アーリィは、アーシアとゼノヴィアのお願いを快く引き受けた。
アーリィにとってみれば、大切な妹のアーシアと、大切な親友のゼノヴィアの頼みなのだ。
彼女の快い了承に、アーシアとゼノヴィアは喜んだ。
これで、二人にとって大切な人たちが、お互いに理解しあえると思ったからだ。
人は互いに心をさらけ出すことで理解出来る。
日本ではこれを、『腹を割って話す』というらしいが、まさにこれが二人の思惑だった。
一誠の家に招かれたアーリィは、
せっかく話を聞いてくれるということで、アーシア達を退屈にさせてはいけないと、
自分からお茶を入れたり、ちょっとしたお菓子などを用意した。
キッチンは一誠の両親にお願いし、快く貸していただいたことに、何度もお礼を言った。
そして全員に紅茶と、お手製のスコーンを用意し終え、咳払いをする。
ちなみに、広間にいるのはリアスとその眷属だけで、
一誠の両親はリアスの暗示でベッドで寝てもらっている。
「さてさて。
みなさんが私の過去を聞きたいということを、アーシアとゼノヴィアさんに言われまして、
ちょっと恥ずかしいですが、みなさんにお話ししたいと思います。
といっても、大した話ではありませんよ?至って普通の話ですから。
あ、よろしければ話を聞きながら紅茶とスコーンもどうぞ。
私のふるさとの味です、おいしいですよ」
リアスたちは目の前に置かれている紅茶とスコーンに目を移す。
紅茶はハーブティーらしく、爽やかな香りが鼻孔を通り、
お菓子のスコーンは、シンプルながら甘い匂いがした。
「アーリィ姉さまのスコーンは美味しいですよ!皆さんも食べたら驚きますよ」
「ああ、彼女のスコーンは上手いぞ。よくごちそうになったものだ」
恐る恐る小猫が手を出して一口食べてみた。
すると、彼女は一心不乱にスコーンを食べ始め出した。その反応にリアスたちも食べる。
「あ、おいしい・・・」
「俺、こういった物を食ったのは初めてだけど、すっげぇうめぇ!」
「あら、本当ですわ」
「うん、これはおいしいね」
「本当です!美味しいですよ!」
各々の嬉しい反応に、アーリィの顔も綻ぶ。その反応にアーシアもゼノヴィアも一安心。
「まだまだスコーンはありますからね!ぜひ食べてください。
あ、そうでした!私のお話でしたね。
では、みなさんは食べながらで結構ですので、ゆっくりと聴いてください」
咳払いを一つした後、アーリィは懐かしむように語りはじめた。
「私が住んでいた場所はヨーロッパのある町で、ちょっと田舎みたいなところでした。
牧場もありましたし、小麦畑もある、静かな所だったと思います。
都会の生活と比べてしまうと色々と不便でしたが、私にとっては素敵な故郷でした。
私は両親と妹のリーシャの4人家族で、
父は小麦畑を持っていたので、よくお手伝いをしてましたねー。
妹のリーシャは、私と違って笑顔が素敵な、太陽のような笑顔って呼ばれた、自慢の妹でした。
お隣には頑固者の御爺さんがいて、よく怒られましたねー。
あ、みなさんが食べてるスコーン、御爺さんの奥さんから教えて貰ったものなのですよ?
他にも、友人もいて、とても幸せでした。
リーシャなんて、恋人のクリスと結婚する予定だったのですよ?
もう、お姉さんである私の面目丸潰れだったんですよ!あのバカップルは!
ですが・・・それも脆くも崩れ去ったんですよね」
アーリィの顔はヴェールで見えないが、彼女の口元は笑顔で歪んでいる。
「なんでも、リーシャの噂が悪魔の耳にも届いたようで、
リーシャを貰おうと、悪魔たちが町に来たんですよ。
私の眷属になりなさいって。
もちろん、リーシャは断ったのでしょうね。それでその悪魔、何をしたと思います?」
誰もアーリィの問いに答えられない。
リアスたちはアーリィから出た『悪魔』の言葉に耳を疑ったのだ。
「虐殺ですよ。
なんでも、リーシャが冥界に行かない、眷属にならない未練を断ってあげようと、
町の人間たちを皆殺しにしようとしたんですって。
悪魔からしたら、純粋な好意だったのでしょうね。
結果、私の町は悪魔に襲われました。
凄かったですよ?
広場へと続く道は血で真っ赤に染まり、所々は死体の山が連なってましたねー。
血の滑りと粘着質の感触を足に感じ、
耳には人々の断末魔の声や悲鳴、あ、絶叫なんて聞こえましたね。
目に映るのは死体の山々に燃える家々、空には翼を生やした悪魔たちの群れ、
そして町の人たちを食い散らかす烏たち。
本当に言葉には表せられない光景でした。
そんな中、私は一人彷徨っていたのです。
ですが、運悪く悪魔に見つかってしまいまして、
私とママを助けるためにパパが犠牲となり、
そして私を助けるためにママが、私の目の前で悪魔と串刺しになったんです」
まだアーリィの顔は笑顔のままである。
「私、ママの最後のお願いで妹のリーシャを見つけようと思ったのですよ。
恋人のクリスと一緒だと言われて、皆で逃げようって。
それで幸運なことに、私は二人が教会に逃げて行くのを見つけて、後を追いました。
二人はドレスを纏った悪魔に追われていて、何とか助けようと思いまして」
ここでアーリィは、少し紅茶を口に含んで喉を潤す。
「私が駆けつけた時には、リーシャが悪魔に捕まっていて、
クリスが必死に助けようとしてました。
クリスったら、何度も吹き飛ばされても必死に立ち向かっていたんですよ?
本当に彼ったら、無茶ばっかりして。
それで、業を煮やした悪魔が、私とクリスを殺そうとしたのを、
リーシャが眷属になると言って助けようとしてくれたのです。
私たちが止めるのも効かず、リーシャは『悪魔の駒』を入れられ、
私たちの目の前で悪魔に転生したのです」
一瞬、リアスたち全員が反応するが、アーリィは話し続ける。
「いやー、あれは今でも記憶に残る光景でしたねー。
リーシャの背から皮翼が現れて、先ほどまで嫌がっていた悪魔に跪いたんですよ。
そして『私を愛してください!』なんて蕩けた笑みを浮かべて。
でも私たちには、ゴミみたいな目で見てましたねー。あれはショックでしたー。
なんでも、転生悪魔になった存在は身も心も悪魔に染まると、
悪魔がご丁寧に説明してくれたんです。
『悪魔の駒』は、ただの人間なら一瞬で悪魔に変えてくれる優れものだとか。
まるで自慢するかのように話してくれました」
リアス眷属たちが、一斉にリアスへ顔を向ける。
だがリアスは黙ったままだ。
「その後、私たちは悪魔になったリーシャに襲われ、クリスはリーシャの手で殺されました。
リーシャ、恋人のクリスをゴミなんて言ったんですよ?
そしてリーシャは私を殺そうと襲いかかってきたんです。
私、もう訳が解らなくて、気が付いたら、リーシャを殺していました。
彼女を抱いた感触が、今でも解るのですよね。冷たくなっていくリーシャを。
私も彼女に顔を傷つけられまして、こうしてヴェールをかぶっているんですよ。
決して見せたくはないですし、見ても面白いものではありませんから。
その後は、何やら喚き散らす悪魔を殺して気を失い、
私は気が付いたら教会に保護されました」
ちらりとアーリィはアーシアとゼノヴィアの方に目を移すが、
二人ともなぜか口を押えて震えている。
「あとはアーシアと一緒に教会で過ごし、彼女と一緒に私も追放され、
ゼノヴィアさんのいる前線に回されて、必死に生き足掻きました。
生きるために悪魔を殺し続けました。
その間もアーシアを捜していたのですよ?
そしてアーシアの目撃情報を得て、ここにやってきたというわけです。
まさかアーシアと一緒に、親友のゼノヴィアさんとも再会できるとは思いませんでした。
あれ?みなさん、どうしたんですか!?口を押えて、体調でも悪くなったのですか!?
す、すみません。私ったら、みなさんに気付かず長話をしてしまったようで」
慌てるアーリィだが、リアスたちはそれどころではない。
アーリィの過去に吐き気を覚え、必死に胃の中の物をぶちまけないように堪えているのだ。
アーシアとギャスパーに関しては、もはや決壊寸前である。
人一倍食べていた小猫の顔なんて、もう真っ青を通り越している。
その後、とりあえず全員が落ち着くまで一時中断された。
「あ、貴女の過去については・・・よく解りました。
辛い話をさせてしまったこと、アーシアとゼノヴィアに代わって謝罪するわ」
「いえいえ、こうして過去を振り返るというのも、なかなかな良いものです」
笑顔で答えるアーリィに、リアスは寒気を感じ始めた。
目の前のこの人は、本当に人間なのだろうか?と。
「それで申し訳ないのだけれど、私の質問に答えてくれませんか?」
「私に答えられるのであれば、何でもいいですよ?
あ、そうですね。でしたら、私の方からも質問をしてもいいですか?」
「ええ、もちろんですわ。貴女と同じように、答えられるなら」
互いに質問をするということで合意し、リアスはアーリィに問いた。
「悪魔を殺すことをどう思っているのですか?」
「部長!?」「リアス姉さま!?」
「?」
リアスの問いに、一誠やアーシアは驚き、アーリィは首を捻る。
彼女に関しては、まるで何を言っているのこの人?という印象だ。
「この間、悪魔・天使・堕天使による和平会談が行われました。
その際、互いに干渉はせず、むやみに対立することを禁止された。
はぐれ悪魔に関しては例外ですが、昨日、貴女は悪魔を殺しています。
失礼を申し上げますが、貴女を監視していました。
まるで悪鬼の如く、悪魔を殺した貴女の姿を見ました。
悪魔が来ていることに関して、私たちには何も連絡が来ていません。
もしかしたら、彼ははぐれ悪魔ではないかもしれなかった。
私の管理地区で、人を守ってくださったことは感謝しています。
ですが、貴女の行いは、下手をすると無用な対立を生んでしまったかもしれない。
和平会談の規則を守ってもらわないと、三大勢力に対して大きな迷惑になります」
リアスの問いに、アーリィは終始無言だったが、彼女はこう言った。
「和平ってなんですか?」