提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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初めて感想をもらえて嬉しかった記念ということで、本日後編も投稿します。
アグレッシブ間宮さん回です。


第2話 後編

「失礼します」

 

落ち着いた大人な雰囲気を漂わせた女性が、お盆で料理を持ちながら入室してくる。

瞬時に料理のいい香りが応接室に充満し、思わずお腹が鳴りそうになる。

寝坊したおかげで朝食を逃した胃が、香りにつられて活発に動き始めたのが分かった。

 

「はじめまして提督。給糧艦の間宮と申します」

 

「なるほど、あなたが食堂担当の間宮さんですか。はじめまして、須藤龍二といいます」

 

「先ほど叢雲さんから朝食がまだだと伺ったので、僭越ながら簡単な朝食をご用意いたしましたが…ご迷惑でしたでしょうか?」

 

「いやいやとんでもない!お腹減ってたのですごい嬉しいよ。な、叢雲?」

 

「そ、そうね…」

 

先ほどの不機嫌さはどこへやら。

既に視線は間宮の料理に釘付けである。

そして提督は、先ほどの不機嫌の理由を空腹に結びつけた。

今日も根っからのトウヘンボクっぷりは健在である。

 

「急いで作ったので本当に簡単なものですが…。叢雲さんも冷めないうちにどうぞ」

 

「ありがとう…ございます」

 

こういう大人な雰囲気の女性と会話したことがないのか、いつもの強気な口調はナリを潜めている。

2人ともソファーに腰掛けた事を確認すると、間宮はお盆からテーブルへと皿を移し始める。

…片手で2人前の料理全てを持っているのを見て、改めて艦娘なのだと確認する。

それくらい、普通の人間と区別がつかないのである。

 

「うわぁ…」

 

「おいしそう…」

 

眼前に広がる朝食を前に、2人して思わず声が出てしまう。

つやつやに炊きあがった白飯、食欲を際限なく刺激する味噌汁、程よい塩加減に焼きあがった塩鮭、そして栄養バランスを考えて添えられたほうれん草の胡麻和え。

これぞまさに「ザ・朝食」といった料理の数々である。

 

「では早速、頂きます!」

 

「い、頂きます」

 

「はい、召し上がれ」

 

待ってましたと言わんばかりの勢いで、2人が料理に手を伸ばす。

空になったお盆を抱え、少し心配そうな面持ちで2人の感想を待つ間宮だが、2人の表情を見ればその心配が杞憂であることは一目瞭然である。

 

「おいひい…こんなに美味しい朝食は初めてかもしれない」

 

「悔しいけどアンタと同意見だわ。本当に美味しい…」

 

「そこまで気に入っていただけるとは…でもお口に合って良かったです」

 

ホッとしたような、それでいて少し照れたような表情を見せる間宮。

落ち着いた雰囲気とのギャップも相まって、男性が10人いたら10人が「カワイイ!」と言うであろう。

もちろん、料理に夢中な提督が気付くはずはなかった。

 

「そう言えば…明石と間宮さんも俺が建造した艦娘なんだよね?」

 

「ええ。私と明石さんはちょっと特別な方法でしか建造できないのですが、逆に言えば特別な方法さえ守れば必ず建造できるんです」

 

「なるほど。だから3人も建造させられたのか」

 

「そうですね。私たちを建造出来て初めて提督と認められるんです」

 

当初の疑問の1つがここで解決した。

能力の有る無しのテストだけならば、1体建造出来れば問題ないので不思議だったのだ。

 

「ということは、間宮さんも生まれてまだ1ヶ月ってことだよね?それでこの料理の腕とは…」

 

「一応給糧艦ですし、料理くらいは…。それに、戦闘向きの艦娘さんの中にも料理上手い人はいますよ?」

 

「え、そうなの?」

 

「はい。川内さんは揚げ団子が有名ですし、龍田さんの作る竜田揚げもおいしいです」

 

「ほーん…ということは…?」

 

隣で我関せずを決め込んでいる叢雲に視線を移す

がっつきすぎて頬が膨らんでおり、ちょっとリスっぽくて可愛いと思ったのは内緒にしておく。

 

「むぐむぐ…っ、な、なによ…あげないわよ」

 

「そうじゃなくて…昨晩誰かさんが、建造されてから料理の経験が無いから作れないとか言ってたような気がしてさ」

 

「う…」

 

「まぁまぁ。当時はおいしい食事が出る軍艦の方が少なかったそうですし、作れなくても仕方ないですよ」

 

「そ、そうよ!仕方ないのよ!」

 

「開き直りおった…」

 

フンと鼻を鳴らし、食事へ戻る叢雲。

せっかく朝食で機嫌が少し戻ったのだ。あまり刺激するのはやめておこう。

 

「そういえば、昨日の夕飯はどうなさったのですか?」

 

「ああ、昨晩は俺が料理を作ったんだ。簡単なものだったし、味も間宮さんには遠く及ばないけど」

 

「まぁ、提督も料理されるのですか!?」

 

「凝ったものはできないけどね。料理自体は好きだよ」

 

「料理が好きな男性、すごく魅力的だと思いますよ♪」

 

「そ、そうかな?」

 

「そうですよ!いい事聞いちゃいました♪」

 

「……む」

 

先ほどまでのお淑やかさはどこへやら。

いつの間にか提督のすぐ隣に寄り添い、ご機嫌な表情の間宮。

もちろん、提督を挟んで反対側では、叢雲の不機嫌ゲージが順調に増加中である。

 

「そうだ!よかったら今度、お暇なときにでも一緒に料理しませんか?」

 

「い、一緒に?」

 

「はい♪お互いに料理が好きなわけですし、2人で作ればきっと楽しいですよ!」

 

「そうだなぁ…うん、考えとくよ」

 

「約束ですよ?…あと、提督の好物をお聞きしてもいいですか?」

 

「好物かぁ…和洋中どれも好きだけど、実家では基本和食だったから選ぶなら洋食かな。ハンバーグとかオムライスとか…」

 

「ふふっ、なんかチョイスが可愛いですね」

 

「子供っぽいと自覚はしてるんだけどね…」

 

「いいじゃないですか。それも提督の魅力の一つですよ♪」

 

「あ、ありがとう…?」

 

流石にこういった迫られ方には慣れていない龍二、タジタジである。

そんな反応が楽しいのか、いつの間にか間宮自身も体を寄せて「あててんのよ」状態を構築している。

恐るべし給糧艦(バルジ量含め)。

 

「…ごちそうさまっ!」

 

ダンっと勢いよくお茶碗をテーブルに置く叢雲。

どう見ても不機嫌ゲージがMAXの彼女を見て、「いきなり飛ばしすぎたかしら」と苦笑しながら提督から離れる間宮。

そしてテンパる龍二。

全く関係のない第三者から見たらただの喜劇である。

 

「早く食べて執務室に来なさい!」

 

「お、おう…」

 

それだけを言い残すと、2人を一瞥すらせず応接室を出ていく。

閉められたドアの勢いが、彼女の不機嫌さを物語っていた。

 

「あれー?朝食で少しは機嫌が直ったと思ったんだけどなぁ…」

 

「提督…よく鈍感って言われません?」

 

「…ん?今何か言った?」

 

「いえ、何も…これは骨が折れそうねぇ」

 

「??」

 

叢雲の不機嫌の原因も、間宮の呟きの真意も掴めない龍二は、とりあえず朝食に集中することにした。

せめてこれ以上叢雲を怒らせないようにと、自然と箸の進むスピードが上がるのであった。




話の進みが遅すぎィ!!
なんとかスピードアップしたいところです…

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