主人公の過去話とかです。
あと現在の恋人も出てきます。
設定自体はよくある感じなので、めんどくさい方は飛ばしてもらって構いません。
「それじゃあ行ってくるよ、愛佳」
「気をつけて…必ず帰ってきてね」
「もちろんさ。君1人を置いて死んだりなんかしない。約束する」
「うん…うんっ…」
そう言ってまた泣き出した最愛の恋人を抱きしめながら、男は親が子を寝かしつける時の様にやさしく髪を撫でる。
そして同時に、これから自分が成すべき事について改めて思いを馳せる。
彼、須藤龍二が「提督」になるきっかけと共に…
◇
子供の頃の龍二は、所謂「普通の子」とはちょっと違う子供だった。。
外見や性格などが変というわけではなく、彼が生まれつき持っていた才能が希有だった。
それは「妖精と意思の疎通ができる」というもの。
「妖精」というのは、物に対して宿るいわば「付喪神」のようなものだ。
その為、自然の中や建造物の中問わずいたる所に存在する。
存在はするが、もちろん通常の人間には見えないし、見えないものに対して意思の疎通などもってのほかである。
しかし龍二は、その「妖精」と生まれつき会話することが出来た。
今でこそその存在を認められた妖精であるが、当時はまだオカルトの域を出ていなかった。
その為、誰もいない所で会話をする我が子の姿に耐えられず、両親は彼が4歳の時に祖父母のもとへ預けて失踪してしまった。
祖父母にも妖精は見えなかったが、元々孫大好きだった祖父母は「この子には何か特別な力があるのだろう」とだけ考えることにし、親のいない分の愛情を埋めるべく、最大限の愛を注いで彼を育てた。
祖父母の愛を一身に受け止め育てられた龍二はまっすぐ育ち、心根の優しい好青年となった。
小学生時代には既に「この能力を他人に知られてはいけない」と気づいてはいたが、妖精というのは好奇心旺盛かつフレンドリーで、学校での授業中や食事中、果ては登下校中にも話しかけてきた。
妖精側としても会話までできる人間が珍しいようで、何かにつけて話しかけてくる。
会話の内容が「昨日の晩御飯は何?」「焼却炉付近に居座るボス猫の撃退法について」「好きなパンツの色は何色?」など、非常にどうでもいい内容ばかりではあるが…
幼いころから仲良く接していた妖精達に対して全てを無視する事など出来るはずもなく、龍二はクラス内で少し浮いた存在となっていた。
幸いにしていじめなどには発展しなかったが、小学校を卒業するまで「ちょっと変な子」という位置付けのままだった。
中学校に入学しても、田舎の学校ゆえか小学生時代の噂は瞬く間に広がり、露骨に避ける者もいる位の所謂「クラス内の腫物」的なポジションになってしまった。
ところが、これを是としなかったのが当時のクラス委員であり、今の恋人である倉本愛佳だった。
超が付くほどの世話焼き気質な彼女は、龍二に対する噂を一切真に受けず、塞ぎ込みがちだった彼に毎日優しく話しかけた。
そして、この頃既にクラス内での人気者であった愛佳の行動のおかげで、いつしか龍二を「腫物」として扱う者もいなくなり、彼はそれなりに順風満帆な中学生時代を過ごすことができた。
そして中学を卒業し、祖父母にこれ迷惑をかけない為奨学金制度を利用しつつ高校を首席で卒業、その後大学も無事に合格。
中学から進路を共にし、同じ大学への入学が決まった愛佳を心から愛し始めた龍二は、思い切って愛佳へ告白しようと決意する。
しかしその矢先、人類は未曾有の危機と遭遇することとなる。
「深海棲艦」と呼ばれる未知の生物が世界各国の海に突然現れ、人類に牙を剥いたのだ。
もちろん各国とも、持ちうるすべての軍事力をもってこれを迎撃しようとした。
しかし、最新技術の粋を集めた軍事兵器では敵の装甲に傷をつけるのが精一杯で、全くといっていいほど歯が立たなかった。
絶望する人類を嘲笑うかのように地上へ侵攻を始めた深海棲艦は、新たに現れた第3勢力によってその侵攻を阻害される。
そこに現れたのは、後に「艦娘」と呼ばれる見目麗しい女性たちだった。
彼女たちはそれぞれ独自の武装をしており、それを駆使して戦う彼女たちの強さはまさに圧巻の一言で、深海棲艦を撤退させるのにそう時間はかからなかった。
その後、彼女らと接触した国の上層部から国民に、以下のような情報が公表された。
尚、彼女らはこの情報を提供した後、人知れず姿を消してしまった。
1.艦娘は深海棲艦と戦う力を持っている。
2.艦娘は戦時中の日本海軍の軍艦と同じ名前を持っており、その軍艦に搭載されていた装備の縮小版である「艤装」を装備している。
3.艦娘は重油・弾薬・鋼材・ボーキサイトを元に「妖精」の手で作られる。
4.艦娘は自身を建造した「提督」の命令にのみ従う。
ここで国が困ってしまったのは、3と4である。
深海棲艦を撤退させたものの、次またいつ侵略されるか、そして次もまた彼女らが現れるか分からない為である。
かと言って、そもそも「妖精」なるものの姿すら見えない国の上層部は、消えた艦娘達の行方を追うと共に、その希有な能力を持つ人間の捜索に総力を挙げた。
そして龍二の元に「提督候補」として国からの出頭命令が届くまでに、そう時間はかからなかった。
その後は迅速かつ強引に話が進められ、気付けば軍属にさせられていた。
そしてそのまま軍の規約や提督についての知識を強制的に覚えさせられ、気が付けば立派な新米提督となっていた。
龍二自身も最初は渋々ではあったが、提督として艦娘達と共に深海棲艦を退けなければ、最愛の恋人と平和な生活を送ることすら出来ない事に気付いてからは、むしろ意欲的であった。
そして全ての課程を修了した彼は、佐世保鎮守府に配属されることになった。
実は彼の能力にはもう1つ重大な秘密が隠されているのだが、この頃の龍二にはそれを知る術はまだ無かった…
◇
「名残惜しいけど、そろそろ行かないと…」
「うん…分かった」
「軍の規定で、あまり外部との連絡は取れないけど…なるべく連絡するようにするから」
「うん…本当に気をつけて、元気で帰ってきてね」
「ああ」
まだ瞳の端に涙を溜めたままの愛佳を再度優しく撫でると、見送る愛佳に笑顔で手を振って別れを告げる。
姿が見えなくなるまで手を振る彼女を背に、龍二は意気揚々と佐世保鎮守府へと向かうのだった。
誰得な過去話編終了。
次回から本編が始まります。
※2016/06/14
最後の部分を「キス」から「撫でる」に修正しました。
これだから脳内設定は…申し訳ありません。
こういった矛盾の指摘もありがたいです。