日本人、ホグワーツでフラグを立てる   作:府七尾

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この森には鳥なんてウジャウジャいるから、始めは全く気にしていなかった。

 

フクロウの鳴き声と窓ガラスを叩く音が続いて、流石に可怪しいと思って、窓の留具を今は火が灯っていない暖炉の前のソファーに座ったまま、朝食を食べていた箸を杖代わりにして、魔法で開けた。

 

留具を外しただけなのに、勢い良く開いた窓から入ってきたのは、フクロウでもその他生物でもゴーストでもなく、数百通はある手紙だった。

しかも、それは全て同じものの様だ。

 

白いシンプルな封筒に赤い蝋印。

 

それを見て、思わずニヤける。

 

「……やっと、やっとこの時が来たのか……」

 

僕の名前は長谷川 直。日本人の11歳だ。僕は前世の記憶を持って生まれた。

この世界は魔法というものが存在する。そして、ホグワーツ魔法魔術学校も存在する。つまり、此処はハリーポッターの世界だ。

 

 

僕が前世の記憶を思い出した時は、3歳の時だ。

物心が付くと同時に記憶も蘇ったのだろう。

 

僕にはその頃から、親というものがいなかった。いや、きっと何処かには居たのだろうが、周りには居なかった。

代わりに僕のそばには、何時も婆様がいてくださった。婆様は顔が皺くちゃのお婆さんなのに、何処か華やかさがあって、ユーモアもあって、僕を楽しませてくれた。

当時僕は自分が一度死んだ事を受け止める事が出来なくて、毎日泣くか叫ぶか寝るかの情緒が不安定になっていた。

そんな時に婆様は、僕の為に色々な魔法を使って下さって、落ち着かせてくれた。

僕は、そんな婆様が大好きだった。でも、僕が段々と落ち着きを取り戻した時に、婆様は僕を連れてこのイギリスの小島へとやって来た。

 

なんでも、この小島は婆様の魔法によって、外からは認識されないらしい。あと、普通未成年の学校以外で魔法の使用は違法なのだが、そこも認識阻害の魔法がかかっていて、婆様はほぼ毎日僕に魔法を教えて下さった。

 

それ迄は、危ないからダメ。と、一切魔法について教えてくださらなかったのに。なぜだと思って、一度聞いてみたことがあった。

そう、あれは確か、まだ自分の事を『私』と呼んでいた時だ。

 

「ばばさま。なんで、わたしにまほー教えてくれるの?」

 

「それは、お前の為だよ。直。近い内にワタクシはお前の前から居なくなるでしょう。その時に、ヴォルデモート卿、そしてダンブルドアから自分の力で逃げることが出来るようにだよ」

 

「わたし、にげないよ!ばばさま、いなくならないで!」

 

「いずれ、その時が来るのです。直、その時に備えて、自分のことは『僕』と呼び、男のフリをするのです」

 

それ以外は話してくれなかった。でも、絶対の信頼を婆様に持っていた僕は、その時から自分のことを僕と、呼ぶようになった。

 

 

 

 

そして、その時は来た。

 

その日は朝から雷は轟き、暴風で森の木もなぎ倒されそうなぐらいの悪天候だった。

 

そんな天気なのに、婆様は、箒を手に出かけようとしていた。

不思議そうに後ろを付いて行こうとする僕に、婆様はそのシワシワになった手を僕の頭に乗せて、一言こう言った。

 

「ワタクシの誇りとなって下さい」

 

そのまま、婆様は雨嵐の中、箒に跨ったまま‘’姿くらまし‘’を使って小屋から消えた。

後には、呆然と佇む僕と年季の入った小屋、それに婆様がさっきまでいた場所に小さな紙切れがおちていた。

 

それを手に取り、前世からお馴染みの日本語で書かれた文字を目で追う。

 

『ホグワーツから手紙が来たら、地下の金庫を開けなさい。それを使い、入学準備をするのです。小屋の中の物は好きに使って構いません。どうか元気に ユリコ・マエカワ

P.S.女である事は隠し通しなさい』

 

 

 

この時、初めて婆様のフルネームを知った。

きっと、婆様はヴォルデモートかダンブルドアの所へ行ったのだろう。

少し前からこの小島へと来たのも、その準備をする為。婆様は、もう帰ってこない。

普通、5歳児を残して行くのも可笑しいが、婆様の事だから、全て気づいていたんだろうな。

 

 

それから、僕は婆様の言いつけ通り、ホグワーツ魔法魔術学校から手紙が来るのをまって、6年間を過ごしてきた。

 

 

勿論、ただ待っていたわけではない。

まず、二次性徴を学園内で迎えることから、女である事をバレないように、魔法を作った。

まず、これを作るのに2年半はかかった。名前を『異性モドキ』

幻を見せる魔法に実体がある様に錯覚する魔法を加え、更に男独特の威圧感というか、その辺を魔力を練って、体の周りにまとわすことによって、あたかも、僕の事を男と錯覚するのだ。

これで、ダンブルドアを騙せるとは思っていないが、ゴリ押しすればどうにかなるだろう。

 

この魔法を開発中に、魔力を『魔力→呪文→魔法』ではなく、『魔力→魔法』に出来るようになった。実際問題、バトル中に呪文を唱えたりするのは、キツイと思ったので、頑張って習得しました。

 

あとは、何年もイギリスに居たのに、関わったのは婆様だけなので、実は僕、英語全く出来ません。

なので、英語やら何やらに戸惑わないように、これも魔法を作っちゃいました。

 

正直、前世でも英語の点数は底の底の宇宙の果てだったので、6年での習得は無理だと断念して、早々にこの魔法の製造にとりかかりました。

 

そして出来たのが、『同時翻訳』決して言葉を身に付かせる為の魔法ではない。ただ、同時翻訳してくれるだけだ。

しかし、その制度は素晴らしく、あたかもその言葉を喋っているかのようにみえるのだ。

 

ただ、これは英語だけでなく、全ての言語に対応できるのだ。

そう、全ての。パーセルマウスどころか、ありとあらゆる生物とも会話できるようになった。ちなみに、マグル界の動物だけでなく、フェアリーなどとも会話できた。自分でもびっくりだ。

 

 

以上、此れがこの6年間僕が生み出した魔法だ。

 

まぁ、他にも前世のシャンプーが忘れられずに似たような魔道具を作り出してはいたがな。

 

『異性モドキ』と『同時翻訳』は常時掛けておく。魔力をくってしょうが無いが、色々実験するうちに、魔力が凄い量になったので、尽きることは無いだろう。本気で戦う場面では恐らく『同時翻訳』の魔法をといて、補充する。言葉ぐらい分からなくっても、倒せばいいしね。

 

という訳で、遂にこの日が来た。

部屋中に散らばった何百通もの手紙を一通拾い上げ、再び暖炉の前のソファーに座る。

 

 

内容は、やはりホグワーツ魔法魔術学校への紹介状だった。前世の頃は、純粋に魔法を使ってみたくて憧れていたホグワーツ。しかし、今ではしっかりとした理由がある。婆様の目的をハッキリさせる事、ダンブルドアは味方かどうか、それにスネイプ先生のお気に入りになる事だ。

 

本当はスネイプ先生のお気に入りどころか恋人になりたいぐらいだけれど、僕は男(のフリ)だし、先生の想いびとは、ハリー・ポッターの母親、リリーだ。

きっとこれは今世でも変わっていないだろう。だから、せめてあのいけ好かないドラコ・マルフォイではなく、僕がお気に入りになるのだ。

 

 

 

そうと決まれば、六年前の婆様の置き手紙通りに行動に移すことにする。

 

先ずは、地下の金庫だ。

婆様は手紙が来たら、金庫を開けなさい、と仰っていた。あの後すぐに、地下に行って金庫を開けようと試みたが、鍵がどうのこうのよりも、見慣れた魔力で覆われていた。婆様の魔力だ。魔法で、ホグワーツの手紙が僕の手に渡った時にしか開かないようにしてあったのだろう。

 

手紙を手に持ったまま、金庫の戸に手を掛ける。

すると、手に触れるか触れないかのところで、カチリ、と音がしたかと思うと独りでに重厚そうな扉が開いた。

 

僕の顔はきっと、驚きで間抜けだっただろう。魔法の仕掛けに対してではなく(そもそも婆様と一緒の頃はこんなの日常茶飯事だった)その中身に、だ。

 

金銀財宝とは、この事かと一瞬頭を過ぎったが、数秒固まった後、我にかえった。

 

厚みのある扉が開いた先には、魔法で拡張してある広い空間にぎっしりと金貨や銀貨が詰まっていた。なかには、マグルの金もあったが、殆どがガリオン硬貨、魔法界のものだ。

下手をすると、ハリー・ポッターの両親の遺産の数倍はありそうだ。

 

今世は勿論、前世でもこんな大金手にした事も目にした事も無い。

 

「婆様……、溜め込み過ぎだろう……」

 

自分以外に誰もいないのに思わず呟いてしまった言葉は隙間なく積まれた金貨達に跳ね返ることなく吸収されていった。

 

 

取り敢えず、一掴み分(六、七枚)ガリオンを盗難防止の魔法を掛けた(と言っても、持ち主以外が触ると盾の魔法が発動するだけ)巾着袋に入れ、金庫に金と一緒に入っていたホグワーツ行きの汽車が出る駅やダイアゴン横丁への行き方が載った地図を持ち出し、再び金庫の扉を閉めた。

 

またカチリとなって閉まったそれは、さっきまで金銀財宝が入っていたとは思えない、古びたボロい木の金庫へと姿を変えた。

 

「さて、……暖炉で行きますか」

 

呟いた一言は、今度は何もない地下室に無機質に響いた。

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