縛られている。それは糸であり、鎖だった。
「心配しないでください、動けば斬れますから」
悪魔は目の前の存在を見た。
先ほどまで、ただの自分にいたぶられる玩具だったのが、
今自身の目の前にいるのは、自分を殺す処刑執行人に見えた。
彼女の顔を覆っていたヴェールは、所々裂かれ、彼女の目がのぞいていた。
その目には、一切の情が写っていなかった。
悪魔は命乞いの言葉を発しようとした。だが、その言葉が紡がれ事はなかった。
なぜなら、その首は宙を舞っていたからだった。
「 」
最後に発した言葉がアーリィの耳に残った。
首を失った身体は、まるで間欠泉のように血を噴き出す。
それを見ながら、アーリィは自分の行いに微笑する。
「ああ、私は今日も人を救えました」
そしてアーリィは、その場に崩れ落ちた。