9月19日
今日はハーマイオニーの誕生日だ。
僕は普段通りにトレーニングして、シャワーを浴びて大広間へと行った。
自室を与えられて早4日目。ここからの移動も大分こなれてきた。
バングルの仕組みを理解してからは使いこなしている。
あの日、部屋に入れたものの、出る時はどうするのだという疑問にぶち当たったが、もう1度琥珀色の石に触れるとその問題は解決した。
部屋の壁に扉が出現して、そこを通ると部屋に入る直前にいた廊下に居たのだ。
勿論、通ってきた扉は僕が抜けると同時に消えていた。
何と便利なことか。
他の二つの石は、まぁ、うん。ある部屋へと繋がった。
乳白色は、ダンブルドアの部屋へ
黒色は、スネイプ先生の部屋へ
繋がった。
だが、最初に試す順番を間違えた。乳白色の石に触れ、現れた扉を開けると、
着替えている
ダンブルドアが居た。
イヤン、と言って頬を赤らめるクソジジイに思わずすぐ側にあった高そうなキャンドルスタンドを投げてしまいそうになったが、理性で抑え
ジジイに盛大な舌打ちをやってそのまま扉を閉めた。
あの後バスルームで吐いてしまったことはしょうがないと言えよう。
どうせラッキースケベするんだったらスネイプ先生が良かった。
上半身裸のスネイプ先生とかっ、鼻血もの以上に失神してしまいそうっ、いや、してしまうだろう。
その上、焦って顔色が血色を帯びる所なんか見れたら恐らくこの先妄想するのに材料に困ることはないだろう。
とまぁ、こんな具合いにバングルの使い方を知った。
「おはよう、ナオ!」
歩いている僕に声を掛けてこちらに来るのはフォイ。いつものように2人の子分を連れている。
「おはようフォイ、クラッブ、ゴイル」
始めのうちは何処に寝泊まりしているんだ、と聞いてきて煩かったフォイも、最近は落ち着いている。
4人でスリザリンのテーブルにつき、朝食のスクランブルエッグをよそう。
「おい、ポッター達だぞ」
フォイがパンを数個取りながらグリフィンドールの方をみて言った。
因みにこれは毎日朝昼晩している。
もはやフォイはハリーが好きなのかと思えてならない。
ハリーはクディッチの選手になってから練習と授業のレポートに追われており、忙しそうにしている。 それをフォイは恨めしそうにいつも睨んでいる。
僕?僕はクディッチの練習は最初の1回に行ったっきり行ってないよ。フリント先輩に『俺等が君の技術に追いつくまで練習に来ないでくれ』と言われてしまったからだ。
いやぁ、僕の技術って…何百年かかってもヤナギ君が居なかったら無理だと思うんだけどなぁ。
「ナオ、このクロワッサン美味いぞ。まぁ家のに比べたらまだまだだが…」
「いや、遠慮しておくよ。僕はそっちのイングリッシュマフィンを貰おうか」
フォイが勧めてきたクロワッサンは確かに美味しいと思ったが、バターの風味が強すぎて若干気分が悪くなった事がある。
それ以来はクロワッサンは食べないようになった。
午後、2回目の飛行訓練の後僕は1人グリフィンドールの方へと向かった。
普通スリザリンがグリフィンドールに自ら近づくと不審がられるが、どうやら僕は別らしい。
遠巻きでキラキラとした目線を僕に向けている女生徒が居るが、今は彼女、ハーマイオニーと話すのが最優先だ。
箒を指定された位置に戻しているハーマイオニーに近づく。
「やあ、ハーマイオニー」
箒を置いて、漏れ出たような溜息をついていたハーマイオニーは僕に気が付くと、取り繕うように下手な笑顔を返して来た。
「ハイ、ナオ。今日も凄かったわね?流石はクディッチの選手よ」
「そんなことも無いさ。ハーマイオニーもまだ始めたばかりなのにもう自由に操れるじゃないか」
「いいえ、私のは全然…。もっと頑張らなくちゃ。もっと、もっと…」
ぎゅっと握り締めた彼女の手には羽ペンの使い過ぎによるタコが出来ていた。その他にも数箇所絆創膏が貼ってあり、もしかすると調合の練習もしているのかもしれない。
確かにハーマイオニーは勉強好きな女の子だが、何処か勉強に依存している所がある。
決めつけにはなってしまうが、恐らくハーマイオニーは勉強に集中する事で寂しさを紛らわしている節がある。
本当に勉強が好きな所もあるだろうが。
「ハーマイオニー、夕食後中庭に来てくれるかい?ベンチで待ってるから」
突然のことにハーマイオニーは困惑を顔に表していた。
「へ?中庭に?今じゃダメなのかしら。…私、魔法史の復習をしたかったんだけど……ううん、いいわ。行く。夕食後ね」
「ああ。また後で」
「ええ」
それだけの会話をすませて城へと戻る。
ご両親がマグルだから、フクロウ便もこちらからの一方通行か、彼女の手紙を届けたフクロウに直接返事を託す事になるのだろう。ハーマイオニーの家は歯医者。返事が滞った時もあったはずだ。
11歳の女の子に、独りぼっちはキツイ。
クラ……
『やだ、置いてかないで』
え、
『あたしも連れてって』
何これ
『一人にしないで』
何、これ。
ふら、と目眩のような感覚。
だがそれは一瞬で終わり、残るのは背筋に伝う冷や汗と、先程脳裏に浮かんだ幼い少女の声。
あの声は、一体……
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「ナオ、この後談話室で変身術のレポート書くけど一緒にどうだ?」
カボチャジュースを飲み干したフォイがゴブレットを置いてナフキンで口元を拭いて言う。
「いや、今日は薬草学の気分だから止めておくよ」
我ながら変な言い訳だ。
「そうか。談話室来るのか?」
「自室でやるよ」
ま、それで納得するフォイもフォイだが。
チラリとグリフィンドールの席を見るとデザートのプディングを食べている所のハーマイオニー。今日は他にもデザートを多数食べていた。
誕生日ケーキの代わりか。
ひと足先に大広間を出て、足速に物陰に行き、自室に戻りあるものを持ち出す。
中庭のベンチに腰掛けて、念のために紙袋の中身を確認する。
「ハーマイオニー、気に入ってくれるかな…」
「私が何ですって?ナオ」
耳元で聴こえた声に思わず肩をピクリと震わせる。そして急いで背中に袋を追いやった。
ハーマイオニーがベンチの空いたスペースに座る。
「ハーマイオニー」
「何?」
「Happy Birthday.」
カサリと背中に隠した袋を彼女の手に収まるようにして渡す。
本当はラッピングとかした方がいいのかもしれないが、生憎とそういった女のコらしいセンスは僕には無かったようだ。
「私の誕生日…知ってたの?」
喜びよりも驚きの方が大きい様子のハーマイオニー。それもそうだ、今まで言ってないのだから。
「ちょっとね。…生まれてきてくれてありがとう、ハーマイオニー」
「っ、あり…がとう。嬉しい……私とっても嬉しいわ!」
僅かに目に涙を溜めて抱きついてきた。
(おぅ、ハー子ちゃん。これ男子にやっちゃったら即落ちだぜ✩)
ハーマイオニーのふわふわとした髪が鼻をくすぐる。
その髪に手を伸ばして優しく撫でると、聞こえて来るのは小さな抑えたような嗚咽。
ガマン、してたのかな
たった2週間、されど2週間。家族と離れてホームシックにもなっていた事だろう。特に仲のいい友達もなかなか出来ずに寮でも寂しかっただろう。
そう思い、僕はただただ彼女の頭を撫で続けた。