「悪魔が殺されている?」
机の上に置かれた数々の書類に目を通しながら、リアス・グレモリーは尋ねた。
「その通りです、リアス。
ここ最近における悪魔の死亡数が、異常なほどに増えているのです」
その問いに答えたのは、眼鏡を掛け、整然とした雰囲気を纏い、
色んな意味でリアスとは正反対である、駒王学園生徒会長、ソーナ・シトリーである。
二人は、リアスが本拠としているオカルト研究部、通称オカ研にて会談していた。
内容は、ここ最近で頻発している悪魔の大量死である。
日本各地にて、数多くの悪魔が死んでいるのだ。
それも、はぐれ悪魔や転生悪魔、有象無象の区別なく、である。
悪魔は人間と違い、寿命においては最低でも1000年は軽く生きられる。
故に、寿命による自然死とは考えられない。
また身体的にも、悪魔は大抵のことで死ぬことはないのだ。
腕を捥がれようが、身体に穴が開こうが、その生命力は他の生物と比べてもしぶといのである。
だが、そうした長寿や頑強な身体のせいなのか、悪魔の出産率は極めて低いと言える。
結婚したは良いものの、子供に恵まれないことが多々あるのだ
話を戻そう。
そうした、生物的に優秀過ぎることもあり、また力が優秀過ぎたが故に、
多くの悪魔がその力に溺れ、仕えるべき主に牙を剥くこともある。
それをはぐれ悪魔と呼ぶのだが、基本的にはぐれ悪魔は、
見つけ次第処罰する方針なので、死んだとしてもいささか問題ではないのだ。
問題は、もう一方が死んでいることである。
「転生悪魔まで死んでいるとなると、
これは何者かが悪魔を殺していると考えるべきじゃないかしら」
「ええ、私も同意見です」
リアスの考えに、ソーナは肯定するようにうなずく。
しかし、それによって新たな疑問が生まれることになる。
「でも、いったい誰がこんなことを?先日、悪魔・天使・堕天使で和平会談をしたじゃない。
今更、天使や堕天使が悪魔を殺す理由なんてないわ。
それに教会にしても、天使長ミカエルによって話がついているはずよ」
リアスの頭に思い浮かんだのは、
先日行われた悪魔・天使・堕天使の長によって行われた和平会談だ。
現魔王であるサーゼクス・ルシファー、天使長ミカエル、堕天使総督アザゼルによって、
長年続く戦争の爪痕を憂い、また各々の種族の存続のため、
過去から続いた戦争を終結し、1つの連合として三大勢力がつくられたのだ。
そして、3勢力のトップによって、和平が締結されたのである。
その締結の際、人間代表として呼ばれた現赤龍帝である兵藤一誠の主として、
共にいたリアスもそれに出席していたのだ。
故に、2つの陣営が締結破りをするはずがないのだ。
「ならば、可能性は1つしかないではありませんか?」
悩むリアスに、ソーナは何を悩んでいるのか?という顔をする。
「その和平会談を不服とし、私たちを亡き者にしようとした存在がいるではないですか」
「禍の団ね」
禍の団
無限の龍オーフィスを頭とし、現魔王の統治を不服とする、旧魔王の勢力。
会談の際、自身を真のレヴィアタンと称し、襲ってきたカテレア・レヴィアタン。
また、彼女が引き連れてきた、現魔王に反旗を振るがす悪魔勢力。
当のカテレアはアザゼルによって倒され、
また、サーゼクスやミカエル、そして自分たちの活躍により、禍の団の思惑は防げたのだ。
だが、問題はカテレアでなく、その際に相手側に寝返った存在である。
「白龍皇・・・ヴァーリ・・・」
自分の眷属で下僕である、兵藤一誠に宿る赤龍帝と対になる存在。
かつての三大勢力の戦争を、一時休戦せざるを得なかった化け物の片割れ。
相手の力を半減し、その力を自身の糧とする戦闘狂。
その化け物が禍の団に寝返ったことこそ、三大勢力において最も大きな懸念なのだ。
幸いにも、ヴァーリは一誠によって傷を負い、彼を助けに来た仲間によって、
三大勢力に大きな被害はなかったのである。
しかし、だからと言って油断はできない。禍の団は、常にこちらを狙っているのだから。
「とりあえず、我々は皆に警戒を怠らないよう注意するしかありません。
それに、いくら禍の団とは言え、今はこうした事しか出来ないということでしょう」
「そうね、私も愛しい下僕たちが傷ついて欲しくないわ」
話が終わり、生徒会室のに戻ろうとしたソーナだが、
ふと何かを思い出してリアスに振り向く。
「おっと、忘れてしまうところでした。
悪魔の大量死もそうなのですが、全世界における人間の被害も、見逃せない状況みたいです」
ソーナの言葉にリアスは首を捻る。
「なぜ人間の被害が?和平会談で、三大勢力による人間管理の話もあったはずよ。
私たち悪魔は、しっかりと義務を果たしているわ。
なら他の勢力が義務を怠っているんじゃないの?」
和平締結をその場で聞いていたリアスは、その内容を思い浮かべる。
和平会談において、戦争の終結、和平の締結のほかに、
勢力存続のために人間に頼らざるを得ない三大勢力は、
そのための人間の管理についても話し合ったのだ。
「そうですね。私たち悪魔は、しっかりと自身の管理地区を統治しています。
人間の被害も最小限に留めているというのに。
まったく、天使や堕天使は何をしているのか・・・」
「ほんと困るわね。彼らの怠慢が、私たち悪魔にまで害がおよぶのだから」
ソーナの言葉に、リアスもついつい愚痴をこぼしてしまう。
「ごめんなさいね、リアス。些細なことで引き留めてしまって。
私は生徒会の仕事が残っていますから、まだ学園に残っているつもりです。
それと、大公からのはぐれ悪魔討伐が来ていますから、資料を渡しておきます」
「別に気にしないで、ソーナ。お互い管理者として辛いわね。
まったく、どうして私の所に来るのよ。面倒じゃない」
互いに労う言葉をかけ、町の管理者と学園の管理者は、互いの仕事を全うするのであった。
黒い修道女が到着する、少し前のことである