此方に気が付いたポッターがカートを体全体を使い押して近づく。
「や、やぁ。……あの、君は……?」
一瞬知らない奴に名前を呼ばれて固まっていたが、彼にとってそれはこの一月で随分慣れた事だろう。すぐに切り替えて名前を問うてきた。
僕は別段隠すことも無いので、答えた。
「僕はナオ・ハセガワだ。ジャパニーズだが、君と同じ学校に入学する。よろしく頼む」
なんで日本人……、という考えが手に取るように分かるが、『同じ学校』というキーワードを出した時点でそれは霧散した。
「Mr.ハセガワ、同じ学校なんだ!安心したよ。よろしく!僕の事はハリーって呼んでよ」
「では、僕の事もファーストネームでナオ、と」
あきらかに安心した様子のハリー。初対面の相手にそんなに心を開いていいのか?
そんな会話をしていると、後方からザワザワと赤毛のグループがやって来る。
「全く。どこもかしこもマグルだらけねー、此処は」
と、先頭を歩く小太りの婦人。モリー・ウィーズリーだ。
その後ろを続く赤毛、長身はウィーズリー家の子供達だろう。
「ねぇナオ。マグルだって。あの人達も魔法使いかなぁ」
横でハリーが小声で聞いてくる。
「ああ、赤毛に長身……恐らくウィーズリー一家だろう。確か、あの家には僕等と同じ年の子が居たはずだ」
もちろん、同じ年の子とはロンこと、ロナルド・ウィーズリーなのだが。
そんな風にカートを持った少年二人の視線に気がついたのか、Mrs.ウィーズリーはロンとジニー以外の子供たちを先に9と3/4番線に向かわせ、此方に歩いてきた。
「あなた達、ホグワーツの新入生ね。うちのロンも今年からなのよ。よろしくね。9と3/4番線なら、そこの柱を通って直ぐよ。そうね、怖かったら小走りで行けばいいわ」
一息にそう言ったMrs.ウィーズリーは、隣に立っていた同じく赤毛の少年――ロナルド・ウィーズリー――の背中を叩いた。
「見てなさい」
Mrs.ウィーズリーが指す方を見ると、丁度ロナルド・ウィーズリーを大きくしたような少年が柱へと走っていく所だった。
すると、まるでゴーストの様にすり抜けて消えた。否、消えたのではなく向こう側…即ち9と3/4番線に行ったのだ。
「簡単でしょう?ささ、あなた達も」
僕は行き方が分かるけれど、ハリーはそうでは無いので、一応一緒になって聞いていた。そして、ハリー、僕、ロンの順で柱を通り汽車へと乗った。
流石にホグワーツの全校生を運ぶとあって、汽車は長く大きく壮大だった。これ、汽車マニアに見せたら卒倒するだろうな……って言うぐらいの。その前に、ハリーポッターファンが倒れるけど。
中に入り、適当なコンパートメントにハリー、ロンと一緒に座る。
「さて、改めて自己紹介でもしようではないか」
そう赤毛と黒髪に言うと、赤毛の方が
「そうだね。…僕はロナルド・ウィーズリー。ロンって皆からは呼ばれてるウィーズリーの六男さ、よろしく」
最後の一言を複雑そうに言っていたが、おそらく過去の兄弟達が偉大な学生であったため、自慢したいけれど、プレッシャーが半端ないんだろう。
「僕はナオ・ハセガワだ。ジャパニーズのマグル出身だ。よろしく頼む」
僕も簡素に自己紹介を済ます。
「僕はハリー・ポッター。僕んとこはパパが魔法使いでママがマグル出身だよ、よろしく。ロン」
「ハリー・ポッターだって!?……じゃあ、あれがあるのか?……傷…」
「うん、あるよ」
そう言って前髪をかきあげ額を晒すハリー。その額には稲妻形の傷が走っている。さっきホームでも思ったが、警戒心て物が無いのか、こいつには。
などと考えている内に、僕達のいるコンパートメントにお菓子の車内販売がやって来た。
中にはお約束の『百味ビーンズ』や『蛙チョコレート』があった。
隣に座っているハリーがポケットからガリオン硬貨を出して全部買っている。私も同じくらい持っているが、お菓子はそんなに食べない方なので、『蛙チョコレート』と『パンプキンパイ』だけ購入した。
三人でダンブルドアのカードの話やらハリーのチョコレートが窓から逃げたりしたが、それなりに旅路を楽しんでいた。
「そういえば、僕フレッドに呪文教えてもらったんだ。見てて」
徐ろに杖を取り出したロンは一つ咳払いをして
「゛お日様、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなネズミを黄色に変えよ゛」
とありもしないインチキ呪文を唱えてみせた。もちろん、成功するはずもなく、杖の先端から光が出て驚いたネズミは頭を突っ込んでいたお菓子の箱から飛び出した。
途端、バツが悪そうに杖をしまうロン。
「ロンは騙されたんだな。魔法とは、これの事を言うんだ」
流石に気まずかったので、デモンストレーションに僕も杖を取り出し、ハリー――正確にはハリーの壊れた眼鏡――に向けた。
すると
「ねぇ、誰かネビルのカエル見なかった?行方不明なの」
入り口からふわふわの髪をしたちょっと気の強い感じの少女が声を掛けてきた。既にローブに着替えている。
ハーマイオニー・グレンジャーだ。
ハーマイオニーは僕の姿を一瞥し
「あら、魔法を使うの。見物させてもらうわ」
と言った。
まあ、来ると分かっていたので驚く事もなく。呪文を唱える。
「゛オキュラス・レパロ゛」
杖の先端から小さな光が出ると、たちまちテープまみれだった眼鏡が直った。
目の前で起こったことに驚いたハリーは眼鏡を外し確認している。
「なかなかやるわね。でも、それぐらいの呪文なら私も使えるわ。……あら、あなたハリー・ポッターね、私はハーマイオニー・グレンジャーよ。よろしくね。……あなた達は……」
「僕はロナルド・ウィーズリー。ロンって呼ばれてる」
「僕はナオ・ハセガワだ」
「そ、よろしく」
ハリーとの扱いが違う気もするが、それも彼女の持ち味だからいいだろう。
「あ、そうそう。ネビルのカエル知らない?」
此処にきた用件を思い出した様子。
「僕等は見てないよ。そうだろ?ロン、ナオ」
「うん。カエルなんて知らないよ」
「あらそう……」
ネビルのカエル探しが難航し、嘆息するハーマイオニーに提案する。
「では、呼び寄せたらどうだ」
「呼び寄せる?それって魔法でってこと?さっきの『レパロ』は一年生でも出来るけれど、『呼び寄せの呪文』は少し難しいのよ。なんと言っても、対象を呼び寄せたい強いイメージが必要だし……ナオ、出来るの?」
ほう、流石は勤勉なハーマイオニー・グレンジャー。実に的を得ているな。しかし、6年間小島で修行してきた僕に魔法魔術学校で習う呪文など朝飯前だ。
「出来るさ。カエルの名前は?」
「トレバーよ。」
頷くと僕はまた杖を構えた。
「゛アクシオ・トレバー゛」
呼び寄せの呪文を唱える。
5秒、10秒、、、
「ねぇ、本当にその呪文合ってる?」
ハーマイオニーが口を開いた時、丁度コンパートメントの扉の隙間から1匹のヒキガエルが飛び込んできた。そしてそのまま、僕の膝の上に落ち着いた。
「やあ、君がトレバーかい?」
僕の問に鳴き声を上げることもなく、大人しく佇んでいる。こんなに大人しいと、どうして行方不明になったのかが不思議になってくるな。
「…トレバー!?トレバー!!」
扉から今度は少し肥った少年が入ってきた。膝の上のヒキガエルを抱き寄せ名前を呼んでいることから、このカエルはトレバーで合っていて、この少年がネビルだと分かる。
「へ、へー。まあ、私にもすぐ使えるようになるわ。ネビルのカエルの事はありがとう。あなた達、そろそろローブに着替えたら?時期に着くわ」
強がりを言ったあとにきちんと感謝の旨を伝えるのはハーマイオニーらしいと思う。彼女は僕等三人に着替えるように言ったあと、トレバーを抱き抱えるネビルの背を押して、コンパートメントを出て行く。
「僕、あいつとは仲良くなれそうにないや」
ぽつり、とロンが第一印象を言った。
よくよく考えてみなくても、ハリーは半純血でしたね(汗)