提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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第3話

誰もいない廊下に、気持ち早めな足音が響く。

足音の主は、執務室へ向かう叢雲だ。

 

(何よ、デレデレしちゃって…)

 

頭の中では、間宮に言い寄られて鼻の下を伸ばす龍二の姿が映る。

彼の名誉のために言っておくと、鼻の下を伸ばすどころかオロオロしていただけである。

それはそれで情けない話ではあるのだが。

 

「…あぁーもう、何だかムカムカするっ!」

 

誰がどう見てもやきもちなのだが、当の本人は「惚れてない」ことにしたい為、その感情を認めることができないのだ。

素直になれない乙女心というやつである。

もやもやした気持ちのまま執務室へと急ぐ。

気付かないうちに、足音はさらに大きく響いていた。

 

 

 

 

「すまん、待たせたっ!」

 

「遅いわよっ!」

 

「悪かったって…」

 

朝食を済ませた龍二は、急いで執務室に戻ってきた。

間宮には申し訳ないが、最終的には掻き込むように食べたのだが…どうやら叢雲の御眼鏡にはかなわなかったようだ。

それでも一応、秘書艦として仕事を共にしてくれるようで少しホッとする。

1ヶ月で提督としての基礎を叩き込まれたとはいえ、ズブの素人が1人で作業するのはさすがに不安だったのだ。

 

「えーと、最初は何から始めたらいいかな?」

 

「とりあえずここの運営を始めるにあたって、書いてもらう書類が山ほどあるんだけど…」

 

「うへぇ、やっぱり書類仕事か…苦手なんだよなぁ」

 

「でもその前にやっておきたい事があるわ」

 

「やっておきたい事?」

 

「建造よ」

 

「建造か、なるほど…」

 

「出撃するにしても遠征するにしても、流石に駆逐艦1隻でどうにかなる話じゃないもの。仲間が多いに越したことは無いわ」

 

「それもそうだな」

 

「じゃあこのまま工廠へ向かうわよ」

 

「了解!」

 

先に行こうとする叢雲を慌てて追いかけて、執務室を出る。

一瞬「執務室に来た意味なかったのでは?」と言いそうになったが、直ってきた機嫌をわざわざ悪くする必要もないので黙っておいた。

 

 

 

 

「昨日も来たけど、改めてここが工廠よ。資源を妖精さんに渡すことで、艦娘の建造や武器の開発ができるわ」

 

執務室のある鎮守府本館とは別にある、それなりの大きさの建物の前で説明を聞く。

この中では建造・開発専門の妖精がおり、通常であればはせわしなく働いている。

また、艤装の修理や点検などもここで行うのが普通である。

 

「なんか…静かだな」

 

「そりゃそうでしょ。まだ出撃どころか何も指示してないんだから」

 

「それもそうか」

 

「とりあえずここの妖精さんに挨拶するわよ。建造や開発の結果は妖精さん次第なんだから、機嫌損ねるんじゃないわよ?」

 

「ぜ、善処するよ」

 

「…大丈夫かしら」

 

2人で工廠内に入り、妖精の姿を探す。

道すがら叢雲から聞いた説明によると、建造や開発の結果はランダムで、妖精さんの気分次第らしい。

渡す資材の量によってある程度は結果を絞れるのだが、絞り込めるのは艦種や武器種位までで、細かい結果は出来てからのお楽しみとのこと。

なので、妖精の機嫌を損ねると大変なことになるのである。

 

「お、新しい提督さんですか?」

 

「うわぁ!びっくりしたぁ!!!」

 

「驚かせてしまってすいません、私はここの工廠長をしている妖精です」

 

「これはこれはご丁寧に…新たに提督として配属された須藤龍二です。よろしくお願いします」

 

「そんな気負わなくて大丈夫ですよ。長い付き合いになるでしょうし、もっとフランクに行きましょう!」

 

「は、はぁ…」

 

まさか足元から話しかけられるとは思っていなかったため、思わず飛び上がりそうになる。

心臓も未だバクバク言っているが、思いのほか気さくな妖精とのやり取りに少しホッとする。

ちなみに叢雲も同時に驚き、頭部にあるウサギの耳のような艤装がピーンとなっていたが、龍二には見られていなかった事を確認し安堵する。

 

「それにしても…提督さんには不思議なオーラがありますね」

 

「オーラ?」

 

「いい香りというか、あたたかな日差しというか…」

 

「香り?日差し?」

 

「提督さん、昔からやたらと妖精に好かれたりしませんでしたか?」

 

「はぁ…、確かに昔からよく妖精さんが集まってきたりしましたが…」

 

「やっぱり…」

 

「えと、それは建造とかに直接影響するのでしょうか?」

 

「いえ、建造自体『には』影響しませんよ。むしろそのあとの方が…」

 

「??」

 

「まぁそのうち分かると思いますよ。悪い意味では無いはずですから」

 

「ならいいんですが…」

 

ニコニコと笑顔のまま意味深なことを言う妖精に若干不安になりつつも、とりあえずは納得することにする。

気さくな性格といえど、やはり妖精は妖精である。

楽しい事優先な彼ら?彼女ら?としては、黙っていた方が面白くなりそうという考えが優先された形である。

 

「その話はさておき、今日は早速建造ですか?」

 

「あ、はい。建造でお願いします」

 

「資材とかはどうしますか?」

 

「えーと、どうしようか叢雲」

 

「そうね…最初は駆逐艦か軽巡洋艦あたりを狙った方がいいわ」

 

「戦艦や空母の方が強いんじゃ…?」

 

「戦力にはなるけど、建造には大量の資材が必要になるの。それに建造できたにしても今の資材じゃ運用なんて無理よ」

 

「なるほどなぁ…」

 

工廠長によると、今は同時に2隻まで建造ができるらしいので、軽巡洋艦と駆逐艦をそれぞれ1隻ずつ建造することにする。

それぞれの艦種を絞り込める資材の量、通称レシピと言われる量を指定して工廠長に伝える。

 

「ではこのレシピで建造しますね」

 

「お願いします!」

 

「はいはーい。…おーいみんな、仕事だぞぉ!!」

 

工廠長が大きめの声でそう言い放つと、そこかしこから妖精が現れ始める。

レシピを伝えられると、各々が威勢のいい掛け声と共に持ち場に戻っていく。

 

「建造が終わったら執務室に内線かけますね」

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

執務室へ戻る旨を工廠長へ伝えた後、叢雲と共に工廠を後にする。

国のテストでは決められたレシピを妖精に伝えるだけの簡単なお仕事だったので、改めて1から考えて建造を行うのが初めてな龍二は非常にワクワクしていた。

 

「どんな艦娘が建造されるのかなぁ」

 

「さあ…可愛い子だといいわね」

 

「いや、別に容姿は気にしないんだが…」

 

「ふん…どうだか」

 

そんなやり取りをしながら、2人で執務室へ戻る。

建造を待つ間なら苦手な書類仕事も捗りそうだと、自然と龍二の足取りも軽くなるのであった。




今回建造される艦娘は決めていますが、今後の建造やドロップ艦はどうやって選ぼうか絶賛迷い中です。
恐らく独断と偏見、あとサイコロの神様次第になる可能性大ですが。
(人それをランダムという)

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