危ない危ない。
食堂で叢雲が話し始めたころ。
龍二は未だ漣に引きずられていた。
「おーい漣、どこまで行くんだ?」
「そーですね……どこまで行きましょうか?」
「なんだそりゃ?叢雲と示し合わせてたんじゃないのか?」
「漣はご主人さまを食堂から引き離すだけの役なので。みんなが何を話してるかは知ってますが」
「ほう……詳しく聞こうじゃないか」
「だめでーすっ!ご主人さまをここまで引っ張ってきた意味無くなっちゃうじゃないですか!」
そう言いながら、あっかんべーのポーズをする漣。
……ちくしょう何だそのポーズ、ちょっと可愛いじゃないか。
「しかし、艦娘のみんなが愛佳と話ねぇ……。帰って来た時の様子もおかしかったし、何の話してるんだろうか」
「うーん……、ご主人さまの今後に関わる重要な話、とだけ言っておきます」
「ますますもって分からんぞ……」
パッと理由が思い浮かばず、その場で悩み始める龍二。
思い当たる節が無いわけではないが、まさかなぁ……。
「こんな廊下で待つのもアレですし、とりあえず執務室行きません?漣コーヒーが飲みたいなぁ~」
「連れて来たのはキミだけどね……。まあいいや、とりあえず執務室でお茶でも飲んでようか」
「よっしゃ!(゚∀゚)キタコレ!!」
お茶を飲むだけだと言うのに、やたらといい笑顔で反応する漣。
そしてそのまま龍二の腕に抱きつくと、「早く早く!」と急かしてくる。
「漣さんや、さすがにこれはくっつきすぎでは?いろいろ当たってるんですが……」
「『あててんのよ』ってやつですよご主人さま!それとも漣に抱きつかれるのは嫌……ですか?」
「漣みたいな可愛い子に抱き付かれて嫌がる男なんかいないさ。……って問題はそこじゃなくて」
「……だったらいいじゃないですか!役得ですよ役得♪」
そう言いながら執務室へ引っ張っていく漣。
龍二の位置からは見えないが、この時漣の顔は真っ赤だったそうな。
◇
「ん~、アイスカフェオレ(゚д゚)ウマー」
「俺は暑い日でもコーヒーはホット派だなぁ。アイスコーヒーも嫌いじゃないんだが……」
「渋いですねぇ。ま、美味しければ何でもいいってことで」
「まあな」
執務室でコーヒーを飲みながら、漣と世間話に興じる。
書類仕事等が無いわけでもないが、愛佳たちの事が気になって集中できそうにないからだ。
決してサボる口実ではない。決して。
「しかし、空母の航空攻撃はいいもんだな。先制攻撃できるのはデカい」
「ですねー。出撃先も徐々に遠方になってきてるので、弾薬の節約にもなりますし」
「でも今後、深海棲艦側の空母も出てくるんだろうな……そうなると追加で空母を建造してもいいかもな」
「幸いボーキサイトにはまだ余裕ありますしね」
後で工廠長に空母の建造を頼む為、レシピ表を確認する。
そんな龍二の顔を漣はじっと見つめていた。
「どうした?何か顔についてる?」
「いえ……、やっぱりご主人さまはカッコイイなぁと思いまして」
「おいおい何だい藪から棒に……。昔からモテなかったし格好良くはないだろ」
「そんな事ないですよ。ご主人さまはカッコイイし優しいし……」
顔が赤くなるのも気にせずそう言われ、流石の龍二も照れが入る。
そして何を思ったか、漣が龍二の顔に両手を添えてきた。
「お、おい漣…?」
「ご主人さま、キスしたことないんですよね……?」
「誰にそれを……」
「ムラっちが言ってましたよ」
「あいつめ……」
ここにはいない叢雲に、話をバラした事への恨み言を呟く。
まぁ「内緒にしといて」と言わなかった自分に責があるわけだが。
そんなことをしているうちに、徐々に両者の距離が狭まっていく。
「なあ漣?ちょっと落ち着こう?」
「そういえば、初めてのキスはレモン味、なんて言うじゃないですか?」
「あ、ああ。確かにそんなフレーズは聞いた事あるけど……」
「でも漣、ほろ苦いコーヒー味もいいと思うんです……」
「漣!?まさかお前……ちょ、待てって!」
「逃がしませんよ?漣はしつこいから……」
龍二の抵抗も空しく、徐々に近づく2人の顔。
そしてあと少しという所で、ノックも無く扉が開く。
「今戻ったわ」
「うおっっ!?」
「わひゃあっ!?」
急に扉が開いたことと、何よりキスの寸前だったこともあり、心臓が止まりそうなほど驚く2人。
「やっぱりノックせずに入ってきて正解ね、漣……?」
「あ、あのこれは……その……」
「私、『抜け駆け禁止』って釘刺しておいたわよね?」
「う……、はい」
「「私に任せろ!」なんて言うから信じたのに……。これはお仕置きね」
「あわわわわ…」
龍二そっちのけで漣に説教をする叢雲。
そのまま漣の首根っこを掴むと、執務室を出て行こうとする。
「ちなみに、あなたの彼女はもう帰るそうよ。ロビーに待たせてるから挨拶してらっしゃいな」
「お、おう、分かった……」
そう一言だけ残すと、再度漣を引きずりながらどこかへと消えていく。
一瞬頭の中に「ドナドナ」が流れたのは気のせいじゃないはず。
そんなアホなことを考えながら、ロビーへと向かう龍二であった。
◇
「あ、龍二~!」
「なんだもう帰るのか。積もる話もあるんだけどな……」
「でも本当は、私がここにいちゃ駄目なんでしょ?たまたま今回は入れたけど……」
「まあ、な。大本営に知られたら大目玉どころの話じゃないかもしれん」
「でしょ?だから今回はもう帰るよ」
「……そうか」
引き留めたい気持ちもあるが、愛佳自身が罰せられるのはどうしても避けたい。
いずれ提督としての功績を積んでいけば、その辺りも融通してもらえるかもしれない。
とりあえずはそれまでの辛抱だ。
「ねぇ龍二、深海棲艦との戦いってまだまだ続くんだよね?」
「そうだな……。戦いは始まったばかりだし、まだまだ先が見えないのが現状かな」
「だよね……」
少し気落ちしたような表情をする愛佳。
慌ててフォローしようとするが、再度話し始めた愛佳に遮られる。
「龍二ってこの鎮守府から一切出られないの?」
「いや、そんな事は無いよ。日用品の買い出しとかで近くの店に行ったりもするし」
「なるほど、そうなんだ……」
「ああ……。んで、それがどうかした?」
「え?うーんと……内緒♪」
「??」
頭に2~3個はてなマークを浮かべる龍二を他所に、にっこりと微笑む愛佳。
その表情は、いたずらを仕掛けた子供のような微笑みだった。
「帰りの飛行機無くなっちゃうし、そろそろ行くね」
「ああ、分かった。気をつけてな?」
「ありがと♪あと……」
「あと?」
「私も負けないから、ねっ!」
「んんっ!?」
トテトテと近づいてきたかと思うと、チョンと背伸びして龍二にキスをする愛佳。
初めてのキスに驚きながらも、予想外の行動に龍二は顔を赤くする。
「おまっ、急に……」
「えへへ♪それじゃまたね~!」
龍二と同じように顔を赤くしながら、そのまま手を振って走り去っていく。
去り際に「またすぐ会えるから」と言っていたが、どういう意味なのか……。
そして、今の様子を複数の艦娘が見ていたことに気付かない龍二。
今後彼の胃がどうなってしまうのか……それは天のみぞ知る。
愛佳が何かを企んでいるようです。
そしてあっさりと龍二の初キスを奪われた艦娘達はどうするのか?
まだこの先は書いてませんが、いろんなパターンの展開が出てきそうで楽しみです。