提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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1話で終わらせるつもりだったのですが、思いの外長くなってしまったので前編と後編に分割。
後編はまた後日…


第2話 前編

「うぅ…昨日は失敗したわ」

 

現在時刻は〇六三〇。

無意識に出てしまう欠伸を噛み殺しながら、叢雲は自慢の髪に櫛を走らせる。

身支度を整えながら思い返すのは、昨晩の夕食での出来事だった。

 

「今まであんな事無かったのに…あの人の笑顔を見た瞬間急にドキドキして…」

 

髪を整え終えた手を胸に当てながら、彼の笑顔を思い出す。

それだけで自分の顔が赤くなっていくのが分かる。

もしかすると、頭部にある艤装の一部もピコピコ揺れているかも知れない。

確認する勇気もないけれど。

 

「これじゃまるで、私が…」

 

「彼に恋してるみたいじゃない」と呟きそうになったが、慌てて首を振って否定する。

そんなはずはない。

建造されてから1ヶ月は過ぎているが、実際に会ったのは昨日が初めてなのだ。

自分はそんな惚れやすい女じゃないはず、そう自分に言い聞かせる。

それに今日から鎮守府が稼働するという時に、浮ついた気分のままではいつかミスを犯す。

ミスは自分を含め、これから増えるであろう仲間たちの轟沈にも繋がりかねない。

 

「…よしっ!!」

 

パチンと自身の頬をたたいて気合を入れ、姿見で身だしなみの最終チェックを行う。

問題ないことを確認し、その足で執務室へ向かう。

気合を入れた割に、「昨日の夕食、味わって食べなかった事謝った方がいいかしら?」などと考えている辺り、既に手遅れ感満載なのだが…

 

 

 

 

「……い」

 

「ん……んぁ…」

 

「…き…さい…しょ」

 

「…んん?……何だ…?」

 

「いい加減、起きなさいって言ってるでしょ!!」

 

「おわぁ!?なんだなんだ!?」

 

怒鳴り声と布団を剥ぎ取られた事に驚いて飛び起きると、ベッドの横で叢雲が仁王立ちしていた。

なにやら朝から大層ご立腹のようだが、寝起きの頭では原因が分からない。

 

「ふぁ~…。おはよう叢雲」

 

「おはよう叢雲…じゃないわよ!何時だと思ってるの?」

 

「えーと…今は〇九一三………ってうそぉ!?」

 

「待てど暮らせど執務室に来ないから見に来てみれば…今日配属になる2人はもう来てるわよ」

 

「ごめん、着替えてすぐに向かう!」

 

「急ぎなさいよ。2人は応接室に通しておくから」

 

必要な事だけ伝えると、叢雲は仏頂面のまま部屋を出ていった。

初日から恥ずかしい所を見せてしまった事を悔やみつつ、手早くシャワーを浴びて軍服に着替える。

ついでに今のうちに目覚まし時計を出しておく。

同じ轍を踏むつもりはない。

 

「よし、それじゃあ行きますか!」

 

ざっと身だしなみを確認し、問題がない事を確認。

これ以上待たせるわけにはいかないと、足早に私室を後にする。

 

…提督は知らない。

叢雲が、彼の寝顔を10分以上見つめていたことに…

 

 

 

 

「失礼するよ」

 

軽くノックをしてから応接室のドアを開く。

新たな仲間の前で仏頂面はまずいと思ったのか、それとも単に機嫌が戻ったのか分からないが、すまし顔の叢雲がソファ横に待機していた。

その向かい側にある来客用のソファーに、艶やかな桃色の髪を腰まで伸ばした女性が座っている。

彼女は提督の姿を確認すると慌てて立ち上がり、緊張した面持ちで敬礼をした。

 

「はじめまして提督!工作艦の明石と申します!」

 

「はじめまして。昨日からこの佐世保鎮守府に配属となった、提督の須藤龍二と言います」

 

「あなたが私を…」

 

「?」

 

よろしくねと言いつつ握手を求めると、昨日の叢雲よろしく頬を染める明石。

なんだろう、艦娘の間で特殊な病気でも流行っているのだろうか…?

ふと昨晩の光景を思い出し、改めて叢雲の様子を伺ってみると、すまし顔の下に大層ご立腹な表情が見て取れた。

寝坊したことをまだ怒っているのだろうか。

 

「…んんっ、いつまで握手しているのかしら?」

 

「…わひゃあ!すいません!」

 

いつの間にか両手で握られていた手を慌てて離す明石。

たかが寝坊でそこまで不機嫌にならなくても…と考える龍二もどこか抜けている。

 

「えーと、明石は酒保の担当で間違いなかったよね?」

 

「は、はい!生活用品から戦闘時の支援物資まで、幅広く取り扱うつもりです」

 

「おお、それは助かるなぁ」

 

「あと、私も一応工作艦なので、艦娘の皆さんの艤装を点検したり簡単な修理を行うこともできますよ」

 

「すごいじゃないか!至れり尽くせりだなぁ」

 

「治せる目安としては小破以下のみですけどね。それ以上はドックに入ってもらわないと…」

 

「いやいや、それだけでも十分助かるよ!」

 

「は、はい…」

 

あまり褒められ慣れていないのか、ものすごく照れている。

正直助かるのは本当の事だし、出撃する艦娘の艤装のチェックなどは直接戦績に影響が出る。

これを任せられるのは本当にありがたい限りだ。

…隣で叢雲の表情がえらいことになっているが、若干2人の世界に入りかけている龍二と明石に気付くすべはない。

 

「昨日着任ということは、まだ出撃などはされていないんですよね?」

 

「うん。何せ右も左も分からない新米だし、出撃できる艦娘は彼女…叢雲だけだからね」

 

「なるほど…ではとりあえず私の方は、酒保の整理をしてしまってよろしいでしょうか?商品はいくつか既に搬入されてますので…」

 

「そうだね。流石に叢雲1人で出撃させるわけにはいかないし、そっちをお願いしてもいいかな?」

 

「了解しました!」

 

再び龍二に敬礼をした後、明石は執務室を後にした。

執務室を出る際に一瞬ギョッとした顔をしていたので気になってその視線を追ってみると、仏頂面を通り越して般若のような顔をした叢雲がいた。

これが漫画だったら、顔中に怒りマークが張り付いていることだろう。

明石と会話している間にだいぶ悪化している気がするが、もちろん龍二が原因に気付くことはなかった。

 

「えと、あの…叢雲さんや」

 

「…何よ」

 

「まだ寝坊したこと怒ってる…?」

 

「…怒ってないわ」

 

「いやでもどう見ても不k」

 

「怒ってないって言ってるでしょ!!」

 

「アッハイ」

 

「怒ってない」と怒りながら怒鳴られるという理不尽な仕打ちを受けて軽く凹む龍二。

とりあえずこれ以上逆撫でしないよう、言葉を選びつつ疑問を投げかける。

 

「今日配属されるのって、確か2人だったよね?」

 

「…そうね」

 

「もう1人…確か食堂担当が来るはずだけど、どこにいるのかな?」

 

「…そのうち分かるわよ」

 

「??」

 

返答の意図が掴めず困惑する提督の耳に、控えめなノックの音が入ってくる。

入室を促すとそこには、お盆に出来立ての料理を乗せたエプロン姿の女性が立っていた。




艦娘増えるのが遅いですね…
早めにイチャコラハーレム劇場を開幕したいです。

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