先生が執務室の方へ移動してから、改めて時間を確認する。
「7時40分か…」
フォイが朝食を食べに大広間に行くのはだいたい早めの8時10分で、ハリー達が来るのが8時20分…
だいたい40分くらいは余裕があるのか…
シャワーくらいなら大丈夫そうだな。
「スネイプ先生、バスルームお借りします」
僕は扉越しに向こうの部屋に居る先生に話しかける。
…………
…………
あれ、無視「勝手にしろ」…じゃなかった。
すっごく悪態をつくみたいに小さく返ってきた。
ま、取り敢えず許可をいただいたので、寝室に隣接してあるバスルームの扉の前に立ち、杖を振るう。
「メイク!…っぅわ」
最近頻繁に使うこの呪文。だが、魔力の流れる感覚が妙に強い。
驚いてしまった。
数秒後、扉を開けると、湯けむりがもうもうと広がる。
「ん?…この匂い…」
スン、と鼻を鳴らして嗅いでみれば微かに硫黄の匂いがした。
湯けむりがマシになり、開けた視界でそれを見ると、なんと
石造りの露天風呂と化していた。
「わぁ、これじゃ旅館じゃんか…」
マジかー、お湯も温泉に変わってるみたいだし…なんで?いつもの檜風呂を出す予定だったんだけどなー。
あ、さっきの妙な感覚だ。
魔力が余分な分まで流れたからメイクの魔法自体がグレードアップしたのか。
…うん。コレは長風呂確定だな。
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大広間
「おい、皆聞いてくれ!」
まだ人がまばらな大広間でそう言うのはレイブンクローの五年、ルイガス・B・ドーキンスだ。
彼は非常に勉強熱心であり、時期監督生候補として上位に上がっている。
一方で、噂好きでもあり、彼に情報を握られた者は校内で公開処刑されたような物だ。
「何だよルイガス。また特ダネでも拾ったのか?」
「ハッフルパフのジェレミーとレイブンクローのフレディが別れたのは昨日中に皆知ってるわよ?」
「それとも今更ポッターのことか?」
彼に答えるのは慣れているレイブンクローの生徒。
「ノンノン!違うよ!スリザリンのハセガワを知っているかい?」
ドーキンスは興奮した面持ちで声量を落とさずに話し続ける。
それにより、大広間へと続々入ってくる生徒たちの耳には嫌でも入ってくる。
「ああ、『スリザリンの黒王子』ってのだろ?」
「そう、そのハセガワ、今朝どこにいたと思う?」
ドーキンスは非常に楽しそうに活き活きと演説するかのように話している。既に彼の周りには人だかりが出来ていた。
彼の近くにいない者も皆ひっそりと耳を傾けている。
「何処って…寮の自室だろ?」
「まさか退学になったの?」
『退学』という言葉に、先程大広間に入ってきたスリザリンのブロンドの一年生が反応し、思いっ切り顔を集団に向けたが、なおも話は続いた。
「ちっちっちっ…違うんだなぁ〜、それが。…なんと、」
ドーキンスは持っだいぶるように身振り手振りを大きくする。それにより更に注目が集まり、ついには教員席の教授たちまで彼の次に発せられる言葉に興味を持ち、注意する気などさらさら無かった。
まぁ、後悔先に立たず、という訳で。
大広間のほぼ全員の目が彼に向いた
「スリザリンの」
誰もが『スリザリンの黒王子』の女生徒とのスキャンダルを思った。自室以外で話題になるといえば何らかの方法で女子部屋へと侵入したのか、と考えたからだ。
今まで誰も成し遂げることは無かった侵入も、『黒王子』なら出来るのではないか、という一部の男子生徒の望みもあった。
しかし、それは斜め…いや全く違う方向へと破られた。
ドーキンスが大きく息を吸う。
大広間の生徒全員に聞こえるようにするならば『ソノーラス』を使えば良いのだが、それを忘れるほどまでに彼は興奮していた。
ゴクッ
誰かが唾を飲む音さえ聞こえる静寂の後、彼は口を開いた。
「スネイプの寝室だよ!!それも艶めかしい声を添えてね!!!」
………
「「「「「「「「ええええええええええええええーーーーーーーーー!!!!!!!???????」」」」」」」」
驚愕の声、嘆く声、確信を持った声、黄色い声
様々な叫びの図がそこに広がった。勿論教員たちさえも。
事態の一部始終を見ていたダンブルドアとマクゴナガルは頭を抱えたく…いや、既に二人共同じポーズで頭を抱えていた。深いため息付きで。
「アルバス…。遂にセブルスは間違いを…」
「ミネルバ、まだ決めつけるでない…どうせ生徒たちの他愛も無い噂じゃよ…」
そう言うダンブルドアは目が泳ぎまくっていて冷や汗が出ていた。
阿鼻叫喚……は言い過ぎだが、騒然としていた大広間が突如シン…と静まり返った。
ダンブルドアとマクゴナガルも頭を起こし、生徒達が注目する扉へ目をやった。
そこに居たのは、
いかにも寝ていないという様なスネイプと
いかにも今シャワーを浴びてきましたという様なハセガワの姿だった。
「スネイプ先生…昨夜言いかけた言葉、何だったんですか?」
「少し黙ってくれたまえ」
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いやー、まさかの温泉ができたから思いの外長湯してしまった。
逆上せるギリギリまで浸かり、上がってみれば既に8時15分。
急いで制服を着替えながら、髪を乾かそうと杖を構えふと思った。
「これ、やばくね?」
先程の『メイク』の呪文の時に持って行かれたような魔力が、髪を乾かすときにも発動したらどうなる……
髪が燃える!!
しょうがない、と僕はタオルで水気を取るだけにしてそのままにした。
その状態のまま執務室の方へ行くと、新聞を読んでいるスネイプ先生が居た。
脚を組んで!
脚を組んで!!
大切なことだから二回言いました。
お美しい!朝から福眼万歳感謝です!!
「先生、朝食は食べないのですか?」
何故、まだ部屋に居るのだろう、と純粋に疑問に感じたことを聞いてみる。
「貴様が迷わないかと思ってな」
と、目線を合わさず新聞をたたみつつ言う先生。
そ・れ・は
僕の為に待っていてくれたという事ですね⁉
「え、あ…、お待たせしてしまい申し訳ありません」
「構わん……、髪は乾かさんのか」
「ちょっと訳有でして…」
「フンッ」
え、鼻で笑われた。
あれですか、まだ今朝たたき起こされたことを根に持っているんですか?そうですか、デレの後に突き落とされたような気分ですがそこも素敵です!
そうして僕らは二人で並び大広間へと行く。
大騒ぎになっているのを薄々と感じながら。
「(そういえば…)スネイプ先生…昨夜言いかけた言葉、何だったんですか?」
「(この状況を考えて言葉を選べ馬鹿者が)少し黙ってくれたまえ」