SKY VALKYRIE & Silver Arrows   作:中井 修平

29 / 35
命の灯火

ヨルジア海軍第1空母打撃群旗艦"しょうかく"フライトデッキ。

 

その甲板上には、海軍機はもちろん、その他の機も駐機されていた。

バタバタとローター音を響かせて今し方着艦したのは、ヨルジア空軍特殊救難コマンドの"パラレスキュー・ジャンパー"のHH-60Gペイブホーク。国内最強の戦闘衛生兵(コンバット・メディック)だ。

 

彼らの仕事は、ヘリや飛行機で敵地に降下、銃弾飛び交う中、戦闘機から脱出したパイロットや負傷した特殊部隊員を救出し、必要とあらばその場で手術さえ施す。

 

先程の空戦によって脱出したスワロー04のパイロットを収容し、空母へと帰投したところだった。

 

キャビンドアを開けて出て来たのは、銃を持った迷彩服の男は、ヒビキ・イイダ曹長と、マルクス・フレット軍曹。

 

2人は前回の戦争の作戦の1つ、ヨルジア軍最悪の被害を出した「レギュラスの悪夢」に置いて、墜落したヘリから生存者2名をその場で治療し、見事生還させると言う実績がある。

 

「歩けるか?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

海水に体温を奪われない様に毛布に包まれたスワロー04のパイロットを肩を支えて歩き、空母の衛生兵にバトンタッチ、パイロットを収容してもらう。

 

「しっかし……大忙しだなぁ、海上の救難は海軍に任せたいぜ」

 

「そうもいきませんよ、何しろ空母のヘリ部隊は遠征打撃群やフライハイト海軍との物資輸送や連絡にも使われてるんですから、それに俺達、救難のエキスパートでしょ?」

 

「まぁ違いない」

 

というと2人で笑う。

すると、耳元のヘッドセットから通信が入った。

 

『特殊救難コマンドは直ちにヘリに搭乗、フライハイト空母エインヘリヤルへ飛べ』

 

その通信を聞くと、ヒビキ曹長とマルクス軍曹は顔を見合わせる。

そして考えるよりも先にヘリへ走り、乗る。

 

「また出番か⁉︎」

 

ヒビキ曹長がHH-60Gペイブホークのパイロットにそう問いかける。

 

「ええ、フライハイト空軍の大佐から要請です。ワールドエンドに向かったパイロットが撃たれました、緊急搬送です」

 

「よし分かった!」

 

そう言うとヒビキ曹長はフライトチェックリストのボードを取り出す。

 

「マルクス!フライトチェックリスト!」

 

「了解!」

 

離陸前に、足りない物が無いかのチェックを行う。

ファーストエイドキット、加圧パンツ、包帯、生理食塩水、精製水、使い捨てメス、痛み止めの使い捨て注射器、点滴機材一式、担架、キャリア。

 

「チェックリスト良し!」

 

『了解!クライス1-4、発艦する!』

 

『了解、クライス1-4、発艦を許可する。風向1-2-4、風速3、7の突風あり、気をつけろ』

 

管制室からそう通信が入ると、メインローターの回転が更に速くなり、機体がフワリと浮き上がる。

 

空中で方向転換をしたHH-60Gペイブホークは、フライハイト海軍の空母"エインヘリヤル"に向かって飛んで行った。

 

===========================

 

フライハイト海軍空母"エインヘリヤル"。

その広大な艦影に、1機のMV-22Bオスプレイが着艦姿勢に入っていた。

ティルトローターの角度が徐々に垂直に近付き、速度と高度が低下していく。

 

フラップよし、ギアダウン。

格納されていたランディング・ギアが降り、着艦用意が整う。

着艦作業員の合図でゆっくりと高度を下げ……ドスンという衝撃が着艦が完了した事を告げていた。

 

キャビンハッチがゆっくりと開いて行くと、既に着艦していたヴァルキリーのパイロット達が駆け寄って来るのが見えた。

 

デリックが再びノワリーを背負い、外へと運びだす。

 

「隊長!しっかりして下さい!」

 

「ノワリー!逝くな!」

 

そんな声をノワリーに掛けつつ近寄ってくる。

デリックは彼の身体をキャビンハッチの近くに寝かせる。

 

「隊長!」

 

と、アングルドデッキを横断して誰かが駆けてくる。

整備士のリゲル、パイロットのメアリィ、科学者のグランツの3人だ。

 

「グランツさん!ノエルはどこに行ったんですか⁉︎」

 

「安心して、彼は無事よ。応援部隊と一緒にゲオルギアの残党を叩いているわ。ゲオルギアは負けを認めて撤退し始めているわ。我々フライハイトの勝利ね」

 

「ゲオルギアの国内でも、レジスタンスに賛同した国民達が暴動を起こしてる!兄貴がやってくれたんだ!」

 

グランツとリゲルがそう言っているウチに、特殊部隊員が救命装具を外しパイロットスーツのジッパーを開ける。

胸に1発、背中側からの出血は無い、盲管銃創だった。

応急処置を空母の衛生隊員に引き継ぐ。

 

「ノワリーさん!」

 

ヴァルキリーのパイロット、メアリィは悲痛な声で叫び、ノワリーの傍らに両膝を着くと彼の手を握り締めた。

 

「死んじゃ駄目よ‼︎姉さんは貴方が側に来ることを望んでないわ‼︎生きて‼︎お願いだから生き抜いて‼︎」

 

華奢な肩を震わせ、ノワリーの無事を祈る彼女に、アレックスが歩み寄る。

アレックスはワールドエンドでパスカルの攻撃を受け、至る所に裂傷を負っている。

 

「メアリィさん、部屋で休んだほうがいい。今は彼らに任せるしかないよ」

 

「……そうね。私が泣いて叫んだって、隊長は目を覚まさないわよね。貴方だって酷い怪我をしてるわ。急いで手当をしてもらわないと」

 

メアリィに支えられながらアレックスはキャットウォークへと降りる。

 

「かなり危険な状態です!一刻も早く病院に運ばないと助かりません!」

 

衛生隊員のその言葉に誰もが絶望していたその時、オスプレイの物では無い、ヘリコプターのローター音が轟いた。

空母の上空にHH-60Gペイブホークが現れたからだ。

 

===========================

 

バラバラと音を立てて空母に接近していくHH-60Gペイブホーク。

機内では、ヒビキ曹長とマルクス軍曹が調整を行っていた。

 

ストレッチャーと、運び込んだ後に速やかに医療支援が出来るようにしてあるのだ。

 

『ランディングスポットまで30……15……10……着艦』

 

ヘリのランディングギアが甲板を捉え、安定した着艦を見せる。

 

「マルクス!ストレッチャー用意!他の要員は要救助者をストレッチャーに乗せろ!」

 

「「「了解!」」」

 

ペイブホークに乗っているのは、ヒビキ曹長、マルクス軍曹含め4人。

キャビンドアを開け、ペイブホークを降りる。

 

オスプレイのハッチ付近に横たえられている要救助者に駆け寄る。

呼んだのは確か大佐だったな……とヒビキ曹長は辺りを見回し、大佐の階級章を着けていたクラッド・エリオット大佐に、カチリと45度の敬礼する。

 

「特殊救難コマンド、パラレスキュー・ジャンパー。ヒビキ・イイダ曹長であります!到着が遅れて申し訳ありません!」

 

クラッド大佐は敬礼を返すと、ヒビキ曹長も作業に戻る。

応急処置を施していた衛生隊員から出来る限り情報を引き出す。

 

「どんな感じです?」

 

「胸部盲管銃創、1発。口径は9mm、恐らく肋骨に当たったんだろう。骨や弾丸の破片が内臓を傷つけているかも……」

 

「分かりました、身柄はお引き受けします。後はお任せを」

 

1、2、3!と掛け声を掛けてストレッチャーに要救助者を乗せ、高さを調整。

 

「よし、急げ!……⁉︎」

 

ふと、この要救助者を運んで来たオスプレイを見ると、全員覆面の兵士が載っていた。

部隊章を見ると……銀の矢が、"D"の文字の後ろを貫いている。

 

D中隊……⁉︎まさか……D中隊は存在しない部隊の筈……

 

少しばかり動揺を誘ったが、そんな事をしている場合じゃない。

 

ヴァルキリーに向け、ヒビキ曹長が声を張る。

 

「では、貴方方の隊長の身柄はお引き受け致します!1度我が海軍の輸送艦"しんとう"で治療を行い、(おか)の病院へ搬送致します!」

 

そう言うと、ヒビキ曹長は再びHH-60Gペイブホークに乗り込む。

全員の搭乗を確認したパイロットは、コレクティブ・ピッチレバーを引いて機体を発艦させる。

メインローターの回転数が上がっていき、揚力を得たヘリはホバリングで方向を変え、味方艦隊の方角へと飛んで行った。

 

===========================

 

ペイブホークを見送ったヴァルキリー達。

永かったと思える戦いが終わろうとしているが、ヴァルキリーの戦いはまだ終わってはいない。

ノワリー・エリオット少佐が現役復帰して帰って来るまで、ヴァルキリーの戦いは勝利とは言えないのだ。

 

「大丈夫だ」

 

いつの間にかソエルの横に立っていたアッシュが、ソエルの手を強く握る。

そして自分に言い聞かせる様に強く言った。

 

「隊長は死なねぇよ。『光の槍』は折れたりしない。――絶対にな」

 

「……うん」

 

自然と2人は手を繋ぎ、力が込められる。

 

「……では、俺達はこれで」

 

その言葉に振り向くと、黒い覆面の兵士がオスプレイに乗り込んでいくところだった。

 

「あっ、あの……!」

 

最後尾の隊員に声をかける。

こめかみの辺りから、短い銀の髪がはみ出ている隊員だ。

 

ソエルは分かっていた、聞いても何も答えてくれない事に。

それはそうだ、何故なら彼らは存在しない特殊部隊、ヨルジア国内では"幽霊"や"亡霊"とも揶揄される部隊だからだ。

 

でも、せめてお礼は言わないと……

 

「助けて下さって……ありがとうございました!」

 

ソエルがそう言って頭を下げると、珍しくアッシュも一緒に頭を下げた。

覆面の兵士______エドワーズは、照れ隠しか片腕を上げて応えた。

 

カーゴハッチが、閉まる。

 

15人のシルバーアローズD中隊の兵士を乗せたオスプレイが、ゆっくりと発艦していった。

 

「……見せつけてくれましたね、あの2人」

 

「まぁまぁ、俺たちも帰国したら、ああしようぜ」

 

「もう、デリックさんったら」

 

エイミーとデリックがそんな調子で話している。

 

「……もう少し練習しようかな……」

 

「まだ精度上げるんですか?」

 

とアーロンとクリスタ。

 

各々が各々の想いを抱き、一路、アルメリアを目指す。

 

エドワーズは胸元からペンダントを取り出し、声に出さずにそのペンダントに言葉をかける。

 

エメリア……俺もそっちに行ったら……沢山話したい事がある。

何時になるかもわからないけど……待っててくれ。

 

待ってる、いつまでも……という声が、エドワーズには聞こえた様だった。




次回の更新は9/20、12:00です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。