ハリーポッター7
透明マントを頭から被り、紙切れに書いてある校長室までの地図を頼りに、静かに足を進める。簡単に一年生の僕に校長室までの道筋を教える辺り、ダンブルドアは既に幾分か僕の事に気付いているのだろう。
そうして城の中を数分歩き、ガーゴイルの像の前で止まる。
予め紙切れで教えてもらった合言葉を言い、ガーゴイルの像の回転に沿い中に入る。そして、大きめかつシンプルな装飾の扉を三度叩く。
「ダンブルドア先生、ハセガワです」
暫くして、入室を促す声が聞こえて、透明マントを畳み、お馴染みの空間拡張呪文の掛かった巾着の中にしまい、簡単に服装を(と言っても、甚平にローブだけだが)正し、ゆっくりと扉を開ける。
校長室に居たのはダンブルドアだけだった。てっきり、至近距離で気付いたマクゴナガルが報告し、そこにはスリザリンの寮監のスネイプ先生も居ると踏んでいたのだ。そんな僕の様子を察したのか、ダンブルドアが口を開く。
「よく来たね、ナオ。君は何故ここにワシだけが居るのか不思議に思うてじゃろう?確かに、マクゴナガル先生も薄々気付いておる。だが、ワシはこの事を大事にはしとうなくての。だから、ワシ一人なのだよ。君もそう思うとるはずだ」
「お見とうし、ですか先生。」
「ああそうじゃよ、勿論その興味深い魔法の事もな」
やはり、ダンブルドアに隠し事はできないようだと改めて思った。そのまま勧められたソファに腰掛け、話は本題へと入る。しかし、僕は彼の事を信用している訳でもないし、婆様を殺した張本人かも知れないので、警戒心は常に保っておく。
「先生、どこまでお気づきに?」
「そうじゃのぉ、君が性別を偽っている。という事ぐらいかの」
「そうですか…」
「だが、何の目的があっての事かは分からんのぉ。教えてくれるか、ナオ?どうして性別を偽っているのか」
と、杖をひとふりして目の前のテーブルにティーセットを出しながら言うダンブルドア。僕は、とても香り高い高級そうなお茶を一口含む。
「そうですね……育ての親の遺言、とでも言いましょうか。居なくなる直前に言われたんです。『女である事を隠し通しなさい』とね。それから僕は、この魔法を数年かけて編み出しました」
「ほう、自分でかの……」
不思議と、ダンブルドア相手にスラスラと喋ることが出来た。そして再びお茶を飲もうとした時に気がついた。
「……、先生。生徒に真実薬を盛るのはどうかと思いますが」
そう、ダンブルドアが先程出したお茶には小量だが真実薬が入っていたのだ。どうやら、真実薬特有の成分を限りなく隠した改良版らしい。
「ナオが正直に話してくれたら、それは必要ないんじゃがな……」
くっそ、こいつ。飲ませてから言っても遅いじゃねーかよ。確信犯か。
「ご覧の通り僕は既に飲んでしまったので、嘘は言わない思いますが?」
「そうじゃな。」
「はぁ……、で、他に何が知りたいんですか。僕は退学処分にでもなるんですか?」
「退学処分だなんてトンデモナイ。ただ、ある事をしてくれたら、この事は先生方にも勿論生徒達にも黙っておこう」
半ば諦めて聞くと、ある事をすれば皆に話さないでくれるらしい。そのある事とは、
「そんなことでいいんですか?」
「分かっとらんと、助け舟も出せんからの…」
ダンブルドアは僕の『異性モドキ』を解除した姿を、つまり本来の女の姿を見たいらしい。見せるだけで、助け舟も出してくれるのであれば、今後ホグワーツで暮らして行くに辺り、随分と楽になることだろう。
「では、いきます」
ダンブルドアのキラキラした瞳を見て一つ頷くと、僕は杖を持たずに指をパチンと鳴らして解除の合図をした。
すると、頭上から青白く光る粒が降ってきて、僕の周りを風もないのに取り巻いた。それは段々と速度を増し、粒として認識するには無理がある。そして、青白かった粒はグラデーションの様に足元から桃色に代わり、それが頭の先まで染まる頃には粒も速度を落とし、最後には再び頭上のどこでもない空間へと消えていった。
後にその場に残ったのは、女の姿の僕。
ひっさびさにこの姿になったわぁ。えーと、三年……四年振り?
「これでどうでしょう、先生」
「っ!?……見事なもんじゃのう」
「そうでしょうか?ごくごく平凡な顔立ちだと思いますが…」
一瞬、ダンブルドアが目を見開き驚愕の表情を見せたような気がしたが、ここで突っ込んでも、話してはくれなさそうなので敢えてスルーする。
「そうでは無く君の魔力が…いや、何でも無い。確かに君は、男の姿でいたほうがいおのぅ」
「やはりそうですか。まぁ、他で魔法を解除する気も無いので、そこは大丈夫だと思います」
久々にこの魔法を解除したからか、魔力が余ってしまって少し気分が悪い。これは、当分解除しないと思う。
「……先生、ではそろそろお暇しようと思います」
「ああ、いい夢を……ナオ」
再び自分に『異性モドキ』をかける。その分の魔力が消費されて、気分が良くなる。
ダンブルドアに一礼して、部屋を出て行こうとすると
「ナオ……、その魔法は確かに優れておる。しかし、どんなに優れているものでも、必ず欠点があることを忘れてはならん」
「はい。分かりました」
欠点……、ゴーストとスネイプ先生以上の魔法使いには感じられる、所か。
もう既に分かっていたことだが、素直に注意を受け取っておく。
「先生、次に先生とお茶をする時には、きちんとしたストレートをおねがいしますね」
きちんとしたストレート……何も含まれていない純粋なお茶、という事だ。
最後にもう一度一礼し、校長室を後にする。もちろん透明マントも被る。
窓から空を見てみると、月は大分傾いてしまっていた。
暫く窓際で月を眺めて、スリザリン寮へと帰る道を通る。
生徒達は皆各寮へと戻り、廊下を歩く者は居らず、薄暗い中に点々とある蝋の減らないロウソクの火だけがゆらゆらと微かに揺れて静まり返っている。
そんな中、フィルチ等に見つかっては入月早々面倒なことになると思い、足音を極力立てないようにソロリソロリとゆっくり歩く。
……カツカツ……
あと少しで地下への階段に行くところで、近くから足音が聞こえた。廊下の窓から差し込む月の光でその人物の影ができる。
息を殺して、そちらを見ると思わずあっと、声を上げそうになった。
そう、そこに居たのはセブルス・スネイプ先生だった。
その姿は例えようもなく、美しくそして切なくなる。先程の私のように、立ち止まり月を見上げるスネイプ先生は、月明かりにより神秘的に照らされ、一枚の美麗な静止画を見ているかのようだった。
(スネイプ先生スネイプ先生スネイプ先生がぁーーーー美しすぎる!)
その顔は相変わらず眉間の皺は健在だが、月を通して何か別のものを見ているような表情をしている。それが、どうしても目に焼き付いてしまう。目を離さないと、気配がバレてしまう恐れがあるとか、すぐにこの場から離れないととか、忘れていた訳じゃないけれど、この時ばかりは、目を離すことが出来なかった。
すると、スネイプ先生がゆっくりと此方に視線を送る。
「……誰だ」
月を見ていた目とは打って変わって、冷たく鋭い目で此方を見つめ、警戒するスネイプ先生。ごめんなさい、先生……不謹慎だけれど、
(あーーーーーー!良い!超良い!スネイプ先生と月明かり、似合うよ!綺麗だよ!大好きです!美しすぎます!出来れば甘い眼差しが欲しいけれど、その氷のように冷たい瞳も痺れるぅーーーー!!)
脳内で叫んだからか、ほんの一瞬『異性モドキ』の魔法が揺らいだ。
そこに気がついたスネイプ先生は更に杖を構えて、警戒を高める。
(ぎゃぁぁぁァァ!スネイプ先生が杖構えてる!カッコいい!ヤバイ、この場面だけでご飯六杯は行ける!)
いけないとは分かっていても興奮していしまうのが僕。
「ステューピファイ!」
スネイプ先生が『失神呪文』を僕に向かって使う。『異性モドキ』の内の防御呪文によって、それは弾かれる。透明マントは効力を失い、身体は壁に叩きつけられる。
(スネイプ先生の魔法が、僕に……。はぅ……光栄です!!)