提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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何気に新キャラ登場の巻。
また、この話の後はIF展開をいくつか書こうと思ってます。
詳細は後書きにて。


第24話

季節は梅雨。

人も環境もアンニュイになるこの季節、多分に漏れず鎮守府にもアンニュイな空気が広がりつつあった。

そんな中龍二は、相変わらずいつもと変わらない執務をこなしていた。

こんな季節という事もあり、やらなくて良い仕事なら今すぐ窓から放り投げるのだが。

 

「えーと何々……この鎮守府の戦力が足りない?毎日報告してる資材の収支報告書読めよ!まだいっぱいいっぱいなんだよ!」

 

「椅子にふんぞり返ってるだけのお偉いさん達は、現場の状況を知ろうとしませんからね……」

 

「そうなんだよなぁ……。でも、間違ってもそんな事外で言うんじゃないぞ?俺が言っても説得力は無いかもしれんが……」

 

「はいはい、分かってますって~」

 

秘書艦用の椅子にぐでーっと座りながら、漣は手をひらひらさせる。

本当に分かってるのだろうか……ちょいと心配だ。

 

「次は……鹿屋基地からか。合同演習お誘い?」

 

「おや珍しい。というか、鎮守府発足以降に他の鎮守府と絡むのは初めてですね」

 

「そうだな。でも合同演習か……アリだな」

 

「この暑い中演習ですか~……漣としてはちょっと遠慮したいな~なんて」

 

「海上なんだからマシな気もするが……」

 

「艤装付けている以上潜れませんから。泳げない海なんてただの大きな水たまりです!」

 

「水たまりでも陸上よりは涼しいと思うが……でも、他の鎮守府との試合となると得るものも大きいはずだぞ?」

 

「それはそうかもしれませんが……多分他の皆も同意見だと思いますよ?」

 

「うーむ……合同でやる以上、やる気の無い状態で参加するのは先方に失礼だしなぁ。何か皆のやる気を出させるいい方法はないものか」

 

「ヤル気ですか、ん~……あっ!」

 

何か良い案でも思いついたのか、パッと顔を上げる漣。

心なしかにやけているように見えるのは気のせいだろうか……?

 

「何か良い案あったか?」

 

「ええ、思いついちゃいました」

 

「して、その心は?」

 

「……当日まで内緒です♪」

 

「おい」

 

「大丈夫ですって!絶対上手くいきますから、漣を信じて下さい!」

 

「そこまで言うなら……ちなみに、何か事前に用意しておく事はあるか?」

 

「これと言って特には……しいて言うなら『心構え』ですかね?」

 

「んん?心構え?」

 

「にゃはは、今のは気にしないで下さい。とりあえず皆の方は、漣にお任せを!」

 

「あ、ああ分かった。頼んだぞ?」

 

「アイアイサー!」

 

イマイチよく分からないが、根は真面目な漣がここまで言うのだ、きっと何とかなるだろう。

ただ、先ほどから背筋がぞわぞわとする感覚がする。

何と言うか、試合に勝って勝負に負けそうな予感というか……本当に漣に頼んで大丈夫だったのだろうか?

この選択が吉と出るか凶と出るかは、まさに神のみぞ知るところであった。

 

 

 

 

 

そこからの数日は凄かった。

何が凄かったって、全員の気迫が段違いに強くなっていたのだ。

いつもの訓練ですら真面目にやらない子達も一気に真面目になり、普段から真面目な子はさらに真面目に取り組んでいた。

もちろん歓迎すべき事ではあるのだが、流石に今までとの差が大きすぎるので、皆にそれとなく理由を尋ねてみるのだが、返ってくるのは「秘密」だとか「禁則事項」だとか……

一体漣が何をやったというのか……最後の最後まで分からずじまいだった。

そして、理由が分からないモヤモヤを抱えながら、演習当日になった。

 

「お初にお目にかかります。鹿屋基地の提督をしております福本といいます」

 

「こちらこそ、わざわざご足労頂き、ありがとうございます。ここの提督をやっております須藤と申します」

 

「いえいえ。普段出来ない貴重な合同演習ですし、その為ならこの位の遠征何でもないですよ」

 

「そう言っていただけると助かります。しかし……」

 

龍二は失礼だとは思いつつも、福本の全身を監視してしまう。

しかしこればかりは致し方ない。何せ現在の海軍では唯一の女性提督なのだから。

 

鹿屋基地所属の提督「福本あかり」

艶のある漆黒の髪を腰辺りまで伸ばしており、先端部分のみリボンで結っている。

服装は龍二と同じ軍服の為、ボディラインがくっきりと浮き彫りになっている。

そのせいで、持ち前のスタイルの良さが余計に協調されてしまい、思わず龍二は目のやり場に困ってしまう。

福本もこういった視線に慣れているのか、ふと目をそらした龍二を前にいたずらっ子のような微笑みを浮かべる。

 

「ふふっ、どうしました?」

 

「えっ、いや、あの……」

 

「女の軍人に会ったのは初めてですか?」

 

「うっ、た、態度が露骨でしたかね……申し訳ありません」

 

「いえいえ、慣れっこですから♪」

 

「あ、あはは……」

 

「それにしても……」

 

そう言いながら、龍二の後ろに立つ彼の艦娘達に視線を投げかける。

本人は駆け出しの提督だと言っていたが、それなりに多種多様な艦種が揃っている様だ。

ただ、艦種が違くても唯一共通する事があった。

それは、龍二と和やかに応対する福本を見つめる視線だ。

皆一様に福本を睨んでおり、その視線には彼女達のありったけの敵意が乗っかっていた。

 

「随分と艦娘の皆に好かれているようですね~」

 

「ええ、幾分行き過ぎな子もいますが、私のようなひよっこに着いてきてくれるだけでもありがたいですよ。」

 

「うーん……須藤さんに「着いてきてる」だけじゃない気もしますけどねぇ……」

 

「そ、それは……」

 

「もしかして……ハーレム状態だったりします?」

 

「そんなまさか!?それに、故郷に戻れば恋人もいますし」

 

「ありゃ、彼女もちかー……残念」

 

「ざ、残念って……?」

 

「いやー、見た目はもちろん、こうやって話してて心地良いというか、結構気に入っちゃったかなーなんて……」

 

「えっ!?」

 

「あ、何なら愛人でもいいですよ?故郷に戻らないと恋人と会えないんじゃ、いろいろと溜まっちゃうんじゃないですか?い・ろ・い・ろ・と♪」

 

「な、なななな……」

 

「……ゴ、ゴホン!!」

 

急に後方から大きな咳払いが聞こえ、気になって振り向いた彼の前には、いかにも「不機嫌です」と言わんばかりの表情の叢雲達が経っていた。

本気なのか遊んでいるだけなのか分からないが、とりあえず龍二を弄んでいる福本に耐えかねたようだ。

 

「そろそろ始めないと日が暮れるわよ?」

 

「そ、それもそうだな。そう言う訳ですし、そろそろ演習を……」

 

「あらら、怒らせちゃったかな?残念だけどこの辺にしておきますか~」

 

「ホッ……」

 

やっと福本の弄りから解放された龍二。

なんとか仕事モードへ切り替えると、演習の詳細を福本と詰めていった。

尚、その間福本はずっと艦娘達に睨まれたままだったのだが、本人は飄々としていた。

肝が据わっているのか、むしろこの状況を楽しんでいるのか……

とりあえず1つ分かったことは、この子達と福本は近づけてはいけないようだ。

「混ぜるな危険」とはまさにこの事か……と、龍二は身をもって知るのであった。

 

 

 

 

演習開始直前。

各自の指定位置まで移動する為、一度福本と別れる。

以降は必要な時だけトランシーバにて応対することになっている。

 

「よし、今日の演習について説明するぞ」

 

福本と別れた事で、若干落ち着きを取り戻した艦娘達を集め、本日の演習についての説明を始める。

対戦相手の福本は須藤より早く着任したため、練度もメンバー数も向こう側がずっと上である。

その為、事前にこちらのメンバー数を伝えており、演習に参加できる人数を調整してもらっている。

なので最低でも1人1試合はできる予定だ。

 

「今回の演習はいつもの気の知れたメンバーじゃない。しかも向こう側が圧倒的に各上だ。だが今後、対深海棲艦でも同じような事があるかもしれないし、そう言う意味でも非常に得る者は多いはずだ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「今回の演習ではあえて細かい指示は出さない。また、各自弾は妖精さん特製の演習弾だから、当たれば痛いけど沈みはしないから、みんな思いっきり暴れて来てくれ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「うん、みんなのやる気もいい感じだ。……そう言えば漣、結局どうやって皆にやる気を出させたんだ?演習当日に分かるって言ってたけど……」

 

「あー、それはですね……」

 

ここへ来て何やら言いにくそうな態度を見せる漣。

ああ、今さらになって嫌な予感が溢れて来たぞ……

 

「それは……?」

 

「……この演習でMVPを取ったら、ご主人さまが何でも1つ要望を叶えてくれるよ~と……」

 

「なぬっ!?」

 

ほれ見た事か、嫌な予感的中だ。

龍二が「俺は知らんぞ!?」的な対応をすると、途端に騒めき始める艦娘達。

きっと漣が「ご主人さまの了承済みです!」みたいな事を言って皆を乗せたのだろう。

その証拠に、漣に対して皆のヘイトが集まっている。

 

「またお前勝手に……」

 

「でもこうでもしないと、皆やる気にならないかな~と思いまして……」

 

「それは……そうかもしれんが」

 

「ここは皆の為にも、是非MVPの人にご褒美を!」

 

「うーむ……」

 

確かに皆のやる気を出させる為には、ご褒美的なサムシングが必要だったかもしれない。

だとしても、何でもいう事を聞くとか、もはやED直行の未来しか見えない。

かと言ってここで断れば皆のやる気もダダ下がりだろう。

 

「あー、わかった、ご褒美はOK」

 

「マジですか!?」

 

「ただし条件があるぞ?」

 

「条件?」

 

「さすがに「何でも」は無理だから、常識の範囲内での要望なら聞こう。それでもいいか?」

 

「「「「「やったー!!」」」」」

 

龍二の妥協案に、漣を含めその場にいた艦娘達が歓喜に沸く。

この喜びようからすると、恐らく漣の言葉を話半分に聞いていた子もいたのだろう。

とりあえずこの妥協案なら、ED直行にはならない……はず。

 

「よし、じゃあ最初の演習メンバーを発表するぞー」

 

そう言って騒めき立つ彼女達を再度集める。

誰がMVPを取り、そしてどんなお願いをされるのか……

神のみぞ知る所ではあるが、どうか穏便に済んでくれと祈る龍二であった。

 




はい、演習回(まだ始まってないけど)でした。
福本さんみたいなお姉さん、大好きです(爆)

そして冒頭にも書いた通り、次回からいくつかIF展開でお送りします。
ランダムにチョイスした艦娘がMVPを取ったら……という感じです。
チョイス方法はどうしようかな……

え、間宮さんや明石さん?
大丈夫、そのうち救済ストーリーも書きます。多分。

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