ハーマイオニーとの話も一段落し、僕は静かな廊下を進み、地下牢へと向かっていた。
「……、と」
一瞬足元がふらつき、何かにつまづいたのかと思いきや振り返ると何も無かった。
「あれ?」
普段ならこんな事ないのにな、と考えるも、双子の悪戯の残骸かなにかだったのかと勝手に推測し、また歩き出した。
地下へ繋がる階段を一歩一歩降りる事に、ヒンヤリとした空気が頬に当たり心地が良い。
……じゃなくて、早く授業に出ないと。
コツコツと響く自分の足音を聞きながらほぼ教室の目の前まで行くと
「あわわっ!」
クラッブのものらしい慌てた声が聞こえる。
今日はグリフィンドールとの合同授業では
無いため、スリザリン生だけのはずだ。
しかも、今は『おできを治す薬』は熟成期間のため、短期間かつ簡単に制作できる『笑い薬』の調合だったと思う。
僕は勢いよく扉を開ける。
数人の視線がこちらを向くが、大半はクラッブとゴイルの方へと向いている。
確か『笑い薬』の材料はたった三つで、手順も1年生らしいごく簡単なものにスネイプ先生が変えていたもの。
クラッブの鍋を見てみると、本来成功なら青色に変わる中身は不気味な紫色へと変色していた。
まずいっ
あれは『おできを治す薬』よりも失敗した薬の副作用は少ないが、爆発は倍ほどになる。
今もネビルの時とは比べ物にならない程の蒸気シューシューと上げている。
スネイプ先生は今だけ裏に行っているのか見当たらない。
僕は直ぐに杖を構え、鍋に向ける。
「プロテゴ!!」
件の鍋の周りだけにごく小さな盾を作る。
「っ!」
なんっだ、これっ!
「何事だ」
この騒動を聞いてか裏からスネイプ先生が出てくる。
先生の問にフォイが答えている。が、もう僕の耳は声を拾っていない。
鍋はどうなった。
体の中央から腕を伝い異常なほどの魔力が流れていくのを感じ、目を凝らして鍋の方向を見ると
「……え、」
盾の中で鍋はさっきまで爆発寸前だったのか嘘のように新品同様に綺麗になり、その隣には束になった未使用の薬草が並んでいた。
「なん、で?」
その光景をさいごに、僕の意識はプツリと途絶えた。
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ザワザワとした騒音。
それにより意識が覚醒する。
しかし、騒音の中には不穏な単語。
「────クィレル────」
「トロール────」
「地下室────」
「────かぼちゃパイ────」
いや、最後のは違うか。
クィレル、トロール、地下室
この三つの単語から連想出来るのはただ一つ。
今は丁度生徒達が寮へと監督生の案内の元戻っているところだろう。
ということは
「ハーマイオニー!!」
僕はベッドを降りる。多少のふらつきがあるが、どうってことはない。
サイドテーブルに置かれていた杖と、普段から肌身離さず身につけている巾着を手にし、医務室を後にする。
背後からマダムポンフリーの声が聞こえたが、それはあとに謝ることにしよう。
「この感じ……魔力の暴走か」
僕にとっては久しぶりになる魔力暴走。
そう考えると、あの大量に魔力が流れる感覚や、この身体のふらつきも説明がつく。
恐らく、朝のトレーニングが出来なかったことによる魔力過多からの、使いすぎの振れ幅が大きいから身体が追いつかなかったのだろう。
そんなことを考えているうちに例の女子トイレへと着いた。
個室には……誰も居ない。
良かった。ハーマイオニーは無事に大広間へと行けたのか……。
仲直り出来ているといいけれど……
「トロールが来る前にスネイプ先生の……所……に」
言い終わる前に、僕の鼻をひどい悪臭が襲った。
「マジかよっ!?」
入り口には丸太のような棍棒を手にした悪臭の元が立っていた。
「おいおいおい……んまぁ、いいけど」
トイレの水道や個室などを、ハチャメチャに振り回した棍棒で壊していくトロール。
それによって飛んでくる瓦礫を避ける。が、
(っ!!身体が……重いっ!)
何故だ。さっきまで寝ていてからか?
魔力暴走の関係にしてもこれはおかしい。
「っは、っは、っは……こうなったら」
ずっと握りしめていた杖を構える。
今まさに失神呪文を放とうとした時
「ナオ!」
「ナオ!!」
「ナオ!大丈夫!?」
一瞬気を取られてしまった。
「っうぐ!!」
トロールの振り回した棍棒に右半身が当たってしまった。
嫌な音と共に石造りの硬い壁へと身体は飛ばされ、打ち付けられる。
動けなくなった僕だが、トロールの方は相変わらずヴァーヴァーと気味の悪い唸り声を上げて僕に向かって棍棒を振りかざした。
思わず目を瞑ったその時、
「やぁーーー!!」
「ロン!ビューンヒョイッよ!」
「OK」
その声と共に、トロールの一瞬の呻き声のあと、大きな物体が倒れる音がした。
目を開けると、倒れているトロール。
「ナオ!ナオ!」
ハーマイオニーが直ぐに駆け寄ってくる。
トロールの鼻くそだらけの杖を持っているハリーと勇敢に魔法を使ったロンもこちらに来る。
「あぁ、何とか……っ!どけ!」
急に声を荒らげた僕に3人は困惑しつつも脇に退く。
さっきまでトロールが倒れていた場所には鼻息荒くゆらゆらと立ち上がるデカブツ。
僕はすかさず折れた右腕を左手で支えながら杖を構えた。
照準が合わなそうだとか、震えが止まらないだとか持ち上げるだけでも腕が悲鳴をあげているだとか、いろいろ思うことはあるけれど、今は
倒すのみ!
「ステューピファイ!!」
失神呪文を言葉にした瞬間、腕を勢いよく通る魔力。
杖の先端から発せられた閃光は、そのままトロールへと当たり、唸っていたトロールは再びドシンと音を立てて床とキスをした。
「っく!」
対象は倒れたにも関わらず、杖からは尚強い閃光が発せられている。
「ナオ!あなたコントロールが!!」
このままでは魔法が分散して皆へも被害が出てしまう。
こうなったらっ……!
「うぅああああぁぁぁっっ!!」
僕の叫びとともに杖から現れるもう一つの閃光。
閃光と閃光が空中で互いにぶつかったと思えば、それらは僅かな光の粒子と濃い魔力の気配を残して消え去った。
女子トイレ出会った場所は、今では残骸だらけとなり、聞こえるのは吹き出す水の音と、僕の肩で息をしている荒い息づかいのみとなった。
「ナオ、君血がっ!」
「本当!」
ロンの言葉に身体を見下ろすと、血に濡れた腕。
紅い液体は今も尚、床に滴り落ち、血溜まりを作っていた。
「…………ぁ」
「ナオ?」
血に染まった腕
床に広がる血溜まり
これをあたしは知っている。