赤い閃光がスネイプ先生の杖から放たれる。僕の『異性モドキ』に弾かれそれは失敗するが、勢いが余って壁に激突する。
動かずにいるとその間に先生はこちらへとツカツカと歩いて来ていた。
「お前は……、我輩の寮の新入生か」
魔法にあたったことにより効力の切れて落ちている透明マントを一瞥し、壁に叩きつけられそのまま背中をつけて立ち上がった僕に、スネイプ先生は鼻と鼻がくっつきそうな位に近づき、片手を僕の頭上の壁に置き、もう一方の手で杖を持ち僕に向けていた。
(これは……!か、か、か、か、壁ドンですか!?スネイプ先生に壁ドンされてる!キャーーーー!!)
顔では平然を装いながらも、内心は発狂している僕。心を落ち着かせないと『異性モドキ』の魔法の効果がうすまるのは分かっていたが、目の前のあこがれの人に夢中になっていた。
「名前を…言え」
至近距離でそう言うスネイプ先生。『異性モドキ』が解けないように注意して、絞り出すように声を出す。
「ハセガワ……ナオ・ハセガワです」
「ふんっ……ハセガワ。入学早々退学になりたくなければ、早く寮へと戻る事だな」
そう言うと颯爽とマントを翻し廊下を歩いて去って行くその後ろ姿を見つめたまま僕は静かにその場に崩れ落ち、目を閉じる。
(はぅ〜!スネイプ先生!こんな近くにスネイプ先生が……!)
僕が再び動いたのは、廊下の向こう側から聞こえてくる恐らく、フィルチのものであろう足音に気付いてからだった。
腰につけている巾着から透明マント(2個目)を取り出して、その足音の主がこちらへ来るまえに、スリザリン寮への残り僅かの道を慎重に忍び足で戻っていく。
いかにも純血主義な合言葉を言い、談話室に入り、薄暗い中を進み自分にあてがわれた部屋に戻る。
ドアをゆっくりと開けると、聞こえてくるのは寝息と偶にクラッブとゴイルの「そのマフィンいただきー」とか「クッキーはおれんのだ」とかいう寝言のみだ。
この二人は夢の中でまで何か食べているらしい。フォイのベッドを除くと、流石綺麗な寝相ですやすやと気持ちよさそうに寝ている。
その頭にはパジャマとお揃いの紫のナイトキャップを被っている。それがあまりにも似合っていて、思わず小さく笑ってしまった。
しかしその姿に少々からかいたい気持ちが出たので、ナイトキャップをずらしておいた。これで半分だけナイトキャップの中に入っていない。
僕も自分のベッドへと潜り、スネイプ先生の夢を見れますように、と念じて直ぐに寝息を立てて眠った。
ーーーーーーーー翌朝ーーーーーー
まだ日が昇る前の早朝。
僕はフォイたちが起きないように、静かに身支度を整えていた。
こんな早い時間に起きているのは、あの離島に居た時からの癖というか習慣だ。
このぐらいの時間に起き、トレーニングしていたからだ。
なぜトレーニングをしているのかと言うと、もしも魔法が使用できない特別な状況になった時に肉弾戦でも戦えるようにである。
内容は、特に変わった事はしていない。
あの島は小さい方だったから、周囲20キロ弱の島をウォーミングアップも兼ねて、ストレッチ後に全力疾走で5周。
次に島近海を背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ、クロールを各泳ぎにつき島一周。
その後に身体を乾かしてから、島に自生していた暴れ柳の木材から作った箒で先ずは時速40〜80キロで島をスピードを上げながら2、3周して、今度は時速180キロ位で前世で一度だけ見たアクロバットな航空ショーを真似て何回も上へ下へとグルグル高速移動する。目標はリニアを越えるスピードだが、未だその目標は達成できない。
え?そもそも暴れ柳で箒なんて作れるのかだって?確かに最初は制御が難しかったけれど、きちんと調教すればファイアボルトをも超える最高の箒となる。もちろん、私以外に乗りこなせる奴が居たらだが。
そんなトレーニングを毎日していたら、アスリートもびっくりなムッキムキの筋肉がつきそうだが、何でかそれが全く身体に影響しないのだ。しかし、身体能力や持久力などは桁違いに上がっている実感があるので、無駄ではない。
さて、これからその日課のトレーニングをしようと思うが、島に戻るわけにも行かず、どうしようかと悩んでいる。
あのやり過ぎな程の運動量だが、あれ以下だと、逆に身体がダルくなりまともに動けなくなるので厄介だ。
しかし、問題はどうやってその運動量を解消するかだ。ホグワーツ城の周りを走っても良いが、いつ教師に見つかるか分からないリスクがある。
誰にも見つからない……運動できる場所……
ああ!彼処がいい!……そうと決まれば
それから数十分後、僕はある場所で全力疾走していた。
その場所とは……
「ヒャッホーイ!!!」
「チキチキチキチキっ!!」
ワシャワシャワシャワシャワシャ…!
そう、禁断の森!そこで現在アラゴグ率いるアクロマンチュラの大群と追いかけっこしてます!
禁断の森は木の根が地面の上に飛び出している所が多く不安定な為、全力疾走してもスピードがそれほど出せず、そこそこ運動できるのでちょうどいいと思ったのだ。
そこへ、モチベーションアップを図り、アクロマンチュラの巣に石を投げ入れて僕を追いかけてくるようにした。
それが思いの外楽しくて、これなら何時もの運動量を消化出来そうだ。
「へっへーん!こっこまでおいでー!だ!」
久しぶりに、外面もテンション上げ上げ(内面は、スネイプ先生で経験済み)で恐らく他人が見れば皆引くであろう笑みでウジャウジャと追ってくる蜘蛛たちを時折わざと引きつけたりしながらそれを2時間続けてトレーニングを終える。
いやー、流石だなぁ。2時間ぶっ続け森の中を走り回ってもしっかりと着いてくるとは…。
あ、森から出る時に『忘却術』掛けようとしたら蜘蛛達自ら身を引いたので、此方から同族を殺すような事はしないと分かったのだろう。『同時翻訳』を久しぶりに、人以外に使ってこれから毎日来る事を告げて城へと戻る。これで追ってくることは無い。まぁ明日も訪問するが……次はあれにプラスしてケンタウロスとも追いかけっこしたいなぁー。
アラゴグは初めの方で敵意が無いと判断したのか巣から動かなかった。
そうして新しい日課及び遊びを見つけた事で、大変機嫌が良かった僕は寮の部屋に戻って来ると、真っ先にシャワー室へと向かった。
時間にして言うと、多分6時前くらいでまだフォイたちは寝ていた。ゴイルとクラッブはベッドから転がり落ちてたが無視しておいた。
前世で物語として『ハリー・ポッター』を楽しんでいた頃、ずっと気になっていた事がある。風呂だ。入浴の描写が無く、一体生徒は何処で風呂に入っているのかと疑問に思っていたのだ。監督生専用の風呂場があるのは作中に出てきたので知っていたが、それ以外は全くの謎だった。
それも、こうしてホグワーツに来て分かった。各部屋に一つずつ、小さなシャワー室が付いていたのだ。
勿論そのまま使用しても問題ないが、元日本人現日本人として、どうしても湯船に浸かりたい。そこで僕は杖を取り出しこう言う。
「メイク!」
これは現存する部屋などを自分のイメージした通りに作り変えてくれる僕が編み出した呪文だ。
目の前でみるみると形を変えていくシャワー室。この呪文には『拡張呪文』も含まれている為、部屋はグングンと広くなる。そして、ある程度の大きさの湯船が作られ、湯が張られていく。これは温泉の方が良かったが、仕方が無いので島で愛用していたマンドレイクの入浴剤を入れる。これはまぁ、手動だ。
正直言うと、この呪文には元となる部屋があればいい話なので、ある意味『必要の部屋』よりも使い勝手がいいかも知れない。
そうこう言っている内に、シャワー室は立派な掛け流しの檜風呂となった。
いやー、日本人といったら檜っしょ。
これまた自作したシャンプーや石鹸で先程の追いかけっこで付いた泥や汗を流し、お待ちかねの湯に肩まで浸かる。
思わずオッサンのような声が出てしまいそうだ…
「うぃー…」
あ、出た。