短いのでカップラーメンの待ち時間にでもお使いください。
「うちが飼ってるペット紹介するん!」
ガタッと机から立ち上がり、薄紫でツインテールの女の子――
釣られるように、遊びに来ていた友達たちも外へ出ようとするが、当然ながら縁側に置かれたサンダルでは足りないので面倒ながらも玄関から遠回りをしての登場だ。
「れんちょん、イヌかネコ飼ってたっけ?」
「いや、私は見たことないよ。初耳だし」
辺りを見渡す
妹の夏海はと言うと、ポニーテールをした元気一杯で天真爛漫な女の子。勉強嫌いで、テスト返却の度に親から
そんな姉妹の側で見つめている成長の良い黒髪でセミロングな女性……否、
「ほたるんにうちの特技見せるのん! フッ――――」
「音出てないじゃん」
指笛……いや、音が鳴っていないので失敗だろう。しかし彼女を見てほしい。宮内れんげは堂々たる風貌で、己が失敗を感じさせない。
夏海が指摘するも、決して止めることなく指笛を続けている。
「フーッ――――」
「だから音出てないって」
呆れた顔で夏海が指摘するも束の間、突然の遭遇に驚くのだった。それも大袈裟に。
「って! なんか出た!!」
草影から頭を出した生物。宮内れんげが飼っているペットで間違いないだろう。
人間には聴こえない領域――犬笛を扱うのだろうか。だが悲しいかな、聴こえない以上は誰も確信を得ることは叶わないのである。
「タヌキ……」
「タヌキ飼ってるの?」
OLならぬ
「てかタヌキには聞こえてたのか」
「名前も付けましたけど」
「どんな名前?」
小鞠からの言葉はデットボールとなり、代わりに妹の夏海がキャッチボールを続けた。
「具」
「OH! サイケデリックネーム!!」
「そしても一回吹けば具は芸をしますのん!」
「マジで!?」
「ピーー!!」
「今度は音出た!」
ぐわっと振り向いた夏海。期待の眼差しを一匹のタヌキに託した一同。
「具は何を!」
ぐにゃりと変形し、むくむくと巨大化した具。
突如目の前に現れた醜悪で巨大な化物に泣き叫ぶ娘もいた。
「ギャー!! ばけ、ばけ、ばけものー!!!
おまわりさん助けてー!! ひゃくとうばんって何番!!!??」
子鹿のようにガクガクと震える小鞠。足元を伝う温かい液体により小鞠ならぬ小池ができていた。
「落ち着けお姉ちゃん! ひゃくとうばんは110番だ!!」
「おぼこい奴! この地を統べる王である、グ、に名乗ることを許してやる!」
グに呼ばれるも泣き崩れるばかりで反応を示さない。仕方なくれんげが子鹿に指を指して紹介をする。
「紹介するん! 私の友達の小鞠ちゃんなのん!」
「ほう……こまりか……姿に似合わず勇敢な名前だな」
顎に手を当て感心した声を漏らしたグ。どの辺りが勇敢なのかは分からない。
「落ち着いてください越谷小鞠センパイ!」
未だに震える小鞠を宥めようと近づく蛍。
口元が釣り上がり、牙を剥き出しにしたグが感情を顕にした声を漏らした。
「こしがやこまり……キサマ! このグを騙したのか!!!」
「どうしたん? 具」
この有様に全く動じないれんげが、首を傾げながら問いかけた。
「我の種族は名の短い者を勇敢と見做すのだ。こやつはこまりと短い名を持つと偽っていたのだぞ! 万死! これは死に値する!!」
息を荒くしたグが本能を曝け出して怒りに打ち震えている。
「だめなのん具、こまっちゃんは食べ物じゃないのん。そこの……ほねっこを食べるん」
れんげが指差す先には、理科室でお馴染みの全身ガイコツがそこに居た。
居場所がなくて居心地悪そうにそわそわしているガイコツは、突然当てられた事に驚き、眼窩の奥底で紅き輝きを増している。
「ほう……アンデッドも良いぞ! 頭からバリバリと食べると美味しいんだ!!」
どしどしと足音を立てながら近寄り、ガイコツに頭から齧り付く具。
訳が分からぬまま薄い緑色に発光したガイコツは
「なんだこのアンデッドは!? 堅すぎて齧っても齧っても食べられないぞ!」
「その程度の攻撃で私にダメージを与えるなど笑止! アインズ・ウール・ゴウンの名の元に滅っされるがよい!」
右腕を突き上げ、謎の横文字を並べるガイコツ。と言うか喋れたのか。
「だめなのん! ケンカしたらめ! なのん!」
「いやいや、れんちょんが食わせたんでしょうが!」
すかさずツッコミを入れる夏海。捕食とケンカは別物なのだろうか。
「ガイコツが喋ったーー!! ころさないでーー!!!」
「ねえちゃんは少し黙ってて!」
泣き止んだかと思ったら喋るガイコツに再び泣き叫ぶ小鞠。
――そこに
「ょぅι゛ょが泣いてるのに、黙っていては男が廃るってもんよ!」
――――天駆ける
「フラグは立った! 今助けるぞょぅι゛ょーー!!!」
「また変なのが来た!」
「おまわりさんこのひとですー!!!」
双眸を――瞳など当然無いが――カッと見開き、紅き輝きを更に増したガイコツは驚嘆し声を出せないでいた。
「グぐ……もうやだこの世界」
呆れ返って目を細くした具は、生殺与奪の権利が剥奪された自然溢れる世界で一人(一匹?)呻いていた。