提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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プロローグだけじゃアレなので、とりあえず1話だけあげときます。


第1話

「ここが佐世保鎮守府か…」

 

時刻は一四三〇。

遅刻が大嫌いな(他人が遅刻するのは気にならない)彼は、指定された時間の30分前に鎮守府に到着していた。

関東から九州というちょっとした旅行レベルの移動で少し疲れていたが、鎮守府を目の前にした途端疲れはどこかへ行ってしまった。

想像していたよりもずっと立派な建物だったからである。

 

「今日から…というか執務は実際明日からだけど、俺やっていけるのかなぁ…」

 

出発時の前向きさはどこへやら。

この鎮守府の実質トップとなる事に若干気後れを感じながら、門の前にいる守衛らしき人物へ向かい歩を進める。

出頭から今日までで、まだ1ヶ月程度しかたっていない為、仕方ないといえば仕方ないのだが。

 

「お待ちください。この鎮守府に何か御用でしょうか?」

 

勤勉そうな守衛に身分証明書を渡し、習ったばかりの海軍式の敬礼で応対する。

 

「ご苦労様です!本日より佐世保鎮守府に配属となった須藤龍二です」

 

「お話は伺っております。ようこそ、佐世保鎮守府へ」

 

同じく敬礼で応対した守衛に門を開けてもらい、鎮守府の中へ向かう。

精巧な作りの扉を開くと、眼前にはこれまた想像以上に立派なエントランスが広がっていた。

外観も立派だが中はそれ以上に広く見え、自分の立場がどれだけのものなのかを改めて認識する。

もちろん気後れ具合も倍プッシュである。

 

「中もやっぱり立派だなぁ。あ、そう言えば…」

 

ふと思い出し、荷物の中から案内状を取り出し確認する。

そこには、「現地到着後は、貴官が能力テスト時に建造した初期艦が案内する」という旨が記されていた。

まだ直接会った事は無かったが、テストでは3回ほど建造した記憶がある。

建造された艦娘の名前は…えーと…

 

「あんたが司令官?」

 

「?」

 

必死に名前を思い出そうとしていたが、気の強そうな女性の声に思考を遮られ、反射的に視線を上げる。

するとそこには、流れる清流のような煌めきをもつ銀髪を腰まで伸ばし、白のセーラー服をアレンジしたようなワンピース?に身を包んだ

可憐な少女が立っていた。

あまりにも現実離れした美しい容姿に、思わず思考が停止する。

 

「どうしたの?もしかしてただの侵入者かしら?」

 

「いや、違う違う!今日から提督として配属された須藤龍二で合ってるよ。よろしく…えーと」

 

「なに?もしかして自分で建造した艦娘の名前すら覚えてないの?」

 

「うっ、面目ない…」

 

「全く、仕方ないわね…叢雲よ。ム・ラ・ク・モ。覚えておきなさい」

 

「む、叢雲だね。君が初期艦でいいのかな?」

 

「ええ、大本営からはそう聞いてるわ」

 

「了解。これからよろしくね」

 

「…っ」

 

笑顔で右手を差し出すと、なぜか頬を染めながら握手に応える叢雲。

はて、今の会話の中で赤面する場面があっただろうか?

それとも体調でも悪いのだろうか

 

「なんだか顔が赤いようだけど大丈夫?もしかして体調が優れなかったりするかい?」

 

「なっ、何でもないわ!案内するからつ、付いてきなさい」

 

「う、うん…」

 

どうやら体調が悪いわけではなさそうだ。

とりあえず案内に集中する為、足早に歩く叢雲の後を慌てて追いかけた。

 

 

 

 

広い建物にはそれ相応の数の部屋があり、食堂や応接室のように普通に目にする部屋もあれば、工廠や修理ドックのように艦娘専門の設備まで様々である。

さらに、店員はまだいないが酒保まであるようだ。

叢雲の話によると、酒保と食堂の担当は明日から鎮守府に配属となるとのこと。

 

「とりあえず案内は以上だけど…何か質問は?」

 

「うーん、今のところは大丈夫。工廠とかは使うときに改めて覚えるよ」

 

「わかったわ」

 

やたらと広い鎮守府を歩き回ったせいか、体が休息を求めていた。

腕時計に目を落とすと、既に時間は一七三〇を過ぎ。

そろそろ日が傾き始める頃だろう。

ふととある事に気付き、叢雲に問いかける。

 

「あれ?今日の夕ご飯ってどうすりゃいいんだ?」

 

「そう言えば…間宮さんが来るのは明日って言ってたわね」

 

「ということは、自分で用意しろってこと?」

 

「誰もいないし、そうするしかないんじゃない?そもそも食材はもうあるのかしら?」

 

「分からん…とりあえず食堂に行ってみようか」

 

せめて食材があることを祈りつつ、食堂へ向かう。

ここから一番近いスーパーを目指すとしても、車すらない今の状態では戻ってくるまで何時間かかるか分かったものではない。

とりあえず現状を確認するべく食糧庫を開いてみると、米や調味料等は大量に揃っていた。

また、業務用の巨大な冷蔵庫の中には野菜や肉、魚などがある程度揃っており、当面の食材に関しては問題無さそうだった。

ちなみに、艦娘も人間と同じものを食べるらしい。

そこに加え、出撃や遠征を行った場合は燃料や弾薬の補給も必要らしいが。

 

「食材はあった。時間もそろそろ夕飯時だけど…叢雲は料理を作れるかい?」

 

「うっ…。経験が無いから味の保証はしないけど、それでもいいなら…」

 

そう言いながらしょんぼりとしてしまう叢雲。

建造されてからまだ1ヶ月しか経っていないのだから、作れなくて当然といえば当然なのだが。

 

「わかった。じゃあ今晩は俺が作るよ」

 

「アンタ、料理なんて作れるの?」

 

「簡単なものならね。得意ってわけじゃないから、あんまり美味しくなくても文句言わないでくれよ?」

 

「少なくとも今の私よりは上手いだろうし…文句は言わないわよ」

 

「そか。じゃあちゃっちゃと作っちゃうから、座って待ってて」

 

手を洗いながら、視線でテーブルに座るよう促す。

さて、材料は豊富にあるが…手っ取り早く作るとしたらアレでいいかな。

頭の中でアレやコレやと夕飯の献立を考えつつ、食材を取りに食糧庫へ向かうのだった。

 

 

 

 

「はい、お待たせ」

 

出来立ての食事を叢雲の座るテーブルに運ぶ。

今晩のメニューは、エビピラフと肉野菜炒め、あとは即席のコンソメスープだ。

本当はチャーハンにしたかったのだが、1からご飯を炊いていたのでは時間がかかってしまうため、米のまま調理できるピラフにしたのだ。

 

「ありがとう…よくあの短時間で作れたわね」

 

「そんなに手間のかかる料理じゃないからね」

 

「そうなの?とてもそうは見えないけど…」

 

「まぁまぁ。とりあえず問題は味だから、とりあえず食べようか」

 

「作りたてなのに冷めたら勿体ないものね。それじゃあ頂きます」

 

しっかり手を合わせて頂きますをし、メインのピラフへと手を伸ばす。

口に入れた途端、叢雲の顔が驚愕に染まる。

 

「驚いた…なによこれ、すっごい美味しいじゃない!」

 

「お口に合ったようで良かったよ」

 

「…っ」

 

美味しいと言われ、思わず笑顔で返す龍二。

そしてこちらを見つめたまま、昼間の握手の時と同じように頬を赤く染める叢雲。

やはり熱でもあるのだろうか?

そもそも艦娘が風邪をひいたりするのかも分かっていないのだが…。

 

「…ちょっと失礼」

 

「んなっ!?」

 

叢雲と自分の額に手を当てて熱を測ってみるが、とりあえず熱はないようだ。

既に頬だけでなく顔全体が真っ赤に染まっているのだが、真剣に体調を心配する龍二が気付く気配はない。

 

「熱はなさそうだけど…」

 

「~~~っ!!」

 

「っておい、そんなに急いで食べなくても…」

 

ピラフの乗った皿を傾け、ガツガツというオノマトペが見えそうなほどの勢いで平らげていく。

叢雲の急な変化に思考を強制停止された龍二は、思わず彼女を凝視する。

 

「……ふうっ、ごちそうさまっ!」

 

「お、お粗末様でした…」

 

「そ、それじゃあ私は部屋に戻るから。明日寝坊するんじゃないわよ!」

 

「あ、ああ…」

 

「じゃあおやすみっ!」

 

そう言い残すと、叢雲は足早に食堂を後にした。

食堂を後にする際、ドアから顔だけを出し「ご飯、美味しかったわ。…それだけっ!」と言い残していくあたり、根は優しい子なのだろう。

そして残された龍二はというと、しばらくポカーンとした後「やはり体調が悪かったのか…」と結論付けた。

いろいろと残念な男である。

 

 

 

 

後片付けを終え、通常行う執務室とは別に宛がわれた提督用の私室へと向かう。

皺にならないよう軍服をハンガーにかけ、備え付けのベッドに横になる。

 

「ふぅ…明日から本番かぁ」

 

明日からの生活について少し考えようかと思ったが、横になった途端強烈な睡魔が襲ってくる。

早朝からの関東~九州の大移動に加え、不安や緊張からくる気疲れも合わされば誰だって眠たくもなる。

 

「あ、そういえば目覚まし…荷物のな…かに…」

 

持ってきた目覚ましをセットしておこうとしたが、途中で睡魔に負け力尽きてしまう。

明日の寝坊が確定した瞬間である。




私の知ってる叢雲じゃない!なんていう意見が多そうですが、何卒ご容赦を…

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