提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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今日も間に合わないかと思った……
とりあえず仕上がりましたので投稿します。


第21話

「潜水艦……?」

 

「ああ。少し特殊な艦種で使いどころが難しいけれど、戦術の幅は広がると思うんだ」

 

「そうなのか……まだまだ俺も勉強が必要だな」

 

「それを支えるのも秘書艦の仕事さ。ゆっくりでいいから覚えていこうよ」

 

「ああ、そうだな。頼りにしてるぞ、響」

 

そう答えながら、本日の秘書艦である響の頭を撫でる。

本人はすこし恥ずかしそうにしながらも、抵抗する素振りは全くない。

 

先日工廠長と建造の約束をして早数日。

まだかまだかとせっつかれるので、いい加減そろそろ建造しようと思ったのだが、空母と戦艦どちらにしようか悩んでいた。

埒が明かないので響に相談したところ、空母や戦艦という選択肢以外にも、潜水艦というチョイスもアリだという事を知らされたわけだ。

どうやら使用する資材も少ないらしいので、今回はこれで行ってみようと決心する。

 

「よし、響の案を採用して潜水艦狙いで行ってみるよ」

 

「早速建造しに行くのかい?」

 

「ああ。善は急げってやつだな」

 

「じゃあ私も行くよ。艤装の整備以外で工廠に行った事無いからね」

 

そう答えると、響は脱いでいた帽子を被り直して後についてきた。

工廠へ向かいながら潜水艦についていろいろと聞いてみたが、確かにかなり特殊な艦種のようだ。

耐久力低く装甲も脆いが、基本的に戦艦・空母・重巡からは攻撃を受けないらしい。

また隠密行動に優れており、敵に気付かれる前に魚雷で先制攻撃が出来たりと、なかなか尖がった性質をもつようだ。

 

確かにそういう戦い方が出来るとなると、戦術の幅はとても広がるだろう。

惜しむらくは、その戦術を考える提督が未だヒヨッコの域を脱していない事か。

ただし、これは他の艦種の建造でも言えることだが、狙った艦種が100%建造されるとは限らない。

先日の福引で運を使い果たした気がするのだが、上手く建造できるだろうか……?

そんな心配をしながら、とりあえず2人で工廠へと向かうのだった。

 

 

 

 

「工廠長?いますか~?」

 

「はーい、ちょっと待っててくださいね」

 

工廠へ訪れてみると、工廠長も含め何やら慌ただしく作業をしていた。

こういっては何だが、大体いつも暇そうにしている工廠長が作業しているあたり、何かあったのだろうか?

 

「おまたせしました。ついに建造ですか?」

 

「え、ええ。今回は潜水艦レシピで行ってみようかと思いまして」

 

「そう言えば潜水艦はまだ居ませんでしたね」

 

「そうなんですよ。と言うか、さっきまで潜水艦の事を知らなかったんですけどね……戦艦と空母で悩んでたら、響からアドバイスついでに教えてもらいました」

 

ふと響に視線を向けると、「私が教えた!」という感じに軽くドヤ顔をしていた。

普段こういった表情を見せない子なので、思わず吹き出すところであった。

……意外とお茶目なんすね、響さん。

 

「なるほど……何にせよ、潜水艦レシピで建造しちゃっていいんですね?」

 

「ええ、建造ドック2基とも潜水艦レシピでお願いします」

 

「あー……」

 

「?」

 

こちらの依頼に何故か複雑な表情を返してくる工廠長。

大体いつも2基とも同じレシピで建造してたりするんだが、潜水艦は駄目なのだろうか?

同時に建造すると、潜水艦が建造できないジンクスでもあるとか?

 

「どうかしました?」

 

「いえ、建造ドックなんですが今は1基しか使えなくてですね……」

 

「え?どういう事です?」

 

「実は特殊なドックを1基追加しようと思っているんです。ただ、それを作るのに部品がたりなかったので、元々あったドックのものを使用してまして……」

 

「なんと……」

 

「もちろん部品は後で作る予定ですが、どうせ今日も提督さんは来ないかなーと思って、つい……」

 

「それについては反論できませんね……しばらく建造に来なかったのは確かですし」

 

「なので、1隻建造できたらもう1隻建造、という形でもいいですか?」

 

「それは構いませんが……特殊なドックって何ですか?」

 

「大型建造用のドックです」

 

「大型建造?」

 

初めて聞く名前に首を傾げつつ響を見るが、響も分からないようだ。

工廠長に尋ねてみたところ、どうやら通常のドックのハイリスクハイリターン版という事らしい。

このドックでしか建造できない艦もいるが、使用する資材の桁が軽く1個増えるらしい。

非常に強力な艦が建造できるようだが、正直駆け出しなこの鎮守府にはまだ荷が重いのではないだろうか……?

 

「今後この鎮守府が大きくなって来ればいずれ必要になってくるでしょうし、そのまま作成しちゃってください。あ、もちろん部品を引っこ抜いた方のドックも直しておいてくださいね?」

 

「それはもちろんです。では、潜水艦レシピで建造を始めますね」

 

「お願いします!」

 

工廠長に建造をお願いし、とりあえず執務室へ戻る事に。

ただ、潜水艦レシピで出来る艦は建造時間が短いものが多いらしいので、1隻は今日中に建造できるらしい。

もう1隻は明日になるとの事だが、大型建造用のドックを作成しながらの作業なので、仕方ないだろう。

なんとか潜水艦が建造できる事を祈りつつ、響と共に執務室へと戻るのだった。

 

 

 

 

執務室に戻ってからしばらくたった後、工廠長から建造完了の連絡が入ったので、再び工廠へやってきた。

工廠長が申し訳なさそうな表情で出迎えてくれる……何があったのだろうか?

 

「すいません提督さん、どうやら出来たのは駆逐艦のようです……」

 

「そうですか。こればっかりは運次第ですし、仕方ないですって。それに駆逐艦だって貴重な戦力に変わりありませんから」

 

「そう言っていただけるとありがたいです……では、開けますね」

 

工廠長の掛け声と共に、ドックの扉が開いていく。

中からゆっくりと出てきたのは、桃色の髪を後ろで束ね、服は半そでのワイシャツに黒のベストとスカート、そして白い手袋をしている小柄な少女だった。

こちらの存在を捉えると、キリッとした目でこちらを見据え、これまたキリッとした敬礼をして見せてくれた。

思わずこちらも気合が入りそうな、そんな雰囲気が漂ってくる。

 

「陽炎型2番艦の不知火です。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくです」

 

「この鎮守府の提督をやってる須藤龍二だ。まだまだ駆け出しだからむしろこっちが指導してもらう立場になっちゃうかもしれないけど、よろしく」

 

「はい、よろしくお願いします……ところで、この鎮守府には何人の陽炎型が?」

 

「あーすまん、君が最初の陽炎型なんだ。姉妹艦がいなくて寂しいかもしれないけど、他の子もみんないい子だから……な、響?」

 

「そうだね、みんな仲良くやってるよ。まあある事に関しては、仲間にも譲れなかったりするけど」

 

「おい、響……」

 

「そうですか……ちなみに、ある事というのは?」

 

「そのうち分かると思うよ。その点に関してだけはみんなライバルだから」

 

「は、はぁ……」

 

「響、もうその辺で……」

 

響がいらん事を言い出したのでそろそろ止めようとしたら、「そういえばこれから遠征だったんだ」と言いながら工廠を出て行ってしまった。

あるぇ?当日秘書艦担当の子は遠征や出撃とかぶらないようにしてた筈なんだけど……スケジューリングをミスったかな?

 

「そうだ、鎮守府の案内は司令官にお願いするといいよ。本当なら私が担当するんだけど、遠征だから仕方ないよね、司令官?」

 

「あ、ああ、それは構わないけど……」

 

「いいのですか?司令の手を煩わせてしまっても」

 

「今日の仕事はほぼ終わってるから、その点は気にしなくて大丈夫だ」

 

「そうですか。では、よろしくお願いします」

 

そう言いながら頭を下げる不知火。

しかし、さっきは譲れないとか言っておきながら案内を任せてきたり、相変わらずマイペースで考えが読めない子である。

まぁそれは別としても、こちらも少し確かめたい事があるので案内は願ったり叶ったりなのだが。

 

「……不知火の疑問、司令官と案内すれば多分解けるよ」

 

「……えっ?」

 

「どうした響?」

 

「何でもないよ。今度こそ本当に行ってくるね」

 

「あ、ああ。気をつけてな」

 

「……」

 

急に不知火の耳元で何かを呟いたかと思うと、響はそのまま遠征に向かってしまった。

不知火は不知火で何だか考え込んでいる様だし、一体何を吹き込んだのか……

とりあえず固まっている不知火に声をかけ、鎮守府の案内を開始した。

 

 

 

 

「よし、今の食堂で説明は最後だけど、何か質問はあるか?」

 

「いえ大丈夫です。ありがとうございます」

 

「そっか、ならよかった」

 

説明が最後になった食堂を後にすると、外はだいぶ暗くなっていた。

それもそのはず、案内している最中に出会った子に紹介すると、その後ほぼ確実に絡まれたり世間話の相手をさせられたりしていたのだ。

つい先ほども間宮にデザートの試食を頼まれたのだが、食べ終わった後も中々解放してもらえず、食堂を出たのは実に1時間後だったのだ。

 

「ごめんな不知火、建造されて間もなくあちこちで捕まって……疲れただろ?」

 

「いえ、不知火は大丈夫です」

 

「そうか……」

 

あと、工廠で疑問に思った事がどうやら的中したようだ。

建造されてから現在までの態度を鑑みるに、どうやら不知火はいきなりこちらに惚れたりしていないようだ。

他の子と同じ建造方法だと思うのだが、一体何が違うのか……とりあえず、気楽に話せる相手ができたのは非常に嬉しい。

性格も真面目で常にキリッとしているし、ヒヨッコ提督としてはその点も頼りになる。

声には出さずに心の中で喜びながら執務室へ戻ってくる。響がいない所を見ると、まだ遠征からは戻っていないようだ。

その時、ふと声をかけられたので振り返ると、不知火がこちらをじっと見ていた。

 

「司令は、鎮守府の皆に好かれているのですね」

 

「あ、ああ。どうやらそうらしい。別に特別何かやった訳でもないんだけどな……」

 

「ふふ……皆司令の人となりに惹かれたのでしょうね」

 

(笑ってるところ初めて見たな……と言うか、ちょっと雲行きが怪しくなって来たぞ)

 

何となく嫌な予感を感じるが、まぁ気のせいだろうという事にしておく。

この時、その嫌な予感を信じて会話を方向転換させていれば、あんな事には……

 

「嫌われるより全然良いんだけどな」

 

「でも普通は、艦娘が自由に酒保で買い物が出来たり、大浴場に入れるようにしたりする提督はあまりいないと思いますよ」

 

「そうなのかな?命を懸けて戦ってもらってる子達の為に出来ることが、それ位しか思いつかなかったってだけなんだが……」

 

「それが、司令が皆に好かれる理由ですよ。もちろん他にもあるでしょうが……」

 

「という事は、不知火もそう思ってくれてるって事でいいのかな?」

 

「不知火は……」

 

……なんとガードの緩い事か。この男、何も学習出来ていない。

何故この時こんな事を言ったのかと頭を抱えそうになるが、それこそ後の祭り、アフターカーニバルである。

あっという間に距離を詰められると、抱きしめられるような形で迫られてしまう。

 

「し、不知火……さん?」

 

「最初は、ただただ無心でこの鎮守府の為に戦おうと思ってドックから出てきました。それが艦娘の在り方だと思っていましたから。でも、司令の顔を見たら、そんな考えが一瞬で吹き飛んで行ってしまいました」

 

軍服をキュッと握りつつ、だんだん顔をこちらに近づけてくる不知火。

ちょっとまって、さっきまでそんなそぶり無かったよね?しかもなんか目も潤んでないですか?

 

「今私の心の中にあるのは、司令の事を命を懸けてでも守りたいという事だけ。言い換えれば、私はもう提督のモノ、という事です。ふふ……」

 

「ぐはっ!?」

 

あぶなかった、もし独身だったら一発で落とされていただろう。

今の不知火のセリフと微笑みには、その位の殺傷能力があった。間違いない。

 

「さあ司令、司令のモノであるという証拠を不知火に刻み付けて下さい……」

 

「刻み付けるって何!?不知火落ち着いて!」

 

「司令のお好きなように……不知火は覚悟できています」

 

「あばばばば」

 

「…хорошо、これは相当だね」

 

「響っ!?」

 

「……ちっ」

 

なんとか愛佳への思いで耐え忍んでいた龍二の耳に、まさに天の助けと言わんばかりの声が聞こえて来た。

……って不知火さん、今舌打ちしませんでした?

 

「遠征から戻って早々こんな場面に出くわすとはね……流石に初日にコレは早すぎる気もするけど……」

 

「……不知火に何か落ち度でも?」

 

「落ち度がどうかと言われたらそりゃあね……自分の上司を襲ってるわけだし」

 

「……」

 

「響!そんな事はどうでもいいから助けてくれ!」

 

思わず「そんな事はどうでもいい」なんて言ってしまったからだろうか?

響が僅かにムッとした表情をした気がする。

 

「さっきまでは助けようと思ったんだけど、なんか気が変わってしまったよ」

 

「……は?」

 

「えっ!?」

 

「初日という訳ではないけれど、私もまだ新人だったりするんだ。だからどうかな?お近づきの印という事で、今日は2人で司令官を……」

 

「……若干引っかかる点はありますが、不知火も急ぎ過ぎましたね。それに拒否したらしたで続きはできそうにないですし……その提案乗りました」

 

「хорошо!そう来なくっちゃね。じゃあ早速……Ураааааааа!」

 

「ちょっ、お前ら落ち着け……のわあああああああああ!?」

 

日もすっかり沈んだ頃、鎮守府内に龍二の悲鳴がこだましたという。

ちなみに不知火と響は、駆け付けた叢雲たちにこっぴどく叱られたそうな。

 

「今度は周りにばれないようにしなければ……」

 

「そうだね、防音は大切だ」

 

「アンタら……少しは反省しなさい!」




はい、新造艦は不知火でした。
だいぶ話に組み込みやすい子が来てくれたのは助かりましたね。

尚、今回潜水艦レシピを回したのは何故かというと、もう1隻が潜水艦だったからです。
なので次回は鎮守府初の潜水艦の話……になる筈です。多分!

また、今後の投稿について、もしかすると少しの間ストップするかもしれません。
理由は後ほど活動報告に上げますので、何卒よろしくお願い致します。

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