SKY VALKYRIE & Silver Arrows 作:中井 修平
まず動いたのはエイミーだ。
手に持っていたスローイングナイフ"クナイ"を、敵の指揮官と思しき銃を持つ男へと投擲する。
クルクルと縦に回転しつつ、ナイフはその男の後頭部へと思い切り突き刺さる。
ぎゃっ!という短い悲鳴と共に死んだその男に、他の私兵が驚いてる。
その間に、エドワーズ、デリック、ハンナの3人は正確な射撃を行う。
銃を持つ奴らは驚異だ。その為、なるべく遠い奴に狙いを定め、引き金を引く。
銃声と共に、
私兵達がこちらに気付くより先に、
特殊部隊が任務の時に殺すものは3つだ。
"絶望"と"恐怖"の感情、そして"敵"である。
パスカルの横に居た兵がHK33を向けるが、それよりも早くその銃を撃ち抜き、破壊する。
そしてトドメとして、胸に2発頭に1発の弾丸を叩き込んだ。
悲鳴と共に、その兵士が倒れこむ。
エドワーズは更に2発、3発と発砲し、敵の兵士を一掃していく。
ヴァルキリーに銃を突きつけている敵も、ヴァルキリーに当たらない様に丁寧な射撃で敵のみを射殺する。
突入から10秒で、1個小隊程いたパスカルの私兵は全員が地面に倒れこんだ。
「また、君達か……」
パスカルはそんな風に呟く。
エドワーズ達4人は、パスカルに見覚えがあった。
それもその筈、コイツはオペラと共にアルメリアを強襲し、エイルであるアッシュとアレックスを捕らえたのだから。
「大人しくしてろ、お前に勝ち目はない」
「さて、それはどうかな?」
と、パスカルが挑発すると、木の根から新たな私兵が出てくる。
しかしそれも想定済み、哀れな事に新たな私兵は1発も撃つ事も出来ず先に発砲したエドワーズ達の弾丸の餌食になる。
「エドさん、ここは私が」
「……頼んだ」
エイミーが発砲しようとしたエドワーズを引き止める。
どうやら、ナイフ戦をしようとしているらしい。
全員の承諾を得ると、エイミーは右手に持ったカランビットナイフを手の中で回転させヒュンヒュンと音を立てて威嚇する。
途中で倒れた指揮官らしき人物からクナイを引き抜く。
引き抜いた瞬間、予備動作が見えない程の速さで再び投擲、1人の喉にクナイが突き刺さる。
驚いている私兵が発砲出来ずにいると、左手には既に新たなナイフ______ワスプナイフを持っていた。
そしてそのワスプナイフを敵兵の下顎に突き刺し、スイッチを入れると頭がパーン。
2人目を始末した。
3人目は銃を向けたが、既にエイミーの間合いに入っている。
カランビットナイフで喉を切り開かれた敵は喉を押さえて痛みに苦しみながら死んでいった。
再びエイミーはカランビットナイフを音を立てて威嚇しながら回す。
4人目はHK33を発砲してエイミーを足止めしようとするが、それによって逆に標的になる。
カランビットを左腕の脇に刺し、ワスプナイフを心臓に突き立ててスイッチを押す。
ボンと鈍い音を立てて心臓が破裂、更に細かい切り傷を動脈付近に入れていく。
5人目に向き直ろうとした瞬間、エイミーの左手が蹴られる。
左手からワスプナイフが蹴られて飛ばされる。
5人目はナイフ使いの様だ、片手にダガーナイフを持っている。
エイミーは
先に動いたのは5人目だ、ダガーナイフを大きく振りぬく。
エイミーはそれを躱すが、流石はナイフ使いというか、大振りでも速い。
ポーチの表面が僅かに切られる。
エイミーがカランビットナイフを細かく振るう、敵もそれを躱す。
敵の兵がダガーナイフを振り上げ、エイミーを切り裂こうとするが、エイミーはカランビットでそれを弾く。
激しい金属音が響き、敵はもう一度ダガーナイフの刀身を振り下ろすと、今度はエイミーがナイフをクロスさせて止めた。
ギリギリと鍔迫り合いの中、敵が話しかけて来る。
「嬢ちゃん、なかなかやるじゃんか、でもそろそろ限界なんじゃねぇの?」
と言うと、敵はナイフに力を入れてくる。
「……話してる余裕があるなら、もっと気をつけるべきですね」
エイミーはそれだけ言うと、噛み合わせている左手のナイフのスイッチを入れた。
音も無く射出された刀身は、敵の右眼にザクリと突き刺さった。
「ギャァァァァァ!」
凄まじい悲鳴とともに、深々とナイフの刺さったままの右眼を押さえる敵。
エイミーが左手には持っていたのは"スペツナズナイフ"というもので、スイッチを押すとスプリングの力で刀身が射出される。
某国の特殊部隊が使用しているという事から、この名前がついた。
再装填は出来るが、鞘に全体重を掛ける必要がある為、戦闘で再装填する事は考慮されていない。
現に、エイミーの左手にはスペツナズナイフのグリップしか残っていない。
悲鳴を上げ続ける敵にエイミーは、首元にカランビットを突き刺す。
静かにキレていたエイミーは、倒れ込んだ敵の首を踏み付けると、ホルスターから拳銃______SiG P226を抜き、頭に9mm弾を2発叩き込んでトドメを刺してあげた。
エイミーは首からナイフを引き抜き、返り血を浴びたとても"素敵な"笑顔でパスカルに微笑みかけた。
そしてエドワーズがパスカルに呼びかける。
「さて……全員片付けた、大人しく拘束されろ」
「私もそうやすやすと拘束されるつもりはないのだよ、何せ、私は大事なプロジェクトを進めなければならないのだから」
そう言うと、轟音と共にユグドラシルの根が地中から伸びる。
地面を突き破った硬く太い根は、あっという間にヴァルキリーのパイロット、ソエルを縛り上げる。
そしてソエルはパスカルの前に引き出され、盾として使われる。
「テメェ!ソエルを放しやがれ!」
アッシュはそう言って駆け出すが、アッシュの進路を遮る様に新たな根が生え、アッシュを檻のような構造で拘束する。
そして更に無数の根がウネウネと踊り、動けば突き刺すぞ、と威嚇しているようだ。
「どうして……?細菌は注射されていないのに……!」
「体表面からの吸収だろう、恐らくな」
つまり、注射器から漏れ出た液を、根の表面から吸収したと言う事だ。
「さて、拘束されるのはあなた方ですよ」
「!全員散開!」
エドワーズ達にも、木の根は襲い掛かった。
4人は散り、ターゲットを変更、木の根に向かって射撃を開始する。
しかし、木の根は弾丸が命中しても、目障りな虫がたかっているかの様に根を振り、効いている素振りを見せない。
その間にもパスカルは、銃を向けているクラッドに語りかける。
「どうします?人質は四人の若者、そのなかの一人は貴方の息子さんだ。まあ『本物』ではありませんが」
「大佐!私に構わないでください!早く撃ってください!」
ソエルが早く撃つ様に促すが、クラッド大佐は撃たない。
撃てる訳が無いのだ。
「賢明な判断だ」
パスカルが指を鳴らした。
すると、ユグドラシルの木の根が空気を裂いてクラッド大佐の右肩を貫いた。
「ぐあっ!」
木の根がパスカルに従っている……?
するとユグドラシルの木の根はクラッド大佐の落とした拳銃を拾い上げ、パスカルの手の中に落とした。
「よしよし、良い子だね。驚いたでしょう?ユグドラシルは私の意のままなんですよ」
「ユグドラシルが……?どういうこと?」
「論より証拠だ。見たまえ」
パスカルが白衣の袖を捲ると、現れた光景にソエルたちは息を呑む。
腕の表面がヘドロのように濁った緑色と硬い質感に変わっていたのだ。
変貌した皮膚の内側で何かが蠢いている。それが動くたびに皮膚が盛り上がり血管が脈を打ったりしていた。おぞましいの一言に尽きた。
「私の身体の中にニーズホッグを注射したんですよ。私の中のニーズホッグとユグドラシルの中のニーズホッグは繋がっている。簡単に言うと、私が見えない糸でユグドラシルを操っている、と言うことですかな」
パスカルがクラッドから奪った拳銃を構えた。
暗い銃口はピタリと彼を捉えている。クラッドの心臓の上で止まる。そして人間の皮を被った悪魔が不気味に笑う。
エドワーズ達が狙撃しようとしたが、木の根が邪魔をして撃てない。
「死んでもらいますよ、エリオット大佐。貴方が生きているといろいろ厄介だしね」
「私を殺す気か?私はエリオット家の当主だぞ?フライハイト空軍の大佐だぞ?私を殺せばどうなるか――」
「知らないな。そんなもの死んでしまえばただのゴミですよ」
タン、と、9mm口径の拳銃が乾いた銃声を上げる。
地面に血が落ちる、しかし、それはクラッドの血では無かった。
射線に割り込んだ1人のパイロット______ノワリー・エリオット少佐の血だった。
左胸に空いた銃創から、鮮血がドクドクと溢れ出る。
「無事ですか……?」
「なっ――なぜ私を庇った!?私はお前に残酷な言葉を、酷い仕打ちを――!」
ノワリー少佐は首を横に振った、そしてとても良い笑顔で穏やかに笑う。
「……貴方は俺の父親だ。絶対に、死なせは、しない――」
そう言うと、ノワリー少佐は吐血、膝をついて地面に倒れる前にクラッドに抱きとめられた。
クラッドがノワリー少佐の身体を揺すり名前を叫ぶが、ノワリー少佐は目を開ける事は無かった。
「おやおや死んでしまったか。最高傑作だったのに残念だよ。まあいい、死んだパイロットがいればキメラは好きなだけ造れるからね。それに死んでも養分であることに変わりはない」
その言葉を聞いた瞬間、ブチ切れたアレックスが地面を蹴って走り出す。
それを察知した木の根がアレックスに殺到、直撃は無いものの、彼に無数の切り傷や擦り傷を刻み込んでいく。
しかし、それらを一切無視してアレックスは走った。
そして全ての木の根を突破したアレックスが、パスカルに掴みかかる。
パスカルも下手に木の根を操ると自分まで巻き添えになるので、手を出せないでいた。
アレックスがパスカルを地面に叩きつける。するとユグドラシルの根がパスカルの制御下から離れ、ヴァルキリーが解放されてエドワーズ達も襲わなくなる。
胸倉を掴んだままパスカルの手から
「私を撃つつもりか? 私はお前の――」
「――忘れたんですか?」
パスカルの言葉を遮ったアレックスは、絶対零度の表情と声色でパスカルに語りかける。
「貴方は俺の父親じゃないんですよ。……俺は『アレックス』の姿をした戦闘兵器なんですから」
アレックスは
タン、と、エドワーズやパスカルの私兵達が使う自動小銃に比べると遥かに軽い9mmの銃声。
銃弾が銃口から飛び出るのと同時に、
リコイルスプリングの力によってスライドが元に戻る時に、マガジンからスプリングの力で押し上がってきた弾薬を1発、薬室に再装填し、素早く次弾の発射が可能になる。
350m/sで放たれた9mm弾は、パスカルの太股を貫通して小さな穴を穿つ。
9mmで貫通銃創ならまだ良い、これがコルトM1911A1ガバメントの様な
アレックスはその銃口を、今度はパスカルの額に向けた。
「――今度は外さない」
いつもとは違う、感情の消えた冷たい機械の眼をしたアレックスが、機械が吐き出す人工音声の様に感情の無い声で、パスカルに言う。
「ファック!やめろ!アレックス!」
木の根の牢獄から解放されたアッシュが、アレックスを止めるために駆け出した。
アッシュがアレックスの腕を掴むと、若葉色のアレックスの眼に理性の光が戻った。
しかし、それでもアレックスはパスカルを撃とうとする。
「離せよ! 終わりにするんだ!」
「こんなクソ野郎、殺す価値もないだろうが!お前の手が汚れるだけだ!カルマが重くなるだけだ!お前がそんなことする必要ねぇよ!」
アレックスは掲げた銃を落とそうとしたが、思い直して
両膝をついて崩れ落ちて彼は、目に涙を浮かべていた。
「――そうだ。終わりにしようじゃないか」
太腿から流血するパスカルが立ち上がる。
既に人間を辞めたパスカルはニーズホッグと同化した左腕を高く掲げると、途切れていた意思の糸が再びユグドラシルと繋がり、木の根達がウネウネと蠢き出す。
自分の思い通りに進まない事に痺れを切らしたパスカルの表情は醜く歪んでいた。
「私は神になる‼︎新世界の創造主になるのだ‼︎おとなしく生け贄になるがいい‼︎」
「違う‼︎貴方は神なんかじゃない‼︎人の命を弄んで、戦争を引き起こしてたくさんの人を傷つけた‼︎何が神よ‼︎貴方はただの人間じゃない‼︎狂った哀れな人間よ‼︎」
「いいや違わない‼︎私は神だ‼︎世界樹は私の物だ‼︎マナも‼︎世界も‼︎運命も‼︎全て私の物なのだ‼︎」
狂っている。
誰もがそう思った時、声が割り込んだ。
「……見苦しいな、敗北者の狂人」
覆面を被ったエドワーズが、パスカルに声をかけたのだ。
次回の更新は、9/14 12:00です!
……エイミーさん、雰囲気的には十六夜咲夜か「エクスペンダブルズ」のリー・クリスマス(ジェイソン・ステイサム)かな……