アーシア・アルジェントにとって、アーリィは姉である。
教会で拾われたアーシアは、実の家族というものを知らない。
アーシアにとって、教会のシスターが彼女の母親であり、
一緒に過ごした人たちが、彼女にとっての家族であった。
その中でも、自分を思ってくれていたアーリィは、
彼女にとっては血が繋がらなくても、本当の姉と慕っていた。
それ故に、今のアーリィをアーシアは見ていられなった。
教会にいた時のアーリィは、穏やかで、ぼーっとしていて、
時折うっかりをやらかし、迷子になってあたふたする、そんな姉だった。
自分が拾われるまでは、彼女は決して心を開かなかった獣と言われたが、
そんなことすら思わせないような、朗らかな人だった。
だが目の前にいる彼女は、そんな記憶の彼女とかけ離れた存在だった。
一見穏やかに見えるものの、目が濁って見えた。
一見笑っているように見えるも、目が笑っていなかった。
自分の意思で悪魔を殺すといった時、その目は濁りつつも輝いていた。
それはアーリィの本心なのだろう。
だが、アーシアは気付いていた。
その笑顔は、まるで痛みに耐えながらも、決して泣かないように、
誰にも心配かけないように、自分すら騙した、取り繕った笑顔だと。
その姿は、かつての自分と似ていた。
ゆえにアーシアは悩む。アーリィを、姉を見放してしまえば、彼女はきっと壊れてしまう。
自分の家族が壊れていくなど、アーシアには到底看過できるものではなかった。
そして、アーリィから伝えられた和平による弊害が、更に彼女を悩ませる。
会談による同盟で、悪魔の跋扈をゆるし、人間界に被害が及んでいる。
普通ならば、そんなことを信じるほど。アーシアはそれほど愚かではない。
だが、それがアーリィから伝えられたことが、アーシアを蝕むのだ。
アーリィは、決してアーシアに嘘を吐くことはなかったからだ。
そしてアーシアも、アーリィが嘘を吐くことを好んでいないことを知っている。
和平会談での、堕天使総督アザゼル、悪魔代表サーゼクス、そして天使長ミカエル。
その3人が手を取り合い、和平が成立。
その場にいたアーシアは、そのことをリアスお姉さまや一誠さんと共に喜んだのだ。
それが幻想であったとは信じたくないのだ。
そして、それが本当ならば、なぜリアスお姉さまたちは、そのことを言及しないのだろう。
アーシアは、リアスお姉さまや一誠さん、そしてその他の眷属たちの優しさを知っている。
追放された自分を、死んでしまった自分を転生させてまで大事に思ってくれた人たちを、
アーシアは疑いたくはなかった。
アーシアは、自分の優しさによって、その葛藤に苛まれることになった・・・。
ゼノヴィア・クァルタにとって、
アーリィは良き戦友であり、信じられる友であり、心を許せる親友である。
ゼノヴィアの心を解したのが紫藤イリナであるならば、アーリィはそれを育んだ一因だ。
当初、救護班として送られてきた彼女は、まるで戦場に送られた素人に見えた。
戦いの基本を知ってはいるも、その姿に怯えが見えていた。
だというのに、その決意は固く、生き急ぐ姿にゼノヴィアは興味を持ったのだ。
その後は、走るゼノヴィアの後を補佐する形でアーリィが追いかけるようになった。
ようは、自分の尻拭い役になっていったのだ。
そして、彼女によって自分が命を繋いだことは少なくはないと思う。
ゆえに、アーリィはゼノヴィアのお守役とまで揶揄されていたのだ。
そのことを言われた彼女は、言葉では否定しつつも、笑顔だったと思う。
ゼノヴィアにとって、アーリィは自分に無くてはならない存在だった。
ゆえに、目の前のアーリィにゼノヴィアは恐怖した。
その目は、嘗て教会を疑うことなく悪魔を殺していた自分だった。
その顔は、斬り姫と謳われ、ただ悪魔を殺すことしか考えていない自分だった。
そして彼女は、まるで自分を徹底的に殺し尽くした嘗ての自分だった。
ゼノヴィアは恐怖した、かつての彼女を知っているが故に。
何が彼女をここまでにしたのか。
そしてゼノヴィアは気付いた。自分はアーリィのことをあまりに知らな過ぎたことに。
自分はアーリィに頼りっぱなしだった。
だが彼女が自分を頼ったことは数少ないと言ってもいい。
そして彼女は、自分から自身の過去を語ったことはない。
悪魔による被害を受けたのは知っているが、その詳細を知らない。
ゆえにゼノヴィアは思った、彼女を知らなければならないと。
彼女の闇を知らなければ、本当の意味でアーリィの親友ではないのか、と。
そうしなければ、彼女を理解することは出来ないのではないのか、と。
そして、彼女から告げられた、同盟による教会の悪魔見逃しについては、
ゼノヴィアはおのずと理解した。
言ってしまえば、悪魔の抑止力となっていた教会がなくなったことで、
三すくみの関係が崩れ去ったのだ。
悪魔を倒し、人間界を守護する教会が、悪魔を浄化できなくなった。
抑止力がなくなれば、あとは歪んでいくだけでしかない。
それが悪魔の人間界の進出であり、人間への被害に繋がっただけなのだ。
和平会談の場にいたゼノヴィアは、確かに和平を結んだことに対しては肯定した。
だが、ふと思い返してみれば、そこに『人』の世界はなかった。
結局の所、和平は『悪魔』『堕天使』『天使』によるものでしかなかったからだ。
管理をするとはいっていたが、それは『人』にとって善きことなのか?
『人』は管理されなければならない存在なのか?
『人間』は、同盟に足る存在ではなかったということか?
ゼノヴィアは悩む。
かつて教会の人間として悪魔を倒してきた自分は、
その教会に裏切られて自棄を起こし、滅ぼしてきた悪魔に縋った。
だが部長やイッセーは、そんな自分を迎えてくれた。
共に人間を守ろうと言ってくれた言葉に、ゼノヴィアは救われた。
だが、アーリィの言葉からもたらされた現状を知った今では、
その言葉に罅が入ってしまった。
もちろん、アーリィが嘘を吐いていると斬り捨てればそれで終わる。
しかし、彼女を知っているゼノヴィアは、その言葉を捨て去ることが出来ない。
だが悪魔になった自分が、その悪魔すら信じられなくなれば、
自分は今度は何に縋ればいいというのだ。
堕天使か?だが堕天使も現状を知っているはずなのに、なにもしない現実がある。
ゆえにゼノヴィアは悩む。自分は何を信じればいいのか?と。
彼女は、自分は何をすればいいのか、自分と向き合わなければならなくなった。