ハリーポッター36
コン、コン、コン
感覚を開けてノックを3回する。
1階でも肌寒かったのに、地下となると、更に気温が下がったように感じられた。
キィ
僅かに音を立てて目の前の扉が独りでに開く。
「……何かね?」
開いた扉の向こう。羊皮紙が束になって積んである机にはスネイプ先生が今まさに羽ペンを持ち、カリカリと生徒のレポートの添削と採点をしていた。
手元に杖が置いてあることから、座ったまま扉を開けたのだと分かる。
「見ての通り我輩は「お忙しいのは分かります」……では、何をしに来た」
いつも以上に不機嫌な先生ではあるが、それは恐らく……
「先生の傷の手当てをしに来ました」
足の怪我のせいだ。
1週間と少し前になってしまうが、あの日。
ハロウィンの日、スネイプ先生は足を三頭犬のフラッフィーと対峙した際に怪我したはずだ。
それに、授業の時にクラス中を歩き回る回数が大幅に減り、椅子からハリーに小言を言うところからも、やはり原作通りに怪我をしていたことが伺える。
扉の前で止まっていた足を動かし、スネイプ先生の手前まで移動する。
「何か勘違いをしているようだな、Mr.ハセガワ?」
忙しなく動く羽ペンを止めることなく、先生は言った。
「いいえ、勘違いなどではありません」
「ほぉ……」
1本、指を立てて僕は口を開く。
「ひとつ、これから僕がする事に対しての質問は受け付けません」
ふたつ、と2本目の指を立てる。
「この方法は、恐らく僕にしかできません。なので、調べても文献が出てくることは無いと考えられます」
今は、が付くけれどね。
漸く羊皮紙から顔を上げた先生が、口を開く前に僕は3本目の指を立てた。
みっつ、
「ですが、それだとスネイプ先生が納得されないと思いましたので、これから使う道具は後日提示させていただきます」
「文献が無いだと…? 一体何を使用するつもりだ。この傷は通常の呪文では塞がらん。痛みを和らげる薬草も季節ではない為出回っていない。……それを分かって言っているのか?」
先生、それでは自分が怪我をしていることを教えていますよ。
なんて事を思いながらも、僕は普段から肌身離さずに持ち歩いている巾着袋の中に手を入れる。
「確かに呪文も薬草も効きません。特に怪我を瞬時に治してしまうようなものは。…ですが」
巾着袋から取り出したのは片手にスッポリと納まってしまうほどに小さな瓶。
瓶口にはコルクでしっかりと栓をしており、コルクと瓶とを深緑の細い蔦がしっかりと絡め固定されている。
「これは、それが出来ます」
今、スネイプ先生の頭の中で思い浮かべている物と言えば『不死鳥の涙』しか無いだろう。
瞬時に傷を塞ぎ正常に戻る様な便利な物はそれくらいしかない。
僕は両手で瓶を包み込み、その上から
ふぅっ
と息を吹きかけた。
すると、瓶に絡まり付いていた蔦は僅かに白い光を発しながらしゅるしゅると解けてゆく。
何も固定する物が無くなったコルクを外し、中身をころん、と己の掌に転がす。
無色透明の僅かに白い光を放つ粒
それが瓶の中身の正体だ。
「…これを、患部に当てます。いいですか?」
スネイプ先生の顔を伺うと、眉を寄せて僕の手元を見てはいるが、拒絶を示している様子では無かった。
「後日、提示するのだな?」
「はい。必ず」
「成分を調べさせてもらうぞ」
調べる……か、それが出来るなら、ですが。
僕は肯定とも否定ともとれる形で口を閉ざしたまま先生の目を見た。
「、分かった。治療を頼む」
(やった! 先生から治療を頼むって言われた!! 先生に! 頼むって!! これなかなか無いよ! レアだよ!? ア"ア"ア"ア"ア"もっともっと頼み事してくんないかなぁ!!)
コホン
ひとつ息を整えてから掌でころころと転がる粒をスネイプ先生の足に近づける。
ああ、僅か数センチの距離に先生の御御足が……っ、危ない危ない。また意識が何処かへと飛んでいくところだ。
三頭犬によってざっくりと傷つけられた患部
そこへ、透明の粒が独りでに淡い光を放ちながらふよふよと近づく。
傷に接触した粒はその姿を粒子に変え、そして淡かった光が一瞬だけ緑色に輝くと、透明な粒子は
透明な液体となり、傷口を塞ぐ……いや、再生させていった。
数秒もしない内に先生の足の傷は治り、元々傷などが無かったかのように綺麗になった。
これで、大丈夫な筈だ。
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結果から言えば、あの粒での治療は成功したし、ハリーがスネイプ先生の生足見ちゃうイベントも回収できた。
唯一の誤算といえば、あれから先生と2人きりで話す機会が殆ど……いや全く取れなくなったのだ。
これは由々しき自体である。
なにが、というと
僕の精神的にだ。
時間が流れるのは早く、時計の長針が後二周もすればクディッチの試合……つまりグリフィンドールVSスリザリンの試合の開始だ。
「はぁ……」
《んだよ、折角のびのびと飛べるってのによぉ!! 溜息なんかつくなよ! こっちが気落ちするぜ》
うっせーヤナギ君
《あ! テメェ今うっせーって言ったろ!? 分かんだからな! 『同時翻訳』が無くてm》
《あーあー分かった! 分かったよ! 試合に集中するから、君も、空を舞うことだけに集中してくれる?》
僕は堪らず『同時翻訳』を使い反撃する。
じゃないと
「であるから、ポッターの配置をアイツらならこうする筈だ。これに対して俺達はこう──だ!」
フリント先輩の声が頭に入ってこないからだ。
いや、別に僕は聞いていなくてもいいのだが。
僕が8割方考えた作戦ではあるし。
今日のこの試合、僕は勝つ気がない。
点数を稼げるだけ稼いで、スニッチは最終的にハリーの口の中に収まりグリフィンドールの大逆転勝利にする予定だ。
ハリーはスニッチを口でキャッチしないとこの先の長い長いフラグが立たないしな。
フリント先輩を先頭に、選手が続々とピッチへと入場する。
グリフィンドールの方も同じタイミングで出てきて、緊張からか顔色が真っ青になっているハリーと目が合った。
恐らく今は膝が震えませんようにと祈っているのだろう。
大歓声(殆どがグリフィンドールに向けて)に迎えられてグラウンドに立った僕達は、マダム・フーチを囲む形で並ぶ。
視界の端にチラチラと『ポッターを大統領に』の旗が映る。
「よーい、箒に乗って」
鷹の目をした審判が口にホイッスルを咥える。
それと同時に選手達の手がぎゅっと強く箒を握るのが分かる。
たった数秒のことなのに、張り詰めた感覚と緊張感に、試合に対する気合を感じる。
マダム・フーチが息を吸う
甲高いホイッスルの音が競技場に響き渡った
「さぁ、試合の始まりだ」
最後が何だか少年漫画チックになった