SKY VALKYRIE & Silver Arrows   作:中井 修平

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崩壊の終焉

「敗北者?違うな!私は世界を支配する勝者なのだ!新世界の創造主なのだ!君の言っている事は負け犬の遠吠え、負け惜しみにしか聞こえないね」

 

エドワーズに「敗北者」「狂人」と称されたパスカルは激昂し、エドワーズに言葉を叩きつける。

その眼は、灰色だがギラついていた。

 

しかし、エドワーズはそれに全く怯まずに言葉を返す。

目出し帽(バラクラバ)の下からでも溢れ出す迫力は、抑えきれない。

 

「このままお前を生かしておけば、世界は崩壊する……」

 

彼は片手を上げる。

そして、パスカルに最後通告をした。

 

「世界に対する罪は……償って貰おう」

 

「五月蝿い!貴様も大人しく、新しく生まれ変わる世界の養分になれ!」

 

ユグドラシルの根が、パスカルの背後からエドワーズに襲いかかろうとする。

 

しかし、パスカルは突然胸から血を噴き出し、吐血したのだ。

 

「……ナイスショット」

 

エドワーズの視線は、上、根の隙間に向いた。

 

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「……ハートショット、ヒット」

 

アーロン・ヘイへ少尉の横でバズ・フルート伍長がスコープの向こうの射撃の結果を報告する。

 

アーロン少尉の手には、カスタムされたM24スナイパー(S)ウェポン(W)システム(S)が握られている。

アーロン少尉は無言のまま素早くボルトハンドルを操作し、.338Lapua(ラプア) Mag(マグナム)の次弾を装填する。

 

「崩れ落ち、膝で一瞬止まる」

 

観測手(スポッター)のバズ伍長が状況を報告。

その通りに、パスカルが両膝を地面に突き、胸を押さえる。

 

「ヘッドショット、エイム」

 

アーロン少尉のスコープのレティクル______十字の中心が、パスカルの頭に合わせられた。

 

「……ファイア」

 

号令と共に、アーロン少尉は引き金を引く。

 

ダァン!

ドガァン!

 

隣で更に大きい音がした。

クリスタ・ヘイへ曹長が、持ち込んでいた50口径の対物ライフル、バレットM82A3を射撃したのだ。

 

アーロン少尉の放った.338Lapua Magはパスカルの脳髄を吹き飛ばし、クリスタ曹長が撃った12.7×99mmNATO弾はパスカルの胴を貫き、上半身と下半身が千切れ飛んだ。

 

「ヘッドショット……ヒット」

 

誰がどう見ても、パスカルが死亡______即死したのは明らかだった。

 

 

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目の前で、頭が潰れ、胴体が2つに裂けたパスカルが横たわる。

遺体が転がっている、と言う表現の方が正しいか。

哀れな新世界の神は、無惨な骸を晒したのだ。

その無惨な姿をしたパスカルの死体からアレックスが目を逸らす。抑えきれずに零れ落ちた嗚咽が聞こえた。

やはり、腐っても実の父だ、世界の崩壊を止める為とは言え辛いものがあるのだろう。

 

すると、地面から突然木の根が伸び、パスカルだったものの残骸を飲み込み始める。

操り手を失ったマリオネットは、自分の意思を取り戻して危機を排除しようとしたのだ。

 

ソエルを背中で庇っていたアッシュが呟く。

 

「――ユグドラシルがニーズホッグを飲み込んだんだ。だからユグドラシルはパスカルの操り人形じゃない、自分の意思を取り戻したんだ」

 

その仮説は自信に満ちていて、危機に陥りかけていた世界の復活を告げる様だった。

しかし、ユグドラシルはニーズホッグを飲み込んだとは言え、限界に近づきつつあった。

 

頭上からはパラパラと細かい砂や石が落ちてくる。

 

と、全員の耳にある人物の声が届いた。

 

「ノワリー!ノワリー!しっかりするんだ!」

 

生死を彷徨うノワリー少佐に必死に呼びかけるクラッド大佐の声だった。

ソエルはその2人に駆け寄り、声をかける。

 

「大佐!隊長は――」

 

「我々が」

 

事が片付いたエドワーズ達が駆け寄る。

ハンナ曹長がノワリー少佐の首の脈、心臓の鼓動を探す。

クラッド大佐も手首や他の動脈を探すようにノワリー少佐の身体を診る。

 

と、ハンナ曹長とクラッド大佐がほぼ同時に脈を見つけた。

 

「……微かに息がある、一刻も早く病院へ運ばねば」

 

「ええ、ひとまず洋上の艦隊へ」

 

展開している第1遠征打撃群の揚陸艦の内1隻、大型輸送艦LSD-401"しんとう"には、最新の手術システムを完備している為、そこで応急手術を施してから、(おか)の病院へと搬送する事が出来る。

 

すると、出口を探していたアッシュとアレックスがこちらに向かって叫ぶ。

ユグドラシルの根が左右に分かれ、出口への道を示しているのだ。

クラッド大佐がソエルの助けを借りて、ノワリー少佐を背負う。

 

ヴァルキリーとシルバー・アローズの面々は、その出口へと飛び込んだ。

 

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進むに連れて、新鮮な空気が流れ始める。

出口が近いと、ユグドラシルが教えてくれているようだ。

根に囲まれた勾配を登っていくと、前方に光が見えた。

明順応によって暗がりに慣れた視界が徐々に外の光を受け入れていくのが自覚できる。

そしてとうとうユグドラシルの胎内から脱出した______が、状況は最悪だった。

 

勢いを盛り返したゲオルギア軍の守備隊が、攻勢に出ていたからだ。

更に、ワールドエンドは薄く霧に包まれ始めており、このままでは永久にワールドエンドの監獄に閉じ込められてしまう。

 

「くっそ、ここを抜けなきゃならんのか……」

 

「ハッハァ!レグの地獄を思い出すぜ!」

 

エドワーズはそうボヤき、デリックはそう笑いながらいつの間にか奪っていたM249paraを持ち出している。

 

「エイミー!ナイフ戦は無理だぜ!マズルフラッシュ・パーティだ!」

 

「了解!」

 

エイミーも何処から拾って来たのか、はたまたその辺の死んだ敵兵から奪ったのか、PKM汎用機関銃を手にしていた。

 

デリックもエイミーも、本来ならこうした機関銃の特技兵なのだ。

 

ダダタタタタタタタタタタタッ!

バラララララララッ!

 

デリックのM249para(MINIMI)とエイミーのPKM汎用機関銃から猛烈な勢いで弾丸が吐き出され、その弾丸の数だけ排莢口(エジェクションポート)から空の薬莢やベルトリンクが落ちて澄んだ金属音を奏でる。

 

エドワーズにハンナも何もしていない訳ではない。

手にしていたFN SCAR-L Mk16自動小銃に載せていた光学照準装置"ホロサイト"によって狙いを定め、単発(セミオートマチック)で敵を正確に撃ち抜く。

 

銃口からは5.56mmNATO弾が吐き出され、音速の4倍程の速さで敵兵士を物言わぬ骸に変えていく。

 

"ホロサイト"は、戦闘機に搭載されているヘッドアップディスプレイ(HUD)と同じ方式でレティクルが表示されている為、レンズが多少損傷しても問題はなく、単純にレティクルを合わせて引き金を引く事で面白いように敵に命中する。

 

敵が10体程の肉塊となったところで残りの敵もこちらに気付き、コンクリート壁を遮蔽物にこちらを銃撃してくる。

 

敵の主装備はAK74等の東側の自動小銃、そして西側の息もかかっているのか、MINIMI等の軽機関銃も撃ってくる。

こちらはユグドラシルの太い木の根を盾にする。

 

「伏せてろ!」

 

弾切れで弾倉交換のタイミングでヴァルキリー達にそう叫んで隠れさせる。

畜生が……一刻も早く治療しないといけない負傷者が居るのに……!

 

『1-1へ、聞こえるか?こちらは0-0、援護するから挟撃してこちらへ脱出しろ、迎えのオスプレイが後1分で到着する、待てるのは3分だ』

 

「了解!」

 

地上へ出た事により回復した無線により、本部からの指示が入る。

交換した弾倉、ボルトストップを押してボルトをリリースさせて薬室(チェンバー)に初弾を送り込む。

素早く遮蔽物の木の根から銃と目だけを出し、照準。

肩にシッカリと銃床(ストック)を当て、射撃する。

 

「デリック!エイミー!向こう側からの援護があったら撃ちまくれ!」

 

「オーケイ!元からそのつもりだ!」

 

「了解しました!」

 

ハンナは無言でエドワーズのフラグポーチからM67破片手榴弾(フラグ・グレネード)を取り出している。

 

そしてハンナが片手で3カウントを取り、カウント0で一斉に射撃を開始する。

 

5.56mm、7.62×54Rmmの弾丸を嵐の様に浴びせていく。

敵はコンクリート製のバリケードに身を隠すが……

 

ドガァン!

 

コンクリート製のバリケードを突き破って敵兵士の頭部が粉々になる。

クリスタ曹長の射撃だ、威力からして50口径だろう。

12.7×99mmNATO弾という凄まじい威力の弾丸は、人体へのダメージは計り知れないほど大きい。何しろ人体を2つに引き千切る程だ。

 

コンクリートのバリケードなど余裕で貫通する。

 

移動しろ(ムーバー)!」

 

エドワーズとエイミーが先導、ハンナとデリックが後方を囲み、ノワリー少佐を背負ったクラッド大佐、ソエル、アッシュ、アレックスを護衛して進む。

 

敵のバリケードに近づき、すれ違いざまにハンナが手榴弾(グレネード)を放り込んでトドメを刺す。

 

「後方から敵!」

 

デリックがそう叫び、手にしていた軽機関銃で後方を掃射する。

 

滑走路と大陸を繋ぐ270mの橋を渡ると、丁度着陸した回収のMV-22Bオスプレイがハッチを開けるところだった。

 

デリックとエイミーは橋の大陸側で自分の持っていた軽機関銃を地面に置き、ポーチからMK3A2攻撃手榴弾(アタック・グレネード)を取り出す。

 

そしてピンを抜いてレバーを押さえ、機関銃でレバーを押さえる様に置く。

 

デリックとエイミーはそのまま護衛を続行、橋を渡り始める。

ようやくといった体で追いついた敵兵がそのM249paraとPKMを取ると……

 

バドォン!

 

機関銃を取った拍子に手榴弾のピンが飛び、興奮で視野の狭くなっている敵はその手榴弾に気付かずに吹き飛ばされた。

最も簡易的なブービートラップ……IEDの一種だ。

 

しかし、その背後からは狙撃兵が橋の袂に展開。手にはドラグノフSVD狙撃銃が構えられている。

射撃してこようとするが……

 

鈍いを音を立てて敵の狙撃銃の銃身が笹掻き状に幾つにも裂けて花を咲かせる。

 

エドワーズが前を向き眼を凝らすと、オスプレイのカーゴハッチ手前で銃を構えている隊員が見える。

 

噂の狙撃手、既に撤退していたアーロン少尉とクリスタ曹長だ。

 

「兄貴、命中。次弾を」

 

「橋の全長含め400mの距離の狙撃なんて大した距離じゃねぇ、お前ならもっと早く撃てるだろ?」

 

「確かに」

 

アーロン少尉とクリスタ曹長はそう言いながら笑いあう。

アーロン少尉はボルトハンドルを起こし、引いて再び押し込み、ハンドルを下げる。

 

再びスコープを覗き込み、十字のレティクルを敵に合わせる。

 

ズドン、と銃声が響き、.338Lapuaのマグナム弾は400mの距離を超高速で駆け抜けた。

そして弾丸は敵のドラグノフSVD狙撃銃のスコープを貫通し、敵の眼から頭を突き抜け絶命させる。

 

あの2人が狙撃で支援してくれるなら百人力だ。

一気に橋を通過し、飛行場に到達。いよいよ霧が濃くなって来た。

 

さて、問題はヴァルキリーだ。

戦闘機は4機、しかし、現状操縦出来るパイロットは3人。

F/A-18Eに乗ってきたノワリー少佐は負傷している。

 

「俺の後席に……」

 

「ダメだ、アレックス君」

 

ハンナがF-15Eの後席にノワリーを乗せようとしたアレックスを止める。

 

「無茶出来無い状態だし、戦闘機で下手に機動すると内部に残されている弾丸や破片がGで内臓を傷付ける恐れがある、後席はダメ」

 

「じゃあどうすれば……!」

 

ソエルが悲鳴に近い声を上げる。

それに答えたのはエドワーズだ、は回収のMV-22Bオスプレイを指差す。

 

「MV-22Bで搬送する、あのオスプレイは第1空母航空隊所属機だからどちらにせよ艦隊へと向かう。パイロットにエインヘリヤルに向かうように調整して貰うから安心しろ」

 

「じゃあブリューナクは誰が……!」

 

「私が乗る」

 

名乗り出たのはクラッド大佐だ。

 

「私は戦闘機の操縦経験がある、ブリューナクは任せてくれ」

 

その場の全員が納得した様に頷く。

 

「では、貴方達の大切な指揮官殿、ノワリー少佐の身柄はお引き受けします」

 

クラッドに背負われていたノワリーを、今度はデリックが背負う。

 

「行け!時期に霧に包まれる!」

 

エドワーズが発破をかける様にそう言うと、弾かれた様に各パイロット達が動き出す。

 

それぞれの乗機へ……ノワリー少佐のF/A-18E(ブリューナク)はクラッド大佐が引き継いだ。

脳波リンクで色とりどりに染まっていく機の中に1機だけいる灰色のままのF/A-18E(ブリューナク)、機体の制御システムを通常モードに切り替えたのだ。

 

一方、エドワーズ達シルバーアローズD中隊の面々は、オスプレイに乗り込んでいく。

エドワーズ以下1-1の乗るオスプレイには、狙撃隊と本部の0-0、1-4の分隊が乗っていた。

 

「デリック!、どうしたんだ⁉︎」

 

小隊長のニコラ・ウィルキンス中佐がデリックが背負っているノワリー少佐について問いただす。

 

「負傷者です!エインヘリヤルへ向かって下さい!」

 

デリックはノワリー少佐をキャビンに寝かせながらそう答えると、ウィルキンス中佐は頷いた。

 

「わかった、パイロットに伝えよう」

 

そしてウィルキンス中佐は点呼を取り、機内に全員収容したかを確認する。

 

『1番機、全員収容、離陸する!』

 

『2番機、全員収容、離陸する!』

 

エンジンの音がゆっくりと大きくなっていく。

 

「ジェンキンス!」

 

そうウィルキンス中佐に呼ばれると、1-4の分隊長ジェンキンス准尉が手元のガジェットのスイッチを回した。

 

ズゴォン!という轟音と共に、エドワーズ達が渡って来た橋が崩落した。

実はジェンキンス准尉達の1-4は工作部隊、橋に集まっていたのは、爆薬を仕掛けていたからなのだ。

C4爆薬10kgは、橋を完全に崩落させた。

 

MV-22Bが2機揃って飛行場を離陸、すぐに洋上に出る。

ジェンキンス准尉は、そのガジェットを開いたままのキャビンから海へと放り捨てた。

 

キャビンがゆっくりと閉まっていく。

エンジンナセルの角度が徐々に傾き、水平飛行モードへと移行する。

 

ヴァルキリーの戦闘機達はMV-22Bの離陸前に既に飛び立っており、戦闘機の速度だと直ぐに霧の監獄から抜け出す事が出来た。

 

しかし、回転翼機は限界がある。

速度を上げていくMV-22Bは、ギリギリのところで霧から抜け出す事が出来た。

 

『2機とも脱出成功!これよりフライハイト空母、エインヘリヤルに向かいます!』

 

無線からは霧から脱出出来た歓声に包まれていた。

しかし、エドワーズは覆面の下で少し眉根を寄せていた。

 

「……クリスタ」

 

「はい?」

 

「対物ライフル邪魔だ……」

 

全長1447.8mmのM82A3は、スペースを占有していた。

しかもクリスタ曹長は別に、FN SCAR Mk20を携行していた。

 

「仕方ないじゃないですか、対物ライフルなんだから」

 

MV-22Bの1番機は、また別の笑い声で包まれていた。

 

空母エインヘリヤルまでもう少し______

 




次回更新は、9/17 12:00です。
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