提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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少し遅くなりましたが、後編をお届けします。
なかなかオチが決まりませんでした……


第19話 その2

榛名が「提督ー!!」と叫びながら、すぐ横を通り過ぎていく。

廊下の角を曲がってすぐに死角になる場所があって助かった。

 

「とりあえず一難去ったか……これからどうするかなぁ」

 

乱れた呼吸を何とか落ち着かせながら、次にどう行動すればいいかを考える。

あまりここで時間をかけていると榛名が戻ってきてしまう。

次に移る行動について、あーでもないこーでもないと頭の中で考えていると、ふと艦娘があまり来ないであろう場所を思いついた。

 

「とりあえず移動しよう。また榛名と追っかけっこは流石に体力が持たん……」

 

付近に誰も居ない事を確認すると、こっそりと移動を開始する。

とりあえず向かうは鎮守府の外だ。

 

 

 

 

龍二がスニーキングミッションよろしくこそこそとやってきたのは、鎮守府とは別に建っている工廠だった。

普段ここに来る艦娘はほとんどいないし、誰かが捜しに来たとしても隠れる場所に事欠かない。

口裏合わせが必要なので、とりあえず工廠長の姿を探す。

 

「おや提督さん、お久しぶりです」

 

「お久しぶりです工廠長。ちょっとお願いしたいことが……」

 

「はて、建造か開発ですかな?」

 

「いえ、今日はそうではなく……」

 

「??」

 

要領を得ないという表情の工廠長に、今の現状を説明する。

途中えらいニヤニヤされたりもしたが、気付かなかったフリをしておく。

 

「なるほど、そんな事が……愛されてますなぁ」

 

「茶化さないで下さいよ~。そういう訳なので、できれば……」

 

「ここには提督さんは来てない、って事にしておけばいいんですね?」

 

「さすが工廠長、話が早くて助かります!」

 

「その代わりと言っては何ですが、近いうちに建造や開発をしに来てくださいよ?あれが私たちのアイデンティティなんですから」

 

「わ、わかりました。近いうちにまた伺います」

 

工廠長と約束をした後、上手く隠れられる場所を探し始める。

しかし建造と開発か……まあこの前の宴会で決心したことだし、いい加減腹を括ろう。

このまま体質を気にして建造を渋ってたら、いつまで経っても鎮守府を大きくできない。

 

「ふむ、ここでいいか」

 

手ごろな場所を見つけると、工廠長にアイコンタクトをして隠れている場所を教える。

何やら右手の親指を立てて「任せろ!」的な表情をしてるが、果たして本当に大丈夫だろうか?

楽しい事が大好きな彼らが、変に気を使わない事を祈るばかりである。

……そうこうしているうちに、早くも誰かやってきたようだ。

見つからないように身を隠し、聞き耳を立てる。

 

「おや工廠長さん、お疲れ様で~す!」

 

「これはこれは漣さん、艤装の整備ですか?」

 

「いえ、実は今ご主人さまを探してて……ここには来てません?」

 

「今日はまだいらっしゃってないですね」

 

「そっかー」

 

やってきたのは漣だったようだ。

工廠長もしっかりと口裏を合わせてくれてるし、とりあえず一安心か。

ホッと胸を撫で下ろした辺りで、会話が聞こえなくなっている事に気付く。

入口の扉を開閉したような音も無かったので、まだ工廠内にいる筈なのだが……

 

「ご主人さま見つけたっ!」

 

「うえぇっ!?」

 

いきなり近距離で声が聞こえ驚いて振り向くと、すぐ後ろで漣がこちらを見下ろしていた。

手ごろな場所に身を隠したとはいえ、そんなに簡単に見つかるような場所ではないのだが……

 

「な、なんでここが……」

 

「工廠長に間宮さんの羊羹あげたら、あっさりと教えてくれました♪」

 

「工廠長おおおおぉぉぉ!」

 

思わず工廠長の方を見ると、間宮の羊羹を頬張りながら「てへっ☆」という顔をしていた。

恨み言の1つも言ってやろうかと思ったが、その仕草に早速毒気を抜かれてしまった。

ちくしょう可愛いじゃないか……

 

「ふっふっふっ……もう逃がしませんよご主人さま。大人しく私と温泉旅行に言って、くんずほぐれつ楽しみましょう♪」

 

「ちょっと待って、くんずほぐれつって何する気!?」

 

「それはお楽しみってことで」

 

「ぐぬぬ……」

 

一歩、また一歩とにじり寄ってくる漣。

背後には壁、龍二絶体絶命の大ピンチである。

 

「……あっ、あそこに建造が完了したばかりの曙が!?」

 

「そんな古典的な方法で……って曙!?」

 

(今だっ!!)

 

「っ!?しまったっ!?」

 

まだ着任していない姉妹艦の名前が出てきたことで、思わず振り向いてしまう漣。

行動に移しておいて何だが、まさかこんな方法で抜けられるとは思わなんだ。

 

(ありがとう曙ちゃん!まだ会ったこともないけど勝手に名前使ってごめんね!)

 

心の中で顔も知らぬ曙に謝罪しつつも、工廠の入り口へとダッシュする。

漣も慌てて追いかけてくるが、とりあえず追いかけっこの構図までは持ち込めた。

あとは榛名の時と同じように撒ければS勝利だ。

隠れている内に回復した体力をフルに使いながら、再度鬼ごっこを開始するのであった。

 

 

 

 

「ハァっ、ハアっ……ここだっ!」

 

漣に見えない位置でドアを見つけたので、とりあえず身を隠すために中に飛び込む。

ドアの前で一度足音が止まってヒヤッとしたものの、こちらを確認する事無く去っていく漣。

何だかんだで細かい所に気が付く子なので正直バレるかと思ったが、案外どうにかなるもんだ。

 

「ハアっ、ここへ来て運動不足が祟ったな……正直しんどすぎる」

 

中々落ち着かない呼吸にそんな事を呟きながら、確認もせずに入った部屋の中を確認する。

大量の籠に大きな鏡、そして体重計……どうやら大浴場に入ってしまったらしい。

誰かが入ってくる可能性もあるし、ここも早々に退散せねば……と考えているとき、不意に背後から人の気配を感じた。

慌てて振り向くと、そこには今まさに風呂から上がったであろう神通が、バスタオルで身体を隠しながら驚きの表情を浮かべていた。

oh、よりによってまた神通とは……彼女とは何か風呂場での縁があるのだろうか?

 

「て、提督……?」

 

「うあっ、すまん!すぐに出るよ!」

 

「あっ、今出ると……」

 

慌てて大浴場から出ようとするものの、丁度引き返してきた漣が「どこ行ったのかなー?」と言いながら近づいてきた。

そしてそのまま大浴場の前まで来ると「ここかしらん?」と言いながら入ってこようとしている。

マズい、非常にマズい事になった。

 

「提督っ、こっちです……」

 

「ちょっ、神通?」

 

「ここに隠れててください。私が何とかしますから……」

 

「あ、ありがとう」

 

神通に半ば無理やり掃除用ロッカーに押し込まれるのとほぼ同時に、漣が大浴場に入ってくる。

あぶなかった……あと2秒遅かったら見つかっていたことだろう。

ロッカーからは外の光景が見えないので、とりあえず会話に聞き耳を立てる。

 

「おや、神通さんではないですか。今お風呂から出たところで?」

 

「え、ええ。ついさっき遠征から戻ったので……」

 

「なるほど、そうでしたか。ちなみにご主人さまは来て……ないですよね?」

 

「今日はまだお見かけしてないですね……例のチケットの話ですか?」

 

「おや、遠征戻りの神通さんもご存じで?」

 

「青葉さんから通信がありましたから……」

 

「流石青葉さん、遠征要員にまでしっかり通信入れるとは」

 

どうやら遠征に行ってもらっていた神通も、この件について既に知っているようだ。

それにしても青葉め、しっかりと遠征メンバーにまで伝えているとは……あとでシバく。

 

「ではでは、漣は別の所を探してみます!」

 

「はい、頑張ってくださいね」

 

「神通さんも、ね♪」

 

「あ、あはは……」

 

そのまま大浴場を後にする漣。

何とか助かりはしたものの、神通も知っているとなると、一難去ってまた一難な予感が……

 

「て、提督?もう出てきて大丈夫ですよ……?」

 

「あ、ああ……」

 

何時までもカビ臭い掃除用具と一緒に居たくはないので、とりあえずロッカーを出る。

軍服に匂いが移っていないか少し心配である。

 

「ありがとう神通、助かったよ……って、まだ着替えてなかったのか!?」

 

「えっ、あのっ、これは……」

 

「確認せずに入ってしまって済まなかった!すぐに出るから」

 

「……あのっ、提督、待ってください!」

 

「えっ?」

 

慌てて大浴場を出ようとする龍二の服の裾をギュッと掴む神通。

やばい、この後の展開が読めて来たぞ……

 

「あの、もう旅行のお相手は決まっちゃいましたか……?」

 

「い、いや、まだ決まってはいないけど……」

 

「わ、私とでは駄目ですか?提督と一緒に旅行、行ってみたいです……」

 

「え、えーと、その……だな」

 

「駄目……ですか?」

 

「ちょっ、神通近い近い!」

 

身体にバスタオルを巻いただけの神通が、壁に追い詰められた龍二にグイッと詰め寄る。

正直、身体のあちこちに柔らかい感触がして気が気でじゃない。

 

「提督……」

 

そのままキスでもしそうなほど顔と顔が接近する。

何とか必死に抵抗するものの、艦娘の規格外の力に勝てる筈も無く、無情にもキスへのカウントダウンが始まってしまったその時……

 

「ここには……って、見つけたわよ!というか何やってるの!?」

 

「ひゃっ、む、叢雲さん!?」

 

MK5状態だった2人の距離を広げたのは、龍二を探しに来た叢雲だった。

頭のうさ耳っぽい艤装が真っ赤に点滅しており、ご丁寧にも激おこ状態であることを伝えてくる。

 

「ちょっと神通さん!そ、そんな恰好のまま迫るなんて……」

 

「いえ、これはっ……」

 

「なんて羨ま……ゲフンゲフン、なんて破廉恥なことを!」

 

「いま羨ましいって言いそうに……」

 

「なってない!」

 

「ひゃいっ!?」

 

(なんか知らんがケンカし始めたぞ……これはチャンスなのでは?)

 

龍二そっちのけで口論を始める2人。

口論といっても、叢雲が一方的に攻めたり自爆したりしているだけのような気もするが……

とりあえずこの隙に乗じて大浴場から脱出することにする。

 

「龍二!アンタも少しくらいは抵抗……ってあれ、龍二は?」

 

「……いつの間にか逃げられちゃったみたいですね」

 

「あんの根性無し……待ちなさーい!」

 

「あっ、私も……」

 

「神通さんはまず服を着る!」

 

「きゃっ!?」

 

ほんの僅かの差で逃げられてしまった龍二を、2人は必死になって探し始める。

鬼ごっこ継続。というか終わりは来るのだろうか……?

 

 

 

 

その後の龍二はというと……

 

「「「まてー!!!」」」

 

「か、勘弁してくれ……」

 

途中で出会ってしまった艦娘に悉く追いかけられ、息も絶え絶えになりながら逃走を続けていた。

だが現実は無常、ついに魔の一手が龍二に襲い掛かる。

 

「そうだっ、威力を最低限にした九九艦爆で足止めしちゃおう!」

 

「いいアイデアね、手伝うわよ瑞鳳!」

 

「ちょっ、艤装使うとか正気かっ!?」

 

「大丈夫大丈夫、ちょっと服が燃える位だから♪」

 

「大丈夫じゃない!やめろー!!」

 

龍二の叫びも空しく、瑞鳳・祥鳳から放たれる九九艦爆。

流石に艦載機から逃げられるはずも無く、あっという間に射程圏内に迫られてしまう。

そして今まさに爆弾が投下される時に、誰かがポツリと呟いた。

 

「あれ、そう言えばチケットって提督が持ってるんじゃ……」

 

「あっ」

 

時既に遅しとは正にこの事か。

既に止められるタイミングではなく、そのまま投下されていく爆弾。

 

「ぎゃあああああ!?」

 

威力を最低限にしたとはいえ、深海棲艦をも倒す艦載機から投下される爆弾である。

それなりの爆発を見せながら龍二に襲い掛かる。

そして煙の中から出てきたのは、水爆ヘアーにボロボロの軍服を纏った龍二と、無情にも灰と化したチケットだけだった……

 

 

 

 

後日、執務室にて。

 

「青葉、トイレ掃除1週間な」

 

「なんでですかっ!?」

 

「無駄に話を広げた罰。そのおかげでどれだけ俺が苦しんだことか……」

 

「でも青葉にはジャーナリストとしての……」

 

「やかましい!反省しなさい!」

 

「はーい……でも提督も律儀ですよね。行きたくないのなら追いかけ回されてる間に焼くなり破くなりすればよかったのに……」

 

「あ……」

 

「あれ、もしかして気付いてなかった……とか?」

 

「……」

 

「……」

 

「青葉、トイレ掃除2週間に延長な」

 

「ちょっ、職権乱用ですよっ!!」

 

結局誰とも旅行に行くことは無くなったようだが、青葉は滅茶苦茶怒られた。

あと、祥鳳と瑞鳳はしばらく他の艦娘に頭が上がらなかったそうな。

 




だいぶ長くなりましたね。
いっそ2分割してもよかったかも?

次は誰の餌食になるのでしょうか……?

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