ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記 作:seven river
Episode182 筋肉の限界
世界地図を見ながら北に小舟を進めて1時間くらいで、俺たちの西側に荒野にそびえ立つ岩山が見えてくる。
その荒野にはおおさそりやいっかくうさぎが生息しており、多くのサボテンが生えていた。
「この岩山を越えた先が、マイラの町だったな。結構時間がかかったけど、もうすぐたどり着けるな」
この広い荒野はマイラの町の南側にある場所であり、魔物の素材を集めたり、ベイパーやギエラを助けたりするために何度も行っていたな。
ここから岩山を越えれば、マイラの町にたどり着く。
「みんな無事だといいね」
「ああ。リムルダールは壊滅してたけど、マイラは大丈夫であってほしいな」
俺はピリンとそんなことを話しながら、岩山の東を小舟で進んでいった。
メルキドやリムルダールと同様、マイラも変異体の魔物に襲われている可能性が高い。
しかし、それでもマイラには強力な兵器がたくさんあるし、無事であってほしいな。
俺は岩山を越えると、西に見えてくるはずのマイラの町の方向を見てみる。
「もう町が見えてくるな…無事なのか?」
だが、俺の期待とは裏腹に、マイラの町があった場所には異様な光景が広がっていた。
俺たちが作ったマイラの町は跡形もなくなり、代わりに2階建てだと思われる巨大な城が建っていたのだ。
その城は暗い青色の壁で出来ており、恐らくはアメルダが囚われていた魔物の城の壁と同じものだろう。
「ん…?あんな城が建ってるなんて、何があったんだ…?」
「どうなってるんだろう、マイラの町は…?」
「なんだろうあの城…気味が悪いね…」
町があった場所に城が立っていることに、ピリンたちも驚きを隠せなかった。
アメルダたちがあんな城を作るなんて、到底考えられない。
もしかして、マイラの町が魔物に占拠されてしまったのかもしれないな。
とにかく何が起きたか確認しなければいけないので、俺はマイラの町の東に小舟を止める。
「もしかしたら、魔物に乗っ取られたのかもしれない…何があったか、確認しに行くぞ」
あの城の正体は何なのか、町のみんなはどうなっているのか…確かめなければいけないことはたくさんある。
アメルダたちが生きていることを祈りながら、俺たちは不気味な城へと向かっていった。
城に向かう途中、俺たちは新たな魔物が生息しているのも見つけることが出来た。
今までの魔物に加えて、フレイムとブリザードが合体した魔物や、キラーマシンの上位種である緑色の光を放つ機械の魔物、デュランダルが何体も歩いている。
「フレイムとブリザードが合体してる…それに、デュランダルもいるな、気をつけて進まないと」
炎と氷の合体が魔物の力だけで出来るかは怪しいし、キラーマシン系の魔物は今までガライヤ地方にしかいなったので、やはり町が乗っ取られて、技術を奪われたということなのだろうか。
どちらも強力な魔物だろうし、ほしふるうでわを手に入れたものの無駄な戦いは避けたいので、俺たちは隠れながら進んでいった。
そうして15分くらい歩き続けて、俺たちは不気味な城の近くにまでたどり着く。
すると、南側にある城の入り口には一つ目の巨人の魔物、ギガンテスが2体もおり、そのまわりでもあくまのきしやデュランダルといった強力な魔物がたくさん見張りをしていた。
この様子から見て、やはりマイラは魔物に占拠されてしまったようだな。
「嫌な予感はしていたけど、やっぱり魔物に占拠されていたのか…」
これらは強力な魔物とは言え、マイラの兵器があれば勝てない相手ではないだろうから、マイラには変異体の魔物も襲撃してきた可能性が高いな。
マイラのみんなが全滅してしまった可能性もあり、俺たちはとても不安になっていた。
「ここのみんなは、どうなっちゃったんだろう…?」
「分からない…でも、きっとどこかで生きているはずだ」
だが、みんなが死んでしまったなんて思いたくもないので、俺はピリンにそう声をかける。
リムルダールと同じで、どこかに逃げている可能性もあるだろう。
それに、俺の力だけではマイラの町を取り返すのは不可能だろうし、そのためにもアメルダたちを探し出さなければいけない。
「とりあえず、これから探しに行くか…」
この地域のどこかにいるのか、旅のとびらで他の地域に逃げたのかは分からないが、マイラのみんなが生きていることを信じて、俺たちは探し始めようとする。
そうしていると、占拠された町から2体のギガンテスの話し声が聞こえて来た。
「南に逃げた人間どもは、まだ見つからないのか?」
「あくまのきしたちが必死に探しても、なかなか見つからないらしい。どこかで野垂れ死んで
るとありがたいんだが…」
「ビルダーの野郎が来る前に、殺せればいいんだけどな…」
やっぱりアメルダたちは逃げ出して、南の荒野の方に向かったみたいだな。
野垂れ死んでいた方が魔物たちにはありがたいのかもしれないが、そう簡単に死ぬようなみんなではない。
魔物から見つかっていないということは俺たちでも見つけるのが難しいだろうが、何としても見つけ出して、マイラの町を奪還しないとな。
「町の南か…まずはそこに向かってみよう」
俺たちはギガンテスたちに見つからないようにしながら占拠された町を離れ、南へと向かっていった。
かつてよろいのきしが見張りをしていたバリケードを越えて、さっきも小舟の上から見ていた広い荒野へと入る。
荒野にも多数の魔物がいるので、気をつけて進まないといけないな。
俺たちは荒野にたどり着くと、今度は荒野の南端にある茶色の山へ向かっていった。
魔物に未だ見つかっていないとなれば、洞窟の奥に隠れているのかもしれない。
「あっちの山には洞窟があったし、そこを調べてみるか」
昔ベイパーも洞窟に隠れて、魔物の攻撃を受けずに生き延びていた。
ピリンたちを引き連れながら、俺たちは洞窟へと向かっていく。
その途中、俺はラダトームやサンデルジュでも戦った緑色の太った巨人、ボストロールを何体も見かけることが出来た。
「ボストロールが増えているな…前は1体しかいなかったのに…」
マイラのボストロールは以前は1体しかいなかったのに、今回は大幅に増えている。
ボストロールは体が大きく、視界も広そうなので、俺はより慎重に進んでいった。
そうしてゆっくりと歩き続け、45分くらい経って、俺たちは荒野の南端の茶色の山にたどり着くことが出来た。
「洞窟はいくつかあるから、順番に調べていくぞ」
この山には昔ベイパーが隠れていた洞窟の他に、いくつか洞窟があったはずだ。
どの洞窟に隠れているかは分からないし、全部調べなければいけないな。
魔物に今まで見つかっていないことを考えると、いくつかの洞窟を転々と動いているのかもしれない。
俺はまず、一番最初に目に付いた洞窟を調べていった。
「この洞窟は結構奥が深いな…おい、誰かいるか?」
俺は声もかけながら奥に進んでいき、ガロンたちが隠れていないか調べていく。
だが、声をかけても何の反応もなく、ここには誰もいないようだった。
「何の反応もないな…次の洞窟を調べるか」
この洞窟には銅や石炭といった多くの鉱石があったが、今はみんなを見つけることが優先だ。
俺はその洞窟を出て、次は昔ベイパーが隠れていた洞窟に入っていった。
「ここはこの前ベイパーが隠れていた洞窟だな…ここはどうだ?」
この洞窟はさっきの洞窟よりは短く、探索にもあまり時間はかからないだろう。
俺たちは踏むと割れてしまうもろい岩石を避けながら、洞窟の奥に進んでいった。
しかし、この洞窟の一番奥を見ても誰の姿もなく、俺は外に出ようとする。
だがその瞬間、洞窟の中の壁から肌の茶色い、荒くれマスクをつけた男が飛び出て来て、声をかけてきた。
「オマエ、雄也じゃねえか!こっち、こっちだ!」
「あんた、ガロンか?姿が見えなかったけど、どこに隠れてたんだ?町で何があったんだ?」
マイラに着いてから最初に出会った荒くれ男の、ガロンだ。
最初は臆病で魔物と戦おうともしなかったが、アメルダを助けに言った頃からは勇敢に戦うようになっていたな。
彼は壁から出てきたようだが、どこに隠れていたのだろうか。
それに、町を襲撃して占拠した魔物についての情報を知りたい。
「それは後で話す。まずは、オレたちの隠れ場所に来てくれ」
だが、ガロンは話は後にすると言って、また洞窟の壁の方に歩いていく。
よく見ると、洞窟の壁に1ブロック分の狭い穴が空いており、その奥にみんなの隠れ場所があるようだ。
昔ベイパーを探しに来た時はこんな穴はなかったと思うし、ガロンたちが掘ったのだろう。
しゃがみながらガロンについて行き、狭い通路を進んでいくと、少し広めの空間にたどり着く。
そこはかなり暗い空間だったが、鉄の作業台や炉と金床、マシンメーカーも置かれていた。
「さっきのオレの声が聞こえてたと思うけど、雄也たちが帰って来たぜ!」
その空間には荒くれのベイパー、ガライヤ出身のコルトとシェネリもおり、ガロンはみんなに俺が戻って来たことを伝える。
「お主たち、無事であったか!心配しておったぞ!」
「また会えて嬉しいです、雄也さん!」
「いろいろな異変が起きてますし、もう会えないかと思っていました…本当に良かったです」
コルトとシェネリは嬉しそうな顔になり、ベイパーは表情は見えないものの明るい声で話す。
魔物が増えて、町を乗っ取られたという状況だ…余計に心配だっただろう。
ギガンテスも人間たちは逃げたと言っていたが、実際に顔を見ると俺も安心する。
「心配かけてごめんな…こっちこそ、みんなが生きていてよかった…町が乗っ取られたのを見た時は、最悪の可能性も頭に浮かんでしまった」
これからみんなと協力して、マイラの町を奪還する方法を考えないとな。
だが、ガロンたちの無事は確認出来たが、ギエラとアメルダの姿がなかった。
全員逃げたとは言っていなかったし、まさかとも考えてしまう。
「そう言えば、アメルダとギエラはどうしたんだ?ここには姿がないけど」
「アネゴとギエラは舟とやらを使って、ガライヤに行ったぜ。ミスリルを集めに行ってるんだ」
無事で良かった…まさか、アメルダたちも舟を作っていたとはな。
新たな武器を開発するにしても、この地方には普通の武器での攻撃が効かない魔物がいるので、まほうインゴットを作るのに使うミスリルは必要不可欠だろう。
全員の無事が確認出来たところで、俺はマイラの町で起きたことを聞く。
「俺も舟を使ってマイラに戻ってきたんだ。さっき町があったところに行ったら魔物に占拠されてたけど、何があったんだ?」
「しばらく前に急に希望のはたが朽ち果てて、魔物の数が増えやがったんだ。それで、オレたちのアジトにボストロールやギガンテス、あくまのきしの大軍勢が襲って来た」
ルビスの死の影響は、ここでも確実に現れているみたいだな。
ボストロールやギガンテスといった巨人系の魔物は強力だし、苦戦は免れないだろう。
しかし、マイラの町には大砲や超げきとつマシンがある…対応しきれないことはないはずだ。
だが、ガロンの隣にいたベイパーは、それらよりさらに恐ろしい存在が襲撃してきたと言う。
「それだけではない。深緑色のトロル、ダークトロルと、全身が暗黒色で禍々しい力を持ったトロル、トロルギガンテ…あやつらは、別格の強さであった。アネゴは超げきとつマシンも使ったが、それでも勝てなかった」
ダークトロルは、ドラクエシリーズでも何度か見たことがあるな。トロルギガンテというのは初めて聞いたし、恐らくは変異体の魔物だろう。
確かに変異体は他の魔物と比べると桁違いの戦闘能力を持っているし、それに対応しきれなかったということか。
「今まで鍛えた筋肉の力を持ってしても、奴らは倒せなかったぜ…ボロボロになったオレたちは結局、アネゴの指示でアジトから逃げ出すことになっちまった」
「筋肉は死なずと言ったが、限度という物がある…逃げ出したみんなはワシの提案でこの洞窟に隠れ、魔物に見つからぬようこの空間を掘ったのだ」
生き残ることが優先だと考え、アメルダは逃げる指示を出したのだろう。
いつも明るかった荒くれたちがこんな暗い口調になるのも珍しい…ここでの戦いは、今まで以上に厳しいことになりそうだ。
俺がそんなことを思っていると、ベイパーたちは逃げ出した後のことも話し始める。
「逃げ出した後、ワシらは交代で洞窟に魔物が入ってこないか見張り、魔物が来たらこの空間の入り口を土で塞いでいた」
「ときどきオレたちは食料や鉱石を集めに行ってな…旅のとびらはアジトに置き去りになってるが、アネゴの発案で舟を作って海を渡れるようになって、マシンメーカーも作り直せたぜ」
マシンメーカーを作り直せたなら、新たな武器を考えることが出来れば、マイラの町を奪還できる可能性があるな。
暗い口調をしていたガロンたちも、町の奪還を諦めてはいないようだ。
「アネゴは今採掘も行いながら、アジトを取り返すのに使える武器を考えておる。武器ができ次第、魔物どもを潰しに向かうぞ」
「オマエの力もあれば、さらに勝てる確率は上がるぜ。またよろしくな、雄也!」
いつまでも暗い洞窟の中に隠れ忍んでいるわけにはいかないし、早めにマイラの町を取り返しにいかないとな。
ガロンたちと協力して、必ずマイラの2度目の復興を達成してみせる。
「ああ、よろしく頼んだ」
「とりあえず今は、アネゴが戻ってくるのを待つぜ。もしかしたら、何か思いついてるかもしれねえしな」
「分かった。ここまで歩いて疲れているし、しばらく休んでいるよ」
確かにアメルダは採掘を行いながら新たな武器を考えているらしいし、何か思いついているといいな。
かつては発明家の助手だったが、今は一人前の発明家になっているのかもしれない。
俺はアメルダが戻ってくるまでの間、洞窟の中で休むことにした。