SKY VALKYRIE & Silver Arrows 作:中井 修平
ソエルは兄のノエルと対峙していた。
両方ともF-16Cだが、脳波融合リンクシステムによる機体のカラーリングが違う。
ソエルのアストライアはルビーレッドだが、ノエルのヴァルハラはアイスブルーだ。
『ソエル、今ならまだ間に合う。アルメリア基地に引き返すんだ。僕は君と戦いたくない』
『ノエル、どうしてなの!?私たちは兄妹じゃない!』
『兄妹でも分かり合えない時があるんだ。僕は世界樹を枯らすためならなんだってすると約束した。お願いだから引き返してくれ』
『……できない。私はヴァルキリーの皆と最後まで戦う。そして世界樹を守るわ』
ソエルとノエルは激しく言い合う、しかし、次に出たノエルの言葉は非情だった。
『分かったよ、ソエル。それが君の覚悟なんだな。――それなら僕も全力で君を墜とす!』
ほぼ同時にヘッドオン、しかしアストライアの方が機速が速かった為、旋回が膨らむ。
アストライアの内側に切り込み、加速するヴァルハラ。
ソエルは条件反射的に機体を操る。
インメルマンターンで上昇、翼端からベイパーを発生させる急上昇ぶりだ。
当然の様にヴァルハラは追ってくる。
ソエルはインメルマンターンの頂点でスロットルを絞る、背面のままラダーペダルを踏んで横滑りさせ、フラップを下げた。
すると、機体はソエルの操縦に応える様に空中を滑った。
左捻り込みだ、元々レシプロ機でしか出来ない機動を、奇跡的に成功させたのだ。
ヴァルハラがオーバーシュート、ソエルは6時方向に付く、リーサル・コーン内にヴァルハラを捉えた。
しかし、ソエルは引き金を引かない。
同じ母の腹で育った、血を分けた兄を、殺すなど、優しい彼女には出来なかった。
『どうして撃たない?早く僕を墜とすんだ』
ソエルは怒鳴り返す。
『できるわけないじゃない!ノエルは私のお兄ちゃんだもの!そんなことできないよ!』
ノエルは応えるより速くヴァルハラを旋回させ、アストライアの後方に付こうとする。
と、その時、通信が割り込んだ。
『こちらスワロー03!ヴァルキリー05、援護する!』
ユニス・フレミング中尉だ。出撃前、ヨルジア空軍のパイロットの中で仲良くなり、今では友人と呼べる仲になったパイロットだ。
『レフティ!待って!あれに乗ってるのは……私の兄なの!』
レフティ、と言うのはユニス中尉のTACネームだ。
『何やってるの⁉︎死ぬわよ⁉︎』
『お願い!説得する!ゴメン、少し待ってて!』
『……わかったわ、でもいつでも撃てる位置にいる。無理なら呼んで』
『わかった』
ヴァルハラは旋回終了、アストライアの後方、6時方向に機体をピタリとつける。
今にも撃って来そうな殺気を感じ取りつつ、ソエルはノエルとの通信を再び繋げた。
『ノエル!いい加減に目を覚まして! 貴方が憎むべき相手は世界樹じゃなくてパスカルよ!彼が私たちの両親を殺したのよ!世界樹を枯らしたって父さんと母さんは戻ってこないの!それにこんなことをしたって二人は喜ばないわ!兄妹で争っているって知ったら父さんも母さんも泣いちゃうよ!』
お願い……正気を取り戻して……!
ノエルはそれには応えない。
それを示すかの様に、ヴァルハラが突っ込んでくる。
回避は不可能だ。
『ヴァルキリー05!ソエル!』
ユニス中尉からの声が耳元で聞こえる、これが最期の言葉になるのか……そう思った矢先、背後で爆発音が響いた。
ヴァルハラが撃ったか、はたまたユニスがヴァルハラを撃ったか。
しかし、次の瞬間もソエルは生きていた。
どうやらいつの間にか背後に回っていた敵機を、なんとヴァルハラが撃墜したらしい。
『ソエル、君の言うとおりだよ。こんなことをしても父さんと母さんは喜ばない。当たり前のことに気づけなかったなんて――僕は本当に馬鹿だ。ソエル、僕も一緒に戦わせてくれ』
そう言いつつ、ノエルの水色のヴァルハラがアストライアの左隣に並ぶ。
『ノエル――! ありがとう!』
と、耳元で再び通信が。
ユニス中尉だ。
『……終わった?大丈夫?』
『うん、大丈夫。ありがと』
『良かったわ……安心した。……こうして上から見ると、2人の機体、綺麗ね』
ユニス中尉の声は、先程の緊迫した声からいつもの穏やかな声に戻っていた。
そして1機のF-15CJがソエルの右隣に並ぶ。
機体番号は03、垂直尾翼の飛行隊マークはツバメが描かれているユニス中尉の機体だ。
『ところでソエル、彼女は一体……?』
『ヨルジア空軍の友達、TACネームはレフティで本名は______』
『アストライア、残念だけどお喋りしてる時間は無いみたい、
視界を元いた空域に戻すと、確かに紫色に発行する機体がMiG-29 9機に追跡されているのが見えた。
9機のMiG-29は上手く連携しつつ
『隊長!隊長!応答してください!』
『――ステュアートか?』
『隊長! 早く逃げてください! 一人じゃとても相手にできませんよ!』
『こちらスワロー03、ヴァルキリー01、援護します』
『大丈夫だ、安心しろステュアート、俺を誰だと思っている?心配するな、すぐに片付ける』
と言うと、早速1機目を撃墜。
爆散する機体の破片を超人的な反射と感覚で躱した
機体がバレルロールしつつ、敵機の残り8機が全機オーバーシュートした。
青い稲妻、その技術は本物だった。
今の螺旋を描いて急降下する"スパイラルダイブ"は、パイロットに掛かる負担も機体に掛かる負担も大きい。
6年のブランクがあるにも関わらず、それを難なくやってのけるとは、腕は衰えていないどころか冴え渡っている証拠だ。
8機のMiG-29のうち7機はその青い稲妻に撃たれて墜ちる、残った1機は再び上昇しようとするが……
『FOX3!おやすみ!』
どこからか飛翔して来たAMRAAM______ブルームーン01、
『援護に感謝する、ブルームーン。ステュアート、無事か?』
『ヴァルキリー・リードへ、大したことないさ』
『はい!隊長こそお怪我はありませんか?』
『あぁ、大丈夫だ。ところでお前の側を飛ぶ機体は?』
ヴァルハラの事だろう、ノエルが通信を開いた。
『ソエルの兄、ノエル・ステュアートです、アークでお会いしましたよね?』
『ああ……彼女を人質に取っているのなら、すぐに解放したほうが賢明だぞ』
上昇旋回したブリューナクがヴァルハラを射程距離に捉えた。ノワリーの腕ならばノエルが撃つ前に撃ち墜とせるだろう。空の上に張り詰めた空気が漂い始める。ブリューナクとヴァルハラのドッグファイトが始まる前に誤解を解かないとノエルが死ぬ。
『待ってください!ノエルは敵じゃありません!私たちと一緒に戦ってくれると言ってくれたんです!お願いします!信じてください!』
『こちらスワロー03、レフティです。私が保証します、彼は敵ではありません』
ノワリーは無線越しに沈黙する。聡明な彼の事だ、考えの真っ最中だろう。
暫くして、再び口を開く。
『……分かった。ノエル君、君を信じよう。俺たちと一緒に世界樹を守ってくれ』
『ありがとうございます、エリオット少佐』
中央海上空の航空優勢を確保したフライハイト・ヨルジア連合飛行隊は一旦集合したが、ヴァルキリーの機体が2機ほど足りない。
アッシュ機の
『大変よ!アッシュとアレックスの姿がどこにも見えないの!』
トパーズイエローに発行する機体、メアリィの
視線を巡らせると、激しく爆発と黒煙の上がる箇所がある。
目を凝らしてよく見ると、ミッドナイトブルーとエメラルドグリーンに輝く二機の戦闘機が、編隊を組んで敵機を撃ち墜としながら、ソエル達から遠ざかる進路を突き進んでいる。変幻自在なミサイルの軌道とダイレクトリンクの輝きは、間違いなくグングニルとシルフィードだ。
『ブルー!アルジャーノン!何をしているんだ!すぐに俺たちと合流しろ!』
『こちら
『こちら
『もしかして……二人はワールドエンドを目指しているんじゃ――』
『なんだって?たった二人でワールドエンドに乗り込もうとしているのか?』
様々な通信が飛び交う。
『そうだとしたらすぐに追いかけないと! 二人だけじゃ危険よ!』
『――ローレンツ、君はノエル君と一緒にエインヘリヤルに戻ってくれ。俺とステュアートで二人を追いかける』
『何を言ってるの⁉︎二人だけで行くなんて危険よ!私も一緒に行くわ!』
『ワールドエンドに乗り込むには敵の数が少ない今しかない。エインヘリヤルに戻ってすぐに応援を向かわせるよう伝えてくれ。大丈夫だ、ステュアートたちは俺が絶対に守り抜く。だから行ってくれ』
『そんなこと――!』
『ローレンツさんでしたよね?ここで僕たち全員が墜とされてしまっては元も子もありません。敵の数が増える前に応援を要請したほうが安全です。少佐の判断に従いましょう』
どんな状況でも落ち着きはらったノエルの声が響く。メアリィは何も言わない。気丈に言い返すのだろうか。それとも萎れた花のように従うのだろうか。
『……分かったわ、隊長の判断に従う。だから約束して。必ず無事に戻ってきて』
『ああ、約束する』
『行きましょう、ノエル君』
『はい』
そこへ、ヨルジア空軍からの通信も入る。
『ブルームーン・リーダーよりヴァルキリー・リーダーへ、燃料ビンゴ、弾薬も
空中給油機の支援を受けたとは言え、ミサイルや機関砲弾などの弾薬の支援は空中では受けられない。
マナの技術を持たないヨルジア空軍機が援護出来る時間には限りがあった。
『ヴァルキリー・リーダーよりブルームーン・リーダー、気にしないでくれ十分だ』
『ここから先は手伝えないが、既にワールドエンドに向かっている隊がいる、援護はその隊に引き継ぐが、良いか?』
『それは心強い、感謝する』
『では我々はタンカーの給油を受けた後、アルメリアに帰投する。……ヴァルキリー全機の帰還を待っているぞ、必ず生きて帰ってくれ』
『任せろ!』
ヨルジア空軍機が、一斉に翼を翻してアルメリア方面へと向かう。
『ソエル……ゴメン、ここまでみたい』
『ううん、ここまででも、ありがとう』
ソエルとユニス中尉も挨拶を交わし、空軍機は全機帰投コースに入る。
『ステュアート、俺の側から離れるな!』
『はい!』
そう言うとブリューナクとアストライアは、凄まじい速さで残敵を撃ち墜としながら、ワールドエンドに進んでいった。
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同時刻、ワールドエンドの上空
国際仲裁裁判所の通告を無視してゲオルギアが建設した軍事基地からは、流石に精鋭が配備されていたのか、4機のSu-27がスクランブル発進した。
しかし、そのSu-27は離陸直後、レーダーに映っていない箇所からのミサイルで全機撃墜された。
『ジャスティス01、敵機撃墜、爆撃コースに入る』
『
ヨルジアの国籍マークを付けたF-35Aが接近中であった。
F-35AライトニングⅡ、コールサインは"ジャスティス"。AAM-5とEOTS、HMDの組み合わせにより、わざわざ敵機の後方を取る必要は無い。
しかし、それを差し引いても鋭い機動でF-35AはSu-27の後方に付き、撃墜した。
爆撃コースに入った4機のF-35Aは、GPSの座標を設定、
『ジャスティス01、
コールと共に一斉にJDAMが投下される。しかもGBU-31、2000ポンドの大型が1機につき2発だ。
風切り音を鳴らし、空中で姿勢を変えながら着弾。3基ある航空機格納庫全てに命中、残りの5発は周辺に展開していた2K22ツングースカ自走高射砲に命中して破壊した。
『コヨーテ01、これよりSEADを行う』
続いて侵入して来たのはF-2J"コヨーテ"隊だ。
F-2Jは、ヨルジアが独自開発したF-2Aに、SEAD任務に適した機材とシステム、武装を乗せた機体だ。
翼の下には、4発のAGM-88E
ワザと敵のレーダーに目立つ様に飛行し、レーダーロックを誘う。
F-2Jの機内には、生命に危険を感じさせる様なミサイルアラートが全力で鳴り響く。
しかし、パイロットは落ち着いていた。
『コヨーテ01、
2発のAGM-88に点火、音速の4倍で敵の地対空ミサイルシステムを無力化する。
機内では、黒いバラクラバとマリタイムヘルメットを被り、銀の矢をモチーフにした部隊が準備をしていた。
次回更新は9/5です。
最後の部隊は……もうお分かりですね?