日本人、ホグワーツでフラグを立てる   作:府七尾

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箒のヤナギ君に乗り、僕が向かったのは島の沿岸部。

 

その中でもゴツゴツした岩が多く、波が渦を巻き荒れているところだ。

 

 

たいして天候が悪いわけでもないが、ここの場所だけが荒れている。

 

それはここに住んでいるヤツが関係している。

 

《ヤナギ君、この辺りで良いよ。君よっちゃん苦手でしょ?》

 

《ちぇっ!分かってんなら俺に送らせるなよなぁ!》

 

 

不機嫌なヤナギ君をなだめ、崖近くに下ろしてもらう。

 

 

島の中央にいた時には感じなかった、潮の匂い、波の音、そして柔らかな湿った風が肌を撫でた。

風がそう強くも無いのに荒れる波を見て、またやってるな...と思う。

 

《よっちゃーん!!!》

 

ソノーラスで声を拡張して渦巻く海面に向かって呼びかける。

 

すると

 

キャルルルルルルルッッ!!

《ナオーーーーーーー!!》

 

 

巨大な水しぶきをあげながら黒い塊が僕のいる崖の方にせり上がって来る。

 

 

 

《あー、はいはい。聞こえてるよ、よっちゃん》

 

思わず至近距離で聞いたよっちゃんの声に耳を塞ぐ。

 

《ナオ!お腹減った!!ご飯ちょーだい!!》

 

 

霧のようになった水しぶきが漸く無くなる頃、それの姿をハッキリと捉えることが出来た。

 

ゴツゴツとした表皮。鋭い牙を覗かせる巨大な口。そして、それに対比するかのように巨大な身体。

 

《2週間ぶり、よっちゃん》

 

ヨルムンガンド。これがよっちゃんの種族名。

 

既にこの島を1周してしまうほど大きな姿だが、これでもまだ子供だと本人(本蛇?)は言うのだから、将来が恐ろしい。

 

《ゴーハーンー!》

《ははっ、そうだね。...っ、ほら!!》

 

挨拶もそこそこに食欲を訴える蛇に苦笑しつつ、僕はある物をよっちゃんに放り投げる。

 

よっちゃんはそれを上手く口に入れ甘えた様な声を出し、飲み込む。

 

《んー!やっぱりナオの血が1番だよ!濃さが違う!》

 

そう、よっちゃんのいう“ご飯”とは、僕自身の血液のことだ。

 

よっちゃんに出会い知った事だが、ヨルムンガンドは魔力の多く含まれた血液を食料とすることで己の身体をあれほどまでに成長させるらしい。

 

試験管1本分の血液には見た目は小さくとも、豊富な魔力を含んでいる。

ちょっとした事故で僕のそれを飲んだよっちゃんはそれ以来この島に居着く事となった。

 

《聞いてよ!ピクシー達、ナオの血が無くなったからって山羊の血を渡してくるんだよ!山羊のは薄くって味気ないから嫌いだよ》

 

山羊...よっちゃんはこんな事言ってるけど、この島に居る生き物は少なからず僕の魔力の影響を受けている筈だから標準よりは魔力が濃いはずなんだけどなぁ。

 

《分かったよ...またストック置いて行くから、暫くはもつと思うよ》

《えー、でもスグ無くなるじゃん!...あ!そうだ!僕がナオの所に行けばいいんだよ!!》

 

はぁ!?こいつなに言ってんだ。そんな所ある訳...

 

《確かホグワーツには湖があるんだったよね!僕もそこに行けば...!》

《あー、よっちゃん?湖って事は淡水だよ?...そこでよっちゃん気持ちよく過ごせる?》

 

それだけじゃない、あそこには水中人がいる。

 

よっちゃんが負ける訳ないけれど、水中人の言葉を喋ることの出来るダンブルドアに知られたら面倒くさい。...うん、面倒くさい。

 

《う...分かったよ...僕、ちゃんといい子にしてる》

《そうか、良かった...》

《だから、ちゃんと帰ってきてね!僕御飯も楽しみだけど、1番はナオとこうしておしゃべりしたいんだから!...じゃーねー!》

 

よっちゃんはそれだけ言うと、再び水しぶきをあげながら海中へと戻って行った。

 

巨大な蛇のせいで大きく波打つ海面を見届ける。

 

「......っ、ふぅ」

 

いつもはピクシーに任せていた餌やり。久々に自分でやると少し...きつい。

試験管越しに見る血液は、当たり前だが深い紅をしていて、嫌でもあの光景を思い出した。

 

 

あの光景...?

 

 

違うだろう、あれは単なる夢のはずだ。

 

あの悪夢の様な気味の悪い夢...試験管の紅の様な、いや、それよりも不気味な色が飛び散り、溜まる室内。そこには動くことのない男と、向かい合う2人の女。

 

何故、こんなにも覚えている...?ただの夢のはずなのに...

 

夢...なのに

 

 

《ナオ様、お迎えに上がりました》

 

「っ」

 

突然現れたぐっちゃんに、自分が随分と考え込んでいた事が分かる。

 

「...は、ただの夢だろ...何してんだよ、僕」

 

《......》

 

ぐっちゃんは何も言うことなく、僕をじっとみている。

その大きく鋭い、翼と同じ金色の瞳で。

 

 

一つ呼吸を起き、何時もの顔でぐっちゃんを優しく撫でる。

 

《ありがとう、ぐっちゃん》

 

すると、ぐっちゃんはそっと身を低くする。

 

《どうぞ》

 

またありがとう、と呟き乗りやすい様にしゃがんでくれたぐっちゃんの背に跨る。

 

 

《ヤナギ君が頼んだんでしよ?》

 

暫くぐっちゃんの背に乗り空中を飛んでいるとその風の気持ち良さからか、気分が軽くなっていた。

 

 

《あれは、“頼んだ”のではなく“押し付け”ですね》

《ヤナギ君のよっちゃん嫌いは今に始まったことじゃないから...》

《ええ、アレには困ったものです》

 

 

そんな風に会話をしていてふと思う。

 

《そういえば、僕がよっちゃんに会いに行ってからどれ位経つ?》

 

正直体感では30分も居た気がしないが、暫くぼーっとしていた事もあり、どれ位の時間が経過したのか分からない。

 

まぁ、いっても1時間弱か...

 

《3時間です》

《っえ?》

《3時間です》

 

3時...て、えぇ!!??

ヤベェスネイプ先生待たせてる...

 

《...飛ばして》

《かしこまりました》

 

ぐっちゃんはその大きな翼をより早く羽ばたかせた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ぐっちゃんに小屋の傍に降ろしてもらい、中に入る。

 

 

既に夕方に差し掛かっているため、陽のオレンジ色が窓から差し込み、フローリングを照らしている。

 

「先生?」

 

恐る恐る静かに入るも、居間に居る気配は無い。

 

もしや...

 

暖炉横の階段を降りてみる。階段は石造りな為、ホグワーツの様に僅かに足音が響く。

 

 

地下の書庫からランプの灯りが漏れている。僕が魔法で人が居る時に部屋が暗くなったら自動で灯るようにしたのだ。

 

 

...という事は、まだ居る?

 

キィ...

 

ほんの少し、扉を開けて中を覗き見る。

 

この書庫は書物数が多いため、何列もの棚があるが、椅子が置いてあるのは入り口付近だけだ。

 

 

(!え、やべ。アクシオ、アクシオ!!アクシオ!僕のカメラ!!マジかよルーモスに照らされたスネイプ先生もカッコイイけど、ランプの柔らかい光に包まれた先生も素敵!!何ですかそのけしからん色気は!?しかも本を読む為に俯いてらっしゃるからサイドの髪が落ちて来て耳に掛ける仕草がもぅ堪りませんぞぉぉぉぉ!!!)

 

先生の、細く長い指が、髪を耳に掛けるその一瞬一瞬をフィルムに写していく。

 

だが、カメラというものは写す時に音がするもので、

 

いくら本に集中しているとはいえ、その音をスネイプ先生は拾ったらしい。

 

カシャッ、カシャカシャッ、カシャッ

 

(あーパネェ...先生の色気パネェ...。っ!こっち向いた!シャッターチャーンス!カメラ目線カメラ目線!レアだよ!レ...ア...。ぁ...眉間のシワが深くなっていく)

 

「何をしている」

 

気がつくと、先生は僕の目の前に立ってらっしゃった。

つい先程まで読んでいた分厚い本を持って。

 

「え、と...アハハ...」

 

バシィッ

 

「イッター(いえむしろ御褒美です!もっと叩いて下さい!)」

 

「...これは、預かっておこう...」

 

そう言うと先生は僕の持っていたカメラを取り上げた。若干頬をピクピクと引き攣らせて。

 

あ...僕のスネイプ先生の隠し撮りが...

 

 

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