寒くなってきました。風邪など引かないように気をつけて行きましょう。
ではでは、第60話!溢れ出るぅ!?
急遽開催される事になった専用機持ちトーナメント。
それに向けて、俺─天野星夜─は今までデータウェポンを使った事がない、ダリル先輩とフォルテ先輩の2人に色々と教えていた。
2人だけでやっていると戦法が片寄ってしまうので、他の専用機持ちも呼んでやっている。
今回は一夏を呼んだ。
「キバッ!行けっ!」
「なんの!」
ダリル先輩が輝刃スピナーを一夏に突撃させる。
一夏はすぐに雪片を構え、正面から切り込み輝刃スピナーを反らす。
「狙い通りだっ!」
「えっ!?うわあぁぁぁっ!?」
その隙を逃さず、ダリル先輩は両肩にある犬の頭から、口に溜めていた炎を吹き出す。
次の瞬間、一夏の前にユニコーンが割り込み、ファイヤーウォールで防ぐ。
「サンキュー!」
一夏はユニコーンに礼を言いながら、ダリル先輩に斬りかかる。
「ふっ!甘いんだよっ!」
ダリル先輩は落ち着いて自分の手に双刃剣を呼び出し、一夏の斬撃を防ぐ。
「おーおー、先輩に踏み込むなんて、度胸あるっスね~。」
「一夏は踏み込むしか選択肢が無いんですよ。」
目の前の攻防を見ながら俺とフォルテ先輩はピットで話していた。
「あ、剣しかないんだっけ?」
「一応、左手に大砲隠してますけどね。」
「へ~。」
一夏とダリル先輩の戦いはクライマックスを迎えたようで、お互いにデータウェポンを装備している。
「「ファイナル!アタック!」」
一夏とダリル先輩が同時にファイナルアタックを放つ。
「うおりゃあぁぁぁぁっ!」
残りエネルギーが少なかった一夏がそのまま競り負け、輝刃ストライカーの一撃を喰らった。
「ま、こんなもんだろ。」
「ま、負けた……。」
2人はISを解除して、こっちに来た。
「おう、一夏お疲れ。」
「ぐっ結局今日は一回も勝てなかった……。」
「始めて半年の奴に負けるもんかよ。」
腕を組み、得意気なダリル先輩。
「あれ~?そう言って、電童に負けたの誰っスか~?」
フォルテ先輩がダリル先輩をつつく。
「あ、あれは!データウェポンの使い方を知るためにわざとだ!」
「ふ~ん、そう言うことにしとくっスよ。」
「あぁ!?やるのかフォルテ!」
2人が向かい合い、一触即発の状態になる。
「そろそろアリーナの使用時間過ぎますから、片付けしてください。」
そんな感じで今日の訓練は終わった。
──
夕方、訓練も終わり、俺はGEARから送られてきた資料に目を通す。
主な内容は先日の『キャノンボール・ファスト』で起きた各現象だ。
いつもならGEAR本社で井上さんから直接聞いてるんだが、今回は余り時間がないから報告書になった。
俺以外にもいつもの様に専用機持ちや織斑先生等にはほぼ同じ資料が送られたそうだ。
─
新データウェポンについて
飛焔(ひえん)
DWーEX2
象徴:理想(慈愛+創造)
共鳴者:不明(当時は付近に布仏虚と布仏本音の2名のみ)
属性:熱(炎+光)
特殊能力:未確認
キャノンボール・ファストの際、突如乱入してきた亡国機業の大型兵器との戦闘中に誕生。
輝刃と同じように、ドラゴンフレアとガトリングボアのエネルギーを受けていると思われる。
大型ブースター〈ヴァルハラ〉と布仏本音が所持する恐竜型ペットロボが素体。
通常形態
恐竜型のデータウェポンではあるが、背中や脚についているブースターのおかげでトップスピードは速い。
口からはエネルギー弾を放つ事が出来る。
他のデータウェポンと比べると単体の戦闘力は高め。
ブラスター
ビームバズーカ+ブースターとして装備される形態。
高機動パッケージと同等の機動力を与えることが出来、バズーカは攻撃力、射程に優れる。
しかし、全体的に燃費は悪い為、運用の際は残りエネルギーに注意が必要。
スライダー
エアバイクとして乗り込む事が出来る形態。
ブラスターよりも速度、航続距離に優れる。
威力は低めだが、この状態でもビームを放つことは可能。
ファイター
高機動形態。
戦闘機のような形で、主にビーム砲とミサイルでの援護を行う。
─
輝刃の特殊能力について
特殊能力:ゲットアビリティ
一言で表すならばコピー能力。
この特殊能力は輝刃単体では使う事が出来ない。
輝刃が一定の条件を満たすと、ISの特殊能力をコピーする模様。
また、これによってコピーした能力は有限で、一回使用すると再度コピーする必要がある。
今回は紅椿の〈絢爛舞踏〉を使用し、紅椿と白式のエネルギーを回復、ファイナルアタック時には白式の〈零落白夜〉を使用し、攻撃力を上昇させていた。
コピーの条件、ストック可能数などについては現状は不明。
─
ブルー・ティアーズとユニコーンドリルについて
サイレント・ゼフィルスとの戦闘中に発生した謎の現象。
パイロット、セシリア・オルコットの予測通り、ユニコーンドリルをブルー・ティアーズに「装備する」ではなく、ブルー・ティアーズと「融合」と言う次の段階に進んだと思われる。
融合した際は、各武装の強化が行われ、セカンド・シフトと同等のステータス変化がある模様。
ユニコーンドリルの特殊能力〈ファイヤーウォール〉を元にしたと思われるマント状の装備も確認されている。
発動条件は不明だが、ユニコーンドリルとセシリア・オルコットの精神状態が深く関わっていると予想される。
─
資料に目を通し終わり、机に置く。
「輝刃、特殊能力に覚醒してたのか……。」
しかも、絢爛舞踏と零落白夜か。
どこまでコピー出来るかわからないけど。
しかし、今回は本当に解んないのが多いな。
そのうちGEAR本社で本格的に電童ごと調べてもらった方がいいか?
「セシリアさんのアレは融合だったのか……。」
もしかしたら、他の人もなるかも……。
「トーナメント終わったら、一回本社に行かないとな。」
そんなことを考えながら、シャワーを浴びに行く。
──
今日はダリル先輩とフォルテ先輩に用事があるとの事で、いつもの面子でトレーニングをしている。
「クロックマネージャーに当たるわけには!」
「クロックマネージャーだけが切り札では無いぞ!」
今は簪さんとラウラが戦っている。
簪さんはレオをつけ、ラウラはボアをつけている。
レオのおかげか、ラウラのクロックマネージャーとAICを見切って避ける。
ラウラも簪さん本人に当たらないと見るや、ミサイルの回避に使う様にし、消費を押さえている。
「はぁっ!」
「うっ!?」
ラウラがワイヤーブレードを放ち、簪さんはそれをギリギリで避ける、そのまま簪さんが側面から、斬りかかる。
「これでっ!」
「甘いぞ!簪!」
ボアは特殊能力は強力だが、ボディに装備する関係で少し動きづらい。
そのため、簪さんは側面からの攻撃を選んだ。
対するラウラは冷静にボアの牙を掴んで、ブーメランの様に投げる。
上手く相手の顔を狙って投げた牙を、簪さんは薙刀で弾くと同時に、そのまま体を一回転させて右脚のレオを振る。
しかし、体が停止する。ラウラがAICで固定したのだ。
「私の勝ちだ。」
「負けた…。」
喉元にプラズマ手刀を突き付け、勝利宣言するラウラ。
敗けを認め、残念そうにする簪さん。
「データウェポンの装備状態で、星夜を除くとラウラが一番動けてるかな?」
「いや、シャルロットの方がいい動きをしていると私は思うぞ?」
横で見ていたシャルと箒さんが話している。
シャルとラウラは戦い方は違うが、どのデータウェポンを装備しても強いのは変わらない。
ラウラはデータウェポンに拘らず、それを囮にすることでAICを使いやすい状態に持ち込むこともあるなど、柔軟な対応も出来る。
シャルはデータウェポンが使いやすい距離になるように、他の武装で敵との距離を操り、実弾武装が中心だから、各特殊能力を潤沢に使えるのが強みだ。
「今回のトーナメントは正直どうなるか解らないな。」
「そうね、自分とデータウェポンとの相性もあるし、相手のデータウェポンでも変わるからね。」
俺の独り言に鈴が反応する。
今回は単純に1対1や前もって決められたタッグマッチでもない。
自分のデータウェポン、対戦相手、対戦相手のデータウェポン多種多様な組み合わせがある。
しかもそれが試合開始までわからないのだから。
「やっぱり、基礎技量の高い先輩達は要注意だな。」
「そうですわね。特に楯無さんは唯一の国家代表ですし。」
「うん、他の先輩達も結構場馴れしてると思うから、気を付けないと。」
たった数回使っただけで、データウェポン達を使いこなしてるあの人達は正直すごいと思う。
「よし!次は俺と箒だな!」
「ふっ!勝ちはもらうぞ!一夏!」
一夏と箒さんがそれぞれ愛機を纏い、向かい合う。
「じゃあ、今回の2人が使うデータウェポンは…。」
俺がそう言うと、2人の前にそれぞれ、データウェポンが召喚される。
「よっしゃ!バイパー行くぜ!」
「頼むぞ!ドラゴンフレア!」
「じゃ、試合開始!」
こちらの宣言と同時に両者は激突する。
「うむ、箒は絢爛舞踏を物にしつつあるな。」
「そうだね。やっと機体のポテンシャルを存分に活かせるようになったね。」
戦いを見ていると、箒さんの紅椿が輝く。
そう、最近はワンオフ・アビリティである絢爛舞踏をしっかりと使える様になっているのだ。
まだ、完全では無いらしいが、それでも、狙って使える様になっているのは大きい。
今まで悩まされていたエネルギー問題が一気に解決しつつあるのだ。
「ねぇ、前に一回だけいたフェニックスが使える様になったらあんな感じなるのよね?」
「まぁ、能力的には同じだな。」
鈴が思い出したように聞いてくる。
確かにフェニックスエールの特殊能力はエネルギーの無限供給だ。
「フェニックスもアレ以降音沙汰無いからなぁ…。」
「本当に輝刃の為に力を使い果たしたのかな?」
「まぁ、そのうち会えると思うよ?」
「何でわかんのよ?」
「勘。」
そんな会話をしてると決着が着く。
バイパーを装備し、分身で撹乱してから零落白夜で一夏の勝ちだ。
そんな感じに日々が過ぎていく。
──
トーナメント当日。
俺は少し早く会場であるアリーナにある一室へ行き、GEARスタッフに挨拶していた。
「井上さん、こんにちは。」
「あぁ、星夜くん。こんにちは。」
今回のGEAR代表である井上さんの元へ行く。
「今日はよろしくお願いします。」
「星夜くんも頑張ってね。応援してるよ。」
「はい、頑張ります。」
一通りの挨拶が終わり、俺は廊下へ出る。
「あっ!天野く~ん!」
「どうしました?黛先輩?」
廊下を歩いてると黛先輩が声をかけてきた。
「ほら、今日は試合でしょ?それに向けてのインタビューよ。」
手にもったボイスレコーダーを向けてくる。
「データウェポンの扱いで負けるわけには行きません。少なくとも、一年生組のトップにはなりますよ。」
「おおっ!言うねぇ!じゃ、写真を1枚!」
レコーダーをしまうと同時にカメラをこちらに向ける黛先輩。
軽くポーズを決め、シャッター音がする。
「うん!ありがとう!あっ!ちなみに天野くんは一年生の中ではオッズ一番だからねぇ~っ!」
黛先輩は叫ぶように言いながら走って行った。
ちなみにオッズとは生徒会の方で今回のトーナメントを使った博打大会をしてる。
黛先輩がその管理の一部をしているので、その数字を覚えてるのだろう。
「まぁ、今回はデータウェポン前提だからなぁ…。」
自分への投票率が良いのは確実にそれの為だろう。
普通のトーナメントなら、一年生の中ではラウラかシャルが一番人気になるはずだ。
「おっと、そろそろ開会式だったな。」
開会式の為、アリーナへ向かう。
──
開会式は問題無く終わった、博打大会の事を知らなかった一夏が騒いだ位か。
挨拶が終わり、それぞれがピットで待機する。
「一戦目は一夏と箒さんか…。さて、どうなるかな?」
人数の関係で、一つのピットに2人もしくは3人居る。
このピットには俺、セシリアさん、鈴が居る。
「ん~、一夏って本番に強いタイプよねぇ。ここぞっと時に爆発するの。」
「あの2人の組み合わせですと、データウェポンが決まるまで解らないですわね。」
「あぁ、一夏は特に相性が出るし。」
ちなみに今、データウェポン達はGEARスタッフの所に居る。
試合開始と同時にそちらから転送される予定。
「星夜とセシリアは誰かにかけたの?」
「いや、興味ないからやってない。」
「私も賭け事はちょっと…。」
「ふーん…。」
鈴が博打大会の事を聞いてきた。
俺は実際興味ないので賭けなかった。
セシリアさんもやってないらしい。
「そう言う鈴は自分にでも賭けたか?」
「いや、星夜に掛けた。」
「なぜに!?」
そこは自分じゃ無いのかよ!?
「いや、今回のルールだと星夜が一番かなぁって。」
「一応、一年の中だと俺が一番人気らしいが…。」
どう考えたって先輩達の方が確率高いだろうに。
「それに、名目は『応援』じゃない?だったら自分にやるのは変だし、自分以外で頑張って欲しいのは星夜だし。」
「おおぅ。」
「なっ!」
これは恥ずかしい!すごい恥ずかしい!
正面からこんなの言われたら恥ずかしいわ!
セシリアさんも顔を軽く紅くしてる位だよ!
「と、言うわけだから、頑張りなさいね!」
「わかった…頑張るよ…うん。」
鈴が俺の額を指でつつく。
「そこでお二人だけの世界を作らないでくださいまし!」
セシリアさんが怒って声を上げる。
「まぁまぁ、セシリ──ズドオオオオオォンッ!!
鈴がセシリアさんに声をかけようとした瞬間、爆発音と衝撃がピットを襲う。
「鈴!セシリア!無事か!?」
ほぼ反射的に電童を装着し、2人に呼び掛ける。
ピット内に舞った埃せいで直接は見えないが、2人もISを纏ったのはセンサーで確認出来た。
「今度は何よ!」
「部屋中央!居ますわ!」
それぞれ構える。
敵が解らない為、様子見だ。
すでに緊急事態を知らせるアラートが鳴り響いている。
「な………」
「えっ……」
「まさか…」
視界が晴れ、目の前に立つ敵をしっかりと見る俺達は言葉が詰まる。
「電童…だと!?」
真っ黒な電童だった。
凰牙と違い、バイザーの形状も電童と同じで全ての装甲が黒い。
俺達がそれを認識した瞬間、黒い電童のバイザーが上がる。
「っ!」
「ドクロ!?趣味悪すぎでしょ!」
電童にはあるフェイスパーツは無く、光がないどす黒い眼をした髑髏だった。
「さっきの揺れから考えてこいつだけじゃないはずだ!」
「速攻で倒すわよ!」
「援護しますわ!」
\グオオオォォォォォッ!/
黒い電童は雄叫びを上げ、こちらに向かって飛び込んで来た。
──
トーナメントに向けた最終確認を行っているって最中、いきなり轟音と衝撃がアリーナを襲う。
多くの教師とスタッフが驚き、バランスを崩す。
「一体何が起きた!」
千冬は大きな声で周りの教師とスタッフに問いかける。
「しゅ、襲撃です!画像を出します!」
真耶が素早くコンソールを操作、メインモニターに各ピットの映像が分割されて表示される。
「こいつらは…!?」
「で、電童です!全体が黒く染まってますが電童です!現在5機確認されてます!」
各ピット内に居る専用機持ちはそれぞれの機体を纏い、黒い電童と交戦している。
「くそっ……早すぎる……『あれ』はまだ準備が……。」
「えっ?」
真耶の反応に千冬はすぐに口を閉ざす。
一瞬、目を閉じて、思考をリセットし再度目を開き、指示を出す。
「ピット以外の各セクションの状況は!?」
「隔壁類、全て最高レベルでロックされています!」
「一般教員は生徒の避難指示を!技術教員とGEARスタッフはシステムの奪還!戦闘教員は全員レベル3で防衛戦の準備を!システムを奪還次第、突入する!データウェポンはすぐに専用機持ち達の所へ!」
「「「了解!」」」
その場に居た全員が返事をし、行動に移る。
画面に表示されていたデータウェポン達も直ぐに動き出した。
「すみません、そちらも使わせていただきます。」
千冬は井上に声をかける。
「いえいえ、ここでは貴女が最高責任者です。従いますよ。」
井上それだけ答えると近くの席に座り、GEARスタッフ達と作業を始めた。
「やってくれるな……だが、甘く見るなよ。」
千冬はメインモニターを睨み、ハッキリと呟いた。
──
「くっ!貴様!何者だ!」
突如、天井をぶち抜いて現れた黒い電童。
それは目の前に居たラウラに襲い掛かった。
左手で首を掴み、持ち上げる。徐々に力が込められていく。
髑髏のフェイスパーツが不気味に笑ったように見えた。
「ぐうっ!」
とにかく首の拘束を外そうともがくラウラ。
腕のプラズマ手刀を展開し、相手の腕を切り落とそうと振り上げる。
しかし、それは使っていない右手で掴まれて止められる。
「ラウラ!」
シャルロットが相手の腹部にパイルバンカー〈グレー・スケール〉を撃ち込む。
「このぉっ!」
パイルバンカー特有の激しい音と共に、相手の拘束からラウラは解放される。
しかし、黒い電童は冷静に両腕のドライブユニットを稼働させ、エネルギーを貯めていた。
「ラウラ!下がって!」
シャルロットが言う通りに後ろに回るラウラ。
得意のラピットスイッチで即座に盾を3枚重ねて構える。
直後、相手は閃光雷刃撃を放つ。
「くうっ!」
星夜の使う電童と違い、リミッターがかけられていないのか、自分達の知る威力よりも大きく、シャルロットの盾は貫かれた。
「シャルロット!」
「大丈夫!少しシールドエネルギーが削れただけ!」
シャルロットの事を気にしつつも、ラウラは左目のヴォーダン・オージェを解放、AICで相手を拘束する。
「うおおおぉっ!砕けろぉっ!」
大口径のリボルバーカノンが相手の頭部に当たる。
その結果を確認せず、ラウラは射撃を続ける。
「っ!ラウラ!」
シャルロットは声を上げるが次の瞬間、2人は高速の何かによって吹き飛ばされた。
──
「おい、フォルテ。」
「なんすか?先輩?」
殴ろうとする黒い電童を避けるフォルテとダリル。
「これってGEARの奴だと思うか?」
「まっさか~。今まで何度も出てきた奴らのっしょ?」
「だよな~。」
ダリルは避けながら、背中に双刃剣で一撃を与え、相手の体勢を崩す。
「ともかく、こいつを叩き出すぞ!」
「了解っす!『イージス』のコンビネーション見せてやりましょう!」
起き上がった黒い電童が放つ飛翔烈風波を、2人は炎と氷の障壁で難なく防ぐのだった。
「ふん!」
「まだまだっスね!」
得意気な顔で黒い電童を見る。
相手はただ静かに右手を上げて構える。
「はっ!こいよ!」
「そんなパンチじゃ、うちらに傷の一個もつけれないっスよ」
しかし、次の瞬間、2人が作り出す障壁が何かによって潰された。
「なにっ!?」
「そっ!それは!?」
驚きのあまり、動きが止まった一瞬。
2人は大きな衝撃で吹き飛んで居た。
──
「えっ……?」
簪は突然現れた黒い電童の顔を見て、恐怖した。
慣れ親しんだ電童、その顔が髑髏になっているせいだ。
まるで電童が負け、星夜が死んだと言っているように見えるからだ。
「こっ!来ないで!」
必死に否定するように荷電粒子砲〈春雷〉を構え、放つ。
黒い電童は上手く避けながら近づいてくる。
「いやっ!いやっ!」
即座に薙刀〈夢現〉を展開し、振るう。
しかし、それは簡単に避けられる。
一旦距離を取り、睨み合う。
(大丈夫、星夜くんなら……平気?大丈夫?………まさか…?)
元々簪は気が弱い方である。
姉である楯無に対する劣等感等もあり、ネガティブに物事を捕らえる事も多かった。
打鉄弐式が完成してからは、他の専用機持ち達と居ることも多く、彼らのお陰で引っ張られていたので明るく振る舞えていた。
しかし、今は1人で居るせいか、どんどん悪い方へイメージが広がっていく。
「うおおおぉぉぉっ!」
そんな状態のピットに壁を壊して入ってきたのは白式を纏った一夏だった。
元々同じピットで待機する予定だったので、近くに居たのだろう。
一夏はそのまま黒い電童に蹴りを入れて吹き飛ばす。
「おっ織斑くん!」
「簪!無事か!?」
雪片を構え、黒い電童の前に立つ。
「なんだ!?顔がドクロ!?」
一夏も敵の異様さに驚く。
その隙を逃さず飛び込む黒い電童。
「うわっと!」
一夏は雪片で拳を弾く。
「なんだ!?星夜の電童よりパワーがあるぞ!」
「もしかしたらリミッターが無いのかも!気をつけて!」
一夏の疑問に簪が答える。
「ああっ!わかった!兎に角こいつを一回アリーナに押し込もう!」
「うん!」
白式と打鉄弐式は高機動型の機体だ。
その為、狭いピット内の戦闘では相手の黒い電童が有利と判断し、簪がアリーナハッチを壊し、一夏が相手を押し込む。
「よし!」
「これでっ!」
壁を壊した時に舞った土埃で敵の姿が見辛いが、センサーでどこに居るかはわかるので問題ない。
戦いやすくなったと思った瞬間、相手の閃光雷刃撃が2人の目の前に迫っていた。
「えっ!?」
「なんっ!?」
成す術無く2人は閃光に飲まれた。
──
「紛い物めっ!散れっ!」
箒の2振りの刀が黒い電童を狙う。
しかし、刀を弾かれ、反撃の蹴りが振られる。
「やらせないわよ!」
横から楯無がランス〈蒼流旋〉を突きだし、黒い電童を突き飛ばす。
「ありがとうございます。」
「ど~いたしまして。まだ倒せてないわ。」
隙を見せること無く、構える2人。
敵が立ち上がる瞬間を狙い、楯無が突撃する。
「はぁっ!」
楯無が突き出したランスを黒い電童は両手で掴み、受け止めた。
全力でランスを押すがピクリとも動かない。
「箒ちゃん!」
「はい!」
楯無の言葉に自分のやるべき事をすぐに理解し、箒は行動に移る。
楯無の後ろに回り、ランスを押し込む。
2人分の力で押されたランスは少しずつ、敵の胸部装甲に進んで行く。
「まだまだ!」
「はい!」
楯無と箒は同時にブースターを吹かした。
余りの出力に相手の黒い電童も耐えることができず、壁に叩きつけられる。
「箒ちゃん!展開装甲を全部防御に回しなさい!」
「楯無さん!なにを!?」
押し返そうとする黒い電童に対し、ランスに内臓されたガトリングを喰らわせつつ、楯無は自らの周りに漂う水を右腕の一転に集める。
「ミステリアス・レイディが扱うアクア・ナノマシンを全部使って、最大の一撃を喰らわせるわ。分かりやすく言うと私版のファイナルアタックね。」
ミステリアス・レイディのファイナルアタック。
その言葉に嘘は無く、楯無の右手に集まっている水は既にあり得ない程のエネルギーを持っている。
センサーを通じてそれを見た箒は防御の準備をする。
「楯無さん!」
しかし、それほどのエネルギーを目の前にして、相手が黙っているはずもなく、右腕から飛翔烈風波を放つ準備をしている。
楯無は必殺の一撃を用意するため、動くことが出来ないのは箒にもわかる。
敵の攻撃を防ぐ為、箒は片手をランスから離し、刀〈雨月〉を取り出す。
「箒ちゃん、行くわよ。」
「えっ?」
言われた直後、高エネルギー反応に紅椿が判断し、パイロットの安全の為、展開装甲を全て防御に回す。
「ミステリアス・レイディ!ファイナルアタック!」
楯無が右手を相手に突きつけると水の塊が敵へ向かって行き、大爆発を起こす。
──
「ぐっおおおおぉっ!」
俺は黒い電童と取っ組み合いになっていた。
相手はリミッター等が無いのか、そもそも改造してあるのか解らないが、出力は確実にこっちより上だった。
「はっ!」
「たぁっ!」
その隙に両サイドから鈴とセシリアさんが攻める。
「速い!」
相手は一瞬の迷いもなく、俺を全力で蹴り、その反動で距離を取って回避する。
「星夜!」
「大丈夫ですか!?」
「まだ問題無い!」
何回かの取っ組み合いをして、わかったのはこの黒い電童は全てにおいて電童のスペックを超えていること位か。
「鈴!セシリアさん!穴開けてアリーナに押し込もう!」
「そうね!ここじゃ狭すぎるわ!」
「皆さんと合流できるかも知れません!」
このままだとジリ貧になりそうなので、広い場所に移る為、行動する。
「喰らいなさい!」
まずはセシリアさんが、ビットとフレキシブルを活かした多面攻撃で相手の足を止める。
「砕けろぉ!」
鈴が両肩の衝撃砲で敵に攻撃しつつ、ピットハッチを壊す。
「これでぇ!」
ハッチを壊した瞬間、敵が体勢を整える前に蹴りを入れて吹き飛ばす。
「もう一発!」
「行けぇ!」
「貰いますわ!」
敵が地面で体勢を直しながら、着地する瞬間を狙って3人で同時攻撃。
飛翔烈風波、衝撃砲、ビットレーザー。
ほぼ同時に放たれた攻撃に敵は防ぐ術は無いはず。
爆発に飲まれる黒い電童。
煙が立ち込め、敵の様子は見えないので構えながらその一点を睨む。
\ズドォン!/
\ドゴォン!/
アリーナの壁の2ヶ所から爆発が起きる。
恐らく中に居た皆が同じように壊したのだろう。
「あそこは…一夏と簪ね。」
「もう片方は楯無先輩と箒さんだな。」
「この距離でも通信が出来ませんわ。」
ピットハッチのNo.からそれぞれ中に居た人物を上げる。
状況を確認しようと通信を試みるが、繋がらない。
かなり強力なジャミングを行っているようだ。
そんな中、目の前の敵の姿がはっきりして来た。
「ちっ!まだ健在か……」
「でも、それなりにダメージは………」
「あっ!あれは……!」
仁王立ちする影を見て、俺達は呟くがその途中で言葉が止まる。
黒い電童は赤い壁に守られている。
「なんで!?」
「レオ!?」
「ユニコーンさん!?」
目の前の黒い電童は右腕と右脚にユニコーンとレオを装備していた。
\ドッゴオォン!/
余りの状況に理解が追い付かず止まっていた俺達。
その前にアリーナのバリアを破り、巨大な影が降りてくる。
「よぉっ!潰しに来たぜぇ!電童おぉぉぉっ!!」
「凰牙!」
「やっぱりお前か!」
「大型の装備!?」
巨大な影の正体は凰牙だった。
今まで見たことも無い、新たな装備。
バックパックに付けた太いフレーム。
そのフレームの先には巨人の腕とも言える黒い腕がついていた。
「これが!俺の『破壊』だぁ!」
「新しいデータウェポンか!?」
凰牙の腕の動きに追従する形で両サイドの巨腕が動く。
指の中は空洞でそこにはエネルギーが貯まっている。
「喰らいなぁ!」
左右合わせて10門のエネルギー砲が放たれる。
俺達は即座に散開、砲撃を回避する。
「そらよっ!」
凰牙は俺に向け、巨腕を振るう。
「ぐっ!」
なんとかガードするが、そのまま地面に叩き落とされる。
追撃を避けるため、地面を蹴って後ろに飛ぶ。
「星夜!」
「星夜さん!」
俺を援護しようと鈴とセシリアさんが動こうとするが、その間にユニコーンとレオを付けた黒い電童が立ち塞がる。
「どうせ見かけ倒しでしょ!」
「何が狙いか存じませんが!」
鈴とセシリアさんがそのまま、黒い電童と戦い始める。
「何言ってんだ?本物に決まってるだろ…。」
「っ!?」
俺と戦いながら、鈴やセシリアさんにも聞こえるように言う凰牙。
「なっなんですってぇ!?」
「一体なぜ!?」
「簡単な事さぁ…。」
「ラゴウの毒か!」
「当たりだぁ!」
俺達に動揺が走る。
実際、戦いが始まって時間がたっているのに、俺の元に一体も来ていない。
仮に学園側のコントロールを取り返す事を優先していたにしてもおかしい。
「いつの間に!?」
「全部教えると思ってんのか!?」
凰牙の巨腕のパンチを避ける。
距離を取りつつ、考える。
ただ、わかっているのは、最悪の状況に追い込まれている事だった。
はい、今回はここまで!
輝刃の特殊能力はこんな感じになりました。
まだ完全には覚醒してないので、自由には使えません。
今回の敵は真っ黒い電童達!
ただし、フェイスがドクロです。
凰牙の新しいデータウェポンの装備状態はTRシリーズの〈ギガンティック・アーム・ユニット〉のイメージです。
ご意見、ご感想、質問等、お気軽にどうぞ!
────
セ「ユニコーンさん!なぜ!?」
鈴「レオ!どうして!?」
星「2人とも!落ち着け!」
セ「なぜ!星夜さんは落ち着いていられますの!?」
鈴「そうよ!あいつらが!敵に取られたのよ!?」
星 「そうやって俺達が焦るのも敵の思惑だ!」
セ「そ、そう言われれば。」
鈴「確かに…。」
星「まずはあの黒いのをぶっ飛ばして取り返すぞ!」
次回!IS戦士電童
第61話《キズナ》
セ・鈴・星「「「絶対に!取り戻す!」」」