彼女は生き物に好かれやすい   作:彼岸花ノ丘

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生命の王11

「えっと、それでは、地球が助かったお祝いと、コトアマツさんの願いが、叶うのを、祈るのと、えっと、それから」

「難しい事は後にしてかんぱーい」

 花中が超人的頭脳をフル回転させて捻り出した言葉を、ミリオンの覇気のない言葉が上塗りする。

「「「「「かんぱーいっ!」」」」」

 その上塗りの言葉に、花中の前に居た『みんな』はあっさりと乗っかかり、花中は喉まで来ていた声を飲み込むしかなかった。

 此処は、花中達が作り上げた避難所からざっと一キロほど離れた地点。ほんの数分前まで瓦礫の山に埋め尽くされていたこの場は今、小さな石ころすら転がっていない。剥き身の地面が延々と広がり、歩きやすくて安全な状態となっていた。空に輝く満天の星空を阻むものもなく、満月の光によって照らされた大地は、神秘的な舞台のように見える事だろう。

 そしてこの神秘の景色を作り上げたのは、この場に集まった――――何十という数のミュータント達。

 彼女達の圧倒的なパワーにより、瓦礫に埋め尽くされていたこの場は掃除されたのだ。しかし彼女達が此処らの瓦礫を取り払ったのは、勿論人間のためなどではない。

 広くて誰にも鬱陶しがられないこの場所で、お祝いパーティーをするためである。

「いやー他の連中花中さんの事など心底どーでも良さそうですねぇ」

 わいわいと盛り上がる喧騒の中、花中の横にぴたりとくっついてきたのはフィア。親友のぬくもりを肌で感じながら、その言葉に一片の反論も出来ない花中は苦笑いを浮かべた。

 この場に集まったミュータントは、先のコトアマツとの戦いに協力してくれたモノ達のみ。

 確かに、みんな花中の呼び声に応えてくれた。しかし全員が全員花中と仲が良いという訳ではない。いや、悪くはないのだが……「名前は知っている」ぐらいの間柄もチラホラと見受けられた。フィアの友達である怪鳥、或いはアナシスがその関係に位置する。ムスペルなど友達どころかケンカしたばかりの相手だ。そんな者達からすれば、花中の長々としたお話など退屈なだけだろう。

 そんなものよりも、パーティーだからという理由で出された多種多様な料理 ― ビニールシートの上に乗せられている。ちなみに食材はオオゲツヒメからの提供だ ― の方がずっと興味を惹くに違いない。

 ミュータント達が花中ではなく、出された料理に群がるのは必然だった。ミリオンが勝手に出した号令を切っ掛けに、我先に料理を取りに向かう姿は正しくケダモノである。ムスペルや怪鳥、アナシスまで料理を食べていた。食べ物を必要としないミリオンすら、ノリで料理の方へと駆け寄る有り様だ。

「アイツら、ほんと礼儀ってもんを知らないわね……」

「まぁ、野生の生き物だし?」

「ただのケダモノじゃん」

 大親友であるフィアを除けば、花中の近くから離れなかったのは ― 戦いには不参加だが、目出度いからとこのお祝いパーティーに招待された ― 晴海と加奈子、それから清夏……『人間』三人だけだった。

「あはは……でも、皆さん、楽しそうですし、わたしは、これでも良いと、思います」

「まぁ、大桐さんがそう言うなら、あたしが反発するのも変な話だからこれ以上言わないけど。主役はアイツらだし」

「花中は優しいなぁー」

「いや、大桐さんは優しいというより、楽しい事するのが楽しくて、蔑ろにされても喜んでるだけじゃない?」

「「あー……」」

 人間達から哀れみの目を向けられ、花中はおどおどしてしまう。戦闘能力では三人どころか全人類を相手取っても余裕で勝てるぐらい強くなったが、予想外の形で哀れまれたり怒られたりすると動揺が抑えられない。それが大桐花中なのだ。

「ほほう。同種相手から見てもお前は奇特な個体なのか。更に興味を持ったぞ」

 そんな花中に、横から声を掛けてくる者がいた。

 コトアマツだ。全ての元凶である彼女の声に、花中のみならず晴海達も振り返る。花中とフィア、それから加奈子は特に警戒心を抱かなかったが、晴海や清夏は緊迫した気持ちが表情に表れていた。

 晴海達の反応も仕方ない。花中が説明した事で晴海達も、コトアマツにより危うく地球が滅びるところだった事を……既に火星や金星が消滅した事を知っている。星一つ易々と滅ぼす怪物を前にして、警戒するなという方が難しい。

 例えその怪物が、ドングリをたくさん口の中に詰め込んだリスのように、可愛らしい顔が膨らむほどミカンタルトを頬張っていたとしても――――

 ……いや、これは流石に毒気を抜かれたようだ。晴海と清夏は目を丸くして、ポカンとなってしまう。

 『人間』達の呆けた視線を向けられたコトアマツであるが、有象無象の存在など認知すら出来ないのが彼女。向けられた視線の意味に気付きもせず、花中だけを見ていた。尤も、友達になった花中が同じ視線を向ければ話は別だが。

「なんだ? その眼差しは。意味を判断出来ない」

「え、あ。す、すみません……その、可愛いなぁって、思いまして」

「そうか。褒められているのならば悪い気はしないな」

 喋りながら次々とミカンタルトを頬張り、ますますコトアマツの頬は膨らんでいく。どうやら花中お手製のミカンタルトが余程気に入ったらしい。

 好物をパクパクと食べる姿は、見た目相応のあどけなさを感じさせる。星をも滅ぼす怪物といえども、この無邪気な姿が可愛いと思えるのは本心だ。

 ましてやそれが自分の手作り料理の結果であれば、喜びだって感じる。呆けていた花中の顔には、自然と笑みが浮かんだ。

「それにしても、ミカンというのは本当に美味いものだ。ミカンタルトにしてもミカンゼリーにしても、手が止まらなくなる。こんな美味いものがあるのなら、さっさと教えてくれれば地球だけは最初から残してやったのに」

 ……ここまで気に入られると、それはそれで複雑な心境にもなったが。地球の、或いは宇宙の命運を賭けた先の戦いはなんだったのか。それともミカンとは宇宙の存亡をも左右するほど偉大な存在であらせられたのか。

 「なんかもう後者で良いや」と思った花中は、自分もまた偉大なるミカンタルト様を食べる事にした。粒子操作を用いて、ミュータント達が群がる場所に置かれていたミカンタルトの元素を亜光速まで加速。自分の手元に引き寄せたところで再構築し、テーブル上にあったものと『同じ』ミカンタルトを創り出す。

 SF小説などに出てくる、テレポーテーション技術として用いられる原理をそのまま使っている。分解した粒子で、分解前と同じものを作れば、全く同じものが出来上がるのだ。魂だのなんだの、そのようなものがあれば不可能になる技術だが……どうやらこの世界にそんなものはないらしい。我が身で行った技がそれを証明している。なんとも無機質で、恐ろしい力だと花中は思う。

「あ、大桐さん大桐さん。私にもタルトちょーだーい」

「あたしも欲しいわ。アイツらの中に突撃とか、流石に無理だし」

「あ、わ、わたしも……」

 されど『人間』三人はこの力を恐れるどころか、嫌悪もしない。

 頼られる事が嬉しくて、花中は自分の力を喜んで行使した。三つのタルトが分解・再構築され、晴海達の前に現れる。

「おっ、来た来た~」

「ほんと、便利な能力ねぇ」

「あなた達花中さんの事便利屋か何かと思ってませんか?」

「えぇー、そんなことないよー」

 タルトを頬張りながら、フィアからの追求を否定する清夏。弛んだ顔に説得力はなく、故に花中の頬も緩んだ。

 しかし弛んだ顔は、すぐに強張ったものへと変わる。

「暢気に楽しむのも良いが、お前達は自覚があるのか? そう遠からぬうちにこの星の生物は一掃されるぞ」

 コトアマツが、この『事実』を告げてきたがために。

「一掃……って、どういう事?」

「そのままの意味だ。余の計算が正しければ、地球に現在生息している生物は、計算上十~十二年で全て死に絶える」

「じゅ、十年かそこらって、なんでよ!? まさかアンタ、やっぱり地球を喰い尽くすつもりなの!?」

「いいや、違う。余とは別の力によるものだ」

 晴海に問い詰められ、コトアマツは呆れたように眉を顰めながら答える。

 次いでコトアマツは、チラリと花中の方に視線を向けてきた。お前は分かっているだろう? そう言いたいかのように。

 事実、花中にはコトアマツの語る『別の力』が何か、すぐに思い当たった。しかしその答えを、容易に発する事は出来ない。

「……わたし達、ミュータントによって、ですね」

 ()()()こそが、その元凶なのだから。

「……それって……どういう、事……?」

「単純な話だ。コイツらの能力の高さであれば、ミュータントとなっていない個体との生存競争に負ける理由がない。古い形質の個体は淘汰され、いずれ全ての生物がミュータントに置き換わる。その時間が、余の計算ではざっと十年という訳だ」

「つ、つまり、ただの人間は、あと十年で、滅びちゃうって事……?」

「ミュータントとなっていないヒトに限定するなら、十年も持たないと思うぞ? ヒトは精々八年。まぁ、これでも長持ちな方だがな。十年種が存続するのは、適応力の高い昆虫や植物の類だけだろう」

 清夏からの問いにも、コトアマツは追い討ちを掛けるようにあっけらかんと答える。人間と共に暮らしている清夏は、ショックを受けたように後退りした。

「う、嘘……そんな……」

「ちなみに現存する生物種のうち四割はミュータント化前に絶滅すると、余は予測している。ヒトが含まれるのは六割の方だ。世代が継続するだけ、まだマシだな」

「そんな訳ないでしょ! だって、あと八年だけなんて……!」

 コトアマツとしては、フォローのつもりか、或いは単に自分の考えを伝えただけか。恐らくは後者であろう言動に、清夏が憤りを露わにする。

 花中は、それを口を閉ざして聞く事しか出来ない。

 ――――元凶である自分に、何が言えるというのか。

 コトアマツに、ミュータントが支配する世界を観察するよう促したのは花中自身だ。勿論その提案をしなければ、コトアマツは地球を喰い尽くしていた。しかし知らぬ間に一瞬で生涯を終えるのと、長ければ八年ほど生き長らえるのは、どちらがマシか? ……どっちにしろ最悪だと、殆どの人間は答えるだろう。

「で、でも、ミュータントって、確か人間の脳波が必要なのよね!? 人間が減れば、ミュータントは……」

「それは『初期』の個体だけだな。原理的に、脳波は人間のものである必要はない。ミュータントそのものの個体数が増えた状態ならば、各々が発する脳波で十分代替可能だ。そもそも単独で能力を発揮する体質の個体も、少なからず存在する。余が発する分も考慮すれば、発生も繁殖も止まる理由がない」

「っ……な、なら、アンタの力でどうにか……」

「断る。余にとってはミュータントが誕生した方が有益だからな……『友』が提案してくれた計画を実行する。今度こそ止める気はないぞ。無論、より良い案があるなら話は別だがな」

 言葉を失う晴海の前で、コトアマツは堂々と視線を花中に向けてくる。

 晴海と加奈子も、花中がコトアマツに示した『計画』を知っている。花中自身が話した。勿論正直に言えば、こんなにも早く『人類』の終わりが来るというのは完全に予想外だ。文明は兎も角、個人の寿命としてはあと何十年かあると踏んでいたが……予想は外れた。

 だけど言い訳はしない。

 この方法を選んだのは自分。これが正しいと考えたのも自分。全て自分の責任だ。

 例え全人類から、そして友達から罵られたとしても、それは致し方のない事である。

「……もう、ああもうっ!」

 だけど、晴海が苛立ちを向けたのは足下の地面。

 地団駄を踏むだけで、花中が晴海や加奈子から憤りをぶつけられる事はなかった。

「……あ、あの……立花、さん……怒って、いないのです、か……?」

「あん? ……怒るって、何に?」

「えっと、わたしが、その……コトアマツさんに、ミュータントの生態を、観察するように、提案した、事を……」

「なんで怒るのよ」

 思いきって尋ねれば、逆に晴海に訊き返されてしまう。花中は僅かに戸惑い、おどおどしてしまった。

「大桐さんは、むしろ人間を守ってくれたじゃない。どうして責めるのよ」

 そうした心の揺れ動きは、晴海の迷いない一言が止めてくれる。

 加奈子も、笑顔で花中の前に躍り出てきた。

「まぁー、そりゃもっと長生きしたかったと言えばその通りだけどねー。でも、大桐さんがいなければ、その八年だか十年だかもなかった訳だし?」

「そうだな。コイツがいなければ今頃この星は余の一部だ」

「つー訳なんだからさ、あんまり思い詰めないでよ」

「……ですけど」

「くーどーいー」

 反射的に否定的な言葉を発する花中の頬を、加奈子は両手で挟んできた。柔らかな頬はむにゅっと潰れ、花中はタコのような唇になってしまう。

 その顔が面白かったとばかりに、加奈子はけらけらと笑う。

「あっはっはっ! ほら、大桐さんのお陰でこうして今笑えるんだよ? もっと堂々と胸を張れぃ!」

「あたしも加奈子と同じ意見。大桐さんは、人間だけじゃなくて……この星の生き物みんなを救ったのよ? なんか文句言われたら、じゃあお前もっと良い案出してみろよって堂々と言えば良いのよ。コイツも良い案があるなら聞くって言ってる訳だし」

 加奈子と晴海は両腕を広げ、ある場所を指し示す。

 それは、たくさんのミュータントが花中の料理に群がる姿。奪い合ったり、分け合ったり、話し合ったり……それぞれ楽しく食べ物を堪能している。

 自分の守ったものが目の前にある。

 たったこれだけの事を改めて自覚しただけで、花中は自分の心が少し軽くなったのを覚えた。

「……ありがとう、ございます」

「お礼を言われるほどの事じゃないわよ」

「そーそー。それに、考え方次第じゃ何も変わってないとも取れるし」

「何も変わってない、ですか?」

「うん。だって、今までコトっちは地殻に居たんでしょ? 怪物だってたくさん潜んでいるし、ミュータントもそこらに暮らしている。つまり今までも、何時死ぬか分からなかった訳だよね? なら、今までと大差ないじゃん」

「ああ、成程ね。確かに、今までと大差ないかも」

 加奈子が示した例えに、晴海がくすりと笑いながら肯定する。花中も思わず笑みが零れ、そしてその通りだと思う。

 そう。命なんて、死なんてそんなもの。何時、どんな形で訪れるか分からない。今回防いだのは、やってきたものの一つでしかないのだ。

 そもそも。

「それに、もしかしたら八年の間に私も大桐さんみたいな超能力に目覚めるかもだし!」

「あら、アンタよりあたしの方が希望がありそうだけど? ミュータントの力には、演算能力が必要らしいからね」

 二人とも、たった八年でくたばるつもりは毛頭ないらしい。

 ならば、これはもう今までと何かが違うのだろうか?

 何も違わないのだ。

 世界は変わる。少なくともこれまで通りの生き方では、これからは生き残れないだろう。ミュータントという、これまでの生命とは比較にならない存在に支配された世界が出来上がるのだから。

 だけど、変わらない世界なんてあるのだろうか?

 そんなものもない。変化がないのなら、生物の絶滅なんて起こらない。ある種の生き物の誕生が環境を変え、その変化による大量絶滅すらも……過去に起きた事象の一つでしかない。

 そして生命は、訪れた全ての危機を切り抜けた。生き延びたモノはほんの一部。だけどその一部の中で、これまでと『生き方』を変えたものなんていない筈だ。今まで通り、自分の力を最大限に活かして――――全力で生を謳歌するのみ。身体や性質が変化しようとも、心は何も変わっていない。

 晴海と加奈子にはその覚悟がある。むしろ自分にはあっただろうか? 花中は、肯定出来ない。ミュータントとして、知らず知らずのうちに胡座を掻いていたようだ。これからの世界は、ミュータントといえども生き残れるか怪しいのに。

 難しい事を考えるのは止めだ。これからは真っ直ぐに、知的ぶった人間ではなく一つの生物として生きていこう。全力を尽くし、悔いのないように日々を過ごそう。

 そして、その日々の中で少しでも――――

 等と決意を固めていた刹那、ズドンッ! と大きな揺れが花中達を襲った。突然の出来事に花中はビクリと身体を震わせ、反射的に震動が来た方へと振り返る。

 見れば、緑色の触手のようなものが無数に蠢いていた。

 ……見ただけで正気がごりごり削られそうな、大変おどろおどろしい見た目の物体だ。滑らかな動きからして、機械の類ではなさそうである。数は百本以上あるように見え、その長さはざっと三百メートル超え。太さも数十メートルは下るまい。

 花中は己の目を構成する粒子を組み替え、望遠鏡のようにして触手の姿を観察。そうして見て分かったのは、その触手がなんらかの植物によって構成されているという事だ。

 そしてその植物の根元で、小さな土壌生物……何匹かのミミズが喜ぶようにうねうねと動いているのが、粒子の動きから観測出来る。加えて言えば、そのミミズの動きに合わせて植物も動いているようだ。

 ミミズは土壌を掘り進む事で通気性を良くし、その糞は微生物によって分解される事で栄養豊富な土となる。更に糞は粒状であるため、土壌構造を細かくて隙間が多い……植物が根を伸ばすのに適したものへと変える。ミミズが生息する地域において、ミミズが土壌、その土壌に根付く植物に与える影響は計り知れない。

 では、そんなミミズがミュータント化したなら?

 ……出した糞で植物で植物が異常生長、なんて事もあるかも知れない。そして栄養を与えた側として植物の行動をコントロールする、なんて真似が可能でもおかしくない。ミュータントなら、それぐらいは易々とやってのける筈だ。

 だから一番の問題は、

「花中さん花中さん。アレなんかこっちに来てますよ?」

 そのようなミミズが作り出したであろう危険物体が、花中達の方に向けて接近してきている事である。植物なのにどうやって動いているんだ、とかなんとかは、もう今更考えるのも野暮というものだ。

 このままではあの植物? らしきものによってお祝いパーティーは台なしだ。いや、それどころか直進を続けた場合、避難所に到達するかも知れない。見た目がキモい以前に、人間達からすれば巨大で危険な物体である。もしも襲撃されたなら、作り上げた避難所が壊れるだけでは済まないだろう。どうにかしてあの植物的な巨大物体を止めねばなるまい。

 しかしそれは、決して難しい話ではなかった。相手は恐らくミュータントだが、花中達もまたミュータントだ。コトアマツやアナシスのような例外的存在でない限り、力の大きさでは互角の筈。

 そしてこの場には今、何十という数のミュータントが集まっている。

 彼女達の力が借りられれば、こんなものは苦難でもなんでもない。

「皆さん! 行きましょう! あの植物を、止めないと!」

 花中は元気よく、前向きな声で助力を求めた。

「「「「「えっ。やだ」」」」」

 ミュータント達の答えは、全員一斉に返ってきた。

 返ってきたが、それは花中の求めるものではなかった。

「……皆さん! 行きましょう! あの植物を、止めないと!」

「いや、聞こえなかった訳じゃないから」

 ミリオンからツッコミを入れられ、花中は口を空回りさせる。

「……え、えと……なん、で?」

「いや、あんなデカいの相手するとか面倒臭いし」

「子供を危険な目に遭わせる訳にはいかん」

「あまーいおかしをたんのうするのに、いまはいそがしいのー」

「余も同じ」

「食べ物を残して何処かに行くなんて、そんな無礼は出来ませんわ」

「あ、あんな大きな化け物、どうやって倒すのよ! 危ないじゃない! それよりも逃げないと!」

【バルルオオオオオン】

「ウホッ!」

 それから無意識に理由を問えば、様々な理由が返ってきた。一部何を言ってるのかさっぱり分からないのを除けば、成程、どれも尤もな理由だ。少なくとも彼女達にとっては。

 手助けしてくれる者達皆無。地球の命運が掛かっていた時は助けてくれたが、そうでなければ各々の考えで行動する。ちょっと考えれば予想の出来た展開に、花中は口許を引き攣らせた。

 だけど、まだ不安は覚えない。

「ふんっ。使えない連中ですねぇ。ですが花中さんご安心を! この私が一緒に行きますよ!」

 例え世界の全てが敵になろうとも、一番の親友は自分と一緒に来てくれると信じていたから。

 フィアは花中の手をぎゅっと掴み、満面の笑みで向き合う。フィアがとても上機嫌なのは、他の子達に来る気がない、つまり花中を独り占め出来るからか。花中を独り占め出来るのなら、例え戦場だろうとフィアは構わないのだ。

 或いは、花中と一緒ならどんな困難だろうと簡単に乗り越えられると、心から信じているのかも知れない。

 花中も同じだ。フィアと一緒なら、どんな困難でもなんとか出来るに違いない。

 そう、どんな困難でも。

「……うんっ! あ、でも行く前に、一つお願いが、あるんだけど」

「どーせ殺さないようにというのでしょう? それぐらい分かっていますよ。まぁ善処だけさせていただきますね……しかしあのような虫みたいな奴と友達になれるとお思いなのですか?」

「もちろんっ」

 フィアから問われ、花中は迷いなく答える。満面の笑みを浮かべ、一切の不安もなく、堂々と胸を張った。

 例えそこには、なんの根拠もないとしても。

「だって、みんなと友達になれたら、とっても素敵でしょ?」

 この身体と心を突き動かすものが、幼子のような願望だとしても。

 ――――日々を全力で、悔いがないように生きる。

 大桐花中という『生物』がその生き方をするために必要な事は何か? とてもシンプルなものだ。たくさんの、新しい友達を作る事。色んな子と仲良くなり、色んな子の事を知り、みんなで遊ぶ事。これが出来なければ、生きている意味がない。

 勿論それが難しい生き方なのは承知している。野生の世界で、何百もの他種と友達になった生物なんていないのだから。だけどいないという事は、無理という意味ではない。やらない理由にはならない。

 そして自分には、心強い親友がいる。

 能天気で、自分勝手で、何時も背中を押してくれて、自分を孤独という暗闇から助けてくれた――――フィアという親友が。

 その親友と手を繋げば、もう、躊躇いなんて残らない。

「よーし! それじゃあ、しゅっぱーつ!」

 宵闇が満たす世界に、少女の明るい声が響く。

 荒廃した町の跡地に、数えきれないほどの笑い声が響くのだった。




これにて完結です。
見直せば、2016年6月から投稿しているので、三年半ほど連載してきました。総文字数も二百万字を超え、話数も二百超え。
……長い。
書きたい事を書きたいように書き続けてきましたが、読んだ方が少しでも楽しんでもらえたなら幸いです。

長らく読んでいただき、ありがとうございました。





……本編は完結しましたけど、おまけとかはまだ書きますよ?
また2020年6月頃、本作の七年後のお話を新作として投稿予定です。
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