「わざわざ迎えに来てくださったのですか?
本当にありがとうございます、兵藤一誠さん」
教会の扉の前に立っている一誠に、アーリィは感謝の言葉を述べた。
もう少し時間がかかると思っていたけれど、思いのほか早く終わってしまったようだ。
それで、わざわざ自分を探しに来てくれたのだろう、そうアーリィは思った。
だが、肝心の一誠からの反応はない。
ただ、何故か自分を睨みつけている感じがする。
しかし、アーリィにはその理由が思い至らない。
自分は一応、アーシアとゼノヴィアさんの準備を待つために、外に出かけるとは言っていた。
もしかして、行き先を言わなかったことに対して怒っているのだろうか。
自分が歩き回った感じでは、駒王町はそう広くはない町である。
それでも、商店街やら学校やらデパートや駅と、様々な建物が多くみられる。
私一人を探すとすれば、いくら狭い町だからといっても、大変だったに違いない。
だとしたら、それは大変な迷惑をかけてしまったのだが、
肝心の一誠が黙ったままなので、それが本当のことなのかもアーリィには判らない。
「あ、あのー?どうしました?なにか怒っていらっしゃるようですが・・・」
一誠の表情と雰囲気に戸惑いつつ、アーリィは恐る恐る尋ねてみた。
もしも、探すのが大変だった!と言われたら素直に謝罪しよう、そうアーリィは考えた。
だが、兵藤一誠の口から出た言葉は、アーリィの予想もしなかったものだった。
「アーシアとゼノヴィアに何しやがった!」
「え?あの、え?と、突然なんですか?」
一誠の叫びに、アーリィは訳が解らなかった。
当たり前だ、迎えに来てくれただろう人が、いきなり怒るのだから当然だろう。
ましてや、アーシアとゼノヴィアさんに何をした!と、
自分でも予想しなかったことを言われてしまえば、誰だって戸惑うものだ。
「しらばっくれんな!てめぇが二人に何かして、自分を選ばせるように仕組んだんだ!」
「ちょ、ちょっと待ってください。い、いきなり何なのですか。
それに、二人に何かしたって、別に私は何も・・・!」
アーリィは、一誠の言葉に耳を疑った。自分が二人に何かした?
そんなことをする訳がない。だって自分は・・・。
「だったら、なんで二人はお前を選んだんだ!そんなのおかしいだろ!
ならお前がインチキしたに決まってるんだ!」
「ですから!私には何を言っているのかさっぱり解りません。
とりあえず落ち着きましょう?まずは深呼吸です。ヒッヒッフー!ヒッヒッフー!
ほら、落ち着きましたでしょう?
その、アーシアとゼノヴィアさんのことなら、二人が決めたことですよ。
二人が決めたことを、今更おかしいと言われても困ります。
アーシアもゼノヴィアさんも、そのために荷造りしてるはずですし。
それに、二人の決めたことを尊重するって、リアスさんと約束したじゃないですか
あと、私は二人には何もしてません!」
アーリィは取りあえず、目の前の兵藤一誠を落ち着かせようとする。
多分、二人と離れ離れになるのが受け入れられず、文句を言いに来たのだろう。
しかし約束は約束だ。アーシアとゼノヴィアさんが自分を選んでくれたことは事実だ。
ならば、ここは心を鬼にして一誠さんを諭さないといけない。
それに、彼の怒りは一時的な物であり、落ち着かせて話し合えばきっと解ってくれる。
何より、彼だってアーシア、ゼノヴィアさんを大切に思っているのだから。
「一誠さん、そう思ってしまうのは仕方がないと思います。
二人を心配するあまり、感情的になってしまうのも解ります。
私を信じなくてもいいです。
ですが、アーシアとゼノヴィアさんを信じてくれませんか?
そして、二人の覚悟と思いを認めてあげてください」
アーリィは頭を下げる。
たとえ私には信用が無くても、二人のことを思っているならば、きっと大丈夫と思ったから。
「悪いけど、約束は無しにしてもらうわ」
突然、教会内に声が響くと、一誠の目の前の床に魔方陣が現れる。
そしてその光からは二人の姿が見えた。
一方は、長く綺麗な朱い髪に豊満な胸、そして誰もが振り向く美貌を携え、
もう一人はポニーテールに、これまた豊満な胸を携え、柔和な笑みをしていた。
「部長!朱乃さん!」
一誠は二人の登場に声を上げた。
そして、後ろからは木場、小猫ちゃん、段ボールを被ったギャスパーもやってきた。
「木場!小猫ちゃん!それにギャスパーまで!」
「まったく、一誠君は一人で先に行ってしまうんだから」
「そうです。後で私に小豆羊羹を一本献上する必要があります」
「お外こわいですー!」
アーシアとゼノヴィアを除いたリアスファミリーの集結に、一誠は胸が熱くなった。
みんな、アーシアやゼノヴィアのことを大切に思ってくれていたんだ!
「約束をなしにする、とはどういうことですか?」
アーリィは首を傾げてリアスに尋ねる。
その問いに対し、リアスは胸を張って答える。
「申し訳ないけれど、貴女に二人を連れて行かせるわけにはいかなくなったの。
確かに、アーシアとゼノヴィアの二人の意見を尊重すると、約束したわ。
でもね、一誠が教えてくれたの。
私の、いえ、私たちの大切な家族が危険な目に合うと解って、
それを止めないのは本当の家族じゃない、ってね」
「部長!」
リアスは一誠に向かって片目でウィンクし、一誠の心は舞い上がる。
「・・・」
そしてリアスの言葉に、アーリィは沈黙した。
「それに、私には大切な家族を守るという義務があるの。
だから悪いけど、アーシアとゼノヴィアを行かせるわけにはいかないわ」
「部長!俺、一生部長に着いて行きます!」
リアスの態度に、一誠は好感度を急上昇させ、他の眷属たちも尊敬の念を上げる。
あとは、アーリィが素直に言うことを聞いてくれれば、全ては円満解決だ。
すると、先ほどから黙っていたアーリィは、溜息を一つつくと、ゆっくりと口を開いた。
「やっぱり、悪い予感って当たるモノなのですねぇ」
アーリィの言葉にリアスたちは首を傾げる。悪い予感とはどういう意味なのか?
「どうしてこうも私の予感って的中するのでしょうか、しかも悪い方向に。
もしかしてこれも主の試練でしょうか。だとしたら、本当に殴りたくなりますね。
あ、でも今は天使様たちが運営しているんでしたっけ?
だとしたら天使様を殴るべきでしょうか?」
ぶつぶつと言い出すアーリィに、リアスたちは戸惑う。
すると、アーリィの顔がリアスたちの方に向く。
「皆さんと初めて会った時、私、違和感があったのですよ。
まぁ、始めはそれを気にしていませんでした。
でも気付いてしまったら、不安がどんどん大きくなって、縋る思いで試したんです」
アーリィはリアスたちを見ている。
顔はヴェールで覆われているものの、まっすぐな視線を感じる。
「ええ、それを知ってしまった時のことは、本当にどうしようかと思いました。
けれど、たとえ変わってしまっても、アーシアはまだアーシアでした。
それに、別れてしまったゼノヴィアさんも、まだ彼女のままでしたもの。
だから二人一緒に出会えた事は、私にとって嬉しかったんです」
その視線はリアスたちではなく、リアス達の心を覗いている感じがした。
「だから私、もしもアーシアが選ばなかったら、素直にここを去るつもりだったんですよ。
だって、あの子の幸せが私の望みだったのですから。
もはや聖女ではなく、ただのアーシアとして生きていくのなら、
私は喜んで身を引こうと思いました。
けれど、彼女は私を選んでくれた、一緒に来てくれると言ってくれたんです。
私、嬉しかったなぁ。あの子は、あの子たちは、まだ私を信じてくれたのですから」
アーリィの語尾は次第に強くなる。
「それに私、少なくともあなた達を信用しようと思っているのですよ?
ど ん な 結 果 で あ れ、アーシアを、ゼノヴィアさんを助けてくれたのですから。
貴女達なら信じても良かった。信じたいと思ったのです。
今はまだ無理でも、未来で、本当の意味で手を取りあえると思っているのです。
ねぇ?悪魔の皆さん?」
アーリィの口は三日月の如く歪んで見えた。