自分も迷走している感じがします。
「私は、アーリィ姉さまに着いて行きます」
その言葉が部室に響き渡るも、しばらくの間は誰も何も動かなかった。
まるで世界が止まったかのように、全てが無音に包まれた。
そしてその静寂を破ったのは、大きな声だった。
「何言ってるんだアーシア!?」
兵藤一誠が声を上げた。
それはまるで、予想通りの答えを期待していたのに、
まるで違う答えを言われて驚いている司会者の様だ。
「アーシア、理由を聴かせてもらえるかしら?」
驚く一誠とは対照的に、リアスは静かな声でアーシアに尋ねる。
リアスの視線を受けるも、アーシアはその目を見据える。
「私は、何も知りませんでした。
和平会談が決まって、悪魔も天使も堕天使も、みんなで手を取り合って、
これで誰もが幸せになれると思っていました。
でも、アーリィ姉さまの話を聞いて思ったのです。
私たちが幸せに暮らしている一方で、人間のみなさんが苦しんでいる。
それは絶対に間違っていると思います。
だって、誰もが幸せに生きるために、手を取り合ったのだと思ったから。
だから私、そのためのお手伝いをしたいのです。
たとえそれが凄く大変でも、みんなが笑って欲しいから・・・」
「そう、それが貴女の意志なのね・・・?」
アーシアの言葉を受け、リアスは目を伏せる。その姿に、兵藤一誠が何故か驚く。
「ぶ、部長!?何を言っているんですか!
このままじゃ、アーシアがあっちに行っちゃうんですよ!?」
慌てる一誠に、アーシアは笑って答える。
「大丈夫ですよ、イッセーさん!私はアーリィ姉さまと一緒に行くだけですから。
私は、みんなが幸せになるためのお手伝いに行くだけで、
そんなに心配しなくても大丈夫です!
それに、私に勇気をくれたのは、イッセーさんの言葉なのですから!
『たとえ互いに憎しみ合っていても、手を取りあえる日が来る』
だから私、苦しんでいる人と寄り添って、
人間の方々とも一緒に手を取りあえる未来のお手伝いをしたいのです」
「だからって、アーシアが犠牲になるなんて間違ってる・・・!」
「?」
一誠の呟きは、あまりに小さすぎたのか、幸か不幸か、アーシアには届かなかった。
アーシアの決意に、今まで黙っていた、アーリィが口を開く。
「アーシア、本当に良いのですか?
迎えに来た私が言うのもおかしいですが、一度私に着いてくれば、
そう簡単にここに帰ってこれないのですよ?
それほどまでに大変なのです」
「アーリィ姉さま?私の決めたことを尊重するって言いましたよね?」
アーシアの言葉に、アーリィは少しポカンとした後、クスリと笑う。
「そう、でしたね。アーシアの決めたことに口を挟まない、約束でしたね。
でしたら、私のやることは、アーシアの決意を尊重し、私がアーシアを守ることですね。
アーシア、今度こそ大切なあなたを守らせてください」
「アーリィ姉さま・・・!」
その姿に、リアスたちは黙ったままだ。
だが、アーシアとアーリィが互いを見つめる最中、意外な人物が声を上げた。
「部長、私もアーシアと共にアーリィに着いて行って良いだろうか?」
「ゼノヴィア?」
アーシアを案内した後、ずっと壁を背にし、沈黙していたゼノヴィアが、リアスの前に立つ。
その行動に、リアスや一誠他眷属たちや、アーシアにアーリィも視線を向ける。
「アーシアを一人で行かせるのが心配ならば、悪魔殲滅者だった私が着いて行く。
それならば、アーリィが不在でも私がアーシアを守れる。
それに、追放されたとはいえ、私は教会の戦士で、斬り姫と呼ばれていたんだ。
それなりの力を持っていると自負している。
アーシアを思う気持ちは私も同じだ。
だから私も一緒に行かせてくれ、頼む」
頭を下げるゼノヴィアに、リアスは目を見張るも、
何かを思い、優しく声をゼノヴィアにかける。
「そうね、アーシアを一人で行かせるのは私も心細いわ。
だからゼノヴィア、貴女にアーシアを守る命を与えます。アーシアをお願いね」
「解りました」
ゼノヴィアの言葉に、リアスは頷き、そして驚いているアーリィに向き直った。
「ということですので、アーリィさん、ゼノヴィアも一緒にお願いできないでしょうか?
一緒にいたあなたなら、彼女の実力も知っているはずです。
急な話であることは解っています。ですが、どうかお願いできませんか?」
「え、ええ、私も少し驚きましたが。
そうですね、ゼノヴィアさんが来て下さるなら、私にとっては嬉しい限りです。
それに、私もゼノヴィアさんに色々とお話することもあります。
ですので、私は快くお受けしますよ。
ゼノヴィアさん、よろしくお願いしますね」
「ありがとうございます」
「ああ、こちらこそ頼む」
アーリィの言葉に、リアスは頭を下げる。
「アーシア、私も一緒に着いて行くことになった。よろしく頼む」
「はい!ゼノヴィアさん、一緒にがんばりましょう!」
そしてアーシアとゼノヴィアは、互いに手を取り合って笑いあう。
そんな雰囲気の中、アーリィがリアスへと身体を向け、話す。
「リアスさん、アーシアは私に着いて来ることを決めました。
これは彼女の意志であり、彼女の決めたことを尊重する、という約束でしたね。
ですから、アーシアは私と共に来てもらうことになりました。
ご迷惑だと思いますが、そこは互いに決めたことですから。
心配だと思いますが、私や一緒に来てくれるゼノヴィアさんもいます。
私たちでアーシアを絶対に守ります。ですから、安心してください」
アーリィの言葉に、リアスたちは黙ったままだ。
「それに、二度と会えない訳ではありません。アーシアが望むのならば、また会えます。
そのためのことなら、私は喜んで助力します」
「そう、ならばお願いしますね」
リアスの返答に、アーリィは笑顔を綻ばせ、アーシアとゼノヴィアに顔を向ける。
「私は荷物を纏めてしまいましたが、二人は荷物の準備が必要ですよね?
時間がかかると思いますので、少し席を外しますね。
名残惜しいので、この町をまた回ってきます」
「私も荷物の準備をしてきますね」
「ふむ、必要なものは何だったろうか・・・?」
そう言って、アーリィはボストンバックを一つ手にして部室を出て行き、
アーシアとゼノヴィアは魔方陣で部屋へと戻っていった。
部室に残されたのは、リアスたちだけとなった。
アーリィはその後、名残惜しそうに駒王町を回る。
お世話になった商店街では、各々のマダムにお礼を述べて、なぜか飴をいただき、
アーシアとゼノヴィアと入った小物店では、小さなアミュレットを購入し、
駒王学園では、校門の前で祈りを上げて、深々と礼をした。
そして最後に、もはや誰もいない荒れた教会へと足を運ぶ。
教会は人がいなかったのか、何故か荒れており、
並べてあっただろう長椅子は折れ、壊れ、散乱し、床には幾つかの穴が見える。
ただ、教会が建てられた当初から今までの間、ずっと置かれている十字架はそのままであり、
それがより一層神秘的に見えた。
アーリィは十字架の前へと進み、自分を導いてくださった神へと祈りを捧げる。
「主よ、私の願いを聞いていただき、ありがとうございます。
私は、貴方が導いてくださったことに、ただ祈りを捧げることしか出来ません。
願わくば、アーシアとゼノヴィアに加護をお与えください」
すると突然、立てつけの悪かっただろう扉が、音を立てて勢いよく開く。
「あら、ごめんなさい。もう準備が出来てしまったのですか?」
アーリィは、口元に笑みを浮かべながら、ゆっくり振り返り、迎えに来ただろう相手を見据える。
「わざわざ私を探しに来てくれたのですね。迷惑をかけてしまい、本当にごめんなさい。
兵藤一誠さん」