提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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第20話

とある日の昼下がり。

本日の秘書艦である阿武隈と執務をこなしていると、少し困惑気味に話しかけて来た。

 

「あのー提督、こんなものが……」

 

「ん?どれどれ……カメラ用品を酒保に入れてほしい?」

 

「無記名ですけど、十中八九青葉さんでしょうね」

 

「だろうな……しかしカメラ用品なんて青葉にしか需要無いし、可愛そうだけど却下だな」

 

「ですよねぇ。他にカメラ使ってる人なんて見た事ないし……」

 

「最近は上も「任務に必要ないものの発注が多すぎるだろ!」ってうるさくてさ……ああいうお歴々は現場の士気がどれだけ大切な物か分かってないよな」

 

「あたしも酒保はよく利用しますけど、ヘアスプレーとか急に無くなったら困るなぁ……」

 

「まあ俺もちゃんとした軍人じゃないから偉そうな事言えないけど、「上層部が現場を見ていない」なんて話はよく聞くからね」

 

阿武隈と社会の世知辛さを語りながら、青葉の具申書に不許可の印を押す。

別に上の連中が怖いわけでは無く、本当なら仕入れてやりたい所ではあるが、あまり無理を言い過ぎて他のものまで仕入れ制限をかけられてしまっては困るのだ。

決して前回の温泉旅行騒動を根に持っている訳では無い。いいね?

 

「阿武隈、すまないがこれを青葉に」

 

「はーい」

 

不許可の印を押した具申書を阿武隈に渡し、青葉に届けるよう指示を出す。

もちろん不許可の理由も添えておいたが、果たして納得してくれるだろうか?

少し不安になりながらも、次の書類へと手を伸ばすのであった。

 

 

 

 

「司令官!!!」

 

「うおっ!?」

 

「ひゃあ!?」

 

阿武隈が戻ってきてからわずか数分後。

えらい勢いでドアが開け放たれたかと思うと、機嫌の悪そうな青葉が鼻息荒く入ってきた。

ああ、やっぱりこうなったか……

 

「司令官っ、なんでカメラ用品を置いてくれないんですか!」

 

「いや、一応具申書で返答しただろ?」

 

「「青葉のカメラにかける情熱は理解しているが、諸々の理由で仕入れられない」……って、こんなんじゃ納得できないですよ!」

 

「ちゃんとした理由はあるんだよ。上の連中から文句が来てたり、無理に押し通した結果今まで仕入れられてた物まで仕入れられなくなったら困るとか……」

 

「う~~~、でもでもっ、今みたいな湿気の多い季節はこまめに手入れしないとダメなんですよぅ!」

 

「そう言われてもな……必要になった時に注文する形じゃだめなのか?」

 

「実物を見ないと注文なんて出来ませんよ~!」

 

「ったく、わがままガールめ……」

 

尚も駄々をこね続ける青葉。

一応助けを求める意味で阿武隈に視線を送ってみるが、視線に気づいた阿武隈は「お茶入れてきますね~」と言って部屋を出て行ってしまった。くそう、逃げたな。

仕方ない、最終手段を使うしかないか……あまり気乗りはしないのだが。

 

「青葉、今度俺の非番の日に一緒に街に行くぞ」

 

「ふえっ?」

 

「酒保には仕入れられないけど、直接買いに行く分にはいいだろ?」

 

「え、い、いいんですか!?」

 

「今回だけな。次回からは注文にしてくれよ?」

 

「はい!もちろんです!」

 

「あと他の奴には内緒な。この前の騒動みたいな事になったら敵わん」

 

「あ、あはは……りょ、了解しました~」

 

流石に前回の騒動に対する罪の意識はあるようだが、念には念をという事で改めて釘をさしておく。

とりあえず納得した青葉は「約束ですよ~!」と言いながら、笑顔で執務室を出ていった。

ちょうどドア前で入れ違いになった阿武隈が不思議そうな顔をしている。

 

「青葉さんがすごい笑顔で出ていきましたけど……どうやって説得したんですか?」

 

「内緒。途中で逃げた奴には教えてやらん!」

 

「なんですかそれ~!教えて下さいよ~」

 

頬を膨らませながらせがむ阿武隈を適当にあしらいつつ、次の非番の日について考える。

願わくば、誰にもバレずに穏便に1日が過ぎますように……

 

 

 

 

そして非番日当日、待ち合わせ場所のバス停にて。

 

「あ、しれいか~ん!」

 

「早いな青葉、まだ約束の時間より10分も前だぞ?」

 

「いや~、待ちきれなくて思わず出てきちゃいました!」

 

「そ、そうか……」

 

常日頃から高いテンションが5割増し位になっている青葉を前に、思わずたじろぐ龍二。

とはいえここまで喜んでくれるのなら、今日までバレやしないかとビクビクしながら過ごしていた日々も報われると言うものだ。

 

「そういえば、青葉司令官の私服姿初めて見ましたね~」

 

「普段は軍服しか着ないからな。何気に俺の私服姿を見たことある奴は少ないかもしれん」

 

「それはいい事聞きました!司令官、是非1枚お願いします!」

 

「1枚って写真か?まあその位ならいいけど……」

 

「ありがとうございます!では……はい、ポーズ!」

 

「っておい!腕に抱き付いてツーショットなんて聞いてないぞ!」

 

「だって言ってませんも~ん」

 

「今すぐ消すんだ、青葉!」

 

「嫌で~す♪」

 

青葉はあまりアピールしてくるイメージが無かったので、完全に油断していた。

撮られた写真を消そうにも、既にカメラを胸に抱かれてしまっている以上手出しができない。

当の本人は本人で、悪びれた様子が微塵も感じられない。

 

「はぁ……、せめて他の奴には見せるなよ?頼むから……」

 

「大丈夫です!これは青葉だけの宝物です♪」

 

そう言って少しだけ頬を染める青葉に、つい目線を奪われてしまう。

龍二の私服がレアならば、頬を染める青葉は激レアではなかろうか。

そんな事を考えているうちにバスが到着したので、2人でそれに乗って街へと向かう。

バスに乗ってからも、青葉はしばらく頬を染めたままだった。

 

 

 

 

「おお~!カメラ用品がこんなに!!」

 

「この街唯一のカメラ専門店だからな。気が済むまで見て回ってくれ」

 

こちらの言葉が終わらないうちに、子供のように目を輝かせながら店内へと走り出す青葉。

輝きすぎて目がしいたけみたいになっているのは気のせいか。

この調子だと結構時間が掛かりそうなので、龍二も適当に店内を見て回ることに。

 

「ふむふむ……デジカメってやつはいろいろな機能があるんだな」

 

名刺サイズくらいのデジカメを手に取りながら、そんな事を呟く。

カメラにそれほど興味があるわけでもなく、ましてやこのご時世に碌にデジタル製品を使いこなせないアナログな人間なのでイマイチ分からない機能もあるが、それでも高性能である事位は分かる。

でも青葉のカメラはフィルムを使うタイプだったよな……と考えていたとき、ふとある疑問が浮かび上がる。

 

「あいつの持ってるカメラ、建造時には既に持ってたけど……実在するカメラなのか?」

 

そう呟きつつ、建造してすぐに写真を撮られたことを思い出す。

実際青葉が撮った写真を見せてもらったこともあるし、それを使った新聞のようなものを不定期に発行している事は知っているので、カメラとしての機能は正常にあるのだろうが……

 

「どうしました司令官?デジカメでも買うんですか?」

 

「青葉か。もう買い物は済んだのか?」」

 

「はい!おかげさまでいい物が買えました♪」

 

「もう少し見て回っててもいいんだぞ?」

 

「大丈夫です!さっき店長さんとお話して、カメラ用品のパンフレットを定期的に送ってもらう事にしました!」

 

「送ってもらうって鎮守府にか?またお前は勝手に……」

 

「だ、駄目でしたか……?」

 

「……まあ送ってもらうだけなら大丈夫だろ。ただ、今後こういう時は事前に相談してくれよ?」

 

「はーい、了解です!」

 

とりあえずはこれで、欲しい時に注文という形をとってもらえるだろう。

一応注意はしたものの、そう言う意味では青葉の行動はありがたかった。

 

「それでそれで、司令官はどれを買うんですか!?」

 

「いや、デジカメなんて買っても持て余すだろうからな。それより青葉に聞きたいことがあるんだが…」

 

「はて、何でしょう?」

 

「お前の持ってるそのカメラって実在するカメラなのか?」

 

「あー、このカメラですか。一応実在はするみたいなんですけど、そうとう古い型らしいです」

 

「そうなのか?」

 

「実は店長と会話するキッカケがこのカメラだったんですよ。古い型の割に綺麗だったから……って」

 

「なるほどな……とすると、戦時中あたりに作られたカメラなのかもな」

 

「そうかもしれません。そのせいかこまめに手入れしてあげないと、拗ねてちゃんと撮れなくなったり……」

 

口ではそう言いつつも、愛おしそうな表情でカメラを撫でる。

手入れをする手間よりも、カメラに対する愛着の方が強いのだろう。

 

「……大切な物なんだな」

 

「はい!青葉は当時の記憶は無いですが、自分の分身みたいに感じます……」

 

「そうか……」

 

なんとなく、青葉の頭をワシャワシャと強めに撫でる。

髪の毛が乱れることを気にして抵抗してくる青葉をあしらいながら。

それは青葉の要望に応えてやれない罪悪感からか、それとも少し寂しそうな表情の青葉を元気付けたかったが為の行動か。

龍二自身にも分からなかったが、身体が勝手に動いたのだから仕方ない。

 

「んも~、髪の毛ぐちゃぐちゃですよ~……」

 

「ははは、すまんすまん」

 

「女の子の髪は丁寧に扱わないとダメなんですよ?」

 

「悪かったって。……じゃあ、そろそろ行くか」

 

「は~い」

 

最後に青葉は店長に挨拶すると、帰りのバス停へと向かう。

途中、タタタッと走り出したかと思うと、青葉はくるりとこちらを振り返った。

 

「司令官!青葉、アルバムを作ろうと思うんです」

 

「アルバム?」

 

「はい!鎮守府の皆の笑顔で満たされた、あったかいアルバムを作りたいです!」

 

「あったかいアルバムか……いいんじゃないか?」

 

「出来上がったら、一番最初に司令官の所に持ってきますね!」

 

「ああ、楽しみにしてるよ」

 

「はい!青葉にお任せっ♪」

 

ふと、先ほどのカメラ屋でデジカメでも買っておくべきだったと考える。

夕日を背に浴びた青葉のとびきりの笑顔を、アルバムに収めたいと思ったから。

 




今回は青葉回でした。
内容はいつも通り稚拙な物ですが、長さだけは丁度いい感じになったのではないでしょうか?

次のメイン艦は誰にしようか悩み中です。
そう言えば妖精さんとの約束もありましたので、もしかすると登場人物が増えるかもしれません。
あくまで「かも」なので、期待はしないで下さい。
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