SKY VALKYRIE & Silver Arrows 作:中井 修平
決闘を終え、F-2AとJAS-39E、F/A-18Eが戻ってくる。
3機は各々の駐機位置に機体を戻し、エンジンを切った。
整備員が掛けてくれた
「おう、お疲れ」
ヘルメットを脱ぎ、地表に降り立ったリョウを迎えたのはヒロキだった。
ヒロキはリョウに飲み物のボトルを手渡し、リョウはそれを受け取る。
「サンキュー、凄いなあの2人」
「だな、特にノワリー少佐のナイフエッジからハイレートクライムは凄かった。地上で見てたけど、あれをやるパイロットはそうそういない。
「そうだな、確かに」
と言って笑いあう。
「馬鹿!」
人垣の向こうから声が上がる。
確か……ヴァルキリーのソエルの声だ。
「ノワリー少佐もアッシュも今ソエルにめっちゃ怒られてんぞ」
「多分な、そっとしとこうぜ」
「だな」
アッシュ……ソエルには怒られとけ。
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人垣の中には、ハルトマンやバルクホルンの他に、特殊部隊の司令官ハドソン少将と副官のウィルキンス中佐、レンジャーのサレスティ大尉も居た。
「全く……いきなり飛び出したと思ったら……」
風紀にうるさいサレスティ大尉がそうボヤくが、ウィルキンス中佐がそれをなだめる。
「そう言うなサレスティ、ここで俺達が口を挟むの野暮だ」
サレスティ大尉がそれを聞き、口を閉ざす。
ハドソン少将は横で微笑ましげにヴァルキリーを見ていた。
「勝手な真似は許さんぞ!」
雰囲気にそぐわないダミ声がその場を貫く。
人垣が割れ、姿を見せたのは憤怒の表情を浮かべたオズワルド准将と、無表情のクラッド・エリオット大佐だ。
「ウィルキンス」
「はっ」
ハドソン少将は表情を変え、ウィルキンス中佐に声を掛けると、直様ウィルキンス中佐は引っ込む。
ハドソン少将も一歩だけ下がった。
オズワルド准将は気味悪くニヤリと笑う。
「エリオット少佐、君をアルメリア基地の指揮官から解任すると上層部から通達があった。後任は吾輩に決まったから安心してくれたまえ」
「私は何も聞いていません」
「当然だ、たった今決まったことだからね。長い間ご苦労だった。荷物を纏めてさっさと出て行きたまえ」
「従う気はありません、どうせ貴方の独断でお決めになったことでしょう? 基地から出て行くのは貴方のほうですよ」
フライトスーツに身を包んだままのノワリーがそう反論すると、その豚がニヤけている様な表情にピシリと亀裂が走る。
どうやらノワリーが素直に従うと思っていたらしい。
イモムシの様な指がノワリーの胸倉を掴み上げ、オズワルドが汚らしい口を開く。
「キメラごときが人間様に楯突くのか⁉︎死に損ないの怪物が!貴様は身体も容姿も偽物だ!貴様は貰い物の部品で作られたに過ぎんのだ!友人を犠牲にして生き延びた気分はd……」
ゴッ!
鈍い音と共にオズワルドの顔面の脂肪が歪む。
アッシュが目一杯の力を込めてぶん殴ったのだ、しかもその拳にはどこから持って来たのか小銭が握り込まれているから威力も倍増だ。
鼻血を流しながらオズワルドは起き上がり、アッシュを睨みつける、が、アッシュはピクリとも怯まない。
「隊長が怪物だと⁉︎隊長は英雄だ!誰もが憧れるな!アルメリアとヴァルキリーを守れるのは隊長しか居ない!権力や地位に固執するアンタの方が怪物だ!」
アッシュはそう怒鳴り返し、その声がオズワルドの耳を劈く。
しかし、オズワルドも黙っている訳では無い。
鼻血を垂れ流すその顔を再びニヤけさせ、群衆に投げかけた。
「諸君!よく聞きたまえ!ここにいる男は人間ではない化け物だ!彼は死んだパイロットの肉体を再利用して生まれた、『キメラ』と呼ばれる永遠に戦い続ける兵器だ!君たちが尊敬し崇拝する英雄殿は、人間の皮を被った怪物なのだよ!」
蜂の巣を突いた様に喧騒は大きくなっていく。
オズワルドは腕を広げ、すっかり勝った気になっている。
こいつはダメだ……そう思っている人の方が多い。こんな奴が空軍の准将の座に居座っているのか、どこまで腐敗しているんだ上層部は。国益を考えず地位や富に固執する人物など、空軍どころか軍人の風上にも置けない。
ノワリーはそんな中、口を開く。
「――確かに私はキメラと呼ばれる怪物だ」
「おや、自ら認めるとは潔い男だな」
「だが……」
ノワリーは少し溜め、良く聞かせるために間を作った。
「____その怪物に媚びていたのは!一体誰だ‼︎」
「……なんだと?」
「キメラの私に媚びて名声を利用して、今まで甘い汁を吸ってきたお前たちのほうが醜い怪物だ‼︎性根まで腐りきった俗物だ‼︎勲章が欲しいのなら喜んでくれてやる‼︎でもヴァルキリーのエンブレムだけは絶対に渡さない‼︎このエンブレムには空を翔ける人々の誇りが詰まっている‼︎あんたには背負いきれない重さの誇りだ‼︎」
ノワリーはヴァルキリーに誇りを持っている。そんな事はヨルジアのメンバーにも分かっていた。
それを理解せず、勝手な真似をしたのはオズワルドの方だった。
ノワリーを嫌悪の目で見る者は居ない、むしろオズワルドがゴミを見る様な目で見られていた。
この基地の、そしてヴァルキリーの隊長は、どう転んでもノワリーしか居ないのだ。
「この男はキメラだぞ!怪物なんだぞ!どうして言うことを聞くんだ⁉︎」
「うるせぇ!風船玉!」
オズワルドを「風船玉」と揶揄したのはリゲルだ。彼の周囲にはレンチやガスバーナーを装備した整備員たちが殺気立っている。一歩踏み出したリゲルは青く燃える双眸でオズワルドを睨みつけた。
「キメラ?怪物?俺たちにはそんなこたァどうでもいいんだよ!俺たちはアルメリア基地の隊員だ!だからエリオット隊長の命令しか聞かないし従わない!よく覚えておけクソ野郎!」
「下っ端が偉そうな口を利くな!吾輩は准将だ!こんな小さな基地などすぐにでも捻り潰せるんだぞ!」
「やれるものならやってみなさい! その時はあんたの頭を機関砲でぶち抜いてあげるわ!」
リゲルの次に啖呵を切ったのはメアリィだ。こうも立て続けに反論されるとは思わなかったのだろうオズワルドは、激しく狼狽える。
「生意気なドブネズミ共め!覚悟しろ!今すぐ全員追放処分にしてやる!おい!ヨルジア軍!」
オズワルドはハドソン少将に向き直り、声を上げる。
「こいつらを拘束しろ!」
ハドソン少将はそれを聞くと、パチンと指を鳴らす。
群衆の背後から
手に持っているのは黄土色の小銃____FN SCAR-L Mk16だ。
「ハハハハ!これで貴様らも終わr」
バキィィィィィ……ン
ダァン
勝ち誇ったオズワルドのセリフを遮ったのは、彼の肩の後ろにあるマンホール。
そのマンホールの蓋が金属音を上げて火花を散らし、跳ねる。
そして少し間を置いて、遥か遠くから銃声が聞こえる。
オズワルドは知らない。
800m先、最端の格納庫の屋根に登った狙撃手、アーロン・ヘイへ少尉が撃ち抜いた事を。
マンホールの直径は、30cmと小さな物だ。そして、狙える角度も限定される。それを彼は撃ち抜いたのである。
彼は馴染みのガンスミスにワンオフカスタムを施して貰ったレミントンM24A2狙撃銃を更に高精度に仕上げ、弾倉、薬室、銃身を改造して7.62×67mm 300
『命中、次はどうします?頭でも吹っ飛ばしますか?』
「それは止めとけ、さて」
震えるオズワルドの目の前でハドソン少将が無線にそう言った。
「オズワルド准将、と言ったな……私は少将だ。そして、確かに私は現地指揮官の指示に従う様に命を受けている。しかしな」
コツ、コツ、とハドソン少将はオズワルド准将にゆっくりと歩み寄る。
「……私に、私の部隊に、ヨルジア軍に命令出来るのは、ヨルジア連邦共和国の大統領だけだ、覚えておけ!」
その言葉と同時に、腕にに銀の矢のワッペンを付け、同じデザインの徽章を胸に付けた覆面の部隊は、その黄土色の小銃をオズワルドに向けた。
ジャキッ!とコッキングレバーを引き、初弾装填した金属音と8つの銃口がオズワルドを震え上がらせる。
2発目の.338
上手く外し、しかし外れ過ぎない様に、更に飛行場を決して傷つけない様に追い立てる狙撃銃の銃声が飛行場に響いた。
溜息を吐き、ハドソン少将はノワリー少佐に向き直る。
「申し訳ありません少佐、マンホールを傷つけてしまい……補修費は出しますので」
「いや、気にすることはない、少将。マンホールの蓋位なら倉庫に予備がある」
「ありがとうございます」
それだけ言うと、ハドソン少将は覆面の部隊を連れて待機場所に指定されている所に戻った。
残されたのは群衆と、クラッド・エリオット大佐だった。
ノワリーとクラッドの視線が交差する。
「オズワルドは間違いなく失脚するだろうな、出世欲の権化の蛆虫が……」
「大佐……」
「勘違いするな、お前に味方した訳じゃない」
「分かっています。私は、俺は『ノワリー』として生きていきます。ここにいる彼らはキメラの俺を必要としてくれている。一緒に空を飛びたいと思ってくれている。それだけで俺は『ノワリー』として生きていける。たとえ貴方が俺を息子として見ていなくても、俺は貴方を父親だと思っています」
やはりクラッドも人の子で、親だ。何か思う所があるのだろう。
気付かない程薄く表情を崩したが直ぐに取り繕い、ヴァルキリーに背中を向ける。
「明日の朝、作戦会議を開く。戦闘航空団司令部に出頭するように。恐らくだがアルメリア基地は最前線になるだろう。我々には君たちの――ヴァルキリーの力が必要だ」
そう言ってクラッドは静かに立ち去る。それを群衆は敬礼で見送った。