「アーシア、ゼノヴィアさん、これは私の独り言よ。聞いちゃ駄目ですからね」
アーシアを撫でながら、アーリィは呟く。
「私ね、悪魔が嫌いなの。寧ろ憎んでると言っても良いくらい」
アーシアとゼノヴィアが、身体を強張らせる。
「私の大切なものを奪っていった悪魔を、私は許せないの。
もう昔の話なのに、今でも鮮明に焼きついちゃってるの、頭に。
だから正直に言うと、悪魔を殺したいと思っているわ。
それこそ、草の根を分けてでも」
二人は何も言わない。いや、言えるわけがない。
これはアーリィの独り言なのだから。
「私は悪魔を許さない。私は悪魔を許せない。
大切なモノを奪っていく悪魔を、私は絶対に認めない。
信じることも出来ない。」
アーリィの手が止まり、静寂が場を支配する。
まるで、アーリィの心を映したかのように、暗く冷たい空気が満ちる。
「でもね」
アーリィはアーシアを抱きしめる。
「私は『アーシア』を、『ゼノヴィアさん』を信じることは出来ると思うの。
『二人』のことは、私がよーく知っているんですから」
彼女の言葉に、アーシアとゼノヴィアは反応する。
「私、『悪魔』は信じないけど、『二人』のことは信じられる。
違うわね・・・『信じる』
だって、私はアーシアの『お姉ちゃん』でゼノヴィアさんの『親友』なんですから。
『家族』を信じられないなんて、そんなのダメだもの」
「アーリィ(姉さま)・・・!」
抱きしめられていたアーシアが顔を上げると、アーリィの顔に2筋の水が流れている。
「酷いですよ二人とも、これは私の独り言なのに。これはお仕置きが必要ですね」
そういうと、アーリィはゼノヴィアを手招き、アーシアと共に抱きしめた。
「あ、アーリィ!?く、苦しいんだが・・・!?」
「駄目です。これはお仕置きです。私の気が済むまで抱きしめられなさい」
「アーリィ姉さま、は、恥ずかしいです・・・」
「当たり前です、お仕置きなんですから」
アーシアとゼノヴィアの二人をまとめて抱きしめながら、アーリィは呟く。
「だから、私は二人を信じます。
あなた達が行く道を、私はどんなことがあっても守ります。
何をしてでも、どんなことをしてでも守ります。
嫌だって言っても着いて行きます。
それが私の『やりたいこと』なんですから」
ぎゅっと抱二人を抱きしめる。
『だから主よ、今度こそ、私に家族を守らせてください』
二人を抱きしめるアーリィは、今は亡き主にその思いを決意したのだった。
「さて、それでは二人とも行きましょう!
時は金なり、光陰矢のごとし、思い立ったが吉日・・・でしたっけ?
決意は時間と共に薄れていきます。
ですから、直ぐに行きましょう!さぁ行きましょう!何が何でも行きましょう!」
「あ、アーリィ、そんな引っ張るな!ま、待て、服に何か引っかかった!」
「それではお父様、お母様、1年の間ですけど、少し出かけてきます。
少しの間でしたけど、ありがとうございました。
私、お二方と一緒に過ごせて嬉しかったです」
「しっかりね、アーシアちゃん。大変だと思うけど、辛くなったらいつでも帰ってきなさい。
ここが、アーシアちゃんの帰る場所なんだから」
「アーリィさん、アーシアちゃんのこと、よろしくお願いします」
「もちろんです。アーシアは私の家族でもあるのですから。
アーシアに近づく存在は、たとえ蟻でさえも排除する気概で頑張ります」
「アーリィさんは面白い方ですね」
アーリィの言葉に、兵藤のご両親はクスリと笑う。
どうやら、彼女の冗談だと思ったのだろう。
なお、アーリィからすれば、冗談ではない模様。
そうした和気藹々?の中、アーリィ達はお二方に深く頭を下げ、兵藤家を後にした。
「とても優しい人たちですね。
アーシアやゼノヴィアさんが気を許してしまうのも頷けます」
「はい、お二人とも私にとても優しくしてくれました。
本当の娘のように可愛がってくれて・・・」
「ああ、どうしてあのお二方から、イッセーが生まれたのか不思議なくらいだ」
駒王町の駅へと三人は談笑しながら歩く。
すると、アーシアが何かに気付いたのか、アーリィの顔をじっと見る。
対するアーリィは、不思議そうに首を傾げる。
「そういえば」
アーシアがアーリィを見て声を上げた。
「アーリィ姉さまのお顔が見えます!いつもならヴェールで覆っているはずなのに!」
アーシアの言葉に、ゼノヴィアも気が付く。
「そういえばそうだな。
いつもなら、『顔の傷を見せるのは嫌いなので・・・』なんて、
直ぐにヴェールで覆っているはずだ。
それこそ、昔なんてめったに見る事が無かったのに。
いったいどういうことだ?」
アーシアとゼノヴィアの言葉に、アーリィは少し何か見ながら、
「もう、自分を隠すのは止めにしました」
そう言って顔の傷に触れた。
「この傷は、私にとって罪の証です。
私がしてしまったことを忘れてはいけないという、業の証です。
今まで私は、自分の行いと向き合うのが怖かった。
自分の罪を人に見られるのが怖かったんです。
私、実は結構か弱いんですよ?
だから私、自分の顔をヴェールで覆いました。
そうすれば、自分の過去も罪も、全部覆えるんじゃないかって」
「アーリィ姉さま、ご、ごめんなさ・・・」
「あ、アーリィ、まさかそんなつもりじゃ・・・!」
アーシアとゼノヴィアの唇に、アーリィの人差し指が触れた。
「でも、それでは駄目だって思いました。
それだと、ずーっと私は過去に向き合えず、ずーっと悪魔を憎むことしか出来なくなる。
悪魔を憎むことで、弱い自分を誤魔化し続けてしまう。
それでは、アーシアやゼノヴィアさんと一緒に、『未来』を歩めないと思ったんです」
二人の唇から指を離し、アーリィは微笑む。
「私、自分と向き合おうと思います。
自分を隠すのを止めて、目を背けるのを止めて、自分の弱さも受け入れて、
偽りのない私で生きようと思います。
だから」
「アーシア、ゼノヴィアさん、これからよろしくお願いしますね」
アーリィの笑顔は、まるで日の光を浴びた向日葵のような、そんな風に、
二人には見えた気がした。
本当にありがとうございました。
どうでもいい気がする、
作者が参考にした各キャラのイメージソング
アーリィ:『My Dearest』(Supercell)
アーシア:『優しくキミは微笑んでいた』(三谷朋世)
ゼノヴィア:『Memoria』(藍井エイル)