輝かしいステンドグラスから差し込む光。
大聖堂の十字架の前で、一人の少女が祈りを捧げていた。
少女は、煌びやかな金色の髪を光に反射させ、清廉たる純白の修道服を纏っていた。
その祈りを見れば、誰もが聖母の姿をうつし、自然と跪くだろう。
それほどの魅力を彼女は持っていたのだ。
大聖堂の厳かな空気は、
大聖堂に入ってきたもう一人の修道女によって変わった。
「聖女アーシア、またお祈りを捧げていたのですか?」
入ってきた修道女は、顔に黒いヴェールを纏い、灰色の髪を肩まで流していた。
「アーリィ姉さま!二人っきりの時は止めてください!恥ずかしいです・・・」
「ふふ、ごめんなさいね、アーシア」
少し頬を膨れさせたアーシアに対し、アーリィは堪えるように笑う。
アーシアが聖女と呼ばれるのを嫌がっていると理解しているが、
教義や仕来りを重んじる教会において、それを軽視することは出来ない。
故に、アーリィはそれを歯がゆくも感じていた。
アーシアは聖女たる力を持っているが、彼女はまだ子供なのだ。
考え込んでいるアーリィに、アーシアは抱きついた。
子供らしく甘える笑顔のアーシアに、アーリィはそっと彼女の頭を撫でた。
アーリィがアーシアと出会ったのは教会であった。
悪魔によって滅ぼされた村の唯一の生き残りであったアーリィは、
当初は他者に心を開かず、その目は傷を負った獣であった。
食事は部屋で一人で食べ、寝るのは常に部屋の隅。
まるで、全てが敵と見えていたかのように。
しかし、それから数年後、アーリィに転機が訪れる。
教会に赤ん坊が置かれていたのだ。
金色の髪を流し、赤ん坊さながら輝く笑顔をしていた。それがアーシアである。
その姿に、アーリィは亡き妹の面影を感じ、その子の姉になろうと誓ったのだ。
それからは、アーリィはアーシアと一緒だった。
アーシアも、アーリィを姉と慕い、後ろについて回った。
嘗ての獣のような仕草はなりを潜め、アーリィは敬虔たる修道女となった。
そんな彼女を見て育ったアーシアも、同じ道を歩むのは至極当然だった。
だが、そんな関係も終わることになる。アーシアに神器が宿っていたのだ。
他者を癒す『聖母の微笑み』という神器により、彼女たちの関係は引き裂かれた。
教会がアーシアを聖女様と祀り上げたのだ。彼女の意思に関係なく。
聖女様となったアーシアは、周りから信奉されるものの、決して安らぎはなかった。
当たり前だ、まだ年端もいかない子供なのだから。
もちろん、アーシアに自由などなく、どこへ行くにも常に誰かがいた。
その上、姉と慕っていたアーリィにまで聖女と呼ばれるのだ。
彼女の心は次第に沈んでいく・・・はずだった。
アーシアの心を理解していたアーリィが、アーシアのお世話係になったのだ。
敬虔たる修道女だったアーリィの申し出に、教会はそれを認めた。
そうして、二人っきりになれば、彼女たちは普通の姉妹に戻れた。
アーリィは、ただ妹たるアーシアの支えになりたかったのだ。
他愛の無い会話こそ、アーシアの癒しだった。
そしてアーリィは、アーシアの力と彼女の純粋さに不安を感じていた。
アーシアは優しすぎるのだ。
まるで外の世界を知らぬ籠の鳥のように、純粋培養の花のように。
その優しさがアーシアの美徳であり、いつか彼女の破滅の引き金になるかもしれない。
故にアーリィは、アーシアによく諭した。
「アーシア、私はあなたの優しさが大好きですよ。
ですが、その優しさがあなたに不幸を招くかもしれない。
でも大丈夫、主が守ってくださるわ。それに、私がいるんですもの」
「アーリィ姉さま、私、姉さまが大好きです!」
甘える妹と頭をなでる姉、それこそが、彼女たちの幸せだった。
だが、アーリィの懸念は最悪の結果を招いて的中した。
アーシアが、傷ついた悪魔を癒してしまったのだ。
アーシアにとって、傷ついた人を助けるのは至極真っ当なことであった。
それが彼女の優しさであり美徳だからだ。
だが教会はそうは思わない。
聖女が穢れた悪魔を癒した。
それは、自身を聖なるものと謳う教会にとって大きな傷であり、
決して許してはならない穢れでもある。
結果、聖女と謳われたアーシアは、一転して魔女という存在に堕ちた。
今まで慕っていた人々は、こぞって彼女を罵倒した。
ただ一人を除いては。
「なぜです、なぜアーシアを魔女としたのですか!
彼女はただ傷ついた者を癒しただけです!なぜそれが罪になるのですか!
彼女の優しさを否定しないでください!お願いです!どうか、慈悲を!」
アーリィはアーシアを守ろうとした。
御世話役の私に罪があると、アーシアは悪くないと。
だがアーリィの願いもむなしく、むしろ彼女自身の擁護によって、
アーリィも魔女(アーシア)の使い魔として断罪されることになった。
結果、絆を結んだ姉妹は、それぞれ追放の形として再び引き裂かれたのである。
「アーシア!必ずあなたを迎えに行きます!あなたを魔女なんかにしない!
だから待っていてください!必ず迎えに行きますから!」
「姉さま!アーリィ姉さまぁぁぁぁ!」
アーリィは誓った。必ずアーシアを迎えに行くと。
それが彼女との約束であり、彼女の姉としての想いであった。
「待ってます!お姉さまが迎えに来るまで、私はずっと待ってますから!」
アーシアは誓った。きっとアーリィ姉さまが来てくれると。
お姉さまは約束を守ってくれる。
だったら私は耐えることが出来る。主が私を守ってくださる。
ならば私は、お姉さまを信じて待とう、と。
その後、アーシアは追放という形で駒王町に送られ、
彼女の神器『聖母の微笑み』を奪い取ろうとした堕天使に殺されることになる。
しかし、偶然出会い、友達になった転生悪魔『兵藤一誠』と、
その主であり、駒王町の管理者である悪魔『リアス・グレモリー』によって、
アーシアは悪魔として転生し、新たな生を得ることとなった。
悪魔に転生したアーシアは、自分を救ってくれた悪魔『兵藤一誠』に恋をし、
『本当の家族』として受け入れてくれた、
『本当のお姉さま』である『リアス・グレモリー』と『その眷属』に出会えたことを、
主の導きとして、頭痛を抑えて感謝した。
アーシアはもはや、かつて誰かとした約束を忘れてしまっていた。
悪魔になって、過去棄てた